上 下
32 / 38
その女神、悦楽

女神の舞踏(5)

しおりを挟む
 カーライルはディランのかぶっている兜を頭からすっぽりと取り去った。

「おう、坊主。どうしたんだこの派手な甲冑はよ」

 にやにやしながらディランの頭をくしゃくしゃにする。その手を払いながらディランは答えた。

「これは戦士の礼装甲冑なんですよ、カーライルさん」
「ほほぉ、こんな動きにくそうなのが礼装ねぇ」

 兜をこつこつと叩いたのち、スポッとディランの頭に戻した。
 それをしっかりとかぶりなおすと、大男を見上げた。エルビスたちもそれを見上げる。

「こんな動きにくそうな甲冑着せて、警備しろだなんて陛下も無茶なこと言うもんだぜ。なぁアッシュ」

 カーライルは無言のアッシュを見下げた。

「僕には関係ないよ。ただ、暴れるのみ」

 冷ややかな声。

「暴走はしたらダメだからな?」

 ディランがアッシュの面を覗き込んだ。それをエルビスが止める。

「おい、ご婦人に向かって何たる無礼。いきなり近づいて覗き込むなど下賤な」
「そうだよ、失礼だよ」

 クリスも控えめに注意する。
 しかし、その二人の脇をかいくぐりアッシュはディランの横に立った。肩に腕を回し豪快に笑った。

「あっはは!僕が暴走?じゃあ、そうならないように頑張ってよ?その動きにくそうな甲冑で」
「あっ!今バカにしただろ!」

 ディランが反撃しようとすると、ひらりと蝶の様に離れて行った。

「おーい、どこ行くんだわんぱく小僧ぉ」

 カーライルの呼びかけに、振り返ってくすくす笑う。

「散歩だよー」
「この辺から離れんなよ?」
「わかってるよー」

 それだけいうと、一瞬の間に消えてしまった。まるで初めからそこにいなかったかのように。
 慣れていないエルビスやクリスがきょろきょろしていると、カーライルが頭をぼりぼりと掻いた。

「まーなんだ?とりあえず、俺はテルミドネじゃねぇ。代行だ。残念だったな」
「えっ。それではテルミドネ様は」
「まっ、それはおいおいな。警備頑張れよ。一応俺らの仲間もこの辺にいるが、俺らが最初に動いちまったら大変な騒ぎになっちまうからな」
「わかりました」

 少し残念そうな二人に、なんとい言えばいいかわからないディランは愛想笑いがこぼれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

白の魔女の世界救済譚

月乃彰
ファンタジー
 ※当作品は「小説家になろう」と「カクヨム」にも投稿されています。  白の魔女、エスト。彼女はその六百年間、『欲望』を叶えるべく過ごしていた。  しかしある日、700年前、大陸の中央部の国々を滅ぼしたとされる黒の魔女が復活した報せを聞き、エストは自らの『欲望』のため、黒の魔女を打倒することを決意した。  そしてそんな時、ウェレール王国は異世界人の召喚を行おうとしていた。黒の魔女であれば、他者の支配など簡単ということを知らずに──。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

クレール 光の伝説:いにしえの【世界】

神光寺かをり
ファンタジー
※超簡略粗筋※ 「転生しない、転移しない、悪夢見る、幻覚見る、ぶった切る、刺される、えぐられる、潰される、腕折れる、自刎する、自傷する、ヒロインが男装、主人公強い」 そんな感じの異世界ファンタジー小説。 【完結しました】 ドサ回り一座と地方巡察勅使との諍いに巻き込まれた男装剣士エル・クレールと中年剣士ブライトは彼らに、各々「武者修行中の貴族の若君とその家臣」であると思いこませ、場を取り繕う。 一座の戯作者マイヤーは「美形の若侍」であるクレールを妙に気に入ったらしく、芝居小屋に招いた。 この一座の芝居「戦乙女クラリス」の「原作」が皇弟フレキの手による資料であると言うマイヤーにクレールとブライトは不信感を抱く。 一方「勅使」の宿舎では怪しい儀式が執り行われていた。 ※この作品は作者個人サイト、小説家になろう、ノベルアップ+でも公開しています。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

処理中です...