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第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
第5話 朝はカフェメイド、午後はしごかれる その二
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白音と一恵がバイト先のカフェで初顔合わせをした。
そしてその日の午後、白音、佳奈、莉美、そらの四人は奥深い山中にいた。
戦闘訓練と言われて軍曹にここまで来るようにと指示されたのだ。
魔法少女として四人で初めての活動となる。
一恵だけ本人からも直接聞いていたとおり、仕事とのことで欠席である。
白音にお詫びのメールが来ているが、やはりビジネス口調でシンプルな文面である。
「やっぱわたし、神さんに避けられてると思うのよねぇ。距離があるというか、壁を作られてる感じ?」
「いやいや、めっちゃ興味持ってると思うよ。あの人白音のことばかり聞いてくるし。ほら」
佳奈の差し出すスマホを見てみると、一恵が熱心に白音のことを質問している様子が見て取れる。
というか熱心すぎる
今日のことも佳奈には猛烈な謝罪のメールが来ていた。
白音にも謝っておいてくれとちゃんと書かれている。
仲の良い友達同士のやり取りにしか見えない。
「わたしに直接言ってくれればいいじゃないの…………」
やがて、澄んだ小川のほとり、せせらぎの聞こえる少し開けた場所に出た。
ほぼ登山のような道のりをメールで指示されたとおりに来ただけなので、四人はここがどこだかよく分かっていない。
ここまでは楽しいピクニック気分だったのだが、軍曹はいなかった。
「鬼のくせに遅刻ぅ? お弁当分けてあげないよ?」
莉美はやはりピクニックに来たようだった。
確かに新緑のこの季節、空気は美味しいし、景色も素晴らしい。
その時、異世界から何者かがやってくる気配があった。
佳奈、莉美、そらの三人には、あのぬらぬらとした気持ちの悪い巨大イカと出くわした時の記憶が蘇る。
世界を隔てる壁が破れる時の、空間が波打つような感触だ。
「白音ちゃん。この感覚、多分異世界から何か来るの」
そらは今回が初体験の白音にも教えてくれる。
そして白音とそらは目を合わせて頷く。
ふたりはこの瞬間に、鬼軍曹がやらせようとしていることを理解していた。
ブルームは何らかの手段で転移現象の発生を事前に察知したのだろう。
その予測地点に四人を呼び出して、ぶっつけ本番で戦わせるつもりなのだ。
なるほど、と思うと白音は、少し離れたところにある藪の方を見据えた。
こちらを見渡せるような位置に、隠れるには丁度おあつらえ向きの生い茂った草むらがある。
そちらに向かって軽く手を振ると、白音は戦闘準備に入った。
「え、何々? 誰か居るの?」
莉美が興味津々といった様子で藪の方をじっと見つめるが、雑誌に載っている間違い探しよりもはるかに難問だった。
ただの藪にしか見えない。
「誰かがこっち見てるよな」
白音の他には佳奈だけが感づいていたようだった。
やはり佳奈もずっと見られていることを知っていた。
白音も佳奈も、目ではなく気配で気づいた感じだ。
もはや魔法少女がどうこうという問題ではない。
野生の勘みたいなものだった。
「軍曹さん? だと思う。会ったことないから知らないけど」
ふたりはどうにか気づいたが、隠れ方は並大抵の技量ではなかった。
それならば噂に聞いている鬼軍曹だろう、と白音は予想した。
「ああ、そういうことね。なら気にしなくていいか」
佳奈も得心してやる気になった。
学校のテストは嫌いだが、こういうテストは嫌いじゃない。
「…………ほんと、優秀すぎてかわいげないわねぇ」
軍曹は結構距離を取ってしっかりカモフラージュしているつもりだった。
今まで何人もの魔法少女をこうやって鍛えてきたが、こうもあっさりと監視がバレたのは初めてだった。
鬼軍曹は、人前でなければ変身していても素の口調になっている。
「頑張ってね」
軍曹が四人に対してこっそりとエールを送る。
もはや隠れている必要がなくなったので、双眼鏡を取り出してじっくりと観察させてもらうことにする。
