9 / 214
第一部 魔法少女は、ふたつの世界を天翔る
第3話 魔法少女VS巨大イカ その三
しおりを挟む
佳奈は魔法少女ギルドのことは「悪い人たちだとは思わないよ?」と言った。
白音は佳奈のそういう野生の勘みたいなものは、確信めいて受け容れている。
「ねぇねぇ、ギルド員さんにものすごいイケメンの外国人がいるって話は?」
「ん、んん……?」
莉美の話はいつも前触れなく、突拍子もない角度から切れ込んでくる。
白音は一瞬、返答に詰まって佳奈の方を見た。
「イケメン? 何……?」
佳奈にとってもそれは初めて聞く話らしく、首を傾げている。
ギルドのアプリには魔法少女専用のSNS、匿名の情報交換の場のようなものがある。
どうやら莉美は、そこで他の魔法少女たちからその話を聞いたようだった。
『イケメンさん』の事はよく話題に上るらしい。
しかしそんな口コミ情報よりも何よりも、既に見知らぬ魔法少女たちと積極的に交流しているらしい莉美のコミュ力が一番驚きだった。
「いや、まあ……。アタシもギルドの人に会ったことはあるけど、イケメン……だったかなぁ…………?」
仮に佳奈がその『イケメンさん』に会っていたとしても、おそらくは覚えていない。
イケメンだとかそうでないだとか、そういう部分に興味を持って人を見ていないからだ。
「まあ、ギルドに登録せずに待ってれば勧誘に来てくれたのかもね」
佳奈は苦笑交じりにそう言った。
「えー、そうなの? 登録しちゃったじゃない、もう!!」
「アタシに怒るなよ。そんなの知らないから……」
先程そらも、「登録せずに放っておけばギルドの方から接触がある」と言っていたと思う。
勝手に居所を突き止めて会いに来るなどと、白音としては怖い話だと感じた。
しかし確かに、こんな大きな力に目覚めた子たちを何もせずに放置しておくのも、それはそれで問題だろうとは思う。
ただ、勧誘員さんがイケメンかどうかは白音も関知するところではない。
白音なら知らない人に勝手に押しかけられるのは嫌だ。
しかし莉美ならきっと、誰が来るんだろうとわくわくしながら待つのだろう。目に浮かぶようだ。
「…………えっと、話を戻すわね。あとはブルームって企業のことが気になるんだけど」
白音はスマホでブルームの事を検索しながら尋ねた。
ブルームという企業のホームページはちゃんと存在している。
電子機器、部品の製造メーカーであり、スマートフォンの中身などを作っている、とある。
歴史の浅い企業のようだが、特に不審な点はない。
本社や工場、開発施設が白音たちの街から割と近い場所にあるのが少し目を引いたくらいだ。
「時間がなかったから、ブルームについてはざっと調べただけなんだけど…………」
そう言ってそらが教えてくれた。
しかし『ざっと』と言った割に、その内容はとんでもなく詳しかった。
どうやって調べたのかは知らないが、明らかに一般人では入手できそうにないものも含まれている。
「ブルームは、まだ魔法がただのおとぎ話だと思われていた頃から研究を始めている。多分、世界で最も異世界事案についての情報を持っている集団だと思うの。既に大企業と言っていいレベルにまで成長できているのも、魔法と現代のテクノロジーを融合させた革新的な技術開発のたまもの。スマホの魔力紋鑑別システムも、その課程で生み出されたものだと思う」
それを聞いて白音は、(ああ。やっぱり黒幕ですよね)と思った。
そらの語ってくれた話によれば、公的な機関が異世界事案について極秘裏に存在を認定し、調査を始めたのは今から十五年ほど前のことである。
それ以前からも異世界事案は常に一定数発生していたと思われるが、迷信深い時代であればそれは、物の怪や神仏の引き起こす類いのものとされてきた。
そして時代が下っては、科学で説明できない物の存在自体を信じるものが少なくなる。
異世界への転移はただの行方不明事件とされ、こちらの世界への転移事件は作り話か、それとも何かの見間違いとして捉えられていた。
それが近年になって異世界事案が増加してきた。
これをブルームは異世界との隔たりが『緩んできている』と表現しているが、それによって異世界へ転移した者が再びこちらへ還ってくるという『再帰事案』が複数確認された。
彼ら帰還者の語る異世界の様子が細部に至るまで異口同音に一致しており、これによって政府は異世界の存在を信憑性が在るものとして認定、調査に動き始めた。
ようやく政府が重い腰を上げたが、この頃にはブルームはもう実用的な研究、開発に着手していた。
既に『星石』や『魔法少女』を具体的な研究対象としており、科学技術との融合、共存を目標に掲げている。
そしてブルームが魔力紋鑑別システムの原型を完成させると、政府はこのシステムを有用と判断。
キャッシュレス決済やIDカード普及の施策で後押しして、非接触通信チップ付きのスマートフォンを日本国中に普及させた。
ブルームは政府からのバックアップを受けて企業としての表の顔を発展させつつも、極秘裏に魔法少女の保護、支援を行っている。
魔法少女たちの手による自治組織の色合いが強い『魔法少女ギルド』と、そのバックアップを行う『ブルーム』、どうやらこのふたつの組織が緊密に連携して魔法少女たちを支えているということらしかった。
「これ、魔法少女発見器だったのね……」
白音は手元でスマホを弄びながらぼそっと呟いた。
魔法少女としての活動歴が長い佳奈も、その辺りのことはある程度知っているようだった。
そらが話した内容には佳奈から聞いた話も含まれていて、統合的に整理されている。
ただ、それ以外のどう考えても機密情報だと思われる部分を、そらがどうやって手に入れたのかは聞かないでおこうと思った。
黒幕からそういうやばいものを引っ張ってくる彼女の胆力に感嘆する。
「そういえばHitoeさんて……」
「うん?」
白音がふと疑問に思って佳奈に聞いてみる。
「Hitoeさんて初めから魔法使えたのよね? 星石に選ばれる前から魔法少女だったの?」
「そう……なのかな? 魔法少女になる前から不思議な力を持ってたって話は、他にも聞いたことあるんだ。アタシだって元々この腕力とか……、まあ、魔法でもないと説明つかないしさ…………」
佳奈がちょっと遠慮がちな言い方になったのは、その高い身体能力のせいでかなり苦労して生きてきたからなのだろう。
「でもだったらなんでその時点で発見器……じゃなくて魔力紋鑑別システムは反応しなかったのかしら?」
「いや、ああ……。うん?」
佳奈がそのままそらの方を見て答えを求める。
「推測だけど。星石に選ばれる前と後では、一恵さんの魔法の威力が段違いだった。魔法少女になって、魔力が跳ね上がることで反応が出たんだと思うの」
「そう……。ほんとに魔法少女専用の発見器ね…………」
内容が興味深く、白音はつい集中して話し込んでしまっていた。
しかしふと、莉美はこういうややこしい話、きっとまともには聞いていないだろうと気がついた。
だが莉美は、珍しく熱心にそらの話を聞いている。
「莉美、ついて行けてる?」
「ううん。まったく。でも一生懸命喋ってるそらちゃんが、見ていて飽きなくて」
いや、まあ確かに白音にもその気持ちは分かる。
気持ちは分かるのだが……、聞いているだけでも良しとしよう。
プイとそらが、莉美から顔を逸らして話を続ける。
「それでね、魔法少女ギルドは独自に利益を上げていて、かつ政府からの支援も受けているの。だから所属してる魔法少女には活動に応じて報酬が出る」
「あ、そのことでちょっと確認したかったんだけど」
そらからプレゼン資料を受け取って、白音も少し気になっていたことがあった。
「まさかわたしの学費稼ぎの手伝いを、みんなでしようって言うんじゃないわよね?」
「いやいや、逆逆。そんなん白音がいい顔するわけないの知ってるよ。アタシら基本的にみんな自分がやりたいんだよ。それで引っ張ってくれるリーダーが必要だから、そしたらみんな、白音しかいないよねって」
確かに佳奈なら、白音が負担に感じるような考え方はしないだろう。
至極単純に「一緒にやろうぜ」と言ってくれているだけなのだ。
そして細かいことは、上手くいくように多分そらが考えてくれたのだろう。
「そのためのプレゼン資料なの」
