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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
第9話 真夏の魔法少女たち その三
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かつて大空家の倉庫を間借りして作られていた『ちびマフィアのアジト』。
そこを改修して白音たち魔法少女のアジト(あるいは秘密基地、たまり場、集会所、会議室)とすることにした。
大がかりな模様替えだったのでもっと時間がかかるかと思っていたのだが、あっという間に終わってしまった。
魔法少女に変身していると疲れ知らずなのと、エレスケたちが手伝ってくれたおかげだろう。
彼女たちは文句を言いながらも、なんだかんだでよく働いてくれた。
「ねぇ、さすがにドクロとか飾るのやめない?」
莉美の暴走を白音が抑える格好で少しずつ修正して、どうにかみんなで落ち着ける空間を確保する。
どうやら莉美はヘヴィメタとかハードロックとか、そういうMVの世界観を目指していたようだった。
莉美ん家の自分の部屋は、ちゃんと女の子らしくてかわいい。
それでいいのにと白音は思う。
ひと段落してみんなでお菓子を用意していると、突然エアコンがおかしくなった。
吹き出し口からぽたぽたと水が垂れ始めて、吹き出す風がぬるくなった。
「あ、これダメな奴だ」
白音は似たような症状を見たことがある。
若葉学園の寮で同じような故障をした時には、買い換えるしかなかったと思う。
真夏にこうなってしまうと…………。
「もう古いからねぇ。さっき頼まれたネット回線と一緒に、エアコンもお父さんに頼んどくね」
莉美と莉美パパに感謝ではあるのだが、さて今日はどうやって生き延びたものか。
気持ちのいい晴天で、本格的な夏の到来を予感させる日だった。
このままだと熱中症や“死”すらも予感させる。
魔法少女に変身していれば過酷な環境に対しても耐性がつく。
しかし佳奈や莉美じゃあるまいに、ずっと変身したままというわけにもいくまい。
「よし、みんなで遊ぼ!!」
そう言って一恵が立ち上がった。
そらとまた何やら相談を始める。
たまには自分も混ぜて欲しいと白音が思っていると、またまた手招きして呼ばれた。
今度は何かの実験台にされるわけではなく、みんなで遊ぶ段取りの相談だった。
ちょっと嬉しい。
三人で少し話し合った後、そのまま連れ立って外へと出て行く。
魔法少女たちは、今度は何が起こるのかと全員、興味津々でその後に続いた。
灼熱に輝く太陽の下に出ると、まずは白音が能力強化でそらと一恵の能力を底上げする。
次にそらが、リーパーによって強化された空間認識能力を使って地面の下を探っていく。
元整備工場の二棟の建物の間には、アスファルトで固められた広い地面がある。
その地下の空間を探査し、その結果を精神連携によって一恵と共有する。
そして一恵が、その情報を元に地下の配管等を避けて地面に直方体の穴を作る。
コンピュータルームの時と同じ要領で、その場所を異空間に繋げたのだ。
ただし規模が違った。25メートル×10メートル、深さ2メートル。
白音のリーパーなしには到底不可能な大きさだ。
勘のいい者なら、その形状で一恵が何をしようとしているのか察することができよう。
先程白音が莉美をお尻で突き飛ばした時のような、虹色の揺らめきは見られない。
一恵はこの穴を『完全開放系』と表現した。
要はコンピュータルームのようにセキュリティをかける必要がないので、入り口が開きっぱなしということだ。
「海水でいいよね」
そう言いのこして一恵が転移ゲートで消えた。
ややあって戻ってくると、
「ストレージ解放」
そう言って穴の上にストレージの出入り口を開いた。
轟音と共に大量の海水が降り注ぎ、あっという間に巨大な箱が満水になった。
さすがに魔力切れを起こしたようで、一恵が少しふらついている。
