戦場の女神は剣舞を舞う

少女遊 夏野

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その女神、乱舞

女神の遊戯(2)

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 その美しい人は、微笑みのまま、ずいと近づいた。

「僕も組み手に参加していい?」
「お前はどこの団の所属だ」
「どこでもいいだろ?細かいことは気にしない気にしなーい」

 訓練用の木製の獲物をあやすように振り回す。そのまま訓練をする戦士の中に踏み込んでいく。

「おい!止まれ!」
「止まれって言われて止まるバカがどこにいるのか教えてほしいね」

 くすくす笑いながら大男がいるところへ足を進める。彼女の向かう先には周りより頭1つ分飛び抜けた青年。それは他より明らかに体格が違った。
 彼と組む相手は全力で打ち込む。しかしそれをものともせず軽くあしらう。地に転げた青年の頭元に影が落ちた。

「何転がってるの?そんなだと死んじゃうよ?」

 その影が、美しい金色の髪の人が下がるとそこに大男の振り下ろした模擬刀が打ち付けられた。

「お前は誰だ?どこの家の出身だ」

 男は凄んだ。
 アッシュは模擬刀を肩に担いで、挑発する。

「お前は、家柄で人間を判断する何もできないお坊ちゃんなの?」
「何を言うか!俺は数々の武勲を上げた一族の一員。幼い頃から優秀な師匠に稽古をつけていただいた!お前、大怪我しても知らないからな、覚悟しろ!」
「望むところで」

 アッシュはクスクスと笑った。この人間は自分をどこまで楽しませてくれるのか。高揚する気分の中でも彼女は悟っている。この人間は自分よりもうんと弱い。興奮と悲哀の情が入り混じる。ならばせめて、せめてもの救い。自分の心の穴を埋めるための糧。この男の疑心、焦燥、そして絶望に打ちひしがれてゆく様を目に焼き付けよう。それを思う存分味わおう。

「さぁ、僕を楽しませてよ」

 彼女の心は無意識に堕ちた。起き上がったのは怪物だった。姿形は変わらない、美しいアッシュのまま。ただ、中身は別人だった。
 何か小声で呟いている。まるで誰かと会話をしているような独り言。

「本当に私がやっちゃってもいいの?いいよ、こんなつまらないやつやる価値もない。ならヤっちゃう意味もないんじゃないの?つまらない人間はせめて僕の心の糧にでもなればいい。お前の餌にしろ。わかったわ、私の美しい器」

 そして、彼女は狂気に満ちた美しい笑顔を浮かべた。
 
「どうもこんにちは。またせちゃってごめんなさいね?誰が頭をあげていいって言ったかしら」

 得も言われぬ殺気を隠す事もせず撒き散らせながら近づいていく。訓練をしている戦士たちもその異様さに気づく。
 大隊長は止に入ろうとするが動けない。彼が動けないということは、ここにいる者は皆動けないということだ。
 どんどん大男に近づく。彼は鍛えられた逞しい体をガタガタと震わせ、腰が抜け、その場に尻をついた。目の前にはそれを見下げる女。

「そう、それでいいの」

 女はいやらしく笑い、舌なめずりをした。
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