そう言ってそらが胸を張る。
白音と一緒に魔法少女をしたいから、巻き込むために資料を作ったのだ。
「それに、うちのパパが言ってたけど、『星石は正しい志に応えて力を貸す』って言い伝えらしいんだ。だから友達のお金稼ぎの手伝い、なんて気持ちで変身できるとは思えないよ?」
確かに佳奈の言うとおりかもしれない。
魔法少女って、きっとそういうものなんだろうと白音も思う。
上手く言葉にはできなかったが、佳奈や莉美、そら、そしてここにはいないけれど一恵にも、深く感謝の念を抱く。
みんないい奴らだなと思う。
そしてそんな彼女たちをパートナーに選んだ星石も、よくは分からないが、きっといい奴なんだろう。
じわっと胸が熱くなる。
「ん、どした、白音?」
「べーつにー。佳奈は相変わらず『パパ』って言うんだなぁと思って」
「うっせ」
佳奈が父親をいつも『パパ』と呼んでいるのは見た目とギャップがあって白音は好きだ。
タヒチ出身の父親セブランはフランス語が母語なので、そのせいなのだろう。
母親のことは『ママン』と呼んでいる。より一層かわいい。
「まあ、星石に聞いてみたわけじゃないから、なんでみんなが選ばれたのか本当のところは分かんないんだけどさ」
そう言って佳奈は、ペンダントにしている紅玉のような星石を取り出して見せてくれた。
佳奈のその宝石は、父方の先祖から代々受け継がれてきたものだと白音は聞いたことがある。
莉美とそらもふたりの星石を取り出して見せてくれた。
それぞれコスチュームの色を反映しているような、莉美のものは眩しい黄金色の輝きを放ち、そらのものは淡い海のような青い輝きを宿している。
莉美が趣味にしているアクセサリー作りで、ペンダントにしてくれたのだという。
「白音ちゃんのも見せてよ。桜色の綺麗な石だったでしょ。ペンダントにしよ?」
「いや、それがね…………」
白音の星石はどこにも見当たらなかった。
みんなが変身を解いた後ちゃんと星石を持っているのを見て結構焦ったのだが、どこをどう探しても見当たらないのだ。
「でも変身できてるんだよね?」
莉美が心配そうに……、なフリをして白音のセーラー服の胸元を引っ張って中を覗こうとしている。
「この前白音ちゃんの体、隅から隅まで調べて分かったんだけど……」
と、言いながらそらも一緒に胸元を覗こうとしている。
「隅からって。言い方……」
「調べた結果、多分白音ちゃんの星石、変身してなくても体の中に入ってるの」
「寝ぼけて食べたの?」
すかさず莉美が、今度は白音の口を開けさせようとする。
「いや莉美じゃあうあいひ……」
その件に関してはそらも把握していて、既にフォローアップを終えていた。
ギルドに問い合わてくれたらしい。
それによると、魔法少女が星石の力を借りて変身する場合、普段の星石は体の外にある。
そして変身した時にのみ体内へと取り込まれて魔力を供給する源となってくれる。
しかし中には、もっと高次のレベルで星石の力と適合して、より大きな力を引き出せるようになる魔法少女がいるらしい。
そのような少女たちは魂と星石が融合して恒久的に体内に取り込まれており、それが核となって大きな魔力を生み出せるようになっている、とのことだった。
「強さの証なの」
「おー、さすが白音だなぁ」
「やっぱり白音ちゃん、期待どおり!!」
かなり脳天気な感じでみんなが褒めてくれる。
「人ごとだと思って適当言ってるでしょ。わたし、宝石掲げて変身よっ! てやるの憧れだったんですけどっ?!」
白音がみんなのペンダントを羨ましそうに見ている。
佳奈はそれを見て(あー、そこなんだぁ)と思った。
「何とかしてよ。佳奈」
「いや、アタシに言われても……、なあ……」
とりあえず佳奈は、拗ねる白音の頭をポンポンと優しく叩いて慰めておく。
◇
ああだこうだと女子会を楽しみながら、情報と連絡先の交換を終えた。
白音もようやく気兼ねなく、佳奈から魔法少女の話やこれまでの事を聞かせてもらえて満足だった。
かなり長時間カフェを占拠してしまっていたと思うが、結局一恵からの返信は来なかった。
「わたし、もしかして嫌われたかなぁ……?」
