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その女神、乱舞
女神の乱舞(1)
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アールネが一歩前に出た。大きな体とその顔つきは本人が思わずとも威圧感を相手に与えてしまう。
「ひぃっ!」
シャバジは顔を思わず覆い、後ろへ二歩後ずさった。
「大丈夫ですよ、シャバジさん。拷問していただきたいのはこの子です」
アールネの腕の中から、視線だけを男へ向けたアッシュ。下げた腕の隙間から、薄ら目で相手を見やる。アッシュがアールネの腕から降り立つところだった。またもや、目が離せなくなった。冷たい視線がシャバジに向けられる。蔑むような視線。服従せずにはいられなくなるような。壊したくなるような。
「この方は?」
「私たちの子供です。アッシュ挨拶をなさい」
クロウに促され、ぺこりと頭を下げた。
「よろしく」
その一言だけ言うと、アールネに向き直った。
「父さん、抱っこして運んでよ」
「アッシュだめですよ。自分で歩けるのだから」
「ええー。じゃあカーライル呼ぶ」
「だめだぁ。俺が抱っこしてやる」
「だめ、だ」
そういうと、アールネが再びアッシュを抱き上げた。
「嗚呼、また貴方はそうやってアッシュを甘やかして。まったく」
「クロウ父さん」
「なんです?」
「拷問終わったら、クロウ父さんと一緒に寝てもいい?」
一瞬クロウの顔がほころんだが、またいつもの顔に戻った。
「仕方ありませんね、いいですよ」
「ふふ、ありがと」
シャバジは確信した。これがクロウの弱点だ。自分の出世の邪魔をしたクロウ。憎くて憎くてたまらない男。その男の大事なものがすぐ目の前にある。その興奮を隠そうと必死だった。
「それでは行きましょうか。ヒヒッ」
五人は拷問部屋へ向かった。
地下にある拷問部屋。何重にも閉じられた部屋の奥には、各国の拷問器具が備え付けられている。
「くせぇな」
「うむ」
どんなに部屋をきれいに掃除しようが、長年染みついた血の臭いはぬぐえない。
部屋の壁へ掲げられているオイルランタンに明かりを灯していく。
「部屋もくせぇが、こいつもなんかくせぇ」
シャバジの背中を敵を見る目でみつめる。視線をひしひしと感じ、動揺する。そんなトリスタンの後頭部を手で軽やかにしばく。
「シャバジさんを怖がらせてどうするんです。さ、私たちは帰りますよ」
アッシュを壁に鎖でつなぎ、磔にしたクロウは部屋からさっさと出てしまった。それを追いかける二人。
外に出たあと、トリスタンはクロウに噛みついた。
「おい。いいのかよ」
「何がです?」
「何がじゃねぇよ!あんな信用ならねぇ奴にアッシュを任せられるかよ!おめぇはあいつを信用してるかもしんねぇけど俺はあいつを信用ならねぇ!」
クロウは一つため息をついた。
「私だって、あの人を信用なんてしていませんよ。大体、敵視されていますしね」
「だったらなおさら……!」
「なおさら、あの人に痛い目に合っていただかなくてはいけませんから」
「なに?」
「アッシュに盛大に暴れていただきましょう。わかっているでしょ?あの子は気に入らないことがあると」
「暴れ、るな」
クロウはにやりと笑った。だが、トリスタンは不服そうだ。
「俺は気に入らねぇ。てめぇのそういうところは昔っから気に食わねぇ。アッシュまで道具として使いやがって」
「アッシュは分かっているはずですよ?そうでなければあの男に会った時点で動いているでしょ?」
「あい、つ、は。俺の腕の、中で、言った。『あの男、臭い』と。アッシュは、あの人を、いじめる気だ」
「さすが私の娘です」
「それでも俺はやっぱり気に食わねぇ。一発殴らせろ」
「仕方ありませんね。そうしなければ貴方の気が晴れないならどうぞ」
「おう、思いっきり食いしばっとけ」
トリスタンはクロウの頬を思いっきり殴った。衝撃でクロウはまさに吹っ飛んだ。
「どうです?気は、晴れましたか?」
「おう、ちょっとはな」
「それはよかったです」
「あとは、呑み屋代をくれりゃ文句ねぇ!」
「この、女たらしの不誠実者。後で幾らかおっしゃいなさい」
クロウは悪態付きながら起きようとしたが、先ほどの衝撃で脳が揺れたためまともに立って歩けない。
「しょうがねぇやつだなぁ。ほれ」
クロウの前に背を向けしゃがむ。それに黙っておぶさる。アールネは小さく笑った。
「よーし、アッシュが拷問終わったらみんなで呑みに行くぜ!もちろんクロウの奢りでな!」
「仕方ありませんね」
「ディランも、誘う」
