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第百四十一章
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第百四十一章
「これはこれは、ミアレ姫様。尊き上にも尊き王の血脈、王国を王国たらしめる証となるお方。このような地下深くでお目にかかろうとは誠に意外なこと」
ミアレ姫の前に王宮の作法通り片膝をついて臣従の意を示したのは、カナ族長老ジルコンだった。
ジルコンは十数人の手勢を率いていた。その者たちはものものしく武装し、先にこの場所に入っていた四人を取り巻いていた。鉱山の警備兵とは違った制服を着ているところを見ると宮殿から引き連れてきた者たちだろう。
コルウスとココはまずいことになったという顔でとっさに逃げ出そうとしたが、すぐさま十数本の剣を突きつけられて後ずさった。剣はミアレ姫とクランへも向けられていた。
ミアレ姫もさすがにやや動揺していたが、まっすぐジルコンへ目を向けて言った。
「長老ジルコンよ。部族の民を導き、族長を助ける者よ。いったい、この剣はどういうつもりです。私たちを亡き者にしようとでも」
「まさか、そのようなこと。私は王国に仕える者。尊き王の血を一滴たりとも流させるようなことはいたしませぬ」
ジルコンの手勢の中に見たことのある顔があった。バレルだ。バレルは故郷へ帰ったのではなかったのか。姫とクランは顔を見合わせた。
バレルは例の襲撃の時、ミアレ姫に情けをかけられていったんは故郷へ向かったが、途中で考えを変え、カナ族の町へ舞い戻った。そして宮殿のジルコンに王の血脈の一行がこの地へ来ていること、ココはとんだ食わせ者だということを教えた。
バレルはそのまま宮殿に身を隠し、旅の一行とココへ密偵をつけて動きを探っていたが、その両方ともこの水晶洞窟に入ったことを知ってジルコンを案内してきたのだった。
バレルは姫とクランの蔑むような視線を受けてジルコンの背後へうしろめたそうな顔を隠した。
そして、もう一人、見たことのある顔があった。あの老シャーマンだ。
ミアレ姫とクランは、あの野営の夜、焚き火の光で見た老シャーマンの顔を忘れていなかった。杖を突き、すっかり弱っている様子なのは我がブンド族の民と引き離されているせいか。あるいは精霊から遠いこの地に長く滞在しているからだろうか。
長老ジルコンは剣の輪の中に捕らえた四人の顔をまじまじと眺めた。
「王の血脈とイーグル・アイ……帝国の軍団長の妻というふれこみの女……そして、闇の王の手下……まったくおかしな取り合わせよ……」
「そうさ、まったくおかしな具合だぜ」
コルウスが作り笑顔を浮かべ両手を左右に開いて話しだした。
「俺はあんたの味方だろう。例の部族戦争の時はそこにいる間抜け軍師のおかげでしくじったが、もうそんなことは……」
「黙れ!」
ジルコンがコルウスの顔に指を突きつけると兵士の剣の切っ先もそちらへ向いた。
「お前にはまったく騙された。闇の王の災厄からこのかた、世には、お前のようなペテン師が蛆虫のごとく涌いてきておるのだ」
「おい、そういきり立つなよ。あの時はな……」
コルウスがさりげなく手を上げて片目を隠す髪に触れようとした時、ジルコンは素早く命じた。
「この者の手を縛れ。邪眼を使わせるな」
兵士がコルウスの腕をつかもうとした時、コルウスは鴉に姿を変えてその手を逃れた。
「あの化け物を逃がすな!」
ジルコンの命令に数人の兵士が駆け出したが、コルウスは翼をひるがえして坑道へ逃れて行った。兵士たちはそれを追って行ったが、やがて漆黒の鴉は闇に紛れて姿を消した。
「まったく、つかみどころのない蛇のような男だ。おい、残りの者たちも縛り上げてしまえ」
吐き捨てるように言ったジルコンへ、バレルがおそるおそる尋ねた。
「ジルコン様、ミアレ姫もお縛りになるのですか。それはあまりにも恐れ多いのでは」
「お前は黙っておれ!」
一喝されたバレルは首をすくめ、卑屈に顔をうつむけた。
ジルコンはミアレ姫へ暗い野望を秘めた目を向けた。
「姫さま、縛る前に例のものをこちらへお渡しください」
「例のものとはいったい何のことです」
「言わずもがな、黒水晶の龍を目覚めさせるための耳の根舌の根です」
老シャーマンが苦痛に満ちたうめき声をもらした。風に吹かれる枯木のように杖にすがって今にも地面に倒れそうになっている。老シャーマンが衰弱しているのは禁忌を犯したためでもあった。
「それが私の手にあるとして、どうして、あなたに渡さねばならないのです」
「これも言わずもがなのこと。この場所はどうやら我が部族の古き聖地らしい。となれば、そこにあるものはすべて我が部族の民のもの。すなわち、カナ族長老である私にはそれをいただく権利がある」
「なるほど。ならば、あなたは長老であるとして、どうしてシャーマンを連れているのです。長老ならばシャーマンの導きがなくとも自由に聖地に入れるはず。あなたは聖地に拒まれたのでしょう。部族の聖地に拒まれた者がどうして長老と称して、その『権利』とやらを主張できるのです」
ミアレ姫が言ったことは全てその通りだった。ジルコンは足止めを受けただけでなく、強烈な吐き気まで催し、坑道の奥で不覚にも嘔吐までしたのだった。バレルが念のためにと老シャーマンを連れて来ていたので、なんとかここへ入ってくることができたのだ。
図星を突かれたジルコンは顔色を赤黒く変え、目を怒らせた。
「つべこべ言わずと耳の根舌の根を渡していただきましょう。この剣が目に入りませぬか。たとえ、イーグル・アイにどのような力があろうと、王の血脈など剣の一突きでこの世から消し去ることができるのですぞ」
耳の根舌の根は姫の手元にあった。クランに渡す直前にジルコンたちが乗り込んできたのだ。
それまで無言だったクランが静かに言った。クランはすでに縛られていた。
「姫さま、構わぬ。渡してやるがいい」
「何ですって。クラン、どういうつもりなのです」
クランはミアレ姫に向かってうなずいた。
「そうしたものは落ちるべき者の手へ落ちるのだ」
ジルコンが勝ち誇ったように笑い出した。
「そうとも、さすがイーグル・アイは物事の道理をわきまえているらしい。さあ、姫さま、お渡しください」
ミアレ姫は袖口に隠していた扇形の薄片を差し出した。
ジルコンがそれを手のひらに受け取ると薄片は波打つように光り出した。
満足げにうなずいたジルコンが顎で合図すると、兵士は姫に縄をかけた。
その時、ココが騒ぎ出した。
「ジルコン様、どうして私まで縛るんです。私はジルコン様のために龍を目覚めさせようとしていただけのこと。そこへ邪魔が入ったのです。私はこの二人の仲間でも何でも……」