「いやいや、変な人だけど、そんなことはないと思うけど?」
「佳奈。変な人は関係ないよね?」
その後、丸一日が過ぎてからようやく一恵からの返信が来た。
[素敵なコスチュームですね。白がよくお似合いです]
「素っ気なくない、コレ!?」
やっぱり嫌われたのかなぁ、何がいけなかったのかなぁと白音はしばらくめげた。
白音は佳奈のそういう野生の勘みたいなものは、確信めいて受け容れている。
「ねぇねぇ、ギルド員さんにものすごいイケメンの外国人がいるって話は?」
「ん、んん……?」
莉美の話はいつも前触れなく、突拍子もない角度から切れ込んでくる。
白音は一瞬、返答に詰まって佳奈の方を見た。
「イケメン? 何……?」
佳奈にとってもそれは初めて聞く話らしく、首を傾げている。
ギルドのアプリには魔法少女専用のSNS、匿名の情報交換の場のようなものがある。
どうやら莉美は、そこで他の魔法少女たちからその話を聞いたようだった。
『イケメンさん』の事はよく話題に上るらしい。
しかしそんな口コミ情報よりも何よりも、既に見知らぬ魔法少女たちと積極的に交流しているらしい莉美のコミュ力が一番驚きだった。
「いや、まあ……。アタシもギルドの人に会ったことはあるけど、イケメン……だったかなぁ…………?」
仮に佳奈がその『イケメンさん』に会っていたとしても、おそらくは覚えていない。
イケメンだとかそうでないだとか、そういう部分に興味を持って人を見ていないからだ。
「まあ、ギルドに登録せずに待ってれば勧誘に来てくれたのかもね」
佳奈は苦笑交じりにそう言った。
「えー、そうなの? 登録しちゃったじゃない、もう!!」
「アタシに怒るなよ。そんなの知らないから……」
先程そらも、「登録せずに放っておけばギルドの方から接触がある」と言っていたと思う。
勝手に居所を突き止めて会いに来るなどと、白音としては怖い話だと感じた。
しかし確かに、こんな大きな力に目覚めた子たちを何もせずに放置しておくのも、それはそれで問題だろうとは思う。
ただ、勧誘員さんがイケメンかどうかは白音も関知するところではない。
白音なら知らない人に勝手に押しかけられるのは嫌だ。
しかし莉美ならきっと、誰が来るんだろうとわくわくしながら待つのだろう。目に浮かぶようだ。
「…………えっと、話を戻すわね。あとはブルームって企業のことが気になるんだけど」
白音はスマホでブルームの事を検索しながら尋ねた。
ブルームという企業のホームページはちゃんと存在している。
電子機器、部品の製造メーカーであり、スマートフォンの中身などを作っている、とある。
歴史の浅い企業のようだが、特に不審な点はない。
本社や工場、開発施設が白音たちの街から割と近い場所にあるのが少し目を引いたくらいだ。
「時間がなかったから、ブルームについてはざっと調べただけなんだけど…………」
そう言ってそらが教えてくれた。
しかし『ざっと』と言った割に、その内容はとんでもなく詳しかった。
どうやって調べたのかは知らないが、明らかに一般人では入手できそうにないものも含まれている。
「ブルームは、まだ魔法がただのおとぎ話だと思われていた頃から研究を始めている。多分、世界で最も異世界事案についての情報を持っている集団だと思うの。既に大企業と言っていいレベルにまで成長できているのも、魔法と現代のテクノロジーを融合させた革新的な技術開発のたまもの。スマホの魔力紋鑑別システムも、その課程で生み出されたものだと思う」
それを聞いて白音は、(ああ。やっぱり黒幕ですよね)と思った。
そらの語ってくれた話によれば、公的な機関が異世界事案について極秘裏に存在を認定し、調査を始めたのは今から十五年ほど前のことである。
それ以前からも異世界事案は常に一定数発生していたと思われるが、迷信深い時代であればそれは、物の怪や神仏の引き起こす類いのものとされてきた。
そして時代が下っては、科学で説明できない物の存在自体を信じるものが少なくなる。
異世界への転移はただの行方不明事件とされ、こちらの世界への転移事件は作り話か、それとも何かの見間違いとして捉えられていた。
