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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
第7話 魔法少女VS人形使い(パペットマスター) その一
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リンクスによれば、未登録の魔法使いが街中で暴れている、とのことだった。
話し合いに応じる様子は一切無く、このため初期対応に当たった警備局(公安)が、交渉による解決は不可能と判断している。
大規模な破壊活動が可能な能力を有していたため、街の商業区が広範囲に渡って被害を受けている。
既に人的な被害も出ていることから迅速な解決が求められ、そこで政府当局が魔法少女ギルドへ当該魔法使いの武力制圧を依頼した、ということらしい
『未登録』、とは魔法少女ギルドに登録していないという意味である。
もちろん未登録=悪ということではない。
しかし魔法の力を使って犯罪行為に及ぶ者は、ギルドとして捨て置けない。
魔法が犯罪に使われた場合、それに対処できるだけの捜査能力、戦闘能力を有しているのは現状魔法少女ギルドだけである。
だからこういう任務も引き受けることになる。
「おそらく人同士で戦うことになりますが、構いませんか?」
そうリンクスは確認した。
もちろん白音たちとしても、周囲に危害を及ぼしているとあれば、たとえそれが人間の仕業であったとしても看過する気はなかった。
既に向かった魔法少女が対処しているのだが、Aクラス以上の者はおらず、足止めに専念しているとのことだった。
現在情報が錯綜してしまっているが、一番早く到着できそうなAクラスの魔法少女が白音たちということらしい。
あまり時間に余裕がないので、もし引き受けてもらえるのならば、急ぎ現場に向かって加勢して欲しいと頼まれた。
「いきなりこんな依頼で申し訳ないです。本当は少しずつ慣れていってもらう予定だったのですが」
白音が佳奈と莉美を見る。
ふたりとも当然というように頷きを返す。
「わたしたちはまだ未熟ですが、できるだけのことはやってみます」
「ありがとう」
リンクスが先にアジトの外へと出た。
「転移能力を持つ者が迎えに来てくれます。少し歩いた先で待ちましょう。その間に事情を説明します」
他の魔法少女、特に転移能力を持つ者に、ここの場所が知られないように気を遣ってくれているんだと白音は気づいた。
転移能力とはおそらく、人や物を瞬時に遠く離れた所へ移動させる魔法だろう。そういう魔法少女に拠点を知られないように配慮してくれているのだ。
「パペットマスターの能力を得た、と思われる者が暴れています」
「パペットマスター?」
「周囲にある土や石から人形を作り出して操る能力です。あなた方も実戦訓練で戦ったゴーレム、あのようなものを作り出せる能力だと思って下さい」
そんなものを使って破壊して回っているのだ。
おまけにかなりの数を作り出すことができるらしい。
白音はあの時のミスリルゴーレムが大量に暴れているところを想像して、それではまるでテロじゃないかと絶句する。
リンクス曰く、突然に大きな力を得て、自我を肥大させる者がいる。
自分の能力による万能感から尊大な態度を取るようになり、些細なきっかけから感情を爆発。社会に対して怒りをぶつけるのだ。
魔法が使えなくとも起こりうる現象ではあるけれど、特に魔法使いの場合は止めないと酷いことになるのは確かだ。
放っておけばどんどん被害が拡大していくだろう。
アジトのある付近は工場が多い地域なのだが、ここへ来る時に見たように不景気のあおりを受けて廃業しているところがあちこちにある。
人通りもそんなに多くない。
人目に付きにくそうな廃工場の裏手を選ぶと、そこでリンクスがスマホの位置情報をONにする。
と、ものの数秒も経たないうちにリンクスの真横に魔法少女が現れた。
多分魔法で転移してきたのだろう。
髪を左側だけハーフアップに結んだ勝ち気そうな目をした少女だ。
その少女が、いきなりリンクスに食ってかかる。
「だからいつも居場所ははっきりさせといてって、言われてますよね? GPS切らないで下さい。勝手なことされたら困るんですけど?!」
「ああ、すまない」
「それで? 四人運べばいいんですか?」
少女がてきぱきとみんなにインカムを配りながら問う。
「ああ、千尋君も周辺の安全確保に協力してくれ」
「分かりました。皆さん、自己紹介は後にしますね。ビルの屋上に飛びます。リンクスさんは、あとで軍曹に言いつけますからね」
ギルドマスターが年端もいかない魔法少女に怒られている。
いつもこうなのだろうかと白音は少し想像した。
千尋と呼ばれた少女は言葉が終わると、ほぼ同時に転移を開始した。
五人で何度か転移を繰り返し、やがてビルの屋上に姿を現す。
狭い上に給水塔や空調の室外機などが大量に並んでいて、全員でぎりぎり立てる程のスペースしかない。
十階建てくらいだろうか。
さすがに白音も驚いた。
「す、すごい精度ですね。こんなにピンポイントで狙って出られるなんて」
「正確さは自信あるんですけどね。あまり遠くまでは運べなくて。だから何度か繰り返さないとここまで来られなかったんです」
「いえいえ、ほんとにすごいです」
すると突然、眼下で大きな音がして綺麗な花火が弾けるのが見えたた。
「ええ? 何、花火?」
「隠蔽工作だな。幻覚だろう。先に入ってもらった子たちが、周辺の目を欺いてくれているんだ。中に入れば本当のところが見えてくると思うが」
リンクスは多分、ギルドマスターとしての口調になっている。
その横顔を、白音はちらりと見た。
普段の喋り方はこっちに近そうだな、と思う。
リンクスが眼下を指さしながら、把握しているおおよその位置関係を説明してくれる。
花火騒ぎの広がる街の中心部、ひときわ高いテレビ塔のあたりに件の人形遣いがいるらしい。
あとは造り出された人形が暴れているだけなので、相手にすると時間を無駄にしてしまう。
白音たちの任務は、テレビ塔に真っ直ぐ向かって速やかに術者を無力化することだ。
「それと…………当該パペットマスターの生死は問わない」
「え?」
「殺してもいいということだ」
白音が思わず聞き返してしまったが、佳奈もやはり動揺を見せる。
「さ、さすがに酷くない?」
「佳奈…………、これだけの被害を出しておいて、そしてこれ以上酷くしないためにはやむなし、ってことなんじゃない?」
リンクスが無言で頷く。
「白音っ!? お前まさかやる気なのか?」
「いえ、勘違いしないで。殺してもいいってことは、殺さなくてもいいってことでしょ? 私たちがうまくやんなきゃだけど、迅速に無力化できればきっといける」
莉美がうんうん、と頷いている。
「ハードル上がるなぁ……」
だが、佳奈もやる気になってくれたようだ。ふうっとひとつ息を吐いて集中する。
「ふたりとも準備はいい?」
白音が顔を引き締めてふたりに尋ねると、佳奈がにやりと笑った。
「いやいや、白音だけまだ制服エプロンだよ?」
「早く変身しろー」
莉美もかぶせてくる。
「あ、うん。ごめん……」
(そういえばもはや気に留めてなかったけどこいつら、さっきこの格好で町中歩いてたんだな……。以前は、もう少し気を遣って隠していたと思うんだけど)
おそらく赤い魔法少女の正体が佳奈だと白音に知られてからは、どんどん隠し方が雑になっているようだった。
何か釈然としないが、気を取り直して白音も変身する。
足場が狭くてあまり余裕がないため、変身するにはちょっと怖い。
「行こう」
「あいさ」
白音の変身を待ってから、佳奈は40メートルはありそうな高さの屋上から何の躊躇もなく飛び降りた。
直接着地すると、その衝撃でコンクリートの地面が欠ける。
「ちょっと、被害増やさないでよ」
白音は壁を何度か蹴ってビルとビルの間を降下すると、音もなく着地する。
ふたりを見送った莉美が、涙目でリンクスを振り返る。
「我々にはあんな真似はできないからな。千尋君、頼む。」
ハーフアップの魔法少女がふたりを連れて地上へ転移する。
寸分違わず白音たちの真横に、こちらもまったく音を立てずに現れる。
「パンポーーーン」
「エレベーターかよ!」
佳奈が莉美にツッコんだのを見て、エレベータのつもりだったのかと白音は気づいた。
よくツッコめるものだと感心する。
渡されたインカムを装着して五人は封鎖エリアに踏みいる。
一定の距離まで近づくと突然幻覚が効果をなくし、パペットたちが街を破壊している光景が目の前に広がった。
それはさながらパニック映画の世界だった。
そこにそれぞれ白、青、橙、緑の艶やかなコスチュームの魔法少女が四人いて、避難誘導を行っている。
「あ、エレスケ!」
「ほんとだ、エレスケ!」
白音と莉美が思わず叫んだ。
「なんだソレ?」
佳奈は知らないようだったが、彼女たちはエレメントスケイプ、略してエレスケと呼ばれている。
「最近名の知れてきたネットアイドルで、魔法少女なのではないかと噂のあった四人組」だと佳奈にも手短に説明してやる。