ジルコンはココの悪あがきを鼻先で笑い飛ばした。
「その手は食わぬぞ。お前の夫だというペテン師は金の鎖と楔を持ち逃げしようとしたところを捕まえた。今日の明け方頃、洞窟から運び出そうとしたらしい。背負った重みの下敷きになって動けなくなったのを見回りの者が見つけたのだ」
ココはカッとなって悪態をついた。
「あの間抜けめ、何してやがるんだ。ちょっと目を離したすきに」
ココはジルコンが手にしている耳の根舌の根へ向かって顎をしゃくった。
「だけど、あんた。そいつをどうするつもりだい」
ジルコンは薄笑いを浮かべ、顔の前に扇形の薄片をかざして見た。
「さて、どうしたものか。これが龍を目覚めさせる鍵になることは分かっている」
薄片へ向けた目をジロリと横目にして、ジルコンは老シャーマンへ視線を当てた。老シャーマンは杖にすがって丸めた背中を揺らしている。古びたビーズの房が小刻みに揺れて震える音をさせていた。
「しかし、あの黒水晶の龍がいったい何であるのか、私にはいまだに分からぬ。この老いぼれのシャーマンに尋ねても埒が明かぬとなれば、あとは……」
ジルコンは黒水晶の龍の真実の物語を知らなかった。その破滅と再生の物語を。
ココが勢い込んで言った。
「だから、私が言ったじゃないか。帝国じゃありふれたやつだってさ」
「お前はまだそんなことを言っているのか。私がお前の戯れ言を信じるとでも。そのようなものなら、どうして必死になって奪い合うのだ」
「必死になってなんかいないさ。お互いにちょっとした行き違いが……」
ジルコンが手を一振りして合図すると、手勢の一人がココの喉元へ剣の切っ先を突きつけた。ココは白い喉を見せて顔をのけぞらせた。
「もう、お前は黙っておれ。お前のような安っぽいペテン師を信用した自分が腹立たしくなるわ。さて、姫さま……」
ジルコンはまたもかつての王宮の作法に則ってお辞儀をして見せた。その深く皺の刻まれた顔に皮肉の色がにじんでいた。
ミアレ姫は毅然として目を怒らせた。
「そのようなうわべばかりの礼儀が何になります。この手をほどきなさい。それに、クランとあの女も解放するのです」
優雅な仕草で身を起こしたジルコンは口元に薄笑いを浮かべていた。
ジルコンは在りし日の王宮のあらゆる礼儀作法に通じていた。すなわち、あらゆる力関係に精通していたということだ。その表も裏も、ジルコンは自分の手のひらを指すように知り尽くしていた。
「そうは参りませぬ。王の血脈がこのような場所で何をしておられるのか。私の腑に落ちるようにしていただかぬ限りは」
姫は無礼な薄笑いへ王族の威厳をもって答えた。
「ジルコン老よ。私がこの地を目指したのは王都を逃れた難民が元の囚人鉱山で酷使されていると聞いたからです。その惨状はすでにこの目で見せてもらいました。あなたは王都の民を虐げ、その生命を搾り取っている」
ジルコンはまるで仮面のように薄笑いを顔に貼り付けていた。
「なるほど。しかし、ものは見ようというものです。私たちは彼らを救ってやったので、決して虐げているつもりなどありません。故郷を失った者のため、第二の故郷を与えてやっているのではありませんか」
ミアレ姫が何か反論しようとするのを優雅な手つきでさえぎって、ジルコンは言った。
「されど、そのことについては別にお話させていただくとしましょう。私が今、お尋ねしたいのは、なにゆえに、このような立ち入りを禁じられた危険な鉱山の奥へ入り込んで来られたのかということです」
しばし黙していたミアレ姫だが、やがて口を開いた。
「私は黒水晶の龍の目覚めを防ぐために来たのです。耳の根舌の根を誰の手にも渡さぬように」
「黒水晶の龍と王の血脈とどのような関わり合いがあるのでしょう。私には分かりかねますが」
とっさにココが口をはさんだ。
「何をすっとぼけたことをぬかしているんだい。あんた、龍を使って王国を横取りしようって魂胆だろう。見え透いているじゃないか。そうとなれば王の血脈だって黙っていられないだろうよ」
苛立たしげにジルコンが手を振ると、剣の切っ先はさらにココの喉元へ迫った。
ココはヒイッと叫び声を上げ、後ろへ大きく身体を反らした。
ジルコンは手にした耳の根舌の根のたたえる光にじっと見入った。その目がしだいに夢想するような色に変わっていく。
「奇妙なことだ。我らが黒水晶の龍を掘り出したとたん、詐欺師が現れ、闇の王の手下が現れ、王の血脈、そして、イーグル・アイまでが現れた……」
その声までもが、どこか自己陶酔の響きを匂わせだした。
「これはいかなることか。いまや我がカナ族の地に力が集中しつつあるのではないのか。時が来たのではないのか。新しい王国、新しい王権を生む力の時が」
それまで黙っていたクランが静かにいにしえの言葉を朗唱しはじめた。
ジルコンの手の中でそれに呼応するように耳の根舌の根の光が揺れはじめた。
夢想に酔う長老の妄想を断ち切るようにクランは朗唱をやめた。
「長老よ、時など来てはいない。それにこの地に集まっている力はことごとく闇の力へ繋がるものだ。お前は部族の民の足元へ闇の力を呼び寄せようというのか」
クランの言葉にジルコンは動じなかった。おそらくその真意を解しえなかったのだろう。
「シャーマンは、いや、イーグル・アイは何かご存知のようだ。教えてもらいたい。黒水晶の龍とは何か」
クランはシャーマンの禁忌のしるしで答えた。
薄笑いを浮かべたジルコンはシャーマンの反対向きに顔をそむけ、忌々しげに唾を吐いて見せた。
ジルコンもそろそろ苛立ちを露わにしはじめた。手を振って合図すると兵士が剣を構え直した。兵士が切っ先を向けたのは、こともあろうに王の血脈の喉元だった。
ジルコンが率いるこの手勢は忠実な飼い犬のように仕込まれていて、飼い主の命令に疑問を抱かぬようにされていた。
鋭く光る切っ先にも動じず、ミアレ姫は毅然とした物腰を保っていた。
「ジルコン老よ。この切っ先の意味、お聞かせ願いましょうか」
薄笑いを消したジルコンは怖れを知らぬ冷酷な目つきになった。
「王の血脈よ、地に堕ちた抜け殻の力よ。黒水晶の龍にはとてつもない力が秘められていると私は推測しております。あとはそれを解き放ち、王国を新たな道に導く。それが、その切っ先の意味でございます」
ココが、ついに本性現しやがったと叫んだが、すでにジルコンは仮面を脱ぎ捨て、素顔の醜さを露わにすることをためらわなかった。
ジルコンはクランに対して荒々しい口調で尋ねた。
「イーグル・アイよ、答えよ。あの龍の力のこと、この根のこと、そして龍が目覚めた時、何が起こるのかを。シャーマンの禁忌と王の血脈の命、引き換えにできるか。どうだ」
クランもさすがに怒りを面に現していた。
