自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名

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3巻

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 第一章 迷宮ダンジョン地下十三階


 異世界召喚いせかいしょうかんされて公爵令嬢こうしゃくれいじょうのリーシャになった私、椎名沙良しいなさら(四十八歳)は公爵家を出ていき、冒険者ぼうけんしゃとして活動することに。異世界召喚の際に授かった能力で、兄の賢也けんやと、ダンジョンマスターになっていたおさな馴染なじみ旭尚人あさひなおとを召喚して、今は迷宮都市めいきゅうとしに移り、三人で冒険者活動をしている。
 四十八歳から十二歳の少女になったのは参ったけど、この世界でもう七年以上過ごしているから子供のフリも大分慣れたと思う。何故なぜか私の身長は一センチも伸びないままだ。
 そして、同様に召喚した兄たちも三十六歳若返ってしまった。彼らは普通に成長しているけど、中堅の冒険者が多くいる迷宮都市では若い私たちは少し浮いた存在かもしれない。
 迷宮ダンジョンで知り合い、仲良くなったダンクさんとアマンダさんのパーティーと一緒に、地下十二階まで攻略を終えて、ついに地下十三階に移動するので楽しみだ。


         ◇  ◇  ◇


 月曜日。冒険者ギルドでダンジョン地下十三階の地図を買い、常設依頼を確認してから、兄と旭と一緒にダンジョンに向かう。
 そして、地下十三階まで下りると、そこはアマンダさんに教えてもらった情報通り森だった!
 アマンダさんによると、地下十一階から二十階までは森が続くそうだ。
 安全地帯に着いてマジックテントを設置後、私たちに合わせて拠点を地下十三階に移動したアマンダさん、ダンクさんと挨拶を交わす。
 初見の魔物まものばかりなので、今日は魔物討伐をしよう!
 まず初めに、コボルトを発見。ゴブリンよりも素早い。
 コボルトは二足歩行の犬のような魔物で、体長一・五メートル。
 ハイコボルトはコボルトより大きく、二メートルくらい。
 倒した魔物は、アイテムボックスという私の能力で異空間に収納する。
 容量無制限だし、入れたものの時間を停止させることができるから、便利なのよね。
 しばらく歩いていると、キラービーの集団がやってきた! 全部で六匹いる。
 キラービーは体長二メートルもある大きなはちで、集団で襲ってくる。
 針で刺されると麻痺状態まひじょうたいになるから注意が必要だそうだ。
 群れのボスであるハニービーを守っているらしい。
 飛んでいる魔物を冒険者たちはどんな方法で倒すんだろう?
 私は安全に倒すためドレインという、敵のHPを奪って自分のものにする魔法でキラービーを昏倒こんとうさせて、地面に落ちたところをやりで突き刺した。
 さらに進むと、ハニービーがいた。キラービーより大きな蜂で、三メートルもあるのでかなりの迫力だ。でも先に六匹のキラービーを倒しているので狩りは簡単。
 ハニービーは腹袋に蜂蜜はちみつめているらしく、その蜂蜜は大変高価なもののようだ。
 蜂蜜は換金しないで、食べてみようかな?
 次に出会ったのは、フォレストディアと迷宮ピーコック。
 フォレストディアは体長五メートルの大型魔物で、角が立派な鹿しかだね。
 兄に聞いたところ、鹿肉は美味しいらしい。私はジビエ料理を食べたことがないから、どんな味がするのかわからないけど。
 角が薬の材料になるので、フォレストディアの換金額のほとんどは角の値段みたいだ。貴族が頭を剥製はくせいにしていそう……
 迷宮ピーコックは広げた羽が綺麗きれいな、体長三メートルの孔雀くじゃくです。
 羽が貴族の服飾品ふくしょくひんとして人気なんだとか。そんな、けばけばしい服は着たくないなぁ……
 アマンダさん情報によると、地下十三階は西側に川があるらしい。
 そして、そこには迷宮サーモンという魔魚まぎょが生息しているんだって。
 私が授かった能力のうちの一つ、マッピングで西のほうを確認すると確かに川が見える。
 結構川幅が広く十メートルくらいはあるだろうか?
 迷宮サーモンを探しに、私たちは川へ向かうことにした。
 川の側に近付いた瞬間、迷宮サーモンがアイスニードルを放ち、氷の針が飛んでくる。
 兄は一度攻撃を受けてから、迷宮サーモンを瞬殺した。
 召喚された特典なのか、私たちは魔法による攻撃を受けると、その魔法を習得することができる。
 既に習得しているアイスボール以外は使わないと思うけど、魔法をコンプリートするために私も受けて覚えよう。
 迷宮サーモンはするどい歯を持った体長三メートルの魚で、思わずシャチを連想するほど大きく、うろこは一部オレンジ色をしており、私が知っているサーモンとは少し違う。
 初めての魔魚。味はサーモンと一緒なのかな?


