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その女神、悦楽

女神の遭遇(2)

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 部下は鼻で笑った。

「それがまったく強そうじゃないんですよ。きっとどこかの貴族の子息なんじゃないでしょうか。そばにはやたらとデカい大男が控えてたんですがね?駄々をこねる様なんてまるで子供でしたよ」
「そりゃまたえらい奴もいたもんだな」

 くすくすと笑った。

「戦うのはそのガキの方なんだろ?」
「そのようです」

 馬鹿にしたような顔で部下は答えた。

「セルゲイ将軍。そいつの根性叩き直してきますか?」
「そうしてこようか?」

 再び扉が開かれ、入場の時刻となった。腕ならしに来ただけのため、適当にあしらい、ある程度まで勝てればその分だけ小銭をもらって帰ろうという算段だった。
 入場すると、目の前には美しい長い金髪の人形のような人がいた。装備は何とも軽装。高そうなシルクのシャツにレザーパンツ。銀糸の美しい刺繍の施された柔らかい革のヒールブーツだった。
 それはセルゲイににっこりと笑いかけた。

「お前がこの国で一番強いのか?」

 少年のような声。思ったより若いのか。セルゲイはそう思った。

「まぁ、みんなはそう言ってくれてるかな。君はどこの家の子息なんだ?」

 小ばかにしたように笑われた。

「何言ってんの?僕が貴族?笑っちゃうよ。あんな奴らと一緒にしないでくれるかな」

 きらきらとしていた瞳は冷たくなった。気配が変わる。

「すごく不愉快」

 身構えるセルゲイ。

「ねぇ、まだ?」

 何の感情もうかがえない声で審判に問いかける。審判は開始の合図を告げた。
 会場は沸いているが、彼は何も感じ取れなかった。それほどまでに緊張していた。これほどの緊張はいつ以来だろうか。初めて戦場へ赴いたときか、将又初めて敵に襲われた時か。いずれにせよ、彼は今、自分の心臓の鼓動が頭の中でなっているような感覚に襲われていた。

「来ないの?来ないなら僕から行くよ」

 ゆっくりとした足取りで近づいてきた。その足は徐々に速くなる。そして一歩力強く踏み込まれ、初めの一撃を繰り出した。その一手を受け止めたが、思った以上に重たい。組み合ったまま相手の脚が蹴り込まれてきた。受けながら剣を横に払う。セルゲイは体勢を崩したが、相手はふらついてさえいない。あんなにも無茶な姿勢になったにも関わらず。

「お前、名前は」

 セルゲイは問うた。

「人に聞くなら自分から名乗れって父さんに教えられたんだけど」
「すまない。俺はセルゲイだ」
「僕はアッシュ」

 アッシュは剣を構えていない。それなのにどこから攻めても攻撃が通じる気がしなかった。

(こんなのは何時ぶりだ?初めてセシタルの将軍を相手にしたとき以来か?)

 セシタル王国とトリト帝国が協力関係になる以前、アールネたちが将軍になったばかりのころにセルゲイはアールネと戦場で一戦交えたことがある。アールネの威圧感、力強さ、剣術、すべてにおいてかなわなかった。
 こんなにも強い相手なら、名を知らぬはずがない。放っておいても名が独り歩きをする。それなのに誰も知らぬ様子。
 セルゲイはもう一度切り込んでいった。アッシュは剣を捨てた。それを見て一瞬勢いが弱まってしまった。
 得物を捨てたら降参の証。審判も声を出そうとした。しかしそれより先に、アッシュがセルゲイの腕をつかんだ。気づいて力を入れた時には遅かった。脚をかけられ、彼の体は宙を舞い地にたたきつけられた。体を起こそうとしたが、アッシュは手慣れたもんでサッと背後を取ると腕を捻りあげた。
 
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