「お前はついさっき、尊き王の血を一滴たりとも流させるようなことはせぬと、そう言ったぞ。それなのにその剣はどういうつもりだ」
シャーマンのビーズの飾りが揺れるのをジルコンは蔑むような目で眺めた。
シャーマンのビーズは彼らカナ族が珍重する宝石ではなく、獣の骨や歯、草原に転がる石ころや木切れなど、その気になれば大地からいくらでも拾い上げることのできるありふれたものに過ぎなかった。
「イーグル・アイは王宮の作法を心得ぬらしい。あれは一種の決まり文句。王宮では忠誠心の例えにそんなことを口にするのだ。しょせん言葉など虚しいものだ。頼れるのは、この目で見ることができ、この手でつかむことができるもののみ。すなわち、それが力。例えば、その剣よ」
ジルコンが合図すると、兵士は切っ先をさらに近く、ミアレ姫の喉元に突きつけた。
姫は動じず、ココのように身をのけぞらすようなこともなかった。
クランは口をつぐんで黙したままでいた。その青い目には迷うような色がある。
ここで王の血脈を失ってしまっては元も子もない。しかし、この野望に目のくらんだ長老に龍の持つ秘めた力を教えてやることは盗賊に無敵の剣を与えてやるようなものだった。
ジルコンが二度目の合図をすると、兵士は冷酷な目になりミアレ姫の喉元に剣を近づけた。その鋭い切っ先はほとんど姫の白い肌に触れんばかりだった。
その時、たまりかねて大声を上げたのはココだった。
「やめないかい。まったく野蛮な連中だねえ。分かったよ、私がイーグル・アイの代わりに教えてやろうじゃないの。イーグル・アイはれっきとしたシャーマン。それもシャーマンの中のシャーマンだからね、命に換えても禁忌は破れないんだ。私はそんなんじゃない」
ジルコンはうんざりした表情になり横目でココを見た。
「お前などに何が分かる。偽軍団長の妻かと思えば、偽シャーマン。そのうえ、偽闇の王の連れあい。お前など、しょせんは尻軽なペテン師に過ぎぬであろうが」
ココは引きつった顔に嘲りの笑みを浮かべた。
「あんたはそこにいる年寄りのシャーマンを何だと思っているんだい。勝手にこんなところへ連れ来たりしてさ、あの年寄りは私がもらい受けたはずじゃないか。あれはね、王国でも一番の法力を持ったシャーマン。荒れ野に潜んでいたミアレ王妃と後のシュメル王。つまり、まだガキの頃のシュメル坊やを探し当てたシャーマンさ。あんた、このことに覚えがありゃあしないかい」
まるで雷に打たれたかのようにジルコンは驚きに目を見開いた。額の深い皺がより深くなって暗い谷間を成した。
ジルコンは詰問するような目でバレルを見た。そもそも、この老シャーマンはバレルが連れてきた者だった。バレルが、そんなことは知らなかったという顔でかぶりを振ると、ジルコンはココへ顔を向け直した。
「それがお前に何の関わりがあるというのだ」
ココは注意深くバレルの表情を観察しながら言った。
「関わりなら大ありさ。私はあのシャーマンの娘だよ」
これには、ジルコンばかりでなく、クランも驚く目になった。
「さすがのイーグル・アイも驚いたようだね。安心しな、私はシャーマンになる前にブンド族のところを離れたんだ。でも、シャーマンの言葉は忘れたくても頭にこびりついて離れないんだよ。もちろん、黒水晶の龍のことだってちゃんと知ってる。私に禁忌なんかないからね。そこにいる年寄りが出し惜しみした分まであらいざらい話してやろうか」
クランとミアレ姫はココに向かって非難するような目を向けたが、ココは、フンと鼻で笑った。
「なあに、平気さ。黒水晶の龍の物語を聞いたら誰だって、そんな恐ろしいものを目覚めさせようなんて思わないだろうよ。どうしてこの話を隠しておかなくちゃならないのか私には分からないね。世の中には、はっきり言ってやらなくちゃ分からない馬鹿ってのがいるんだから」
ココは黒水晶の龍の物語をジルコンに聞かせた。
神々でさえ、また、イーグル・アイでさえ手を焼いた、その荒ぶる力。不可視で無秩序で無限定な盲目の力。
その力を鎮め、その身体を結界として、その内へ封じ込めた神々の光。イーグル・アイは神々の使いとなって働いた。
「……つまり、人の手には負えないってことさ。あんたのもうろくした頭でも、それくらい分かるだろう」
ココの話を聞くうちにジルコンの目はしだいに妖しい光をたたえだした。その心に暗い夢想が広がっていく。
ココは得意になって話し続けていた。お偉い部族の長老といえど、神々と精霊とイーグル・アイの世界になど足元に這い寄ることもできまい。
「あんたが持っているのはお察しのとおり耳の根舌の根といって龍を目覚めさせるのに必要な鍵さ。これで分かっただろう、あの龍が目を覚ましたら大変なことになるよ。馬鹿な魂胆は捨てることさ。ちょっと、あんた。どうしたんだい、おかしな目つきしてさ」
ようやくココはジルコンの妖しい目の光に気付いた。深く刻まれた皺の奥にのぞく目のギラつきは地割れの奥から炎の舌を出す地底の業火のようだった。
ジルコンはしわがれた声で言った。
「なるほど、よく分かった。それで、耳の根舌の根をどのように使えば龍を目覚めさせることができるのだ」
「それは、シャーマンの言葉にもないことさ。当たり前だろ、そんなことを知ってどうするんだい。知らなくていいことってのが、この世にはあるんだよ。あんた、私の言ったことが分からなかったのかい。これは人がどうのこうのできることじゃないんだ」
ジルコンはじっと考え込んでいたが、やがて何事か思い当たった様子で顔を上げた。
「……そうか……イーグル・アイだな……イーグル・アイならそれを知っているのだろう。お前がバレルに、イーグル・アイの一行の拉致を頼んだのもそれを狙ってのことか。お前は私を出し抜こうとしたのだ。バレルの愚かさをいいことに」
ココは、ギクリとなって大声を上げた。
「なんだって、馬鹿言ってんじゃないよ。そ、そんなこと……ああっ!」
ジルコンの手の合図ひとつで、ココは剣の柄頭で頭を打たれ、地面に倒れて気を失ってしまった。
そうやってわずか手の一振りで脅し、殴り、人の命を奪う。ジルコンにとって人とは利用価値のある数であり、利用価値がなくなればそれは零なのだった。
ジルコンはクランの目の前に来て扇形の薄片を示した。薄片には光の小波が打ち寄せていた。
「イーグル・アイよ。この耳の根舌の根を使って龍を蘇生させてもらいたい。お前ならできるはず」
クランは静かに答えた。
「お前はこの世の破滅を見たいのか。部族の民の足元だけでなく、頭上にも忌まわしい力を呼び寄せようというのか」
ジルコンは目を妖しく光らせながら笑っていた。目の端、口の端が吊り上がって、皺の刻まれた顔は汗ばみ紅潮していた。