 それから三時間後。安全地帯のテントに戻り、人に見られないようにテント内でホームを使い、自宅アパートに移動して、昼食にする。
 地球で私が住んでいたアパートとその周辺の街が異空間に創造されており、このホームという能力でそれを自由に使うことができる。
 さらに水道、ガス、電気は使い放題で、アパートの部屋にある全ての食料やアイテムは、それぞれ三百六十五個まで増やすことができた。
 ちなみに、ホームという特殊な能力はこの世界の人たちには秘密にしている。
 本日のお弁当は、エビマヨ、ツナ入り卵焼き、小松菜の中華炒め、ピリからクラゲだ。じゃが芋の味噌汁と麦茶でいただきます。


 テントから出て、二回目の攻略を始める。
 初見の魔物は午前中に討伐したから、各自、森の中を散策して収穫できる果物を探す。
 私はマッピングを使用し、森の中を見渡した。
 少し先に紫色むらさきいろの果物が木にっているのを発見!
 マッピングで地図に表示されている範囲内であれば、転移することができるので、早速さっそく移動して木を見上げると、そこにはぶどうがあった!
 近付いてよく見ると巨峰きょほうかな? ピオーネかな?
 私の背じゃ届かないところに生っているから、ウィンドボールで枝を切って収穫。
 手に取ってみると、まさにぶどうだ!
 この木だけじゃなく、いくつかの木にぶどうが生っている。
 ダンジョンの地下十二階では、毎日違う一本の木だけに三十個の桃が生っていたけど、この階のぶどうは一本だけじゃないようだ。ここには、一本の木だけに生る果物はないのかなぁ~。
 兄は毎日違う場所に生る桃を楽しそうに探していたっけ。
 これまでこのダンジョンで、リンゴ、みかん、桃、ぶどうと色んな果物を見つけた。
 もしかして、ここのダンジョンマスターは果物好き?
 迷宮ダンジョンの森は、なんて素敵なのかしら! しかも取り放題ときてる。
 大量のぶどうを収穫後、ウキウキしているとキラービーの大群が現れた!
 キラービーと、近くにいたハニービーも昏倒させ、槍で突き刺して、アイテムボックスに収納する。キラービーはあとで兄たちに魔石取りを忘れずにお願いしないと。
 魔物の体内には、魔石という魔力のかたまりがあって、売ることができる。私は魔物の体内から魔石を取り出す作業が苦手だ。
 その後、こっそり地下十二階の桃の木まで転移して、収穫を済ませた。桃がもったいなくて……
 マッピングの能力を使うなら今でしょ! 一日三十個限定なら採るべきよね。
 これからもダンジョン攻略中は毎日桃を収穫するつもり。
 しばらく収獲をしたら、兄たちと合流した。彼らもぶどうを見つけて収穫したらしい。