それが近年になって異世界事案が増加してきた。
これをブルームは異世界との隔たりが『緩んできている』と表現しているが、それによって異世界へ転移した者が再びこちらへ還ってくるという『再帰事案』が複数確認された。
彼ら帰還者の語る異世界の様子が細部に至るまで異口同音に一致しており、これによって政府は異世界の存在を信憑性が在るものとして認定、調査に動き始めた。
ようやく政府が重い腰を上げたが、この頃にはブルームはもう実用的な研究、開発に着手していた。
既に『星石』や『魔法少女』を具体的な研究対象としており、科学技術との融合、共存を目標に掲げている。
そしてブルームが魔力紋鑑別システムの原型を完成させると、政府はこのシステムを有用と判断。
キャッシュレス決済やIDカード普及の施策で後押しして、非接触通信チップ付きのスマートフォンを日本国中に普及させた。
ブルームは政府からのバックアップを受けて企業としての表の顔を発展させつつも、極秘裏に魔法少女の保護、支援を行っている。
魔法少女たちの手による自治組織の色合いが強い『魔法少女ギルド』と、そのバックアップを行う『ブルーム』、どうやらこのふたつの組織が緊密に連携して魔法少女たちを支えているということらしかった。
「これ、魔法少女発見器だったのね……」
白音は手元でスマホを弄びながらぼそっと呟いた。
魔法少女としての活動歴が長い佳奈も、その辺りのことはある程度知っているようだった。
そらが話した内容には佳奈から聞いた話も含まれていて、統合的に整理されている。
ただ、それ以外のどう考えても機密情報だと思われる部分を、そらがどうやって手に入れたのかは聞かないでおこうと思った。
黒幕からそういうやばいものを引っ張ってくる彼女の胆力に感嘆する。
「そういえばHitoeさんて……」
「うん?」
白音がふと疑問に思って佳奈に聞いてみる。
「Hitoeさんて初めから魔法使えたのよね? 星石に選ばれる前から魔法少女だったの?」
「そう……なのかな? 魔法少女になる前から不思議な力を持ってたって話は、他にも聞いたことあるんだ。アタシだって元々この腕力とか……、まあ、魔法でもないと説明つかないしさ…………」
佳奈がちょっと遠慮がちな言い方になったのは、その高い身体能力のせいでかなり苦労して生きてきたからなのだろう。
「でもだったらなんでその時点で発見器……じゃなくて魔力紋鑑別システムは反応しなかったのかしら?」
「いや、ああ……。うん?」
佳奈がそのままそらの方を見て答えを求める。
「推測だけど。星石に選ばれる前と後では、一恵さんの魔法の威力が段違いだった。魔法少女になって、魔力が跳ね上がることで反応が出たんだと思うの」
「そう……。ほんとに魔法少女専用の発見器ね…………」
内容が興味深く、白音はつい集中して話し込んでしまっていた。
しかしふと、莉美はこういうややこしい話、きっとまともには聞いていないだろうと気がついた。
だが莉美は、珍しく熱心にそらの話を聞いている。
「莉美、ついて行けてる?」
「ううん。まったく。でも一生懸命喋ってるそらちゃんが、見ていて飽きなくて」
いや、まあ確かに白音にもその気持ちは分かる。
気持ちは分かるのだが……、聞いているだけでも良しとしよう。
プイとそらが、莉美から顔を逸らして話を続ける。
「それでね、魔法少女ギルドは独自に利益を上げていて、かつ政府からの支援も受けているの。だから所属してる魔法少女には活動に応じて報酬が出る」
「あ、そのことでちょっと確認したかったんだけど」
そらからプレゼン資料を受け取って、白音も少し気になっていたことがあった。
「まさかわたしの学費稼ぎの手伝いを、みんなでしようって言うんじゃないわよね?」
「いやいや、逆逆。そんなん白音がいい顔するわけないの知ってるよ。アタシら基本的にみんな自分がやりたいんだよ。それで引っ張ってくれるリーダーが必要だから、そしたらみんな、白音しかいないよねって」
確かに佳奈なら、白音が負担に感じるような考え方はしないだろう。
至極単純に「一緒にやろうぜ」と言ってくれているだけなのだ。
