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その女神、奇行
女神の器(2)
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アッシュが目を覚ますと、そこは見覚えのある天井と顔だった。
カーライルはアッシュが目を覚したのを確認すると、誰かに声をかけた。
「おい、目を覚したぞ」
それを聞くや否や部屋中が大騒ぎになった。寄って集って彼女の隣に立とうとする大男たち。それを割って小さな少年と4人の男が近寄った。
「おい!アッシュてめぇ大丈夫なのか!」
ダークブラウンの柔らかいくせ毛の男が1番に彼女の上半身を抱き起こした。涼し気な切れ長の目元に女を泣かせる泣きぼくろ。美しい彫刻の様な男だ。
「大丈夫だよ、トリスタン父さん」
抱かれたまま、特にその表情を変えることなく応える。
アッシュを抱く腕を叩き、彼女を奪う男がいた。それは女のように美しい、細身だがしっかりした筋肉を持つ長い黒髪の男だった。
「アッシュ、あなたって子は。どれだけ私たちを心配させたら気が済むんですか!ほんとにもう大丈夫なんでしょうね?」
「大丈夫だよ、クロウ父さん。そんなに心配しないで」
クロウに力強く抱きつく。彼は彼女の頭を優しく撫でた。
「ご主人様……」
そばに控えてもじとじとしているキノコ頭のちいさな少年。心配そうにも羨ましそうにも取れるその表情をちらっと横目にし、アッシュは初めて小さく口元を緩めた。
「パウロ、おいで」
それを聞き、少年はパァっと表情が明るくなった。それでも恐る恐るアッシュに近づきゆっくりと彼女に身を預けていった。それを優しく受け止める。
「お、俺もぉ……」
「貴方はダメですよ」
トリスタンもアッシュに抱きつこうとしたが、クロウにあっさりと断られた。更にクロウの履いているピンヒールの革のブーツで足の甲を踏まれた。
声にならない苦痛で、その場にうずくまった。
「アッシュ……」
「アールネ父さん」
この部屋の中でカーライルに続き、アールネと呼ばれた男は他の大男たちより頭1つ分出ていた。そのアールネの前にアッシュと同じ年くらいの青年がモジモジしていた。
「ディラン、何してるんだ?」
「いや、心配で」
エヘヘと照れ臭そうに笑う。それを見て思わずクスッと彼女も笑ってしまった。
「僕は大丈夫。いつものことさ。傷だってもう治ってるし」
腹に巻かれてある包帯を解く。短剣で刺した場所はきれいに傷がなくなっていた。刺したあとの瘢痕すら残っていない。あれからまだ半日と経っていない。
「それでもよぉ」
トリスタンは何か言いたいが言いたいことが纏まらず口が開けない。もどかしくて堪らない。
「みんな知ってるだろ?僕にはあの化物が憑いてる。アイツは僕の体に傷があるのが嫌いだから」
「だからといって。自分を、傷、つけるな」
口下手なアールネはゆっくり言葉を刻んだ。アールネは、クロウとトリスタンとともに捨てられていたアッシュを拾い育てた。彼の言葉には並々ならぬ気持ちがこもっていた。それはその場にいた全員から感じ取ることができた。
「それは……無理だぁ」
その場にいた全員が息を呑んだ。
ケタケタと笑う彼女からは狂気を感じた。そして身構える。
「痛みを感じるとね、生きてるって思えるんだもの。止められない。ふふふふふ」
少女の美しい瞳の奥には狂気と悲しみと深い闇が映っていた。
カーライルはアッシュが目を覚したのを確認すると、誰かに声をかけた。
「おい、目を覚したぞ」
それを聞くや否や部屋中が大騒ぎになった。寄って集って彼女の隣に立とうとする大男たち。それを割って小さな少年と4人の男が近寄った。
「おい!アッシュてめぇ大丈夫なのか!」
ダークブラウンの柔らかいくせ毛の男が1番に彼女の上半身を抱き起こした。涼し気な切れ長の目元に女を泣かせる泣きぼくろ。美しい彫刻の様な男だ。
「大丈夫だよ、トリスタン父さん」
抱かれたまま、特にその表情を変えることなく応える。
アッシュを抱く腕を叩き、彼女を奪う男がいた。それは女のように美しい、細身だがしっかりした筋肉を持つ長い黒髪の男だった。
「アッシュ、あなたって子は。どれだけ私たちを心配させたら気が済むんですか!ほんとにもう大丈夫なんでしょうね?」
「大丈夫だよ、クロウ父さん。そんなに心配しないで」
クロウに力強く抱きつく。彼は彼女の頭を優しく撫でた。
「ご主人様……」
そばに控えてもじとじとしているキノコ頭のちいさな少年。心配そうにも羨ましそうにも取れるその表情をちらっと横目にし、アッシュは初めて小さく口元を緩めた。
「パウロ、おいで」
それを聞き、少年はパァっと表情が明るくなった。それでも恐る恐るアッシュに近づきゆっくりと彼女に身を預けていった。それを優しく受け止める。
「お、俺もぉ……」
「貴方はダメですよ」
トリスタンもアッシュに抱きつこうとしたが、クロウにあっさりと断られた。更にクロウの履いているピンヒールの革のブーツで足の甲を踏まれた。
声にならない苦痛で、その場にうずくまった。
「アッシュ……」
「アールネ父さん」
この部屋の中でカーライルに続き、アールネと呼ばれた男は他の大男たちより頭1つ分出ていた。そのアールネの前にアッシュと同じ年くらいの青年がモジモジしていた。
「ディラン、何してるんだ?」
「いや、心配で」
エヘヘと照れ臭そうに笑う。それを見て思わずクスッと彼女も笑ってしまった。
「僕は大丈夫。いつものことさ。傷だってもう治ってるし」
腹に巻かれてある包帯を解く。短剣で刺した場所はきれいに傷がなくなっていた。刺したあとの瘢痕すら残っていない。あれからまだ半日と経っていない。
「それでもよぉ」
トリスタンは何か言いたいが言いたいことが纏まらず口が開けない。もどかしくて堪らない。
「みんな知ってるだろ?僕にはあの化物が憑いてる。アイツは僕の体に傷があるのが嫌いだから」
「だからといって。自分を、傷、つけるな」
口下手なアールネはゆっくり言葉を刻んだ。アールネは、クロウとトリスタンとともに捨てられていたアッシュを拾い育てた。彼の言葉には並々ならぬ気持ちがこもっていた。それはその場にいた全員から感じ取ることができた。
「それは……無理だぁ」
その場にいた全員が息を呑んだ。
ケタケタと笑う彼女からは狂気を感じた。そして身構える。
「痛みを感じるとね、生きてるって思えるんだもの。止められない。ふふふふふ」
少女の美しい瞳の奥には狂気と悲しみと深い闇が映っていた。
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