 二回の攻略を終えて安全地帯へ戻り、ダンクさんとアマンダさんのパーティーと夕食を共にする。
 ダンクさんのパーティーの料理担当、リリーさんがいつもとは違い、チーズを取り出した。
 どうやらダンクさんたちはチーズフォンデュがメインらしい。
 アマンダさんのパーティーの料理担当、ケンさんは卵とチーズを用意しているから、アマンダさんたちはチーズオムレツがメインのようだ。
 私がチーズを紹介してから、リリーさんもケンさんも少しメニューの幅が広がっただろうか?
 アマンダさんとダンクさんのパーティーとはよく一緒に夜ご飯を作って食べるので、各パーティーのリーダーと料理担当の二人とはかなり仲良くなった。
 でも、その他のメンバーとは夕食時に少し話す程度であまり関わりは深くない。
 さて、今日の私たちのメニューはナン、焼肉、キッシュ、デザートのぶどう。
 ナンに挟んで食べる焼肉が美味しいから定番になりそう。
 各パーティーが全て違うメニューになるなんて、これまで色んな食材や調理法を皆に教えて、食事改善を頑張った甲斐かいがあった。
 料理を楽しく食べたあとはデザートの時間だ。
 ぶどうを各パーティーに二房ふたふさずつ配り、艶々つやつやの皮をき、食べてみる。
 この味はピオーネだね。しかも種なし! かなり甘くてジューシーだ。
 ぶどうは皮を剥くのが面倒くさいと、兄と旭はみかんを食べている。
 まぁ、確かに手はベタベタになるし、指に紫色の色素が付くので、食べやすい果物とは言えない。
 うちの男性には不人気のようだけど、アマンダさんとダンクさんのパーティーの皆は嬉しそうに食べてくれました。
 地下十二階では、私たちが桃を見つけて来るかで、毎日賭けが行われていたけど、今回は普通に生っているぶどうのため、賭けはなし。そのほうが私も気分が穏やかなので助かる。
 十二階の時は毎回マジックバッグから桃を取り出すのが、なんか心苦しくて……
 自分のお金が減るわけじゃないけど、絶対毎日収穫できるとわかっている私としては、一言もの申したくなるというか……
 とにかく、だまっているのが大変だったんですよ!
 そろそろ食べ終わるという頃、ぶどうを手に持ったアマンダさんがやってきた。

「サラちゃん、よくあんな高いところに生るぶどうが採れたね」

 むぅ、それは私の背が低いと言っているんだろうか?

「魔法で収穫したから、背は関係ないですよ」

 コンプレックスを刺激され、アマンダさんの言葉に少しムキになって答えてしまう。

「あぁ、悪い。そういう意味で言ったんじゃないよ。私たちも滅多に食べられないからね。お礼を言いにきたんだ。いつも果物をありがとう。ダンジョン産のものは、甘くて美味しいから食後が楽しみだったんだ」

 私が気を悪くしたと思ったのだろう。アマンダさんはあわてながら訂正してくれる。

「そうだったんですね。果物は、沢山たくさん収穫するから気にしないでください」

 アマンダさんを困らせてしまった……
 せっかくお礼を言いに来てくれたのに失敗したよ。こういう時は話題転換だ!

「ちなみに、地下十三階で桃のように一本の木だけに生る果物とかありますか?」
「う~ん、私は聞いたことがないねぇ。また探すのかい?」

 私の質問にしばらく考えてからアマンダさんが答える。

「あれば、ぜひ発見したいと思って」
「サラちゃんたちなら見つけてきそうだね。また私をもうけさせてくれそうだ」

 アマンダさんの目がキラーンと光ったような気がした。
 十二階で誰よりも生き生きと賭けをしていたアマンダさん。やばい! ギャンブラーだましいに火がつきそうな予感がする。一応、忠告だけはしておこう……