「イーグル・アイよ、世を救う者よ。聞くがよい。黒水晶の龍を使って王都から闇の王を追い払うのだ。その時、新たな世は来る。世は王の血脈の無力な統治から新たな力ある王の統治へと移っていくのだ」
ジルコンの声はうわずり高ぶった。
「イーグル・アイよ、運命の者よ。力衰えた王の下を離れ、力ある王の下へ来るがいい。その時、部族の民は新たなる黄金時代に入り、お前はシャーマンの王となるだろう」
長老ジルコンは王の血脈の御前をもはばからず、これらの言葉を恥も知らずに吐き散らした。ジルコンはイーグル・アイを我が味方につけようとしていたのだ。
しかし、イーグル・アイは動じなかった。口をついて出た言葉は高ぶることなく静かだった。
「長老よ、ありもせぬ力の虜よ。お前の力は幻に過ぎない。お前は自分の胸の内にだけあるものを我が力と思い込んでいる」
イーグル・アイは言葉を継いだ。
「お前の力は偽りに過ぎない。お前は自分で左右することのできぬものを我が力としようとしている」
イーグル・アイの言葉は続いた。
「お前は真の力を知らない。真の力は天地の内にあって無限に流転し、尽きることがない。もし、人に力があるとしたら、それは神々から精霊を通じて預かったものだ。お前の力などありはしないのだ」
いにしえの言葉の朗唱の終わりがいつもそうであるように、イーグル・アイの言葉の最後は草原の青空のような静けさの中へ着地した。
「長老よ、知るがいい。龍は人の手には余るのだ。不埒な思いは捨てよ」
ジルコンは青い目のシャーマンの厳かな言葉にじりじりと追い詰められていくようだった。濁った目は血走り、憤怒に身を震わせている。
「ええいっ、私はお前の存在など認めておらぬぞ。シャーマンなぞ、しょせん世を惑わす迷妄の徒に過ぎぬ!」
つい今しがたシャーマンの力を借りようとしたはずの長老は正反対のことを口にしてはばからなかった。
ジルコンが乱暴に手を一振りすると、ミアレ姫に剣を突きつけていた兵士は一瞬ためらったが、その切っ先を白い喉元へわずかにめり込ませた。
鋭い先端が姫の素肌をほんのわずか傷つけた。一筋の鮮血が喉元から胸へと流れ落ちていく。
しかし、ミアレ姫は微動だにしなかった。その姿はあたかも、世の初めからそこにあって、世の終わりまでそこに在り続けるかのごとくだった。
血を見たジルコンはいよいよ声をうわずらせた。
「見よ。王の血脈といえど流れる血はただの赤い血に過ぎぬ。これ以上の血を流さぬように、女よ、賢明な決断をすることだぞ……」
ミアレ姫はきっぱりと言った。
「クランよ、いけません。この者に従ってはいけない!」
しかし、さすがのクランも動じずにはいられなかった。
この男は人の命など何とも思っていない。この男にとって、この世の全ては、おのれの頭の中の影絵芝居に過ぎないのだ。
その時、クランは胸にあるシャーマンの鏡に光が閃くのを感じた。琥珀の龍、翡翠の龍、石英の龍が、閃光と化して鏡の面に身をひるがえした。それは、ほんの一瞬のことでクラン以外の誰にも見て取ることはできなかった。
クランは龍の加護を直感した。
「長老よ。お前の望み通りにしてやろう。剣を引け」
ジルコンは手を一振りして、ミアレ姫の喉元から剣を引かせた。その顔には勝ち誇ったような笑みが浮かんだ。皺の深い額には粘りつく汗がにじんでいた。
「イーグル・アイは物の分かった人のようだ。姫さまと共に我が宮殿へご招待申し上げる」
ジルコンの命を受けた兵士たちは、ミアレ姫、クラン、そして、いまだ朦朧としてぐったりしているココの三人を連行して洞窟を去った。
後に残ったジルコンは手にした耳の根舌の根に見入って陰湿な笑みを浮かべた。
波打つように揺れる光。そうだ、時の大波がこちらへ押し寄せて来る。闇の王がなんだというのだ。こちらには龍がある。荒ぶる無敵の龍が。
「ついに手に入りましたな。もうこちらのものです」
それまで成り行きを見守るばかりだったバレルがジルコンの横から耳の根舌の根をのぞき込んできた。
「あの女ども、おかしな戯言を並べていましたが恐れることなどありませんよ。あの年寄りシャーマンにも手を貸すように言いましょう。まだ、いくらか寿命が残っているでしょうし、使えるうちに使って……」
バレルを無視していたジルコンは、耳元を何かがかすめたような気がして目を上げた。振り返ると、そこに耳の根舌の根が安置されてあった祭壇があった。
ジルコンはそこに、それまで気が付かなかったある物を見出して驚きの表情になった。
「これは……」
ジルコンがそこに見たのは、髑髏だった。
祭壇に駆け寄ったジルコンは、その髑髏をじっと見つめると、何かに頭を打たれたかのように後ずさり恐れおののいた。
「まさかこれは……いや、そうだ……確かにそうだ……どうして……どうしてこれがここに……」
バレルが祭壇の上を見て、のんびりと言った。
「ほほう、よくできていますなあ、水晶の髑髏とは。昔の人は手が器用だったんでしょう」
ジルコンの目に映っていたのは、しかし、水晶の髑髏ではなかった。古く乾いて褐色の頭蓋骨であった。すなわち、かつては人であったものだ。
ジルコンの手の中で耳の根舌の根が強く光り出した。ジルコンはすでにその光に見とれる余裕を失って、むしろ、恐れに老体を震わせだした。
その様子を見た老シャーマンがしわがれた声を振り絞った。
「長老よ、その髑髏に見覚えがあるであろう!」
「何だと……あるものか、覚えなど……」
衰弱した老シャーマンの姿は地面から生えた枯木のようだった。しかし、いまだ精霊の加護は老シャーマンの元を去ってはいなかった。恐らくはまだ、このシャーマンにも役割があるのだろう。
ジルコンは覚えがないと言いながらも、その髑髏にじっと見入って、目を離すことができない様子だった。
老シャーマンは言った。
「それは放っておけ、長老よ。祭壇の上に置かれているものにはすべて意味がある。しかし、それは精霊にとっての意味だ。人には計り知れぬ」
ジルコンは震える声で尋ねた。
「これは、誰だ。シャーマンよ、お前は知っておるな。これは誰だ。誰の骨だ。答えよ!」
バレルが不思議そうに長老の横顔をのぞき込んだ。
「誰だとおっしゃって、水晶の作り物じゃありませんか。何をそんなに……」
「お前は引っ込んでおれ!」
ジルコンは枯れ枝のような腕でバレルを突き飛ばした。バレルは、あっと叫ぶと、杖を放り出して地面に倒れた。
老シャーマンは光る目をじっと長老に当てていた。
「長老よ、不埒な力の虜よ。分からぬか。いや、知っていて、あえてそう言うのだろう。ここからはシャーマンの領分だ。じたばたしても始まらぬぞ。すでに物語は大河の源流のごとく流れ出しているのだ。お前がその口火を切ったのだ」