「一恵ちゃん、魔力分けてあげるね」
「あ、うん。助かるわ」
嬉しそうに莉美が一恵の背後から近づく。
エレスケたちは一度経験したことがあるものの、これから何が起こるのかぴんと来てはいないようだった。
しかし白音たちは何度も体験しているからよく知っている。
思わず一恵の方へと視線が集中する。
そして期待したとおり、莉美が背後から一恵をそっと抱きしめると、その体がびくんと跳ねた。
「んんっ……、あん。……もう」
一恵は莉美の腕の中でくるっと回ると、莉美を正面から抱きしめ返した。
「ありがと」
白音がぞくぞくするほど色っぽい声だった。
そして何事もなかったように一恵は作業に戻る。
ただ、心なしか先程よりも楽しそうには見える。
「魚とか、いないよね、いたら元に戻さないと……」
わざわざ南洋から取ってきてくれたそうで、水温も既に調度いい。
あっという間にプールが完成してしまった。
本当に便利すぎて怖い能力だった。
エレスケたちも呆然と見とれている。
「みんな凄まじい能力ね……。Hitoe様もさすがなんだけど、これだけの魔法を回す魔力量って、やっぱり莉美さんよね」
負けん気の強い詩緒が素直な賛辞を述べる。
エレスケは魔法少女チームの先輩だけあって、魔法を運用する際の肝をよく理解している。
確かに莉美がいなければ今頃みんな魔力切れだろう。
遊ぶ気力がなくなってしまってはこの一大事業にも意味がない。
「水着ないよ?」
そして莉美は、遊びの肝をよく理解している。
白音も目の前に突然現れたプールに心浮き立っていたのだが、そうだ水着がなければ楽しめないではないかと気がついた。
しかし白音が肩を叩かれて振り返ると、エレスケたちはいつの間にか全員水着になっていた。
例のエレスケの決めポーズをみんなで決めてくれる。
「あ、あれ?」
しかもその水着は、それぞれの魔法少女のコスチュームを何となく彷彿とさせるような、イメージラインを引き継いだデザインになっている。
アイドル衣装のような水着だ。
戸惑う白音に千咲が説明してくれた。
どうやら着替えたわけではなく、それは魔法少女のコスチュームらしかった。
本人の心に寄り添ってコスチュームは構成されるものだから、泳ぐ気で変身すればそうなるのだそうだ。
初めの印象からは遠く離れないから、似たイメージにはなる。
だからなんとなく元のコスチュームを思わせるデザインになるのだとか。
「私たちはアイドルになりたかったからこういう衣装になったのね。あなたたちは変身ヒロインみたいな魔法少女になりたかったんでしょ? ちゃんと星石がイメージを具現化してくれてるのよ」
「ああ、スライムに襲われた時、佳奈が『魔法少女に変身』って言ったからこうなったのね…………」
佳奈は多分そういうことを知っていたのだろう。
なかなかどうして策士だったわけだ。
佳奈の方を見ると、またあの時のちょっと悪そうな笑みを浮かべた。
「ふふ、でもピンクになったのは白音の気持ちだよ」
「だから白だってば、これ…………」
みんなで変身してみると、一発で水着になれた。
プールで遊びたい一心のなせる技だろう。
千咲の言うとおり、みんな魔法少女のコスチュームのイメージがしっかり引き継がれている。
顔を見なくとも誰が誰だかすぐ当てられただろう。
みんなかわいい水着姿に変身したので、ひときわ一恵が狂喜していた。
(ああ、これ、うん)
一恵は初めからプールを作る気満々だったんだな、と白音は確信した。
ビーチボールとか浮き輪とか、パラソルとかビーチチェアとか、一恵のストレージから際限なく海の必需品が出てくる。
中でもアスファルトの熱い地面にビーチサンダルは必須だった。
参加人数を上回る大量のサンダルをしっかり用意していた一恵は、
「みんなのおかげで大きなプールができた」
と嬉しそうだ。
浮き輪やボールに空気を入れ、パラソルやチェアを設置していく。
何も言わなくともこういう時はみんなテキパキと働いてくれる。
それぞれが思い思いに遊びの準備を始める中、莉美がしゃがんでプールの側壁をじっと見つめていた。