そして細かいことは、上手くいくように多分そらが考えてくれたのだろう。
「そのためのプレゼン資料なの」
そう言ってそらが胸を張る。
白音と一緒に魔法少女をしたいから、巻き込むために資料を作ったのだ。
「それに、うちのパパが言ってたけど、『星石は正しい志に応えて力を貸す』って言い伝えらしいんだ。だから友達のお金稼ぎの手伝い、なんて気持ちで変身できるとは思えないよ?」
確かに佳奈の言うとおりかもしれない。
魔法少女って、きっとそういうものなんだろうと白音も思う。
上手く言葉にはできなかったが、佳奈や莉美、そら、そしてここにはいないけれど一恵にも、深く感謝の念を抱く。
みんないい奴らだなと思う。
そしてそんな彼女たちをパートナーに選んだ星石も、よくは分からないが、きっといい奴なんだろう。
じわっと胸が熱くなる。
「ん、どした、白音?」
「べーつにー。佳奈は相変わらず『パパ』って言うんだなぁと思って」
「うっせ」
佳奈が父親をいつも『パパ』と呼んでいるのは見た目とギャップがあって白音は好きだ。
タヒチ出身の父親セブランはフランス語が母語なので、そのせいなのだろう。
母親のことは『ママン』と呼んでいる。より一層かわいい。
「まあ、星石に聞いてみたわけじゃないから、なんでみんなが選ばれたのか本当のところは分かんないんだけどさ」
そう言って佳奈は、ペンダントにしている紅玉のような星石を取り出して見せてくれた。
佳奈のその宝石は、父方の先祖から代々受け継がれてきたものだと白音は聞いたことがある。
莉美とそらもふたりの星石を取り出して見せてくれた。
それぞれコスチュームの色を反映しているような、莉美のものは眩しい黄金色の輝きを放ち、そらのものは淡い海のような青い輝きを宿している。
莉美が趣味にしているアクセサリー作りで、ペンダントにしてくれたのだという。
「白音ちゃんのも見せてよ。桜色の綺麗な石だったでしょ。ペンダントにしよ?」
「いや、それがね…………」
白音の星石はどこにも見当たらなかった。
みんなが変身を解いた後ちゃんと星石を持っているのを見て結構焦ったのだが、どこをどう探しても見当たらないのだ。
「でも変身できてるんだよね?」
莉美が心配そうに……、なフリをして白音のセーラー服の胸元を引っ張って中を覗こうとしている。
「この前白音ちゃんの体、隅から隅まで調べて分かったんだけど……」
と、言いながらそらも一緒に胸元を覗こうとしている。
「隅からって。言い方……」
「調べた結果、多分白音ちゃんの星石、変身してなくても体の中に入ってるの」
「寝ぼけて食べたの?」
すかさず莉美が、今度は白音の口を開けさせようとする。
「いや莉美じゃあうあいひ……」
その件に関してはそらも把握していて、既にフォローアップを終えていた。
ギルドに問い合わてくれたらしい。
それによると、魔法少女が星石の力を借りて変身する場合、普段の星石は体の外にある。
そして変身した時にのみ体内へと取り込まれて魔力を供給する源となってくれる。
しかし中には、もっと高次のレベルで星石の力と適合して、より大きな力を引き出せるようになる魔法少女がいるらしい。
そのような少女たちは魂と星石が融合して恒久的に体内に取り込まれており、それが核となって大きな魔力を生み出せるようになっている、とのことだった。
「強さの証なの」
「おー、さすが白音だなぁ」
「やっぱり白音ちゃん、期待どおり!!」
かなり脳天気な感じでみんなが褒めてくれる。
「人ごとだと思って適当言ってるでしょ。わたし、宝石掲げて変身よっ! てやるの憧れだったんですけどっ?!」
白音がみんなのペンダントを羨ましそうに見ている。
佳奈はそれを見て(あー、そこなんだぁ)と思った。
「何とかしてよ。佳奈」
「いや、アタシに言われても……、なあ……」
とりあえず佳奈は、拗ねる白音の頭をポンポンと優しく叩いて慰めておく。
◇
ああだこうだと女子会を楽しみながら、情報と連絡先の交換を終えた。
白音もようやく気兼ねなく、佳奈から魔法少女の話やこれまでの事を聞かせてもらえて満足だった。
