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その女神、奇行

戦女神(1)

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 その日は朝から、定例軍事会議が開かれた。それにはこの国の元帥、将軍をはじめとする上級戦士が出席し、他国との情勢や内紛について話し合うものだった。
 もちろん、テルミドネであるアッシュも参加しなければならない。

「アッシュ、いい加減に起きねぇか」

 監獄塔の地下の最奥地。その牢の前でカーライルが仁王立ちしていた。その隣には申し訳なさそうに佇む世話役の少年パウロ。

「ヤダ。僕はまだ寝てるよ。起きてないから」
「返事してる時点で起きてるだろうが」

 会議に参加したくないアッシュは牢の中で、ボロボロの布切れを頭からかぶり寝たふりを決め込んでいる。

「カーライルが会議出たらいいだろう!なんのためのテルミドネ代行なんだよ!」
「おめぇが他所の国で暴走しないか見張るための代行だ馬鹿野郎」
「馬鹿とはなんだよ!」

 カチンときたアッシュは思わずガバッと起き上がった。もちろん、服など一つも身につけてはいない。

「寝てるんじゃなかったのか?」
「あっ……」

 ニヤリと笑うカーライルに、やってしまったと後悔の表情を浮かべるアッシュ。

「さぁ、服を着ろよ?起きてるんだからよ」

 そわそわしているパウロの背を押し、牢の中に入る。衣装棚から服を取り出す。真っ黒なシルクのシャツ。首元には同じくシルクの白いリボンを通す。下は黒のレザーパンツ。まさに喪服のようだ。

「行かせるんなら面をつけさせてよね」

 形の良い小さな、ぷっくりとした唇を尖らせ明らかに不機嫌な顔。
 彼女の言う面。それは通称「死神の面」と呼ばれている。この国の神話に登場する死神をモチーフに、彼女が正式に戦士と同時にテルミドネに就任した際に、国王より賜ったものの一つである。それより、正式な場に出るときはそれをつけて出ている。

「場外に出るわけじゃねぇのにいるか?」
「いるよ。だって寝ててもバレないから」
「寝るなよな」

 そう言いながらも、彼女に面を手渡す。それを受取り、しっかり顔にはめ込んだ。腰にベルトを巻き、愛用の細身の剣を携える。

「寝てるのバレたら、あのクソ王子に口うるさく言われるんだよねぇ」

 牢を出ながら、頭のてっぺんで髪を1つに結ぶ。地下牢を歩いていると、牢の外をウロウロしている者や、牢の中で博打をしている者に親しげに声をかけられる。それは皆、元忘れられる者たち。そして、現テルミドネ剣騎士団の団員だ。
 ここの元囚人は、アッシュによって鍛えられ、調教され、彼女の忠実な手駒であり友である。

「さぁて、行くか」

 アッシュは監獄塔の重たい扉をゆっくりと開いた。
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