「どうしたの?」
一恵が莉美と並んでしゃがみ込む。
「土の断面が見えて気持ち悪い感じかと思ったんだけど、真っ黒だね」
確かにプールの壁はどこも真っ黒で、その向こうは何も見えない。
「穴を掘ったわけじゃなくて、プールと土の中は完全に別の空間になってるの。エネルギーの行き来がまったくないから真っ黒なのよ。イベントホライズンって奴ね」
「そかー。イベントなのに誰も来ないのは寂しいねぇ」
「ふふふ。その代わり今日は水着の魔法少女がいっぱい」
「だね! 今日は一大イベント!!」
「うんうん」
莉美と一恵の会話は噛み合っているような、噛み合っていないような、でもそんなことどうでもいいような気さえしてくる。
「ほい、白音っ! パス!!」
佳奈が白音に向かってビーチボールをアタックした。
パスしたようにはとても見えない殺人的な速度だった。
多分みんな水着コスチュームになっているから、自分が変身していることを忘れていたのだ。
ボールが割れなくて良かったのか、割れた方が良かったのか。
白音が慌てて手でガードすると、跳ね返ったボールが詩緒に向かった。
時間にすると0・1秒にも満たないくらい、音にすると『ボボボン』とひとつながりの音に聞こえるくらいの瞬間。
詩緒が顔面に超高速のそれを食らって吹っ飛んだ。
一瞬死んだかと思ったが、そこはさすが魔法少女である。
むくりと起き上がった。
「ちょっと何すんのよ。アイドル☆の顔に酷いことしないでよ!!」
「悪い、悪い。加減間違った」
言いながら佳奈は、跳ね返ったボールを苦もなくキャッチしている。
「ちょっと、みんな聞いて」
詩緒がエレスケに集合をかけた。
四人で何やらひそひそと話をし始める。
変身しているので感覚が鋭敏になっているはずなのだが、何故かその声は白音たちには聞こえてこなかった。
ただ、最後に「作戦決行」という言葉が聞こえたので、それはどうやら想定内の行動らしい。
怒らせてしまったわけではないのかなと少し安心した。
みんないろんな計画を立ててここへ来たんだなと、白音は妙に感心する。
エレスケたちが白音に対して綺麗に横一列に並んだ。
「アイドルとしてどっちが格上か勝負よ!!」
そこを改修して白音たち魔法少女のアジト(あるいは秘密基地、たまり場、集会所、会議室)とすることにした。
大がかりな模様替えだったのでもっと時間がかかるかと思っていたのだが、あっという間に終わってしまった。
魔法少女に変身していると疲れ知らずなのと、エレスケたちが手伝ってくれたおかげだろう。
彼女たちは文句を言いながらも、なんだかんだでよく働いてくれた。
「ねぇ、さすがにドクロとか飾るのやめない?」
莉美の暴走を白音が抑える格好で少しずつ修正して、どうにかみんなで落ち着ける空間を確保する。
どうやら莉美はヘヴィメタとかハードロックとか、そういうMVの世界観を目指していたようだった。
莉美ん家の自分の部屋は、ちゃんと女の子らしくてかわいい。
それでいいのにと白音は思う。
ひと段落してみんなでお菓子を用意していると、突然エアコンがおかしくなった。
吹き出し口からぽたぽたと水が垂れ始めて、吹き出す風がぬるくなった。
「あ、これダメな奴だ」
白音は似たような症状を見たことがある。
若葉学園の寮で同じような故障をした時には、買い換えるしかなかったと思う。
真夏にこうなってしまうと…………。
「もう古いからねぇ。さっき頼まれたネット回線と一緒に、エアコンもお父さんに頼んどくね」
莉美と莉美パパに感謝ではあるのだが、さて今日はどうやって生き延びたものか。
気持ちのいい晴天で、本格的な夏の到来を予感させる日だった。
このままだと熱中症や“死”すらも予感させる。
魔法少女に変身していれば過酷な環境に対しても耐性がつく。
しかし佳奈や莉美じゃあるまいに、ずっと変身したままというわけにもいくまい。
「よし、みんなで遊ぼ!!」
そう言って一恵が立ち上がった。
そらとまた何やら相談を始める。
たまには自分も混ぜて欲しいと白音が思っていると、またまた手招きして呼ばれた。