ジルコンはよろよろと髑髏から後ずさった。その顔は血の気を失い、蒼白になっていた。
「これはこれは、ミアレ姫様。尊き上にも尊き王の血脈、王国を王国たらしめる証となるお方。このような地下深くでお目にかかろうとは誠に意外なこと」
ミアレ姫の前に王宮の作法通り片膝をついて臣従の意を示したのは、カナ族長老ジルコンだった。
ジルコンは十数人の手勢を率いていた。その者たちはものものしく武装し、先にこの場所に入っていた四人を取り巻いていた。鉱山の警備兵とは違った制服を着ているところを見ると宮殿から引き連れてきた者たちだろう。
コルウスとココはまずいことになったという顔でとっさに逃げ出そうとしたが、すぐさま十数本の剣を突きつけられて後ずさった。剣はミアレ姫とクランへも向けられていた。
ミアレ姫もさすがにやや動揺していたが、まっすぐジルコンへ目を向けて言った。
「長老ジルコンよ。部族の民を導き、族長を助ける者よ。いったい、この剣はどういうつもりです。私たちを亡き者にしようとでも」
「まさか、そのようなこと。私は王国に仕える者。尊き王の血を一滴たりとも流させるようなことはいたしませぬ」
ジルコンの手勢の中に見たことのある顔があった。バレルだ。バレルは故郷へ帰ったのではなかったのか。姫とクランは顔を見合わせた。
バレルは例の襲撃の時、ミアレ姫に情けをかけられていったんは故郷へ向かったが、途中で考えを変え、カナ族の町へ舞い戻った。そして宮殿のジルコンに王の血脈の一行がこの地へ来ていること、ココはとんだ食わせ者だということを教えた。
バレルはそのまま宮殿に身を隠し、旅の一行とココへ密偵をつけて動きを探っていたが、その両方ともこの水晶洞窟に入ったことを知ってジルコンを案内してきたのだった。
バレルは姫とクランの蔑むような視線を受けてジルコンの背後へうしろめたそうな顔を隠した。
そして、もう一人、見たことのある顔があった。あの老シャーマンだ。
ミアレ姫とクランは、あの野営の夜、焚き火の光で見た老シャーマンの顔を忘れていなかった。杖を突き、すっかり弱っている様子なのは我がブンド族の民と引き離されているせいか。あるいは精霊から遠いこの地に長く滞在しているからだろうか。
長老ジルコンは剣の輪の中に捕らえた四人の顔をまじまじと眺めた。
「王の血脈とイーグル・アイ……帝国の軍団長の妻というふれこみの女……そして、闇の王の手下……まったくおかしな取り合わせよ……」
「そうさ、まったくおかしな具合だぜ」
コルウスが作り笑顔を浮かべ両手を左右に開いて話しだした。
「俺はあんたの味方だろう。例の部族戦争の時はそこにいる間抜け軍師のおかげでしくじったが、もうそんなことは……」
「黙れ!」
ジルコンがコルウスの顔に指を突きつけると兵士の剣の切っ先もそちらへ向いた。
「お前にはまったく騙された。闇の王の災厄からこのかた、世には、お前のようなペテン師が蛆虫のごとく涌いてきておるのだ」
「おい、そういきり立つなよ。あの時はな……」
コルウスがさりげなく手を上げて片目を隠す髪に触れようとした時、ジルコンは素早く命じた。
「この者の手を縛れ。邪眼を使わせるな」
兵士がコルウスの腕をつかもうとした時、コルウスは鴉に姿を変えてその手を逃れた。
「あの化け物を逃がすな!」
ジルコンの命令に数人の兵士が駆け出したが、コルウスは翼をひるがえして坑道へ逃れて行った。兵士たちはそれを追って行ったが、やがて漆黒の鴉は闇に紛れて姿を消した。
「まったく、つかみどころのない蛇のような男だ。おい、残りの者たちも縛り上げてしまえ」
吐き捨てるように言ったジルコンへ、バレルがおそるおそる尋ねた。
「ジルコン様、ミアレ姫もお縛りになるのですか。それはあまりにも恐れ多いのでは」
「お前は黙っておれ!」
一喝されたバレルは首をすくめ、卑屈に顔をうつむけた。
ジルコンはミアレ姫へ暗い野望を秘めた目を向けた。
「姫さま、縛る前に例のものをこちらへお渡しください」
「例のものとはいったい何のことです」
「言わずもがな、黒水晶の龍を目覚めさせるための耳の根舌の根です」
老シャーマンが苦痛に満ちたうめき声をもらした。風に吹かれる枯木のように杖にすがって今にも地面に倒れそうになっている。老シャーマンが衰弱しているのは禁忌を犯したためでもあった。
「それが私の手にあるとして、どうして、あなたに渡さねばならないのです」
「これも言わずもがなのこと。この場所はどうやら我が部族の古き聖地らしい。となれば、そこにあるものはすべて我が部族の民のもの。すなわち、カナ族長老である私にはそれをいただく権利がある」
「なるほど。ならば、あなたは長老であるとして、どうしてシャーマンを連れているのです。長老ならばシャーマンの導きがなくとも自由に聖地に入れるはず。あなたは聖地に拒まれたのでしょう。部族の聖地に拒まれた者がどうして長老と称して、その『権利』とやらを主張できるのです」
ミアレ姫が言ったことは全てその通りだった。ジルコンは足止めを受けただけでなく、強烈な吐き気まで催し、坑道の奥で不覚にも嘔吐までしたのだった。バレルが念のためにと老シャーマンを連れて来ていたので、なんとかここへ入ってくることができたのだ。
図星を突かれたジルコンは顔色を赤黒く変え、目を怒らせた。
「つべこべ言わずと耳の根舌の根を渡していただきましょう。この剣が目に入りませぬか。たとえ、イーグル・アイにどのような力があろうと、王の血脈など剣の一突きでこの世から消し去ることができるのですぞ」
耳の根舌の根は姫の手元にあった。クランに渡す直前にジルコンたちが乗り込んできたのだ。
それまで無言だったクランが静かに言った。クランはすでに縛られていた。
「姫さま、構わぬ。渡してやるがいい」
「何ですって。クラン、どういうつもりなのです」
クランはミアレ姫に向かってうなずいた。
「そうしたものは落ちるべき者の手へ落ちるのだ」
ジルコンが勝ち誇ったように笑い出した。
「そうとも、さすがイーグル・アイは物事の道理をわきまえているらしい。さあ、姫さま、お渡しください」
ミアレ姫は袖口に隠していた扇形の薄片を差し出した。
ジルコンがそれを手のひらに受け取ると薄片は波打つように光り出した。
満足げにうなずいたジルコンが顎で合図すると、兵士は姫に縄をかけた。
その時、ココが騒ぎ出した。
「ジルコン様、どうして私まで縛るんです。私はジルコン様のために龍を目覚めさせようとしていただけのこと。そこへ邪魔が入ったのです。私はこの二人の仲間でも何でも……」
ジルコンはココの悪あがきを鼻先で笑い飛ばした。