「もう賭けはしちゃダメですよ~」
「あははっ。じゃあ、私たちはそろそろ行くよ」

 アマンダさんは手を振り、笑いながら帰っていった。
 でも、賭けをしないとは言わなかったな……


         ◇  ◇  ◇


 翌日の午前中。兄はぶどう狩り、旭と私は薬草採取をする。
 この階にも桃のような、毎日違う一本の木だけに生る果物があるのではないか。
 薬草採取をしながら、そんなことを考える。もしかしたら気付かなかっただけで、地下十一階にもあったのかもしれない。やっぱり、ここはコンプリートしたいわけで……
 私のマッピングをフル活用して、今から兄たちに内緒で探しに行こうと思う。
 私は旭に適当な言い訳をして、一人で行動することに。
 地下十一階の森に転移すると、相変わらずリンゴが沢山生っている。
 まぁ、見つけたものは全て収穫するんだけども……
 マッピングは三次元と二次元に見え方を切り替えることが可能で、さらに拡大縮小も思いのままにできて超優秀!
 この階ではずっとマッピングを三次元の見え方で使っていたけど、二次元に切り替えて、森を上空から地図のように俯瞰ふかんして見てみる。
 絶対にあると思うんだよね~。う~ん、なかなか見つからないなぁ……
 広い森の中を、目を皿のようにして見ていくと――あった!
 ついに発見!! なしの木が一本だけある。
 結構な高さに生っているから、今まで誰も気付かなかったんだろう。
 実の数は三十個ほどと少ないけど、全て収穫して収納させていただきます。
 地下十二階の桃も忘れず収穫して、次は地下十三階に移動する。
 マッピングで上空から見ていくと――やっぱりあった!
 ぶどうだけど色が緑色なので、マスカットだろうか。
 早速、木に近付いて見てみると、こちらも高いところに生っていた。
 魔法が使えなければ、木に登って採るしかない。でも、もし見つけても呑気のんきに木登りなんかできないだろう。ここはキラービーの集団が襲ってくる階層だからね。
 三十房ほどある緑色のぶどうをウィンドボールで収穫する。見た目がシャインマスカットに似ていたので、一粒皮を剥かずに食べてみた。
 やっぱり、これは皮ごと食べられるシャインマスカットだ。そして種なし。
 私はニヤニヤと笑いが止められなかった。シャインマスカットなんて高級な果物は、前世の日本で暮らしていた時のような、派遣の一人暮らしでは買えない。


 三時間後、安全地帯に戻り、自宅で昼食。
 本日のお弁当は、チキン南蛮なんばん、ポテトサラダ、ナポリタンだ。豆腐とうふ、ワカメ、ねぎの味噌汁と麦茶でいただきます。
 食事中に、地下十一階には梨、地下十三階にはシャインマスカットが一本だけ生っていた話をすると、兄のやる気が上がったようだ。
 そして私は一人で行ったのを、自分で暴露ばくろしたのに気付かなかった。
 ランダムに生る果物を発見したのが嬉しくて、すっかり忘れていたのだ。
 ええもちろん、兄からお説教を受けましたよ!
 ただ、今回見つけた果物は、また賭けの対象になるかもしれないから、二人に相談して内緒にしておこうと決めた。


         ◇  ◇  ◇


 月曜日から金曜日までダンジョンを攻略して、金曜日の夕方、街に戻ってきた。
 冒険者ギルドに行き、討伐した魔物の肉や素材を換金する。フォレストディアと迷宮ピーコックは状態がよかったため、通常の買い取り価格より高く換金してもらえた。
 解体場のアレクおじさんは、傷がないフォレストディアの角を見るなり目を輝かせていた。
 ハニービーの蜜袋一個、フォレストディアの肉一匹分、迷宮サーモンの肉一匹分、ファングボアの肉五匹分は換金せず引き取る。
 そのあとは肉屋に行って、ファングボアの肉三匹分をおろす。
 肉屋のおじさんが、フォレストディアと迷宮サーモンの肉を部位別に無料で仕分けてくれたので、お礼にピオーネを二房手渡した。
 私が経営している肉うどん店と製麺店に寄り、材料の在庫補充をしたあと、ピオーネを従業員の人数分お土産に渡す。気温が上がってきたから、製麺店の従業員には、生地を寝かす時間を変更してほしいと伝えた。
 そして自宅に戻り、これから兄と旭とホーム内の飲食店で外食!
 異空間に創造された街のお店は無人だけど、買い物や食事をすることができるのだ。
 兄たちオススメの店だから、かなり楽しみにしている。
 地下十三階初攻略のお疲れ様会で久し振りの外食ということもあり、ホーム内の百貨店で購入した淡い水色のワンピースを着て、ちょっとお洒落しゃれを楽しんでみた。
 一緒に行くのは兄と旭だけど、こういう時はお店に合わせないとね。
 リーシャの体は若いからスタイルもよく、何を着ても似合うんだよ!
 兄は着替えた私を見るなり、可愛いとめてくれた。
 うとい旭は兄の言葉を聞いたあと、急いで追従ついじゅうする。はぁ、だから恋人と長く続かないんだよ……
 そんなことより、今日の食事場所は兄たちオススメの日本料理の店だ。
 アパートに駐車してあった車で店に向かい、到着すると、入り口から料亭っぽい雰囲気ふんいきを感じる。
 店内に入り、なんとなく政治家が密談するような(?)個室を選ぶ。
 落ち着いた室内で、炬燵ごたつになっているから足がしびれない(ここ重要!)。
 席に座り、テーブルに置かれている茶筒ちゃづつからお茶の葉を出して急須きゅうすに入れ、ポットに入っていたお湯を注ぐ。
 玉露ぎょくろかぁ~。用意された茶葉まで高級品なんだなと感心しながら、蒸らし終えたお茶を三人分の湯呑ゆのみに入れて一口飲む。少し甘い玉露は、日本人の私好みだ。
 異世界は紅茶しかないから、食事をする時いつも何かが違うと感じながら飲んでいるんだよね~。
 私がお茶を飲んでいる間に兄たちは、お酒と料理を選び終えたみたいで、手渡された電子メニューを見るなり手が震えた!
 夜の懐石コース、一人二万千六百円とは……
 ちょっといいホテルに泊まる値段と変わらない。
 そしてこの店も、コース料理を注文したら、『お任せ』と『お好みで』と『タイミング』という表示が出てきた。