「みんなっ! 変身よっ!!」
白音は、一番言いたかったセリフを張り切って言った。
準備万端、変身を終えた四人の魔法少女たちが異世界からの闖入者を待ち構えていると、風景からにじみ出すようにして目の前に巨体が現れた。
身長が5、6メートルはありそうな金属製の人型兵器だった。
それを見た途端、白音の背筋にぞわぞわっと恐怖が走る。
「ミスリルゴーレム!!」
「なんだそれ、強いのか?」
白音はその名前を知っていた。
修復中と言われた記憶のせいなのか、よくは分からない。
姿を見ただけですぐに名前が浮かんできた。
そして、とても勝てない相手だとその記憶が囁く。
「訓練って、こんなのおかしいでしょっ?!」
軍曹の方を見やると、慌ててスマホで指示を仰いでいるように見える。
「ここに異世界からの転移があることは察知できても、何がやって来るかまでは分かってなかったんだわ…………。適当すぎるっ!」
しかし白音以外は戦闘準備に入っていた。
「これはミスリルゴーレム……って言うのね。まずは能力が知りたい。私に敵と接触させて」
そらがまったく恐れた風もなくそう言った。
ひと撫でされただけで挽きつぶされてしまいそうな体格差がある。
「おっぱいどこにも付いてないよ?」
相変わらず莉美の言動には気が抜けるのだが、確かにそらはいつも相手の胸を触って能力の鑑定を行っていた。
「どこでもいいから、触れさえすれば相手の能力は分かるの」
その爆弾発言に全員が「えっ?!」という顔をしてそらの方を見た。
「ま、魔法少女は胸に触れた方が情報量が段違いなの。敵は戦闘データさえ取れればいいから……」
そらの語尾が消え入るように小さくなっている。
(みんなそんなこと言ってる場合じゃないのに………。こいつの怖さを知らな過ぎるわ。…………まあ、私も、なんで怖いって思ってるのか、よくは分からないんだけどね……)
そんな白音の動揺をよそに、佳奈、莉美、そらの三人は引く気はなさそうだった。
何しろこれが、念願だったピンクのリーダー、白音に率いられての初めての共同任務なのだ。
そらがゴーレムの隙を見て飛び出した。拳による大振りの攻撃をかいくぐって懐に入ろうと試みる。
しかしその小さな魔法少女を排除しようとして、ゴーレムの腕がものすごい速さで振り戻された。
そらは慌てて身を低くしてなんとかかわしたが、ゴーレムの指の先が腕をかすめた。
指と言ってもそらの頭くらいはあるだろう。
かすっただけなのに、そらの腕がざっくりと切り裂かれていた。
鋭利な刃物でもないのに、速度が速すぎて切れているのだ。
魔法少女の防御を超えて、その体を容易に傷つけてしまうようだった。
「そらちゃん!!」
白音が慌ててそらの掩護に入ろうとするが、それと同時に莉美が、魔力のビームを放つ。
「このっ! よくもっ!!」
そらを傷つけられて莉美もむきになっているようだった。しかし……
「莉美っ、それはだめっ!!」
それを見た白音は止めようとした。だが、間に合わなかった。
ゴーレムはビームを受けると、その体表面にエネルギーを分散させて威力を完全に殺してしまった。
そして分散させたエネルギーが波紋のように伝播して、やがて頭部に収束していく。
刹那の後に、ゴーレムの目に当たる部分から莉美が撃ったものと正確に同じだけのエネルギーを持つビームが、莉美めがけて撃ち返された。
「きゃっ!」
「莉美、伏せてっ」
白音が魔力で創り出した光の剣でビームを受け流し、なんとか上空へ逸らせる。
(…………何気なく撃ったように見えたけど、莉美のビームってなんて威力なの……。でも…………)
「こいつに魔法攻撃は効かないわ。今みたいに撃ち返される。撤退しましょう。初陣にこいつは……強すぎるっ!」
白音はみんなの安全を優先させたかった。
しかし三人、特に佳奈がまだまだやる気満々のようだった。
「おやおやぁ? 負けず嫌いの白音さんが、何もせずに逃げるんですかぁ? この四人なら余裕っしょ」
リーダーをやらせようとしておいて、こいつら言うことなんて聞きやしないと白音は思う。
けどまあ確かに、とも思う。
勝てそうにないからと尻尾を巻いて逃げるのは、性に合わない。
白音が、少し冷静になって目を細めて考える。
それを見た佳奈はまた、にやりと悪そうな笑みを口元に浮かべる。