「いいですよ、もう好きになさい」
三人は見習いの頃に戻ったかのように、久々に緊張のほころびを解いて歩いた。
「ひぃっ!」
シャバジは顔を思わず覆い、後ろへ二歩後ずさった。
「大丈夫ですよ、シャバジさん。拷問していただきたいのはこの子です」
アールネの腕の中から、視線だけを男へ向けたアッシュ。下げた腕の隙間から、薄ら目で相手を見やる。アッシュがアールネの腕から降り立つところだった。またもや、目が離せなくなった。冷たい視線がシャバジに向けられる。蔑むような視線。服従せずにはいられなくなるような。壊したくなるような。
「この方は?」
「私たちの子供です。アッシュ挨拶をなさい」
クロウに促され、ぺこりと頭を下げた。
「よろしく」
その一言だけ言うと、アールネに向き直った。
「父さん、抱っこして運んでよ」
「アッシュだめですよ。自分で歩けるのだから」
「ええー。じゃあカーライル呼ぶ」
「だめだぁ。俺が抱っこしてやる」
「だめ、だ」
そういうと、アールネが再びアッシュを抱き上げた。
「嗚呼、また貴方はそうやってアッシュを甘やかして。まったく」
「クロウ父さん」
「なんです?」
「拷問終わったら、クロウ父さんと一緒に寝てもいい?」
一瞬クロウの顔がほころんだが、またいつもの顔に戻った。
「仕方ありませんね、いいですよ」
「ふふ、ありがと」
シャバジは確信した。これがクロウの弱点だ。自分の出世の邪魔をしたクロウ。憎くて憎くてたまらない男。その男の大事なものがすぐ目の前にある。その興奮を隠そうと必死だった。
「それでは行きましょうか。ヒヒッ」
五人は拷問部屋へ向かった。
地下にある拷問部屋。何重にも閉じられた部屋の奥には、各国の拷問器具が備え付けられている。
「くせぇな」
「うむ」
どんなに部屋をきれいに掃除しようが、長年染みついた血の臭いはぬぐえない。
部屋の壁へ掲げられているオイルランタンに明かりを灯していく。
「部屋もくせぇが、こいつもなんかくせぇ」
シャバジの背中を敵を見る目でみつめる。視線をひしひしと感じ、動揺する。そんなトリスタンの後頭部を手で軽やかにしばく。
「シャバジさんを怖がらせてどうするんです。さ、私たちは帰りますよ」
アッシュを壁に鎖でつなぎ、磔にしたクロウは部屋からさっさと出てしまった。それを追いかける二人。
外に出たあと、トリスタンはクロウに噛みついた。
「おい。いいのかよ」
「何がです?」
「何がじゃねぇよ!あんな信用ならねぇ奴にアッシュを任せられるかよ!おめぇはあいつを信用してるかもしんねぇけど俺はあいつを信用ならねぇ!」
クロウは一つため息をついた。
「私だって、あの人を信用なんてしていませんよ。大体、敵視されていますしね」
「だったらなおさら……!」
「なおさら、あの人に痛い目に合っていただかなくてはいけませんから」
「なに?」
「アッシュに盛大に暴れていただきましょう。わかっているでしょ?あの子は気に入らないことがあると」
「暴れ、るな」
クロウはにやりと笑った。だが、トリスタンは不服そうだ。
「俺は気に入らねぇ。てめぇのそういうところは昔っから気に食わねぇ。アッシュまで道具として使いやがって」
「アッシュは分かっているはずですよ?そうでなければあの男に会った時点で動いているでしょ?」
「あい、つ、は。俺の腕の、中で、言った。『あの男、臭い』と。アッシュは、あの人を、いじめる気だ」
「さすが私の娘です」
「それでも俺はやっぱり気に食わねぇ。一発殴らせろ」
「仕方ありませんね。そうしなければ貴方の気が晴れないならどうぞ」
「おう、思いっきり食いしばっとけ」
トリスタンはクロウの頬を思いっきり殴った。衝撃でクロウはまさに吹っ飛んだ。
「どうです?気は、晴れましたか?」
「おう、ちょっとはな」
「それはよかったです」
「あとは、呑み屋代をくれりゃ文句ねぇ!」
「この、女たらしの不誠実者。後で幾らかおっしゃいなさい」
クロウは悪態付きながら起きようとしたが、先ほどの衝撃で脳が揺れたためまともに立って歩けない。
「しょうがねぇやつだなぁ。ほれ」
クロウの前に背を向けしゃがむ。それに黙っておぶさる。アールネは小さく笑った。
「よーし、アッシュが拷問終わったらみんなで呑みに行くぜ!もちろんクロウの奢りでな!」
「仕方ありませんね」
「ディランも、誘う」
「いいですよ、もう好きになさい」
三人は見習いの頃に戻ったかのように、久々に緊張のほころびを解いて歩いた。
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