戦場の女神は剣舞を舞う

少女遊 夏野

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その女神、乱舞

女神の享楽(3)

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 アールネに俵担ぎにされ、運ばれるアッシュは気になっていた。クロウのあの笑みの中には何かあると。そうでなければあのように楽しそうな顔を見せる人ではないことを彼女は知っていた。昔からそうであったからだ。

「ねぇ、クロウ父さん」
「なんです?」
「僕のお仕置きは鞭打ちだよね?」

 聞かずにはいられなかった。不安げな表情のアッシュに、クロウはにっこりと笑って見せた。

「大丈夫ですよ。鞭打ちも受けてもらいますが、まずは採寸から」

 それを聞いてアッシュの白い顔が、まさに顔面蒼白とはこのことかというほど青くなった。

「まさか……」

 アッシュの嫌な予感は的中した。
 ついた先に待ち受けていたのはアッシュの苦手な、彼女専属のお針子だった。アッシュは彼女のことが苦手だが、そのお針子はアッシュのことを溺愛していた。それは彼女曰く「理想の容姿」なのだそうだ。
 部屋に入るや否やアールネが抱いているアッシュを引きずり降ろしもみくちゃにした。

「はぁぁぁぁあああん!テルミドネ様ぁぁぁぁぁあああ!嗚呼、なんて本日もお美しいのかしら!この完璧なお姿。美の神プルスィアロンも嫉妬するほどの美貌!まさに天に祝福されし神の御子!はううううう」

 あらゆる賛美をひたすら浴びせ、アッシュにはねのけられようが、関節技を決められようがそんなのお構いなしに彼女の香りを鼻腔の奥、肺胞の隅から隅まで染み渡らせるように嗅いだ。

「やめっ!やめろぉ!!」

 そしてアッシュの悲痛な叫びと共に、アールネやクロウ、トリスタンに向けられる救いを求める目。

「助けて、父さんたち」

 絞り出すような涙ぐんだ声。思わず父性本能丸出しにして助けそうになるのをこらえる。堪え切れないアールネ。二歩前に歩み出たのをクロウとトリスタンが全力で止める。

「止まりなさい、アールネ!」
「しかし、アッシュが!!」
「わかってんだよ、んなこたぁ!」
「もう少しで採寸が終わりますから!我慢なさい!」

 そう言っている間に、あれよあれよと服がはぎとられ、あられもない姿になっていくアッシュ。その途中でお針子から声がかかった。

「ちょっとよろしくて、将軍様方?テルミドネ様は女人。たとえ将軍様方の娘であったとしても、年端もゆかぬ稚児ではなく立派なレディでしてよ!出ていってくれませんこと!」

 あまりの剣幕に三人は慌てて部屋の外へ出た。中からはひっきりになしにアッシュの叫び声と、お針子の黄色い歓声が聞こえてくる。そして時折苦し気なアッシュの声。
 部屋の前で緊張が隠しきれない三人の男。アールネとトリスタンは扉の前を行ったり来たり。

「ちょっと、二人とも。もう少しおとなしくしていただけませんかね」

 普段は落ち着き払っているクロウも今回は落ち着きがない。

「じゃあ、てめぇもその貧乏ゆすりやめろよな!」

 言われて気づき、ヒールのつま先で床を打つのをやめる。そして苦い顔をする。
 どのくらいたっただろうか。扉がゆっくりと開き、髪も服も乱れたアッシュが床を這いながら出てきた。
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