「佳奈っ! 私の魔法で全員の身体能力底上げするから、盾になって。そらちゃんに分析させてあげて」
「おっけー。面白くなってきたねっ」
軍曹は止めに入ろうと白音たちの元へと走っていたのだが、足を止めた。
ギルドに登録されたデータから考えればこの敵、ミスリルゴーレムに対しては、白音たちが五人揃っていたとしてもかなり厳しい戦いとなるだろう。
それがひとり欠けている状態となれば、勝てる見込みはほとんどないと考えられた。
でもこの感じ、つい期待をしてしまう何かが白音たちにはある。
「行くよっ、能力強化!!」
白音の魔法で能力が強化されると、自身の力が一段階上のステージに引き上げられるような感じがした。
皆一様に目を瞠る。
「白音っ、やっぱあんた最高の相棒だよっ!!」
ウインクをして佳奈は身体強化を発動する。
自身の運動能力を大きく向上させる、佳奈の固有魔法だ。
リーパーの効果で魔法の効力も強化されているため、自分でも驚くほどの力がみなぎってくるのがわかる。
今なら何でもできそうな、ちょっと危ないくらいの高揚感を覚える。
佳奈は自分の三倍以上の背丈があるミスリルゴーレムを、真正面から組み止めてしまった。
まったく力負けしていない。
佳奈がゴーレムを動けなくしてくれている隙に、そらが接触して魔力紋を読む。
腕の出血はもう止まっていて、戦闘に支障はないようだった。
魔法少女の持つ高い回復力ですらも能力強化で強化されているのだ。
「ゴーレムってことは体のどこかにemethって印がある?」
そらがミスリルゴーレムの鑑定をしながら、いかにもそららしい疑問を口にした。伝承に登場するゴーレムの逸話を思い出したのだろう。
「こいつ土禁のヤン車よりピカピカだよ? どこにもそんな落書きないよ」
時折莉美からよく分からない業界用語が出てくる。
どこでそんな言葉を覚えるんだか、と白音は思うが、莉美はいたって真剣だった。
先程自分のビームが反射されたのは表面が鏡のようだからで、どこか光沢のないところを探せば効くのではないかと考えているのだろう。
鏡はともかく、弱点がないなら作らなければいけないのは確かだ。
「そらちゃん、こいつ昔話みたいに都合良く死んでくれないよ。もっと凶悪な戦争の道具だから」
「なら余計、ここから逃がすわけにはいかないの」
そらもやはり魔法少女なのだな、と白音は頼もしく思う。
そしてその日の午後、白音、佳奈、莉美、そらの四人は奥深い山中にいた。
戦闘訓練と言われて軍曹にここまで来るようにと指示されたのだ。
魔法少女として四人で初めての活動となる。
一恵だけ本人からも直接聞いていたとおり、仕事とのことで欠席である。
白音にお詫びのメールが来ているが、やはりビジネス口調でシンプルな文面である。
「やっぱわたし、神さんに避けられてると思うのよねぇ。距離があるというか、壁を作られてる感じ?」
「いやいや、めっちゃ興味持ってると思うよ。あの人白音のことばかり聞いてくるし。ほら」
佳奈の差し出すスマホを見てみると、一恵が熱心に白音のことを質問している様子が見て取れる。
というか熱心すぎる
今日のことも佳奈には猛烈な謝罪のメールが来ていた。
白音にも謝っておいてくれとちゃんと書かれている。
仲の良い友達同士のやり取りにしか見えない。
「わたしに直接言ってくれればいいじゃないの…………」
やがて、澄んだ小川のほとり、せせらぎの聞こえる少し開けた場所に出た。
ほぼ登山のような道のりをメールで指示されたとおりに来ただけなので、四人はここがどこだかよく分かっていない。
ここまでは楽しいピクニック気分だったのだが、軍曹はいなかった。
「鬼のくせに遅刻ぅ? お弁当分けてあげないよ?」
莉美はやはりピクニックに来たようだった。
確かに新緑のこの季節、空気は美味しいし、景色も素晴らしい。
その時、異世界から何者かがやってくる気配があった。
佳奈、莉美、そらの三人には、あのぬらぬらとした気持ちの悪い巨大イカと出くわした時の記憶が蘇る。
世界を隔てる壁が破れる時の、空間が波打つような感触だ。
「白音ちゃん。この感覚、多分異世界から何か来るの」
そらは今回が初体験の白音にも教えてくれる。
そして白音とそらは目を合わせて頷く。
