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その女神、悦楽

女神の舞踏(4)

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 部屋を出ると、アッシュと同じく着飾ったカーライルが待っていた。彼女は、顔に着けていた仮面を顔の横へずらした。
 アッシュの姿を上から下まで見やると、ニヤッと笑う。

「馬子にも衣装だな」
「うるさい」

 カーライルを無視して一人でさっさと歩き出した。
 そのあとを彼もついていく。

「普段からそういう格好してりゃあいいものを」
「これ嫌いなんだ。知ってるだろ」
「だがよ、普段ぼろを着て囚人のような生活してても、外でる時くれぇそういう格好してりゃあ他の奴らに下に見られることもないんじゃないのか?」

 アッシュはちらっと振り返って、わかってないという目をした。

「そんなことしたら、喧嘩できなくなるだろ?」

 くるりと振り返り、器用に後ろ向きで薄暗い廊下を歩く。

「だいたい、僕は女の格好が嫌いなんだ。ひらひらして腹が立ってくる」
「そんなもんなのか?」
「じゃあカーライルが着てみなよ」

 にやにやしながら楽しそうにする。
 むっとした顔でカーライルは拒否した。それで彼女は愛らしいさくらんぼの様につやつやした小さな唇を尖らせ、仮面をつけなおした。

「つまんないの」
「絶対に着ないからな」

 念押しして、二人は会場へと向かった。
 会場にはすでに来賓が集まっていた。警備にあたる戦士たちも綺麗な礼装の甲冑を身に着け持ち場についている。そこにはディランやその同期たちもいた。
 ディランが壁の華を決め込んでいる所へエルビスがやってきた。

「おい、ディラン。本当にここへテルミドネ様もやってくるのか」

 エルビスは妙にテルミドネを崇めている節がある。家紋に恥じぬよう、出世を狙っているのは他同様彼も同じ。

「来るって言ってたよ。トリスタン将軍が妙にそわそわしてさっき出て行ってたから、もうそろそろじゃないかな」
「そうか!お前はテルミドネ様と顔見知りだったよな?」
「顔見知りというか友達だけど」
「来たら私に紹介してくれないか!」
「いいけど、たぶんエルビス知ってる人だけどなぁ」
「そんなわけがあるか!」
「うーん」

 困っている所へアッシュたちが部屋に入ってくるのが見えた。目の端に映っただけであるのに物凄い迫力があった。

「エルビス、来たよ!」
「どこだ!おお、あの方がテルミドネ様か!やはり、テルミドネであるだけだな。逞しい」
「全然強そうに見えないのに強いってのが、ほんとに尊敬するよ」
「あんなに強そうなのにか?お前の眼は狂っているのか」

 エルビスはカーライルをテルミドネだと判断していた。しかし、そのことに気付かないディラン。

「テルミドネともなると、あのような美女を隣に連れ添うのだな」
「え?どれどれ?」
「ほら、あの仮面をつけている。仮面越しにでもわかる美しさだ」

 実際、仮面の下など見えはしない。しかし、尊敬の目のせいで妄想が働いている。

「おい、私をあの方に紹介してくれ」
「えっ?紹介って」
「行くぞ!」

 エルビスはディランの手を引っ張り、人の間を縫ってカーライルたちのもとへ向かった。
 人混みを抜けると、そこにはカーライルとアッシュの目に前にクリスがいた。恭しく頭を垂れ挨拶をしていた。

「テルミドネ様」
「お前は誰だ?」

 テルミドネとして挨拶されたカーライルは聞いた。
 無論アッシュは無言だ。冷めた目でクリスを見下げる。

「私はクリス・ローレンスと申します。クロウ将軍の団の一つに所属しております」
「それで?」
「テルミドネ様のお姿が見えましたのでご挨拶をと思いまして」

 それを聞いたエルビスは先を越されたと思い、ディランを引っ張りクリスの横へ立った。
 勢いで不慣れな礼装甲冑を着たディランはよろけた。

「テルミドネ様、私はエルビスと申します。ドレイル伯爵家の出身でございます。クリス同様ご挨拶致します」
「それはご丁寧なことで」

 それよりも彼はディランに向かった。
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