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第五十章
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第五十章
クランとナナは三日の間、森を彷徨った。
「見ろ、トナカイの足跡だ」
ナナが指差す地面を見たが、クランには枯れ葉と黒い土と霜らしき氷の結晶しか見えなかった。鷲狩りはしても、森で獣の足跡を追うような狩りはしたことがない。
トナカイの足跡を見つけ、けもの道をたどる。それはナナの役割だった。
クランはその後ろから冷気の剣をかざし、二頭の馬を曳いてついていく。オローはハルの鞍の上にとまって羽を休めていた。
翡翠の龍が授けてくれた剣の力により、白い霧は透き通る氷の微粒子に変わって空中を漂っていた。まわりの木の幹がゆがんで見え、二人はおぼろな夢の中を進んでいるようだった。
あるかなきかのけもの道を進むと、木立の陰にトナカイを見つけることができた。しかし、それは白トナカイでなく、普通のトナカイだった。
トナカイたちは霧の中で眠っていた。
トナカイは三頭いた。父と母と子だろうか。長い毛並みに霧の水滴をきらめかせ、三頭が一頭になったように丸めた身を寄せ合っていた。
クランはトナカイたちの眠りを覚まさぬようにひそひそ声で話した。
「これでは狩りもできないな」
「そうだ。少なくとも人と獣が対等でなければ」
ナナは獣たちの静かな息づかいに耳を澄ましていた。
クランは言った。
「闇の王など、どこ吹く風だ。平和なものだな」
「イーグル・アイよ、獣たちが眠り込んでいるのを平和と呼ぶのなら、そう呼んでもよい。しかし、森の獣たちは狩ったり狩られたりしているのが日常なのだ。それが、森の生命というものだ」
クランは翡翠の龍のまばたきを思った。
「なるほど、龍は森の生命を眠り込ませているわけだ。龍のうたた寝は百年か、千年か……」
「あるいはもっとかも知れない。いずれにせよ森が滅びれば部族の民も滅びるのみだ。ここではない別の道をたどろう。さっきの足跡は古かった。御使いが歩き回っているのなら、もっと新しくなくては」
また別の足跡を探すうちに、その日は暮れた。
二人は森の奥に洞窟を見つけた。昨日おとといの夜は二人してナナの用意した毛布にくるまり木の根方で眠ったものだが、洞窟はそれよりずっと快適だった。
ナナが手際よく火を起こし、二人は下ろした馬鞍にもたれかかった。馬たちは洞窟の入り口あたりで草を食っている。
オローは地面から突き出た岩の上に止まっていた。クランは干し肉をオローに食わせた。食料として持ってきた干し肉はしだいに心もとなくなってきた。
ナナに尋ねると、森のこの辺りの地形にはまったく覚えがないと言う。
「それでは引き返すこともできないな」
クランが言うと、ナナは少しやつれたようでもある横顔に決意の目を光らせていた。
「引き返すつもりなどない。ただ、この森が私の知っている森かどうか、どうも確信がなくなってきた。どうだ、イーグル・アイよ、強きシャーマンよ。ひょっとしてこれはすべて夢ではないのか」
クランは口元に薄く笑みを浮かべた。
「お前もそんな気がするのか、ナナよ、深き森の狩人よ。私もずっとそんな気がしていた。しかし、龍は言った。たとえ夢でもなすべきことをなせとな」
「そうか、じゃあ今なすべきは……眠ることだ……」
ナナは鞍を枕に目を閉じると寝息をたて始めた。あどけなさの残る顔だが、黒いすすでつけた狩人のしるしが凛々しく見えた。
焚き火の炎に見入ったクランは思案していた。足跡を追ううち、ナナも知らぬ半ば夢のような森の奥へやって来た。これはそう導かれているに違いない。
顔を上げたクランはふと洞窟の奥を見た。目に炎の残像がちらついている。
いや、それだけではない。何かがあった。
クランは立ち上がり、真の闇に沈んでいる洞窟の奥へ目をやった。焚き火の光が届かぬ向こうに、やはり何かがある。
クランはそちらへ向かって歩いていった。低く、極めて低く朗唱を始めると、闇の奥からおぼろげな木霊が返ってきた。
洞窟の入り口でオローが一声、鋭く鳴いた。その声に背を押されるようにクランは洞窟の奥へ踏み込んだ。
壁に手を当てていくらか進むと、クランは前も後ろも見えないほどの闇に包み込まれた。
視野は闇一色だ。やがて目の奥に光がきらめきだした。光はどこからともなく湧き上がったかと思うと、震えながら身をよじり、脈打ち、踊るように疼いて破裂した。
実体のない光がしだいに形を成してきた。月よりも真実に丸い円が、地平線よりも真実にまっすぐな線が、脳裏に浮かび上がった。それらの純粋な形は無限の変化を見せた。それは肉体を伴わぬ舞踊だった。
どれだけの時間が経ったのか。その意識もないままにクランは不意に白トナカイを見た。まばゆいほどに白い毛がかすかに風を孕んで揺れている。
白トナカイは白い角を振って横を向いた。その方向に強い光があった。白トナカイはその方向へ駆け去り、光の中に姿を消した。
クランは洞窟を戻り、焚き火のそばで眠っているナナを揺り起こした。
「ナナよ、お前に見せたいものがある」
ナナはものも言わずにクランについてきた。クランは知るよしもなかったが、ナナはこの時、部族の成人の儀式のことを思い出していた。
十五歳になると、サンペ族の若者たちは一人づつ大人たちに森の奥へ連れて行かれ、見知らぬ場所に置き去りにされる。そこは聖地の近くだが、鬱蒼とした森が広がっていて自力で聖地にたどり着いた者はいない。
狩りの道具もなく食料もないまま、数日、森を彷徨い、地面に倒れていると、仮面をかぶった者に揺り起こされる。
夢うつつのまま若者はそこから聖地へ連れて行かれ、部族の伝承と禁忌を知らされた後、トナカイの血の入った酒を飲むのだった。
「族長の娘よ、部族の禁忌に触れるかも知れぬ。もし、そうなら目を背けろ」
そう言うと、クランは焚き木から作った松明を手にナナを洞窟の奥へ導いた。
松明の光に照らされた洞窟の壁は乾いて表面はなめらかだった。少し天井の低いところを背を屈めて入ると、そこには大きな空間が広がっていた。
「これだ……」
クランは松明をかかげて、ナナに示した。
壁一面に古代の部族の民が描いたものだろう、壮麗な壁画が描かれていた。
鹿も狐も栗鼠も、また、熊も狼も、森で見られる獣はすべて描かれているようだった。その獣たちはどれも生きている姿そのままに、走り、跳ね、身構え、立ち上がっていた。
そこには人の姿も描かれてあった。弓を構え、矢を放っている。今のサンペ族は使わないが長槍を持っている者もいた。今の森では見たこともない巨大な四足獣を狩っている様子もある。
その中にはトナカイの群れもあった。群れは波打つような曲線を描いて地を駆けていた。木立を抜け、岩を越えて、身をひるがえす姿だ。
ナナが叫んだ。
「これは御使いだ。私が見たものと同じだ」
トナカイの群れの先頭に白トナカイの姿があった。
「お前は御使いに会ったことがあるのだな」
クランが聞くと、禁忌を恐れず、ナナはうなずいた。ナナは松明の光に浮き上がるクランの横顔を見た。
「よくこんなものを見つけたな。ここにこんなものがあろうとは我が部族の民の誰も知らぬはずだ」
「私は真っ暗な龍の腹の中で三日三晩過ごした。それからは見るべきものがある時はそれと分かるようになった」
「それがイーグル・アイか」
感心した様子のナナへ、クランは青い片目を向けた。
「ナナよ、狩人の娘よ。お前だって森の中では同じことをしているはずだ。お前にしか見えないものもあるだろう」
二人は白トナカイの壁画を調べた。
白トナカイの行く手に太陽らしき形が描かれていた。そこから放たれる光が線条となって岩壁に走っていた。
ふと、ナナが言った。
「私は森の中で何度か御使いに会ったことがある。しかし、すぐに姿を隠してしまった。私は不思議に思うのだ。どうやって鷲の刺青のならず者は御使いに近づき、傷をつけることができたのか」
「コルウスの持つ剣は闇をまとっている。闇に引き寄せられたのだろう」
クランの言葉にナナは反論した。
「しかし、この絵では光の方へ向かっておるではないか」
「光と闇は表裏一体だ。光の向こうに闇があり、闇の彼方に光がある」
ナナはクランへ目を向けた。二人の顔にある狩人のしるしが姉妹のように見えた。
クランは言った。
「王国は闇の王によって侵食されている。我らは闇と闘う。しかし、我らは闇をこの世界から完全に追い払うことなどできないのだ。光の側にいる時は闇を思い、闇の側にいる時は光を思う。そこにしか我らの生命はない。自由もない」
ナナはクランの青い瞳に見入った。
「……永遠もか」
「そうだ、ナナよ。我らが白トナカイなのだ」
クランは朗唱を始めた。洞窟にいにしえの言葉が木霊して空気を震わせた。その響きは時を静止させるようにも、また一瞬で数千年を経過させるようにも思えた。
ナナはまた成人の儀式を思い出していた。あのトナカイの血の酒を口にした瞬間の気が遠くなるような、そして、同時に身内の血が燃え立つような感覚。
ナナはもう一度、壁画へ目を向けた。
ナナの視野の中で白トナカイが動き出した。白トナカイは光を現す線条の上を駆けたが、やがて、それは明暗反転して闇に変わった。
闇に転じても白トナカイは駆け続けていた。振りたてられる角、揺れる毛並み、地を蹴る四本の脚。
やがて、ナナは言った。
「イーグル・アイよ。我らは闇を追ってみようではないか」
クランは青い目を輝かせてうなずいた。
クランとナナは三日の間、森を彷徨った。
「見ろ、トナカイの足跡だ」
ナナが指差す地面を見たが、クランには枯れ葉と黒い土と霜らしき氷の結晶しか見えなかった。鷲狩りはしても、森で獣の足跡を追うような狩りはしたことがない。
トナカイの足跡を見つけ、けもの道をたどる。それはナナの役割だった。
クランはその後ろから冷気の剣をかざし、二頭の馬を曳いてついていく。オローはハルの鞍の上にとまって羽を休めていた。
翡翠の龍が授けてくれた剣の力により、白い霧は透き通る氷の微粒子に変わって空中を漂っていた。まわりの木の幹がゆがんで見え、二人はおぼろな夢の中を進んでいるようだった。
あるかなきかのけもの道を進むと、木立の陰にトナカイを見つけることができた。しかし、それは白トナカイでなく、普通のトナカイだった。
トナカイたちは霧の中で眠っていた。
トナカイは三頭いた。父と母と子だろうか。長い毛並みに霧の水滴をきらめかせ、三頭が一頭になったように丸めた身を寄せ合っていた。
クランはトナカイたちの眠りを覚まさぬようにひそひそ声で話した。
「これでは狩りもできないな」
「そうだ。少なくとも人と獣が対等でなければ」
ナナは獣たちの静かな息づかいに耳を澄ましていた。
クランは言った。
「闇の王など、どこ吹く風だ。平和なものだな」
「イーグル・アイよ、獣たちが眠り込んでいるのを平和と呼ぶのなら、そう呼んでもよい。しかし、森の獣たちは狩ったり狩られたりしているのが日常なのだ。それが、森の生命というものだ」
クランは翡翠の龍のまばたきを思った。
「なるほど、龍は森の生命を眠り込ませているわけだ。龍のうたた寝は百年か、千年か……」
「あるいはもっとかも知れない。いずれにせよ森が滅びれば部族の民も滅びるのみだ。ここではない別の道をたどろう。さっきの足跡は古かった。御使いが歩き回っているのなら、もっと新しくなくては」
また別の足跡を探すうちに、その日は暮れた。
二人は森の奥に洞窟を見つけた。昨日おとといの夜は二人してナナの用意した毛布にくるまり木の根方で眠ったものだが、洞窟はそれよりずっと快適だった。
ナナが手際よく火を起こし、二人は下ろした馬鞍にもたれかかった。馬たちは洞窟の入り口あたりで草を食っている。
オローは地面から突き出た岩の上に止まっていた。クランは干し肉をオローに食わせた。食料として持ってきた干し肉はしだいに心もとなくなってきた。
ナナに尋ねると、森のこの辺りの地形にはまったく覚えがないと言う。
「それでは引き返すこともできないな」
クランが言うと、ナナは少しやつれたようでもある横顔に決意の目を光らせていた。
「引き返すつもりなどない。ただ、この森が私の知っている森かどうか、どうも確信がなくなってきた。どうだ、イーグル・アイよ、強きシャーマンよ。ひょっとしてこれはすべて夢ではないのか」
クランは口元に薄く笑みを浮かべた。
「お前もそんな気がするのか、ナナよ、深き森の狩人よ。私もずっとそんな気がしていた。しかし、龍は言った。たとえ夢でもなすべきことをなせとな」
「そうか、じゃあ今なすべきは……眠ることだ……」
ナナは鞍を枕に目を閉じると寝息をたて始めた。あどけなさの残る顔だが、黒いすすでつけた狩人のしるしが凛々しく見えた。
焚き火の炎に見入ったクランは思案していた。足跡を追ううち、ナナも知らぬ半ば夢のような森の奥へやって来た。これはそう導かれているに違いない。
顔を上げたクランはふと洞窟の奥を見た。目に炎の残像がちらついている。
いや、それだけではない。何かがあった。
クランは立ち上がり、真の闇に沈んでいる洞窟の奥へ目をやった。焚き火の光が届かぬ向こうに、やはり何かがある。
クランはそちらへ向かって歩いていった。低く、極めて低く朗唱を始めると、闇の奥からおぼろげな木霊が返ってきた。
洞窟の入り口でオローが一声、鋭く鳴いた。その声に背を押されるようにクランは洞窟の奥へ踏み込んだ。
壁に手を当てていくらか進むと、クランは前も後ろも見えないほどの闇に包み込まれた。
視野は闇一色だ。やがて目の奥に光がきらめきだした。光はどこからともなく湧き上がったかと思うと、震えながら身をよじり、脈打ち、踊るように疼いて破裂した。
実体のない光がしだいに形を成してきた。月よりも真実に丸い円が、地平線よりも真実にまっすぐな線が、脳裏に浮かび上がった。それらの純粋な形は無限の変化を見せた。それは肉体を伴わぬ舞踊だった。
どれだけの時間が経ったのか。その意識もないままにクランは不意に白トナカイを見た。まばゆいほどに白い毛がかすかに風を孕んで揺れている。
白トナカイは白い角を振って横を向いた。その方向に強い光があった。白トナカイはその方向へ駆け去り、光の中に姿を消した。
クランは洞窟を戻り、焚き火のそばで眠っているナナを揺り起こした。
「ナナよ、お前に見せたいものがある」
ナナはものも言わずにクランについてきた。クランは知るよしもなかったが、ナナはこの時、部族の成人の儀式のことを思い出していた。
十五歳になると、サンペ族の若者たちは一人づつ大人たちに森の奥へ連れて行かれ、見知らぬ場所に置き去りにされる。そこは聖地の近くだが、鬱蒼とした森が広がっていて自力で聖地にたどり着いた者はいない。
狩りの道具もなく食料もないまま、数日、森を彷徨い、地面に倒れていると、仮面をかぶった者に揺り起こされる。
夢うつつのまま若者はそこから聖地へ連れて行かれ、部族の伝承と禁忌を知らされた後、トナカイの血の入った酒を飲むのだった。
「族長の娘よ、部族の禁忌に触れるかも知れぬ。もし、そうなら目を背けろ」
そう言うと、クランは焚き木から作った松明を手にナナを洞窟の奥へ導いた。
松明の光に照らされた洞窟の壁は乾いて表面はなめらかだった。少し天井の低いところを背を屈めて入ると、そこには大きな空間が広がっていた。
「これだ……」
クランは松明をかかげて、ナナに示した。
壁一面に古代の部族の民が描いたものだろう、壮麗な壁画が描かれていた。
鹿も狐も栗鼠も、また、熊も狼も、森で見られる獣はすべて描かれているようだった。その獣たちはどれも生きている姿そのままに、走り、跳ね、身構え、立ち上がっていた。
そこには人の姿も描かれてあった。弓を構え、矢を放っている。今のサンペ族は使わないが長槍を持っている者もいた。今の森では見たこともない巨大な四足獣を狩っている様子もある。
その中にはトナカイの群れもあった。群れは波打つような曲線を描いて地を駆けていた。木立を抜け、岩を越えて、身をひるがえす姿だ。
ナナが叫んだ。
「これは御使いだ。私が見たものと同じだ」
トナカイの群れの先頭に白トナカイの姿があった。
「お前は御使いに会ったことがあるのだな」
クランが聞くと、禁忌を恐れず、ナナはうなずいた。ナナは松明の光に浮き上がるクランの横顔を見た。
「よくこんなものを見つけたな。ここにこんなものがあろうとは我が部族の民の誰も知らぬはずだ」
「私は真っ暗な龍の腹の中で三日三晩過ごした。それからは見るべきものがある時はそれと分かるようになった」
「それがイーグル・アイか」
感心した様子のナナへ、クランは青い片目を向けた。
「ナナよ、狩人の娘よ。お前だって森の中では同じことをしているはずだ。お前にしか見えないものもあるだろう」
二人は白トナカイの壁画を調べた。
白トナカイの行く手に太陽らしき形が描かれていた。そこから放たれる光が線条となって岩壁に走っていた。
ふと、ナナが言った。
「私は森の中で何度か御使いに会ったことがある。しかし、すぐに姿を隠してしまった。私は不思議に思うのだ。どうやって鷲の刺青のならず者は御使いに近づき、傷をつけることができたのか」
「コルウスの持つ剣は闇をまとっている。闇に引き寄せられたのだろう」
クランの言葉にナナは反論した。
「しかし、この絵では光の方へ向かっておるではないか」
「光と闇は表裏一体だ。光の向こうに闇があり、闇の彼方に光がある」
ナナはクランへ目を向けた。二人の顔にある狩人のしるしが姉妹のように見えた。
クランは言った。
「王国は闇の王によって侵食されている。我らは闇と闘う。しかし、我らは闇をこの世界から完全に追い払うことなどできないのだ。光の側にいる時は闇を思い、闇の側にいる時は光を思う。そこにしか我らの生命はない。自由もない」
ナナはクランの青い瞳に見入った。
「……永遠もか」
「そうだ、ナナよ。我らが白トナカイなのだ」
クランは朗唱を始めた。洞窟にいにしえの言葉が木霊して空気を震わせた。その響きは時を静止させるようにも、また一瞬で数千年を経過させるようにも思えた。
ナナはまた成人の儀式を思い出していた。あのトナカイの血の酒を口にした瞬間の気が遠くなるような、そして、同時に身内の血が燃え立つような感覚。
ナナはもう一度、壁画へ目を向けた。
ナナの視野の中で白トナカイが動き出した。白トナカイは光を現す線条の上を駆けたが、やがて、それは明暗反転して闇に変わった。
闇に転じても白トナカイは駆け続けていた。振りたてられる角、揺れる毛並み、地を蹴る四本の脚。
やがて、ナナは言った。
「イーグル・アイよ。我らは闇を追ってみようではないか」
クランは青い目を輝かせてうなずいた。
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