ふたりはこの瞬間に、鬼軍曹がやらせようとしていることを理解していた。
ブルームは何らかの手段で転移現象の発生を事前に察知したのだろう。
その予測地点に四人を呼び出して、ぶっつけ本番で戦わせるつもりなのだ。
なるほど、と思うと白音は、少し離れたところにある藪の方を見据えた。
こちらを見渡せるような位置に、隠れるには丁度おあつらえ向きの生い茂った草むらがある。
そちらに向かって軽く手を振ると、白音は戦闘準備に入った。
「え、何々? 誰か居るの?」
莉美が興味津々といった様子で藪の方をじっと見つめるが、雑誌に載っている間違い探しよりもはるかに難問だった。
ただの藪にしか見えない。
「誰かがこっち見てるよな」
白音の他には佳奈だけが感づいていたようだった。
やはり佳奈もずっと見られていることを知っていた。
白音も佳奈も、目ではなく気配で気づいた感じだ。
もはや魔法少女がどうこうという問題ではない。
野生の勘みたいなものだった。
「軍曹さん? だと思う。会ったことないから知らないけど」
ふたりはどうにか気づいたが、隠れ方は並大抵の技量ではなかった。
それならば噂に聞いている鬼軍曹だろう、と白音は予想した。
「ああ、そういうことね。なら気にしなくていいか」
佳奈も得心してやる気になった。
学校のテストは嫌いだが、こういうテストは嫌いじゃない。
「…………ほんと、優秀すぎてかわいげないわねぇ」
軍曹は結構距離を取ってしっかりカモフラージュしているつもりだった。
今まで何人もの魔法少女をこうやって鍛えてきたが、こうもあっさりと監視がバレたのは初めてだった。
鬼軍曹は、人前でなければ変身していても素の口調になっている。
「頑張ってね」
軍曹が四人に対してこっそりとエールを送る。
もはや隠れている必要がなくなったので、双眼鏡を取り出してじっくりと観察させてもらうことにする。
「みんなっ! 変身よっ!!」
白音は、一番言いたかったセリフを張り切って言った。
準備万端、変身を終えた四人の魔法少女たちが異世界からの闖入者を待ち構えていると、風景からにじみ出すようにして目の前に巨体が現れた。
身長が5、6メートルはありそうな金属製の人型兵器だった。
それを見た途端、白音の背筋にぞわぞわっと恐怖が走る。
「ミスリルゴーレム!!」
「なんだそれ、強いのか?」
白音はその名前を知っていた。
修復中と言われた記憶のせいなのか、よくは分からない。
姿を見ただけですぐに名前が浮かんできた。
そして、とても勝てない相手だとその記憶が囁く。
「訓練って、こんなのおかしいでしょっ?!」
軍曹の方を見やると、慌ててスマホで指示を仰いでいるように見える。
「ここに異世界からの転移があることは察知できても、何がやって来るかまでは分かってなかったんだわ…………。適当すぎるっ!」
しかし白音以外は戦闘準備に入っていた。
「これはミスリルゴーレム……って言うのね。まずは能力が知りたい。私に敵と接触させて」
そらがまったく恐れた風もなくそう言った。
ひと撫でされただけで挽きつぶされてしまいそうな体格差がある。
「おっぱいどこにも付いてないよ?」
相変わらず莉美の言動には気が抜けるのだが、確かにそらはいつも相手の胸を触って能力の鑑定を行っていた。
「どこでもいいから、触れさえすれば相手の能力は分かるの」
その爆弾発言に全員が「えっ?!」という顔をしてそらの方を見た。
「ま、魔法少女は胸に触れた方が情報量が段違いなの。敵は戦闘データさえ取れればいいから……」
そらの語尾が消え入るように小さくなっている。
(みんなそんなこと言ってる場合じゃないのに………。こいつの怖さを知らな過ぎるわ。…………まあ、私も、なんで怖いって思ってるのか、よくは分からないんだけどね……)
そんな白音の動揺をよそに、佳奈、莉美、そらの三人は引く気はなさそうだった。
何しろこれが、念願だったピンクのリーダー、白音に率いられての初めての共同任務なのだ。
そらがゴーレムの隙を見て飛び出した。拳による大振りの攻撃をかいくぐって懐に入ろうと試みる。
しかしその小さな魔法少女を排除しようとして、ゴーレムの腕がものすごい速さで振り戻された。
そらは慌てて身を低くしてなんとかかわしたが、ゴーレムの指の先が腕をかすめた。