「その手は食わぬぞ。お前の夫だというペテン師は金の鎖と楔を持ち逃げしようとしたところを捕まえた。今日の明け方頃、洞窟から運び出そうとしたらしい。背負った重みの下敷きになって動けなくなったのを見回りの者が見つけたのだ」
ココはカッとなって悪態をついた。
「あの間抜けめ、何してやがるんだ。ちょっと目を離したすきに」
ココはジルコンが手にしている耳の根舌の根へ向かって顎をしゃくった。
「だけど、あんた。そいつをどうするつもりだい」
ジルコンは薄笑いを浮かべ、顔の前に扇形の薄片をかざして見た。
「さて、どうしたものか。これが龍を目覚めさせる鍵になることは分かっている」
薄片へ向けた目をジロリと横目にして、ジルコンは老シャーマンへ視線を当てた。老シャーマンは杖にすがって丸めた背中を揺らしている。古びたビーズの房が小刻みに揺れて震える音をさせていた。
「しかし、あの黒水晶の龍がいったい何であるのか、私にはいまだに分からぬ。この老いぼれのシャーマンに尋ねても埒が明かぬとなれば、あとは……」
ジルコンは黒水晶の龍の真実の物語を知らなかった。その破滅と再生の物語を。
ココが勢い込んで言った。
「だから、私が言ったじゃないか。帝国じゃありふれたやつだってさ」
「お前はまだそんなことを言っているのか。私がお前の戯れ言を信じるとでも。そのようなものなら、どうして必死になって奪い合うのだ」
「必死になってなんかいないさ。お互いにちょっとした行き違いが……」
ジルコンが手を一振りして合図すると、手勢の一人がココの喉元へ剣の切っ先を突きつけた。ココは白い喉を見せて顔をのけぞらせた。
「もう、お前は黙っておれ。お前のような安っぽいペテン師を信用した自分が腹立たしくなるわ。さて、姫さま……」
ジルコンはまたもかつての王宮の作法に則ってお辞儀をして見せた。その深く皺の刻まれた顔に皮肉の色がにじんでいた。
ミアレ姫は毅然として目を怒らせた。
「そのようなうわべばかりの礼儀が何になります。この手をほどきなさい。それに、クランとあの女も解放するのです」
優雅な仕草で身を起こしたジルコンは口元に薄笑いを浮かべていた。
ジルコンは在りし日の王宮のあらゆる礼儀作法に通じていた。すなわち、あらゆる力関係に精通していたということだ。その表も裏も、ジルコンは自分の手のひらを指すように知り尽くしていた。
「そうは参りませぬ。王の血脈がこのような場所で何をしておられるのか。私の腑に落ちるようにしていただかぬ限りは」
姫は無礼な薄笑いへ王族の威厳をもって答えた。
「ジルコン老よ。私がこの地を目指したのは王都を逃れた難民が元の囚人鉱山で酷使されていると聞いたからです。その惨状はすでにこの目で見せてもらいました。あなたは王都の民を虐げ、その生命を搾り取っている」
ジルコンはまるで仮面のように薄笑いを顔に貼り付けていた。
「なるほど。しかし、ものは見ようというものです。私たちは彼らを救ってやったので、決して虐げているつもりなどありません。故郷を失った者のため、第二の故郷を与えてやっているのではありませんか」
ミアレ姫が何か反論しようとするのを優雅な手つきでさえぎって、ジルコンは言った。
「されど、そのことについては別にお話させていただくとしましょう。私が今、お尋ねしたいのは、なにゆえに、このような立ち入りを禁じられた危険な鉱山の奥へ入り込んで来られたのかということです」
しばし黙していたミアレ姫だが、やがて口を開いた。
「私は黒水晶の龍の目覚めを防ぐために来たのです。耳の根舌の根を誰の手にも渡さぬように」
「黒水晶の龍と王の血脈とどのような関わり合いがあるのでしょう。私には分かりかねますが」
とっさにココが口をはさんだ。
「何をすっとぼけたことをぬかしているんだい。あんた、龍を使って王国を横取りしようって魂胆だろう。見え透いているじゃないか。そうとなれば王の血脈だって黙っていられないだろうよ」
苛立たしげにジルコンが手を振ると、剣の切っ先はさらにココの喉元へ迫った。
ココはヒイッと叫び声を上げ、後ろへ大きく身体を反らした。
ジルコンは手にした耳の根舌の根のたたえる光にじっと見入った。その目がしだいに夢想するような色に変わっていく。
「奇妙なことだ。我らが黒水晶の龍を掘り出したとたん、詐欺師が現れ、闇の王の手下が現れ、王の血脈、そして、イーグル・アイまでが現れた……」
その声までもが、どこか自己陶酔の響きを匂わせだした。
「これはいかなることか。いまや我がカナ族の地に力が集中しつつあるのではないのか。時が来たのではないのか。新しい王国、新しい王権を生む力の時が」
それまで黙っていたクランが静かにいにしえの言葉を朗唱しはじめた。
ジルコンの手の中でそれに呼応するように耳の根舌の根の光が揺れはじめた。
夢想に酔う長老の妄想を断ち切るようにクランは朗唱をやめた。
「長老よ、時など来てはいない。それにこの地に集まっている力はことごとく闇の力へ繋がるものだ。お前は部族の民の足元へ闇の力を呼び寄せようというのか」
クランの言葉にジルコンは動じなかった。おそらくその真意を解しえなかったのだろう。
「シャーマンは、いや、イーグル・アイは何かご存知のようだ。教えてもらいたい。黒水晶の龍とは何か」
クランはシャーマンの禁忌のしるしで答えた。
薄笑いを浮かべたジルコンはシャーマンの反対向きに顔をそむけ、忌々しげに唾を吐いて見せた。
ジルコンもそろそろ苛立ちを露わにしはじめた。手を振って合図すると兵士が剣を構え直した。兵士が切っ先を向けたのは、こともあろうに王の血脈の喉元だった。
ジルコンが率いるこの手勢は忠実な飼い犬のように仕込まれていて、飼い主の命令に疑問を抱かぬようにされていた。
鋭く光る切っ先にも動じず、ミアレ姫は毅然とした物腰を保っていた。
「ジルコン老よ。この切っ先の意味、お聞かせ願いましょうか」
薄笑いを消したジルコンは怖れを知らぬ冷酷な目つきになった。
「王の血脈よ、地に堕ちた抜け殻の力よ。黒水晶の龍にはとてつもない力が秘められていると私は推測しております。あとはそれを解き放ち、王国を新たな道に導く。それが、その切っ先の意味でございます」
ココが、ついに本性現しやがったと叫んだが、すでにジルコンは仮面を脱ぎ捨て、素顔の醜さを露わにすることをためらわなかった。
ジルコンはクランに対して荒々しい口調で尋ねた。
「イーグル・アイよ、答えよ。あの龍の力のこと、この根のこと、そして龍が目覚めた時、何が起こるのかを。シャーマンの禁忌と王の血脈の命、引き換えにできるか。どうだ」
クランもさすがに怒りを面に現していた。
「お前はついさっき、尊き王の血を一滴たりとも流させるようなことはせぬと、そう言ったぞ。それなのにその剣はどういうつもりだ」
シャーマンのビーズの飾りが揺れるのをジルコンは蔑むような目で眺めた。