かわいらしいリボンやフリルがふんだんにあしらわれた、アイドル歌手のようなコスチュームを身につけている。
やはり本当に魔法少女だったのだ。
話し合いに応じる様子は一切無く、このため初期対応に当たった警備局(公安)が、交渉による解決は不可能と判断している。
大規模な破壊活動が可能な能力を有していたため、街の商業区が広範囲に渡って被害を受けている。
既に人的な被害も出ていることから迅速な解決が求められ、そこで政府当局が魔法少女ギルドへ当該魔法使いの武力制圧を依頼した、ということらしい
『未登録』、とは魔法少女ギルドに登録していないという意味である。
もちろん未登録=悪ということではない。
しかし魔法の力を使って犯罪行為に及ぶ者は、ギルドとして捨て置けない。
魔法が犯罪に使われた場合、それに対処できるだけの捜査能力、戦闘能力を有しているのは現状魔法少女ギルドだけである。
だからこういう任務も引き受けることになる。
「おそらく人同士で戦うことになりますが、構いませんか?」
そうリンクスは確認した。
もちろん白音たちとしても、周囲に危害を及ぼしているとあれば、たとえそれが人間の仕業であったとしても看過する気はなかった。
既に向かった魔法少女が対処しているのだが、Aクラス以上の者はおらず、足止めに専念しているとのことだった。
現在情報が錯綜してしまっているが、一番早く到着できそうなAクラスの魔法少女が白音たちということらしい。
あまり時間に余裕がないので、もし引き受けてもらえるのならば、急ぎ現場に向かって加勢して欲しいと頼まれた。
「いきなりこんな依頼で申し訳ないです。本当は少しずつ慣れていってもらう予定だったのですが」
白音が佳奈と莉美を見る。
ふたりとも当然というように頷きを返す。
「わたしたちはまだ未熟ですが、できるだけのことはやってみます」
「ありがとう」
リンクスが先にアジトの外へと出た。
「転移能力を持つ者が迎えに来てくれます。少し歩いた先で待ちましょう。その間に事情を説明します」
他の魔法少女、特に転移能力を持つ者に、ここの場所が知られないように気を遣ってくれているんだと白音は気づいた。
転移能力とはおそらく、人や物を瞬時に遠く離れた所へ移動させる魔法だろう。そういう魔法少女に拠点を知られないように配慮してくれているのだ。
「パペットマスターの能力を得た、と思われる者が暴れています」
「パペットマスター?」
「周囲にある土や石から人形を作り出して操る能力です。あなた方も実戦訓練で戦ったゴーレム、あのようなものを作り出せる能力だと思って下さい」
そんなものを使って破壊して回っているのだ。
おまけにかなりの数を作り出すことができるらしい。
白音はあの時のミスリルゴーレムが大量に暴れているところを想像して、それではまるでテロじゃないかと絶句する。
リンクス曰く、突然に大きな力を得て、自我を肥大させる者がいる。
自分の能力による万能感から尊大な態度を取るようになり、些細なきっかけから感情を爆発。社会に対して怒りをぶつけるのだ。
魔法が使えなくとも起こりうる現象ではあるけれど、特に魔法使いの場合は止めないと酷いことになるのは確かだ。
放っておけばどんどん被害が拡大していくだろう。
アジトのある付近は工場が多い地域なのだが、ここへ来る時に見たように不景気のあおりを受けて廃業しているところがあちこちにある。
人通りもそんなに多くない。
人目に付きにくそうな廃工場の裏手を選ぶと、そこでリンクスがスマホの位置情報をONにする。
と、ものの数秒も経たないうちにリンクスの真横に魔法少女が現れた。
多分魔法で転移してきたのだろう。
髪を左側だけハーフアップに結んだ勝ち気そうな目をした少女だ。
その少女が、いきなりリンクスに食ってかかる。
「だからいつも居場所ははっきりさせといてって、言われてますよね? GPS切らないで下さい。勝手なことされたら困るんですけど?!」
「ああ、すまない」
「それで? 四人運べばいいんですか?」
少女がてきぱきとみんなにインカムを配りながら問う。
「ああ、千尋君も周辺の安全確保に協力してくれ」
「分かりました。皆さん、自己紹介は後にしますね。ビルの屋上に飛びます。リンクスさんは、あとで軍曹に言いつけますからね」
ギルドマスターが年端もいかない魔法少女に怒られている。
いつもこうなのだろうかと白音は少し想像した。
千尋と呼ばれた少女は言葉が終わると、ほぼ同時に転移を開始した。