「旭。わかってると思うけど、今日は『タイミング』を選んでね」
「沙良ちゃんは心配性だなぁ~。わかってますって」

 わかってなさそうだから忠告するんだよ!
 前にホーム内の違う店で、鉄板焼きのコース料理を食べた時も同じ表示が出てきて、旭が『お好みで』を選んだために大変な目に遭ったのだ。この表示は食材の焼き加減を示していて、生のフィレ肉とあわびが出てきたから、結局私が焼く羽目になった。
 そうならないよう、今度はしっかりと釘を刺しておく。
『お好みで』を選択されると私が優雅ゆうがに食べられなくなる。
 しかし、ここには鉄板焼きもないのに何故『お好みで』が表示されているんだろうか?
 そこで、お品書きをよく読んでみることにした。


    食前酒 自家製柚子ゆずのお酒
    旬菜  珍味三昧ちんみざんまい
    御凌おしのぎ  こね寿司ずし
    御造里おつくり 本日の三種盛(天然鮪てんねんまぐろ、あおりいか、雲丹うに
    割鮮かっせん  たいの薄つくり
    煮物  金目鯛きんめだいの煮付け
    小鍋立こなべだて 国産和牛こくさんわぎゅうのすき焼き鍋
    強肴しいざかな  伊勢海老いせえび鬼殻焼おにがらやき
    蒸物むしもの  湿地茸しめじだけ小柱こばしらの海草蒸し
    御食事、香物、汁物、デザート


 かなり量が多そうだけど、全部食べられるかしら?
 そして、これのどこに『お好みで』の要素があるのか、さっぱりわからない。
 そもそも、どこで作ればいいのか……
 もしや、この料亭の厨房ちゅうぼうで作れと? はっ! 何やら嫌な予感がする。
 旭から電子メニューを取り上げようとした瞬間。

「お約束は外さないよ~。今回ももちろん、『お好みで』~」
「馬鹿なの!? 何考えてるのよ!!」

 時、すでに遅し……
『お好みで』が、選択されたあとだった。
 テーブルの上に、自家製柚子のお酒、珍味三昧、手こね寿司、湿地茸と小柱の海草蒸しが出てくる。それ以外、どこいったぁ~!!
 電子メニューには『厨房に食材を用意しております』と表示されている。
 最悪だ……私は何か悪い夢を見ているんじゃないだろうか……
 旭の顔を思い切りにらみつけて、わきにエルボーをかます。
 できれば巨大なハリセンで、頭を思いっきり叩きたいくらいだ。
 こんなお約束は誰も望んでないよ!
 兄は旭が痛がっている様子を、隣であきれながら見ていた。
 しかし自分で調理をしないと食べられないなんて酷過ぎる。
 そんな謎設定必要ないから、美容院とエステを使えるようにしてよ!
 とりあえず、テーブルの上に置かれている料理をいただこう。
 私が無言で目に鮮やかな料理を食べ始めると、兄たちも日本酒を手酌てじゃくで飲み始めた。
 今日はお疲れ様会のはずなのに、私が苦労する羽目になりそう……
 これから料理するものが沢山あるので、会話を楽しんでいる暇はない。
 うん、文句なしに美味おいしいよ! ええ、食べるだけならね……
 出された料理を全て食べ終え、私はおもむろに席を立つ。


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