指と言ってもそらの頭くらいはあるだろう。
かすっただけなのに、そらの腕がざっくりと切り裂かれていた。
鋭利な刃物でもないのに、速度が速すぎて切れているのだ。
魔法少女の防御を超えて、その体を容易に傷つけてしまうようだった。
「そらちゃん!!」
白音が慌ててそらの掩護に入ろうとするが、それと同時に莉美が、魔力のビームを放つ。
「このっ! よくもっ!!」
そらを傷つけられて莉美もむきになっているようだった。しかし……
「莉美っ、それはだめっ!!」
それを見た白音は止めようとした。だが、間に合わなかった。
ゴーレムはビームを受けると、その体表面にエネルギーを分散させて威力を完全に殺してしまった。
そして分散させたエネルギーが波紋のように伝播して、やがて頭部に収束していく。
刹那の後に、ゴーレムの目に当たる部分から莉美が撃ったものと正確に同じだけのエネルギーを持つビームが、莉美めがけて撃ち返された。
「きゃっ!」
「莉美、伏せてっ」
白音が魔力で創り出した光の剣でビームを受け流し、なんとか上空へ逸らせる。
(…………何気なく撃ったように見えたけど、莉美のビームってなんて威力なの……。でも…………)
「こいつに魔法攻撃は効かないわ。今みたいに撃ち返される。撤退しましょう。初陣にこいつは……強すぎるっ!」
白音はみんなの安全を優先させたかった。
しかし三人、特に佳奈がまだまだやる気満々のようだった。
「おやおやぁ? 負けず嫌いの白音さんが、何もせずに逃げるんですかぁ? この四人なら余裕っしょ」
リーダーをやらせようとしておいて、こいつら言うことなんて聞きやしないと白音は思う。
けどまあ確かに、とも思う。
勝てそうにないからと尻尾を巻いて逃げるのは、性に合わない。
白音が、少し冷静になって目を細めて考える。
それを見た佳奈はまた、にやりと悪そうな笑みを口元に浮かべる。
「佳奈っ! 私の魔法で全員の身体能力底上げするから、盾になって。そらちゃんに分析させてあげて」
「おっけー。面白くなってきたねっ」
軍曹は止めに入ろうと白音たちの元へと走っていたのだが、足を止めた。
ギルドに登録されたデータから考えればこの敵、ミスリルゴーレムに対しては、白音たちが五人揃っていたとしてもかなり厳しい戦いとなるだろう。
それがひとり欠けている状態となれば、勝てる見込みはほとんどないと考えられた。
でもこの感じ、つい期待をしてしまう何かが白音たちにはある。
「行くよっ、能力強化!!」
白音の魔法で能力が強化されると、自身の力が一段階上のステージに引き上げられるような感じがした。
皆一様に目を瞠る。
「白音っ、やっぱあんた最高の相棒だよっ!!」
ウインクをして佳奈は身体強化を発動する。
自身の運動能力を大きく向上させる、佳奈の固有魔法だ。
リーパーの効果で魔法の効力も強化されているため、自分でも驚くほどの力がみなぎってくるのがわかる。
今なら何でもできそうな、ちょっと危ないくらいの高揚感を覚える。
佳奈は自分の三倍以上の背丈があるミスリルゴーレムを、真正面から組み止めてしまった。
まったく力負けしていない。
佳奈がゴーレムを動けなくしてくれている隙に、そらが接触して魔力紋を読む。
腕の出血はもう止まっていて、戦闘に支障はないようだった。
魔法少女の持つ高い回復力ですらも能力強化で強化されているのだ。
「ゴーレムってことは体のどこかにemethって印がある?」
そらがミスリルゴーレムの鑑定をしながら、いかにもそららしい疑問を口にした。伝承に登場するゴーレムの逸話を思い出したのだろう。
「こいつ土禁のヤン車よりピカピカだよ? どこにもそんな落書きないよ」
時折莉美からよく分からない業界用語が出てくる。
どこでそんな言葉を覚えるんだか、と白音は思うが、莉美はいたって真剣だった。
先程自分のビームが反射されたのは表面が鏡のようだからで、どこか光沢のないところを探せば効くのではないかと考えているのだろう。
鏡はともかく、弱点がないなら作らなければいけないのは確かだ。
「そらちゃん、こいつ昔話みたいに都合良く死んでくれないよ。もっと凶悪な戦争の道具だから」
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