シャーマンのビーズは彼らカナ族が珍重する宝石ではなく、獣の骨や歯、草原に転がる石ころや木切れなど、その気になれば大地からいくらでも拾い上げることのできるありふれたものに過ぎなかった。
「イーグル・アイは王宮の作法を心得ぬらしい。あれは一種の決まり文句。王宮では忠誠心の例えにそんなことを口にするのだ。しょせん言葉など虚しいものだ。頼れるのは、この目で見ることができ、この手でつかむことができるもののみ。すなわち、それが力。例えば、その剣よ」
ジルコンが合図すると、兵士は切っ先をさらに近く、ミアレ姫の喉元に突きつけた。
姫は動じず、ココのように身をのけぞらすようなこともなかった。
クランは口をつぐんで黙したままでいた。その青い目には迷うような色がある。
ここで王の血脈を失ってしまっては元も子もない。しかし、この野望に目のくらんだ長老に龍の持つ秘めた力を教えてやることは盗賊に無敵の剣を与えてやるようなものだった。
ジルコンが二度目の合図をすると、兵士は冷酷な目になりミアレ姫の喉元に剣を近づけた。その鋭い切っ先はほとんど姫の白い肌に触れんばかりだった。
その時、たまりかねて大声を上げたのはココだった。
「やめないかい。まったく野蛮な連中だねえ。分かったよ、私がイーグル・アイの代わりに教えてやろうじゃないの。イーグル・アイはれっきとしたシャーマン。それもシャーマンの中のシャーマンだからね、命に換えても禁忌は破れないんだ。私はそんなんじゃない」
ジルコンはうんざりした表情になり横目でココを見た。
「お前などに何が分かる。偽軍団長の妻かと思えば、偽シャーマン。そのうえ、偽闇の王の連れあい。お前など、しょせんは尻軽なペテン師に過ぎぬであろうが」
ココは引きつった顔に嘲りの笑みを浮かべた。
「あんたはそこにいる年寄りのシャーマンを何だと思っているんだい。勝手にこんなところへ連れ来たりしてさ、あの年寄りは私がもらい受けたはずじゃないか。あれはね、王国でも一番の法力を持ったシャーマン。荒れ野に潜んでいたミアレ王妃と後のシュメル王。つまり、まだガキの頃のシュメル坊やを探し当てたシャーマンさ。あんた、このことに覚えがありゃあしないかい」
まるで雷に打たれたかのようにジルコンは驚きに目を見開いた。額の深い皺がより深くなって暗い谷間を成した。
ジルコンは詰問するような目でバレルを見た。そもそも、この老シャーマンはバレルが連れてきた者だった。バレルが、そんなことは知らなかったという顔でかぶりを振ると、ジルコンはココへ顔を向け直した。
「それがお前に何の関わりがあるというのだ」
ココは注意深くバレルの表情を観察しながら言った。
「関わりなら大ありさ。私はあのシャーマンの娘だよ」
これには、ジルコンばかりでなく、クランも驚く目になった。
「さすがのイーグル・アイも驚いたようだね。安心しな、私はシャーマンになる前にブンド族のところを離れたんだ。でも、シャーマンの言葉は忘れたくても頭にこびりついて離れないんだよ。もちろん、黒水晶の龍のことだってちゃんと知ってる。私に禁忌なんかないからね。そこにいる年寄りが出し惜しみした分まであらいざらい話してやろうか」
クランとミアレ姫はココに向かって非難するような目を向けたが、ココは、フンと鼻で笑った。
「なあに、平気さ。黒水晶の龍の物語を聞いたら誰だって、そんな恐ろしいものを目覚めさせようなんて思わないだろうよ。どうしてこの話を隠しておかなくちゃならないのか私には分からないね。世の中には、はっきり言ってやらなくちゃ分からない馬鹿ってのがいるんだから」
ココは黒水晶の龍の物語をジルコンに聞かせた。
神々でさえ、また、イーグル・アイでさえ手を焼いた、その荒ぶる力。不可視で無秩序で無限定な盲目の力。
その力を鎮め、その身体を結界として、その内へ封じ込めた神々の光。イーグル・アイは神々の使いとなって働いた。
「……つまり、人の手には負えないってことさ。あんたのもうろくした頭でも、それくらい分かるだろう」
ココの話を聞くうちにジルコンの目はしだいに妖しい光をたたえだした。その心に暗い夢想が広がっていく。
ココは得意になって話し続けていた。お偉い部族の長老といえど、神々と精霊とイーグル・アイの世界になど足元に這い寄ることもできまい。
「あんたが持っているのはお察しのとおり耳の根舌の根といって龍を目覚めさせるのに必要な鍵さ。これで分かっただろう、あの龍が目を覚ましたら大変なことになるよ。馬鹿な魂胆は捨てることさ。ちょっと、あんた。どうしたんだい、おかしな目つきしてさ」
ようやくココはジルコンの妖しい目の光に気付いた。深く刻まれた皺の奥にのぞく目のギラつきは地割れの奥から炎の舌を出す地底の業火のようだった。
ジルコンはしわがれた声で言った。
「なるほど、よく分かった。それで、耳の根舌の根をどのように使えば龍を目覚めさせることができるのだ」
「それは、シャーマンの言葉にもないことさ。当たり前だろ、そんなことを知ってどうするんだい。知らなくていいことってのが、この世にはあるんだよ。あんた、私の言ったことが分からなかったのかい。これは人がどうのこうのできることじゃないんだ」
ジルコンはじっと考え込んでいたが、やがて何事か思い当たった様子で顔を上げた。
「……そうか……イーグル・アイだな……イーグル・アイならそれを知っているのだろう。お前がバレルに、イーグル・アイの一行の拉致を頼んだのもそれを狙ってのことか。お前は私を出し抜こうとしたのだ。バレルの愚かさをいいことに」
ココは、ギクリとなって大声を上げた。
「なんだって、馬鹿言ってんじゃないよ。そ、そんなこと……ああっ!」
ジルコンの手の合図ひとつで、ココは剣の柄頭で頭を打たれ、地面に倒れて気を失ってしまった。
そうやってわずか手の一振りで脅し、殴り、人の命を奪う。ジルコンにとって人とは利用価値のある数であり、利用価値がなくなればそれは零なのだった。
ジルコンはクランの目の前に来て扇形の薄片を示した。薄片には光の小波が打ち寄せていた。
「イーグル・アイよ。この耳の根舌の根を使って龍を蘇生させてもらいたい。お前ならできるはず」
クランは静かに答えた。
「お前はこの世の破滅を見たいのか。部族の民の足元だけでなく、頭上にも忌まわしい力を呼び寄せようというのか」
ジルコンは目を妖しく光らせながら笑っていた。目の端、口の端が吊り上がって、皺の刻まれた顔は汗ばみ紅潮していた。
「イーグル・アイよ、世を救う者よ。聞くがよい。黒水晶の龍を使って王都から闇の王を追い払うのだ。その時、新たな世は来る。世は王の血脈の無力な統治から新たな力ある王の統治へと移っていくのだ」