五人で何度か転移を繰り返し、やがてビルの屋上に姿を現す。
狭い上に給水塔や空調の室外機などが大量に並んでいて、全員でぎりぎり立てる程のスペースしかない。
十階建てくらいだろうか。
さすがに白音も驚いた。
「す、すごい精度ですね。こんなにピンポイントで狙って出られるなんて」
「正確さは自信あるんですけどね。あまり遠くまでは運べなくて。だから何度か繰り返さないとここまで来られなかったんです」
「いえいえ、ほんとにすごいです」
すると突然、眼下で大きな音がして綺麗な花火が弾けるのが見えたた。
「ええ? 何、花火?」
「隠蔽工作だな。幻覚だろう。先に入ってもらった子たちが、周辺の目を欺いてくれているんだ。中に入れば本当のところが見えてくると思うが」
リンクスは多分、ギルドマスターとしての口調になっている。
その横顔を、白音はちらりと見た。
普段の喋り方はこっちに近そうだな、と思う。
リンクスが眼下を指さしながら、把握しているおおよその位置関係を説明してくれる。
花火騒ぎの広がる街の中心部、ひときわ高いテレビ塔のあたりに件の人形遣いがいるらしい。
あとは造り出された人形が暴れているだけなので、相手にすると時間を無駄にしてしまう。
白音たちの任務は、テレビ塔に真っ直ぐ向かって速やかに術者を無力化することだ。
「それと…………当該パペットマスターの生死は問わない」
「え?」
「殺してもいいということだ」
白音が思わず聞き返してしまったが、佳奈もやはり動揺を見せる。
「さ、さすがに酷くない?」
「佳奈…………、これだけの被害を出しておいて、そしてこれ以上酷くしないためにはやむなし、ってことなんじゃない?」
リンクスが無言で頷く。
「白音っ!? お前まさかやる気なのか?」
「いえ、勘違いしないで。殺してもいいってことは、殺さなくてもいいってことでしょ? 私たちがうまくやんなきゃだけど、迅速に無力化できればきっといける」
莉美がうんうん、と頷いている。
「ハードル上がるなぁ……」
だが、佳奈もやる気になってくれたようだ。ふうっとひとつ息を吐いて集中する。
「ふたりとも準備はいい?」
白音が顔を引き締めてふたりに尋ねると、佳奈がにやりと笑った。
「いやいや、白音だけまだ制服エプロンだよ?」
「早く変身しろー」
莉美もかぶせてくる。
「あ、うん。ごめん……」
(そういえばもはや気に留めてなかったけどこいつら、さっきこの格好で町中歩いてたんだな……。以前は、もう少し気を遣って隠していたと思うんだけど)
おそらく赤い魔法少女の正体が佳奈だと白音に知られてからは、どんどん隠し方が雑になっているようだった。
何か釈然としないが、気を取り直して白音も変身する。
足場が狭くてあまり余裕がないため、変身するにはちょっと怖い。
「行こう」
「あいさ」
白音の変身を待ってから、佳奈は40メートルはありそうな高さの屋上から何の躊躇もなく飛び降りた。
直接着地すると、その衝撃でコンクリートの地面が欠ける。
「ちょっと、被害増やさないでよ」
白音は壁を何度か蹴ってビルとビルの間を降下すると、音もなく着地する。
ふたりを見送った莉美が、涙目でリンクスを振り返る。
「我々にはあんな真似はできないからな。千尋君、頼む。」
ハーフアップの魔法少女がふたりを連れて地上へ転移する。
寸分違わず白音たちの真横に、こちらもまったく音を立てずに現れる。
「パンポーーーン」
「エレベーターかよ!」
佳奈が莉美にツッコんだのを見て、エレベータのつもりだったのかと白音は気づいた。
よくツッコめるものだと感心する。
渡されたインカムを装着して五人は封鎖エリアに踏みいる。
一定の距離まで近づくと突然幻覚が効果をなくし、パペットたちが街を破壊している光景が目の前に広がった。
それはさながらパニック映画の世界だった。
そこにそれぞれ白、青、橙、緑の艶やかなコスチュームの魔法少女が四人いて、避難誘導を行っている。
「あ、エレスケ!」
「ほんとだ、エレスケ!」
白音と莉美が思わず叫んだ。
「なんだソレ?」
佳奈は知らないようだったが、彼女たちはエレメントスケイプ、略してエレスケと呼ばれている。
「最近名の知れてきたネットアイドルで、魔法少女なのではないかと噂のあった四人組」だと佳奈にも手短に説明してやる。
かわいらしいリボンやフリルがふんだんにあしらわれた、アイドル歌手のようなコスチュームを身につけている。
やはり本当に魔法少女だったのだ。
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