今度は何かの実験台にされるわけではなく、みんなで遊ぶ段取りの相談だった。
ちょっと嬉しい。
三人で少し話し合った後、そのまま連れ立って外へと出て行く。
魔法少女たちは、今度は何が起こるのかと全員、興味津々でその後に続いた。
灼熱に輝く太陽の下に出ると、まずは白音が能力強化でそらと一恵の能力を底上げする。
次にそらが、リーパーによって強化された空間認識能力を使って地面の下を探っていく。
元整備工場の二棟の建物の間には、アスファルトで固められた広い地面がある。
その地下の空間を探査し、その結果を精神連携によって一恵と共有する。
そして一恵が、その情報を元に地下の配管等を避けて地面に直方体の穴を作る。
コンピュータルームの時と同じ要領で、その場所を異空間に繋げたのだ。
ただし規模が違った。25メートル×10メートル、深さ2メートル。
白音のリーパーなしには到底不可能な大きさだ。
勘のいい者なら、その形状で一恵が何をしようとしているのか察することができよう。
先程白音が莉美をお尻で突き飛ばした時のような、虹色の揺らめきは見られない。
一恵はこの穴を『完全開放系』と表現した。
要はコンピュータルームのようにセキュリティをかける必要がないので、入り口が開きっぱなしということだ。
「海水でいいよね」
そう言いのこして一恵が転移ゲートで消えた。
ややあって戻ってくると、
「ストレージ解放」
そう言って穴の上にストレージの出入り口を開いた。
轟音と共に大量の海水が降り注ぎ、あっという間に巨大な箱が満水になった。
さすがに魔力切れを起こしたようで、一恵が少しふらついている。
「一恵ちゃん、魔力分けてあげるね」
「あ、うん。助かるわ」
嬉しそうに莉美が一恵の背後から近づく。
エレスケたちは一度経験したことがあるものの、これから何が起こるのかぴんと来てはいないようだった。
しかし白音たちは何度も体験しているからよく知っている。
思わず一恵の方へと視線が集中する。
そして期待したとおり、莉美が背後から一恵をそっと抱きしめると、その体がびくんと跳ねた。
「んんっ……、あん。……もう」
一恵は莉美の腕の中でくるっと回ると、莉美を正面から抱きしめ返した。
「ありがと」
白音がぞくぞくするほど色っぽい声だった。
そして何事もなかったように一恵は作業に戻る。
ただ、心なしか先程よりも楽しそうには見える。
「魚とか、いないよね、いたら元に戻さないと……」
わざわざ南洋から取ってきてくれたそうで、水温も既に調度いい。
あっという間にプールが完成してしまった。
本当に便利すぎて怖い能力だった。
エレスケたちも呆然と見とれている。
「みんな凄まじい能力ね……。Hitoe様もさすがなんだけど、これだけの魔法を回す魔力量って、やっぱり莉美さんよね」
負けん気の強い詩緒が素直な賛辞を述べる。
エレスケは魔法少女チームの先輩だけあって、魔法を運用する際の肝をよく理解している。
確かに莉美がいなければ今頃みんな魔力切れだろう。
遊ぶ気力がなくなってしまってはこの一大事業にも意味がない。
「水着ないよ?」
そして莉美は、遊びの肝をよく理解している。
白音も目の前に突然現れたプールに心浮き立っていたのだが、そうだ水着がなければ楽しめないではないかと気がついた。
しかし白音が肩を叩かれて振り返ると、エレスケたちはいつの間にか全員水着になっていた。
例のエレスケの決めポーズをみんなで決めてくれる。
「あ、あれ?」
しかもその水着は、それぞれの魔法少女のコスチュームを何となく彷彿とさせるような、イメージラインを引き継いだデザインになっている。
アイドル衣装のような水着だ。
戸惑う白音に千咲が説明してくれた。
どうやら着替えたわけではなく、それは魔法少女のコスチュームらしかった。
本人の心に寄り添ってコスチュームは構成されるものだから、泳ぐ気で変身すればそうなるのだそうだ。
初めの印象からは遠く離れないから、似たイメージにはなる。
だからなんとなく元のコスチュームを思わせるデザインになるのだとか。
「私たちはアイドルになりたかったからこういう衣装になったのね。あなたたちは変身ヒロインみたいな魔法少女になりたかったんでしょ? ちゃんと星石がイメージを具現化してくれてるのよ」
「ああ、スライムに襲われた時、佳奈が『魔法少女に変身』って言ったからこうなったのね…………」
佳奈は多分そういうことを知っていたのだろう。
なかなかどうして策士だったわけだ。
佳奈の方を見ると、またあの時のちょっと悪そうな笑みを浮かべた。
「ふふ、でもピンクになったのは白音の気持ちだよ」
「だから白だってば、これ…………」
みんなで変身してみると、一発で水着になれた。
プールで遊びたい一心のなせる技だろう。
千咲の言うとおり、みんな魔法少女のコスチュームのイメージがしっかり引き継がれている。
顔を見なくとも誰が誰だかすぐ当てられただろう。
みんなかわいい水着姿に変身したので、ひときわ一恵が狂喜していた。
(ああ、これ、うん)
一恵は初めからプールを作る気満々だったんだな、と白音は確信した。
ビーチボールとか浮き輪とか、パラソルとかビーチチェアとか、一恵のストレージから際限なく海の必需品が出てくる。
中でもアスファルトの熱い地面にビーチサンダルは必須だった。
参加人数を上回る大量のサンダルをしっかり用意していた一恵は、
「みんなのおかげで大きなプールができた」
と嬉しそうだ。
浮き輪やボールに空気を入れ、パラソルやチェアを設置していく。
何も言わなくともこういう時はみんなテキパキと働いてくれる。
それぞれが思い思いに遊びの準備を始める中、莉美がしゃがんでプールの側壁をじっと見つめていた。
「どうしたの?」
一恵が莉美と並んでしゃがみ込む。
「土の断面が見えて気持ち悪い感じかと思ったんだけど、真っ黒だね」
確かにプールの壁はどこも真っ黒で、その向こうは何も見えない。
「穴を掘ったわけじゃなくて、プールと土の中は完全に別の空間になってるの。エネルギーの行き来がまったくないから真っ黒なのよ。イベントホライズンって奴ね」
「そかー。イベントなのに誰も来ないのは寂しいねぇ」
「ふふふ。その代わり今日は水着の魔法少女がいっぱい」
「だね! 今日は一大イベント!!」
「うんうん」
莉美と一恵の会話は噛み合っているような、噛み合っていないような、でもそんなことどうでもいいような気さえしてくる。
「ほい、白音っ! パス!!」
佳奈が白音に向かってビーチボールをアタックした。
パスしたようにはとても見えない殺人的な速度だった。
多分みんな水着コスチュームになっているから、自分が変身していることを忘れていたのだ。
ボールが割れなくて良かったのか、割れた方が良かったのか。
白音が慌てて手でガードすると、跳ね返ったボールが詩緒に向かった。
時間にすると0・1秒にも満たないくらい、音にすると『ボボボン』とひとつながりの音に聞こえるくらいの瞬間。
詩緒が顔面に超高速のそれを食らって吹っ飛んだ。
一瞬死んだかと思ったが、そこはさすが魔法少女である。
むくりと起き上がった。
「ちょっと何すんのよ。アイドル☆の顔に酷いことしないでよ!!」
「悪い、悪い。加減間違った」
言いながら佳奈は、跳ね返ったボールを苦もなくキャッチしている。
「ちょっと、みんな聞いて」
詩緒がエレスケに集合をかけた。
四人で何やらひそひそと話をし始める。
変身しているので感覚が鋭敏になっているはずなのだが、何故かその声は白音たちには聞こえてこなかった。
ただ、最後に「作戦決行」という言葉が聞こえたので、それはどうやら想定内の行動らしい。
怒らせてしまったわけではないのかなと少し安心した。
みんないろんな計画を立ててここへ来たんだなと、白音は妙に感心する。
エレスケたちが白音に対して綺麗に横一列に並んだ。
「アイドルとしてどっちが格上か勝負よ!!」
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