ジルコンの声はうわずり高ぶった。
「イーグル・アイよ、運命の者よ。力衰えた王の下を離れ、力ある王の下へ来るがいい。その時、部族の民は新たなる黄金時代に入り、お前はシャーマンの王となるだろう」
長老ジルコンは王の血脈の御前をもはばからず、これらの言葉を恥も知らずに吐き散らした。ジルコンはイーグル・アイを我が味方につけようとしていたのだ。
しかし、イーグル・アイは動じなかった。口をついて出た言葉は高ぶることなく静かだった。
「長老よ、ありもせぬ力の虜よ。お前の力は幻に過ぎない。お前は自分の胸の内にだけあるものを我が力と思い込んでいる」
イーグル・アイは言葉を継いだ。
「お前の力は偽りに過ぎない。お前は自分で左右することのできぬものを我が力としようとしている」
イーグル・アイの言葉は続いた。
「お前は真の力を知らない。真の力は天地の内にあって無限に流転し、尽きることがない。もし、人に力があるとしたら、それは神々から精霊を通じて預かったものだ。お前の力などありはしないのだ」
いにしえの言葉の朗唱の終わりがいつもそうであるように、イーグル・アイの言葉の最後は草原の青空のような静けさの中へ着地した。
「長老よ、知るがいい。龍は人の手には余るのだ。不埒な思いは捨てよ」
ジルコンは青い目のシャーマンの厳かな言葉にじりじりと追い詰められていくようだった。濁った目は血走り、憤怒に身を震わせている。
「ええいっ、私はお前の存在など認めておらぬぞ。シャーマンなぞ、しょせん世を惑わす迷妄の徒に過ぎぬ!」
つい今しがたシャーマンの力を借りようとしたはずの長老は正反対のことを口にしてはばからなかった。
ジルコンが乱暴に手を一振りすると、ミアレ姫に剣を突きつけていた兵士は一瞬ためらったが、その切っ先を白い喉元へわずかにめり込ませた。
鋭い先端が姫の素肌をほんのわずか傷つけた。一筋の鮮血が喉元から胸へと流れ落ちていく。
しかし、ミアレ姫は微動だにしなかった。その姿はあたかも、世の初めからそこにあって、世の終わりまでそこに在り続けるかのごとくだった。
血を見たジルコンはいよいよ声をうわずらせた。
「見よ。王の血脈といえど流れる血はただの赤い血に過ぎぬ。これ以上の血を流さぬように、女よ、賢明な決断をすることだぞ……」
ミアレ姫はきっぱりと言った。
「クランよ、いけません。この者に従ってはいけない!」
しかし、さすがのクランも動じずにはいられなかった。
この男は人の命など何とも思っていない。この男にとって、この世の全ては、おのれの頭の中の影絵芝居に過ぎないのだ。
その時、クランは胸にあるシャーマンの鏡に光が閃くのを感じた。琥珀の龍、翡翠の龍、石英の龍が、閃光と化して鏡の面に身をひるがえした。それは、ほんの一瞬のことでクラン以外の誰にも見て取ることはできなかった。
クランは龍の加護を直感した。
「長老よ。お前の望み通りにしてやろう。剣を引け」
ジルコンは手を一振りして、ミアレ姫の喉元から剣を引かせた。その顔には勝ち誇ったような笑みが浮かんだ。皺の深い額には粘りつく汗がにじんでいた。
「イーグル・アイは物の分かった人のようだ。姫さまと共に我が宮殿へご招待申し上げる」
ジルコンの命を受けた兵士たちは、ミアレ姫、クラン、そして、いまだ朦朧としてぐったりしているココの三人を連行して洞窟を去った。
後に残ったジルコンは手にした耳の根舌の根に見入って陰湿な笑みを浮かべた。
波打つように揺れる光。そうだ、時の大波がこちらへ押し寄せて来る。闇の王がなんだというのだ。こちらには龍がある。荒ぶる無敵の龍が。
「ついに手に入りましたな。もうこちらのものです」
それまで成り行きを見守るばかりだったバレルがジルコンの横から耳の根舌の根をのぞき込んできた。
「あの女ども、おかしな戯言を並べていましたが恐れることなどありませんよ。あの年寄りシャーマンにも手を貸すように言いましょう。まだ、いくらか寿命が残っているでしょうし、使えるうちに使って……」
バレルを無視していたジルコンは、耳元を何かがかすめたような気がして目を上げた。振り返ると、そこに耳の根舌の根が安置されてあった祭壇があった。
ジルコンはそこに、それまで気が付かなかったある物を見出して驚きの表情になった。
「これは……」
ジルコンがそこに見たのは、髑髏だった。
祭壇に駆け寄ったジルコンは、その髑髏をじっと見つめると、何かに頭を打たれたかのように後ずさり恐れおののいた。
「まさかこれは……いや、そうだ……確かにそうだ……どうして……どうしてこれがここに……」
バレルが祭壇の上を見て、のんびりと言った。
「ほほう、よくできていますなあ、水晶の髑髏とは。昔の人は手が器用だったんでしょう」
ジルコンの目に映っていたのは、しかし、水晶の髑髏ではなかった。古く乾いて褐色の頭蓋骨であった。すなわち、かつては人であったものだ。
ジルコンの手の中で耳の根舌の根が強く光り出した。ジルコンはすでにその光に見とれる余裕を失って、むしろ、恐れに老体を震わせだした。
その様子を見た老シャーマンがしわがれた声を振り絞った。
「長老よ、その髑髏に見覚えがあるであろう!」
「何だと……あるものか、覚えなど……」
衰弱した老シャーマンの姿は地面から生えた枯木のようだった。しかし、いまだ精霊の加護は老シャーマンの元を去ってはいなかった。恐らくはまだ、このシャーマンにも役割があるのだろう。
ジルコンは覚えがないと言いながらも、その髑髏にじっと見入って、目を離すことができない様子だった。
老シャーマンは言った。
「それは放っておけ、長老よ。祭壇の上に置かれているものにはすべて意味がある。しかし、それは精霊にとっての意味だ。人には計り知れぬ」
ジルコンは震える声で尋ねた。
「これは、誰だ。シャーマンよ、お前は知っておるな。これは誰だ。誰の骨だ。答えよ!」
バレルが不思議そうに長老の横顔をのぞき込んだ。
「誰だとおっしゃって、水晶の作り物じゃありませんか。何をそんなに……」
「お前は引っ込んでおれ!」
ジルコンは枯れ枝のような腕でバレルを突き飛ばした。バレルは、あっと叫ぶと、杖を放り出して地面に倒れた。
老シャーマンは光る目をじっと長老に当てていた。
「長老よ、不埒な力の虜よ。分からぬか。いや、知っていて、あえてそう言うのだろう。ここからはシャーマンの領分だ。じたばたしても始まらぬぞ。すでに物語は大河の源流のごとく流れ出しているのだ。お前がその口火を切ったのだ」
ジルコンはよろよろと髑髏から後ずさった。その顔は血の気を失い、蒼白になっていた。
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