かなり長時間カフェを占拠してしまっていたと思うが、結局一恵からの返信は来なかった。
「わたし、もしかして嫌われたかなぁ……?」
「いやいや、変な人だけど、そんなことはないと思うけど?」
「佳奈。変な人は関係ないよね?」
その後、丸一日が過ぎてからようやく一恵からの返信が来た。
[素敵なコスチュームですね。白がよくお似合いです]
「素っ気なくない、コレ!?」
やっぱり嫌われたのかなぁ、何がいけなかったのかなぁと白音はしばらくめげた。
10
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説


転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始

悪役令嬢、資産運用で学園を掌握する 〜王太子?興味ない、私は経済で無双する〜
言諮 アイ
ファンタジー
異世界貴族社会の名門・ローデリア学園。そこに通う公爵令嬢リリアーナは、婚約者である王太子エドワルドから一方的に婚約破棄を宣言される。理由は「平民の聖女をいじめた悪役だから」?——はっ、笑わせないで。
しかし、リリアーナには王太子も知らない"切り札"があった。
それは、前世の知識を活かした「資産運用」。株式、事業投資、不動産売買……全てを駆使し、わずか数日で貴族社会の経済を掌握する。
「王太子?聖女?その程度の茶番に構っている暇はないわ。私は"資産"でこの学園を支配するのだから。」
破滅フラグ?なら経済で粉砕するだけ。
気づけば、学園も貴族もすべてが彼女の手中に——。
「お前は……一体何者だ?」と動揺する王太子に、リリアーナは微笑む。
「私はただの投資家よ。負けたくないなら……資本主義のルールを学びなさい。」
学園を舞台に繰り広げられる異世界経済バトルロマンス!
"悪役令嬢"、ここに爆誕!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
MAN in MAID 〜メイド服を着た男〜
三石成
ファンタジー
ゴブリンに支配された世界で、唯一人間が住むことのできる土地にある、聖エリーゼ王国。
ユレイトという土地を治める領主エヴァンは、人道的な優れた統治力で知られる。
エヴァンは遠征から帰ってきたその日、領主邸の庭園にいる見知らぬメイドの存在に気づく。その者は、どう見ても男であった。
個性的な登場人物に囲まれながら、エヴァンはユレイトをより良い領地にするため、ある一つのアイディアを形にしていく。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話
カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。
チートなんてない。
日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。
自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。
魔法?生活魔法しか使えませんけど。
物作り?こんな田舎で何ができるんだ。
狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。
そんな僕も15歳。成人の年になる。
何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。
女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。
になればいいと思っています。
皆様の感想。いただけたら嬉しいです。
面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。
よろしくお願いします!
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。
続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる