88 / 206
第八十八章
しおりを挟む作戦会議は終わり、その日はそのまま義両親の所に泊まることになっていたのに……なぜ、私はカイナル様に抱き締めれて、自室で寝ているのでしょうか?
答えは、深夜私が寝ている部屋に忍込み運んだまま寝たからでした。
じゃないわよ!! さすがに、これはアウトよ!! アウト!! 年齢的にもね!! それに、婚約をしている状態だけど、結婚するまでは同衾は駄目でしょ!! あ~~外れない。抱き枕みたいに抱え込まれてる!!
「…………また、俺から離れようとするのか? 暴れるほど俺のことは嫌いなのか? だが、俺はどんな手を打ってもシアを離したりはしない。絶対、逃さない。逃がすものか。シアの全ては俺のものだ。なのに、シアは俺以外に肌を見せた。許さない。許さない。許さないよ、シア。ほんとに、シアは悪い子だな。躾をしなくては。でも大丈夫。俺は寛――」
病み度がさらに進んでる。嫌いって言って飛び出したのが悪化の原因だって、わかってはいるけど、自分の母親にも敵意を顕にするものなの!? 呆れるっていうか、ほんとカイナル様らしいわ。
私は小さな溜め息を吐くと、ジタバタするのを止めて大人しく抱き枕になることにした。
「離れたりはしませんよ。少し喧嘩をしただけじゃないですか……これから、長い時間を一緒に暮らすのですから、喧嘩ぐらいしますよ。寧ろ、しない方がおかしいですよ」
永遠に続きそうなので途中で遮った。
「……喧嘩は嫌だ。嫌いだと言われただけで、差し出し手を拒否されただけで、俺の胸は潰れそうに痛む。もう、あんな痛みは味わいたくない」
切実で悲壮感たっぷりで、ましてや泣きそうな声で、カイナル様は今の気持ちを吐露する。
大陸一の強さを持ち、数々の武運を若くしてあげたこの王国の英雄様――
軍馬に跨り王都を行進する姿は、本当に美しくて神々しくて、私は一生忘れないと思う。
あのカイナル様と今のカイナル様、どっちがいいかと訊かれたら、私は今のカイナル様を選ぶかな……病んでる時は厄介だけど、人間味があって温かいの……心も身体もね。カイナル様には絶対言わないけど。
「……カイナル様は、私に怒るなと言いました。カイナル様は怒って、伯爵家と連なる家に制裁を与えたのに」
「俺はシアの身が危険なことはしたくないだけだ!! なぜ、それをわかってくれないんだ」
「カイナル様が私の身を案じてくれたのはわかってます。私は人族ですから。でも、カイナル様が与えてくれた魔法具で、私は常に護られてます」
「だとしても――」
どう説明したら、カイナル様は気付いてくれるの。私がなぜ、ここまで怒っているのかを。
「私は自分が馬鹿にされて、蔑まれてたことに怒ってない。だってそうでしょ。私は平民なのは間違いなくて、容姿も華やかさなんて持ってないし、子供だし平凡だよ。私が怒ったのは、カイナル様が私のせいで馬鹿にされたから。番である私を非難することは、私を選んだカイナル様を非難することでしょ。だから、私は自分を囮にしようと思ったの。私が怒るのは、カイナル様が馬鹿にされたからだよ。大事な人を馬鹿にされたからだよ」
話の途中でそれは違うとか口を挟んできたけど、私は続けて言った。言葉遣いを気にする余裕なんてなかった。
「シア……」
カイナル様が優しく抱き締めようとした手を私は払い除け、ベッドから身体を起こした。
「だから、怒るななんて言わないで!! 私の感情を否定しないで!! お願いだからしないで……」
感情が一気に爆発したみたいだった。感情が高ぶりすぎて涙が出てしまう。妄想女が言っていた通り、今の私は馬鹿丸出し。わかってるのに、涙が止まらない。
すっごく、不細工な顔になってるよね。平凡な顔が益々酷くなってる。カイナル様、硬直してるし。
これ以上、泣き顔を見られたくなくて、私は寝巻きのまま部屋を飛び出した。カイナル様は追いかけてこなかった。
カイナル様の馬鹿――!!
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜
シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。
アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。
前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。
一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。
そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。
砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。
彼女の名はミリア・タリム
子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」
542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才
そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。
このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。
他サイトに掲載したものと同じ内容となります。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。


うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。


日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる