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第十二章
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第十二章
「左官職人の工房だと。それはまた妙なところで出会ったものだ」
セレチェンは声を上げて笑った。旅に出てから初めての陽気な声だった。
卓の向かい側にユーグが座って笑みを浮かべていた。
「あれから二十五年。縁というものはどこでどう繋がっているか分からぬものだ」
レオナ工房のミケルのところでダファネア人形のモデルを務めたクラン、それにカラゲルは偶然出会ったユーグとミアレ姫を宿屋まで連れて帰って来た。
ユーグは茶椀に口をつけながら窓の外へ目をやった。
「姫さまは王都の様子を見て回るのが好きでな。まあ、好きなだけでなく一種の義務と思っていらっしゃるようだ」
裏庭の片隅に咲いたミアレの花を摘んでいる姫の姿が見えた。脇にはクランが城壁にもたれて立ち、カラゲルは古い木箱に腰かけていた。
セレチェンもそちらへ顔を向け、若い三人の姿に目を細めた。
「姫さまに民の事情を知っていただくのは結構なことだ。お前がついていればお忍びと言っても危険はないだろうし」
「あれが、お忍びのように見えるか。さっき宿屋へ入った時の主人夫婦の慌てようと来たら」
ユーグとセレチェンは声を合わせて笑った。
「しかし、笑ってばかりもいられぬのだ。姫さまがよく出歩かれるのは王宮にいるのを嫌ってのこと」
「うむ、王宮はいまだに陰謀の巣か」
「あれだけの粛清の嵐をもってしても闇は払えぬということだ」
「王宮の闇か」
「いや、シュメル王の心の闇だ」
ユーグは苦い顔になって、また窓の外を見た。ユーグはセレチェンより五つ若いが、髪は白髪が混じり目尻に皺が深かった。
「王宮では拷問や処刑が日常的に行われているのだ。シュメル王はいまだに陰謀や暗殺を恐れていらっしゃる。ほとんど、それは……」
「狂気か。ユーグよ、お前はそれを口にすることをはばかっているようだが、王都の民にもそれは知れ渡っているようだぞ」
窓の外から手元の茶碗へ視線を戻したユーグは暗い目になった。
「それも当然のことだ。シュメル王の命じる拷問といい、処刑といい、まともなものとは思えぬ」
衛兵によって王宮へ連行された者はほとんどが殺されていた。そして、家族のもとに下げ渡される死体は異常な姿となっていた。
ある者は皮膚がふやけたようになっていて触れただけで破れ、肉が露出した。ある者は全身の骨が粉々にくだけていた。そしてある者は腹から臓物が飛び出し、その臓物すらドロドロに溶けかけていたのだ。
「ユーグ、それはもしかすると……」
「うむ、何か邪悪な魔法を使っているとしか思えぬ」
「しかし、それもおかしな話だ。口を割らせるのに魔法を使うのなら、そこまでする必要があるだろうか」
ユーグは茶碗を口に近づけたが、すぐに卓へ戻した。吐き気を抑えかねるといった顔つきだった。
「これは私の推測だが、王は拷問に魔法を使っているのではなく、死者に、つまり、死体に魔法を使っているのではないか。そうでなくては、そんな異様なことになるわけがない」
「いったいそれはどういうことなのだ。王は何をなさろうとしているのだ」
「死体に魔法を使うとしたら一つしかない。蘇生だ」
「死者を生き返らせようというのか。そんなことが可能なのか」
「それは……我がナビ教の禁忌だ……」
ユーグは目を伏せ、何事かをつぶやいた。ナビ教の徒が禁忌に触れそうになった時に唱える短い魔除けの詩句があった。
セレチェンは少なからず衝撃を受けたような顔つきだった。
「ということは、そのような魔法がナビ教に存在しているということだな」
「いや、そうではない。そういう試みをすること自体が禁忌なのだからな。世間では魔法を薬か何かのように思っている者もいる。一定の呪文を唱え、印を結べば、それに対応した効果が現れるというわけだ。確かにそういう部分もあるだろう」
ユーグは祭司であると同時に学者でもあった。ナビ教とは何か、それは王国に何をもたらすのか。絶え間ない思索がユーグを支配していた。
「しかし、魔法は本来、そのようなものではない。魔法は精霊との対話だ。精霊に加護を求め、それが聞き届けられた時に成就する。ただし、精霊も善き精霊ばかりではない」
「彷徨える死霊たちも……」
「そうだ。そもそも精霊とは大地と天の間の生死の循環に関わる者だ。死んだ者はみな霊魂となるが、その中でも特に神々に愛でられし者はしばしこの世に留まって、我ら人間と神々のなかだちとなる。これがいわゆる精霊だ」
「善き力をもたらす者たちだな」
「しかし、不幸にして生死の循環にあずかることのできぬ者たちもいる。それが死霊だ。彼らは放っておけば永遠に地上を彷徨い続けることになる。そんな、みなしごの魂へ呼びかける魔法も存在はする」
その時、窓の外から笑い声が聞こえてきた。見ると、姫がミアレの花冠をクランの頭に載せているところだった。戴冠式さながらにひざまずいたクランはおどけた仕草でお辞儀をしていた。
窓から顔を戻したセレチェンが言った。
「つまり、それはナビ教では禁忌だが、あえて試みる者もありうるというのだな」
「うむ、だが死者を蘇生するとなると相当な法力のある者でないとな」
「例えばどのような者だ」
ユーグは一瞬、言葉につまったが、はっきりと答えた。
「伝説の英雄ダファネアのような者だ」
「ダファネアに死者を蘇らせたなどいう伝承があったろうか」
「いや、これは例えばの話だ。つまり……ダファネア以来の王の血脈を継ぐ者ならば……」
「待て、ユーグよ。少し話が行き過ぎのような気がするが」
「実は最近、気になっていることがあってな……」
ユーグは、最近、シュメル王のそば近く二人の魔導士が侍るようになったことを言った。
「私がそれに気付いたのは、ほんの二か月ほど前だ。夜眠れずに窓から王宮の庭を眺めていると、三人の人影が地下の納骨堂から出てくるのを見たのだ。一人はシュメル王その人だが、その脇にフードを被った者たちがいた。あれは魔導士だ」
「ユーグよ、お前は魔導士と言うが、つまりはナビ教の祭司だろう」
「うむ、認めたくはないが、そうだ。夜気に妖しいおののきが感じられた。近くに松明でもあれば大きく青く燃え上がるだろう。離れたところからでも二人の法力の強さが感じられた」
「その魔導士二人が王をそそのかしているというのだな」
「あくまでも推測だ。しかし、ありそうなことに思える。それにもう一つ、王宮に気になる噂が広まっている」
セレチェンは噂という言葉を聞いて苦々しげな顔になった。
「噂か。以前も王宮ではあらゆる噂が飛び交っていた。虚しい鴉の鳴き声のように。来ては去る燕の翼のように。王宮では現実から噂が生まれるのでなく、噂が現実を作るのだ」
「まあそう言わずに聞いてくれ。シュメル王はダファネアの聖杖を手に入れたというのだ。信じられるか」
「うむ、噂とはいえ、魔導士の話と繋がってくるではないか。鷲の目の杖はナビ教の徒が護るべきもの。もしや魔導士たちの手から王に渡ったのではないのか。もしそうだとすると王国の根本を揺るがす大事だ。お前はそのことを王にお尋ねしてみたのか」
「それとなくお尋ねはしてみたが、知らぬとおっしゃる。聖杖を安置するスナ族の地は私の故郷だがあまりに遠い。手紙を出しても届くかどうか分からぬ辺境だ。この王都にいては聖杖の安否を確かめるすべもないのだ」
「いずれにせよ、それは王が持つべきものではない。善き力をあるべき姿に保つことが王の唯一なすべきことだ」
ユーグはうなずき、目つきを険しくした。
「気になる噂がもう一つ。聖杖を手に入れた王はさらにそれと対になる鷲の目の剣を欲しがっているというのだ」
「それは絶対に許されぬことだ。王だけに力を集中させるのは。ブルクット族とナビ教神官は王宮から追放されたが、それだけは譲らなかったのだ」
噂の話ということで、セレチェンは冷静を保っていたが、ここへ来てやや激した様子だった。
ダファネア王国の各部族は王のもとに結束している。しかし、それは王に服従しているということではない。
各部族の間には武力の差があり蓄積した富の量にも違いがあるから、当然のように力の上下が生まれて来る。
しかし、王家だけは各部族と対等の立場で話すことができる。それは、ある意味、王家が無力だからだった。王家が持つのは王の血脈の崇高な輝きのみ。
王の血脈の威光のもと、どの部族であれ力を集中させず、分散させ、その間に均衡を保つ。それがダファネア王国二千年の存続を支えた知恵だった。
王の血脈はあくまでも王妃の側にあり、王は各部族から順送りに選ばれる。また、年に一度、部族会議を開いて王国の行く末について話し合う。
そして、建国の英雄ダファネアの聖遺物は分散して安置する。
王国はあらゆる局面で決断を迫られた時、力を分散させる方へ舵を切ってきた。また各部族もそうだった。族長だけが力を振るっている部族は少ない。必ず長老が側についていた。
ブルクット族長老としてセレチェンもそのようにするのが当然のことと思ってきた。しかし、噂を信じるならば、シュメル王は王国に決定的な変化をもたらそうとしていることになる。
王が聖杖と聖剣を持つならば、その力は絶対的なものとなるであろう。
「いったい王は何をなさろうというのか。いや、ユーグよ。たとえ、それがどのようなお考えであろうと許されるものではないぞ」
鷲の刺青に縁どられた目が憂慮と憤りと、わずかな悲哀の色を帯びた。
「ユーグ、一刻も早く王と会わねばならぬ。お前の力でなんとか取り計らってくれ」
「うむ、それはもちろんのことだ。だが、セレチェン、気を付けてくれ。今のシュメル王は我々が知っているかつてのシュメル王子とは違う。まったくの別人だぞ」
セレチェンとユーグはともに遠い目になった。王宮の陰謀を逃れ、荒れ野を彷徨った日々のことが二人の脳裏に浮かんだ。
「左官職人の工房だと。それはまた妙なところで出会ったものだ」
セレチェンは声を上げて笑った。旅に出てから初めての陽気な声だった。
卓の向かい側にユーグが座って笑みを浮かべていた。
「あれから二十五年。縁というものはどこでどう繋がっているか分からぬものだ」
レオナ工房のミケルのところでダファネア人形のモデルを務めたクラン、それにカラゲルは偶然出会ったユーグとミアレ姫を宿屋まで連れて帰って来た。
ユーグは茶椀に口をつけながら窓の外へ目をやった。
「姫さまは王都の様子を見て回るのが好きでな。まあ、好きなだけでなく一種の義務と思っていらっしゃるようだ」
裏庭の片隅に咲いたミアレの花を摘んでいる姫の姿が見えた。脇にはクランが城壁にもたれて立ち、カラゲルは古い木箱に腰かけていた。
セレチェンもそちらへ顔を向け、若い三人の姿に目を細めた。
「姫さまに民の事情を知っていただくのは結構なことだ。お前がついていればお忍びと言っても危険はないだろうし」
「あれが、お忍びのように見えるか。さっき宿屋へ入った時の主人夫婦の慌てようと来たら」
ユーグとセレチェンは声を合わせて笑った。
「しかし、笑ってばかりもいられぬのだ。姫さまがよく出歩かれるのは王宮にいるのを嫌ってのこと」
「うむ、王宮はいまだに陰謀の巣か」
「あれだけの粛清の嵐をもってしても闇は払えぬということだ」
「王宮の闇か」
「いや、シュメル王の心の闇だ」
ユーグは苦い顔になって、また窓の外を見た。ユーグはセレチェンより五つ若いが、髪は白髪が混じり目尻に皺が深かった。
「王宮では拷問や処刑が日常的に行われているのだ。シュメル王はいまだに陰謀や暗殺を恐れていらっしゃる。ほとんど、それは……」
「狂気か。ユーグよ、お前はそれを口にすることをはばかっているようだが、王都の民にもそれは知れ渡っているようだぞ」
窓の外から手元の茶碗へ視線を戻したユーグは暗い目になった。
「それも当然のことだ。シュメル王の命じる拷問といい、処刑といい、まともなものとは思えぬ」
衛兵によって王宮へ連行された者はほとんどが殺されていた。そして、家族のもとに下げ渡される死体は異常な姿となっていた。
ある者は皮膚がふやけたようになっていて触れただけで破れ、肉が露出した。ある者は全身の骨が粉々にくだけていた。そしてある者は腹から臓物が飛び出し、その臓物すらドロドロに溶けかけていたのだ。
「ユーグ、それはもしかすると……」
「うむ、何か邪悪な魔法を使っているとしか思えぬ」
「しかし、それもおかしな話だ。口を割らせるのに魔法を使うのなら、そこまでする必要があるだろうか」
ユーグは茶碗を口に近づけたが、すぐに卓へ戻した。吐き気を抑えかねるといった顔つきだった。
「これは私の推測だが、王は拷問に魔法を使っているのではなく、死者に、つまり、死体に魔法を使っているのではないか。そうでなくては、そんな異様なことになるわけがない」
「いったいそれはどういうことなのだ。王は何をなさろうとしているのだ」
「死体に魔法を使うとしたら一つしかない。蘇生だ」
「死者を生き返らせようというのか。そんなことが可能なのか」
「それは……我がナビ教の禁忌だ……」
ユーグは目を伏せ、何事かをつぶやいた。ナビ教の徒が禁忌に触れそうになった時に唱える短い魔除けの詩句があった。
セレチェンは少なからず衝撃を受けたような顔つきだった。
「ということは、そのような魔法がナビ教に存在しているということだな」
「いや、そうではない。そういう試みをすること自体が禁忌なのだからな。世間では魔法を薬か何かのように思っている者もいる。一定の呪文を唱え、印を結べば、それに対応した効果が現れるというわけだ。確かにそういう部分もあるだろう」
ユーグは祭司であると同時に学者でもあった。ナビ教とは何か、それは王国に何をもたらすのか。絶え間ない思索がユーグを支配していた。
「しかし、魔法は本来、そのようなものではない。魔法は精霊との対話だ。精霊に加護を求め、それが聞き届けられた時に成就する。ただし、精霊も善き精霊ばかりではない」
「彷徨える死霊たちも……」
「そうだ。そもそも精霊とは大地と天の間の生死の循環に関わる者だ。死んだ者はみな霊魂となるが、その中でも特に神々に愛でられし者はしばしこの世に留まって、我ら人間と神々のなかだちとなる。これがいわゆる精霊だ」
「善き力をもたらす者たちだな」
「しかし、不幸にして生死の循環にあずかることのできぬ者たちもいる。それが死霊だ。彼らは放っておけば永遠に地上を彷徨い続けることになる。そんな、みなしごの魂へ呼びかける魔法も存在はする」
その時、窓の外から笑い声が聞こえてきた。見ると、姫がミアレの花冠をクランの頭に載せているところだった。戴冠式さながらにひざまずいたクランはおどけた仕草でお辞儀をしていた。
窓から顔を戻したセレチェンが言った。
「つまり、それはナビ教では禁忌だが、あえて試みる者もありうるというのだな」
「うむ、だが死者を蘇生するとなると相当な法力のある者でないとな」
「例えばどのような者だ」
ユーグは一瞬、言葉につまったが、はっきりと答えた。
「伝説の英雄ダファネアのような者だ」
「ダファネアに死者を蘇らせたなどいう伝承があったろうか」
「いや、これは例えばの話だ。つまり……ダファネア以来の王の血脈を継ぐ者ならば……」
「待て、ユーグよ。少し話が行き過ぎのような気がするが」
「実は最近、気になっていることがあってな……」
ユーグは、最近、シュメル王のそば近く二人の魔導士が侍るようになったことを言った。
「私がそれに気付いたのは、ほんの二か月ほど前だ。夜眠れずに窓から王宮の庭を眺めていると、三人の人影が地下の納骨堂から出てくるのを見たのだ。一人はシュメル王その人だが、その脇にフードを被った者たちがいた。あれは魔導士だ」
「ユーグよ、お前は魔導士と言うが、つまりはナビ教の祭司だろう」
「うむ、認めたくはないが、そうだ。夜気に妖しいおののきが感じられた。近くに松明でもあれば大きく青く燃え上がるだろう。離れたところからでも二人の法力の強さが感じられた」
「その魔導士二人が王をそそのかしているというのだな」
「あくまでも推測だ。しかし、ありそうなことに思える。それにもう一つ、王宮に気になる噂が広まっている」
セレチェンは噂という言葉を聞いて苦々しげな顔になった。
「噂か。以前も王宮ではあらゆる噂が飛び交っていた。虚しい鴉の鳴き声のように。来ては去る燕の翼のように。王宮では現実から噂が生まれるのでなく、噂が現実を作るのだ」
「まあそう言わずに聞いてくれ。シュメル王はダファネアの聖杖を手に入れたというのだ。信じられるか」
「うむ、噂とはいえ、魔導士の話と繋がってくるではないか。鷲の目の杖はナビ教の徒が護るべきもの。もしや魔導士たちの手から王に渡ったのではないのか。もしそうだとすると王国の根本を揺るがす大事だ。お前はそのことを王にお尋ねしてみたのか」
「それとなくお尋ねはしてみたが、知らぬとおっしゃる。聖杖を安置するスナ族の地は私の故郷だがあまりに遠い。手紙を出しても届くかどうか分からぬ辺境だ。この王都にいては聖杖の安否を確かめるすべもないのだ」
「いずれにせよ、それは王が持つべきものではない。善き力をあるべき姿に保つことが王の唯一なすべきことだ」
ユーグはうなずき、目つきを険しくした。
「気になる噂がもう一つ。聖杖を手に入れた王はさらにそれと対になる鷲の目の剣を欲しがっているというのだ」
「それは絶対に許されぬことだ。王だけに力を集中させるのは。ブルクット族とナビ教神官は王宮から追放されたが、それだけは譲らなかったのだ」
噂の話ということで、セレチェンは冷静を保っていたが、ここへ来てやや激した様子だった。
ダファネア王国の各部族は王のもとに結束している。しかし、それは王に服従しているということではない。
各部族の間には武力の差があり蓄積した富の量にも違いがあるから、当然のように力の上下が生まれて来る。
しかし、王家だけは各部族と対等の立場で話すことができる。それは、ある意味、王家が無力だからだった。王家が持つのは王の血脈の崇高な輝きのみ。
王の血脈の威光のもと、どの部族であれ力を集中させず、分散させ、その間に均衡を保つ。それがダファネア王国二千年の存続を支えた知恵だった。
王の血脈はあくまでも王妃の側にあり、王は各部族から順送りに選ばれる。また、年に一度、部族会議を開いて王国の行く末について話し合う。
そして、建国の英雄ダファネアの聖遺物は分散して安置する。
王国はあらゆる局面で決断を迫られた時、力を分散させる方へ舵を切ってきた。また各部族もそうだった。族長だけが力を振るっている部族は少ない。必ず長老が側についていた。
ブルクット族長老としてセレチェンもそのようにするのが当然のことと思ってきた。しかし、噂を信じるならば、シュメル王は王国に決定的な変化をもたらそうとしていることになる。
王が聖杖と聖剣を持つならば、その力は絶対的なものとなるであろう。
「いったい王は何をなさろうというのか。いや、ユーグよ。たとえ、それがどのようなお考えであろうと許されるものではないぞ」
鷲の刺青に縁どられた目が憂慮と憤りと、わずかな悲哀の色を帯びた。
「ユーグ、一刻も早く王と会わねばならぬ。お前の力でなんとか取り計らってくれ」
「うむ、それはもちろんのことだ。だが、セレチェン、気を付けてくれ。今のシュメル王は我々が知っているかつてのシュメル王子とは違う。まったくの別人だぞ」
セレチェンとユーグはともに遠い目になった。王宮の陰謀を逃れ、荒れ野を彷徨った日々のことが二人の脳裏に浮かんだ。
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