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百二十 王女様と愉快な仲間達
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その日の夕刻、軍司令官執務室にいるハンベエをエレナが訪れた。
普段、エレナは割り当てられた自室にいるか、演習に励む兵士達を巡視するか、今日のように馬を走らせて遠乗りに出掛けているか、であり、奇妙な事にハンベエとは没交渉であった。軍の旗頭と実戦指揮官の間の没交渉! エレナとハンベエの関係も未だ微妙であった。
ハンベエは丁度、モルフィネスやロキから新規募集の兵士の集まり具合の報告を受けているところだった。
「お邪魔かしら。」
ソルティアを引き連れてやって来たエレナは、ちょっと弾んだ調子で言った。
ロキが跳ね起きるように立ち上がって、エレナの為に椅子を当てがう。
「ロキさん、有り難う。」
エレナはロキに微笑んで、それから、ハンベエの方を見た。
「邪魔等とはとんでもない。今丁度、我が方の兵士の集まり具合の報告を受けていたところだ。無理矢理とはいえ、今回の戦の首謀者となる王女には、こういう軍議の席に、俺の方から呼ばなければいけなかったところだ。是非是非居てくれ。」
ハンベエは闊達な口調で言った。無愛想なこの男が、何やら殊更に明るい調子で喋る姿は若干不気味である。
「私には、戦向きの事は分かりませんので、無理して呼ばなくてもいいですよ。」
「分からなくても、王女にはいざ戦となれば、兵士達の先頭に立ってもらう事になる。我が方の企てがいかなるものか知っておいてもらいたい。」
「でも、戦の謀は全てハンベエさんが決める事になるのでしょう。そして、勝たせてくれるのでしょう。ならば、戦を知らぬ私が居て、余計な口出しなどせぬ方が物事が上手く進むではありませんか。」
「さすが、聡明な王女。良く解っている。」
ハンベエは少しおどけた調子で言った。わざとらしいほど陽気な素振りをしたり、おどけて見せたり、この男も随分芝居がかった振る舞いの増えた事である。
一言王女をヨイショしておいてからハンベエは続けて言った。
「なればこそ、こういう席には積極的に参加してもらいたい。そして、是非余計な事を言ってもらいたい。」
ハンベエの言葉にエレナは目を丸くした。口を出さないと言った自分を良く解っていると言い、その一方で積極的に会議に参加して、余計な事を言えとは、言っている事が支離滅裂である。
「あははは、王女様。ハンベエの言う事がとんちんかんで意味不明なのは良くある事だよお。えーと、きっとねえ、とにかく自分達が何をやってて、状況がどういう風になってるかは、王女様にも知っていてもらいたい。そういう事だよお。だったら、ハンベエも御前会議みたいに毎日王女様のところで報告会をすればいいんだよお。」
訝しむエレナの顔色を機敏に読み取ったロキが得意の胴間声で言った。
「御前会議か。悪くないな。モルフィネスはどう思う?」
ロキの提案に、表情を鈍いものに戻して、ハンベエが追随した。
「いいと思う。むしろ、姫君を旗頭に仰いで事を進めている以上、最初からそうすべきだったという話だな。」
「じゃあ、決めちゃうよお。毎朝七時、王女様のところで朝食を取りながら、状況報告の会議を行う。主要メンバーはハンベエ、オイラ、モルフィネス。後は状況に応じてメンバー追加。」
「まず、主要メンバーにドルバスを追加だ。それから、ヘルデンとパーレルも支障のない限り出席させるように。」
「じゃあ、決まりだねえ。」
ロキはそう言うと、エレナの方を向いて言った。
「王女様、お聞きのとおり決まりました。明日からという事でいいですかあ?」
「え?・・・・・・皆がそれが良いと言われるのなら、私に異存はありませんが。」
市場の仲買人がセリでもするように、思案の暇さえ与えず、物事を進めて行くロキにエレナは少し困惑したが、反対する理由も無い。
「じゃあ決まりだよお。後、ハンベエねえ、王女様に兵隊さん達の訓練の様子を巡視してもらってるようだけど、ただ見てもらうだけじゃ不十分だよお。ちゃんと説明係を付けて、王女様に状況を説明させなけりゃあ。」
ついでとばかりに、ロキがハンベエに意見する。
「なるほど、後で検討してみる。」
と、ハンベエは鷹揚に答えた。
「ハンベエはねえ、発想は悪く無いんだけど、時々詰めが甘いんだよねえ。」
したり顔で付け加えるロキに、ハンベエばかりかモルフィネス、更にはエレナまで苦笑してしまった。
ハンベエは軍司令官である。ハンベエとロキの関係で無かったら、人前でこんな人を小馬鹿にしたような発言は許されない。
だが、放っておけば、強面になりがちなハンベエの雰囲気を、ロキとしては引っ掻き回して和らげているつもりであった。
(全くオイラが側に居てやらなけりゃ、ハンベエなんておっかないだけの人間で、その優しいところなんて、きっと誰にも分かっちゃもらえないんだあ。)
と、ロキは烏滸がましくも思っていたりするのである。
「ところで、何か話が有るのだろう?」
ひとしきり苦笑いをした後、ハンベエはエレナに向かって尋ねた。
「大した事では有りませんが、今日町外れで一人の武人を見かけました。歳の頃は五十歳前後に見受けられましたが、相当な剣の達人のようでした。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
モルフィネスとロキは顔を見合わせ、ハンベエはブスッとした顔付きでエレナを見詰めた。
「詰まらない話ですね。御免なさい。」
三人の異様な面持ちに、エレナは話の続きをするのを戸惑ったようだ。
「いや、むしろ興味の有り過ぎる話だ。続けてくれ。何が有った?」
ハンベエはエレナを凝視したまま先を促した。
「別に何が有ったというわけでは有りませんが、その人の腰に差していた剣が、ハンベエさんの『ヨシミツ』に良く似ていたものでしたので。」
「この型の剣を差していたのか。」
「ええ、セキシュウサイと名乗っていましたけど。」
「そいつと話をしたのか?」
「・・・・・・ええ、他愛もない話でしたけど。あの、ハンベエさん、私、何か睨みつけられるような事をしたのでしょうか?」
「ああ、済まない。別に王女を睨むつもりは無かった。」
我知らず、恐ろしい顔付きになっていた事に気付き、ハンベエが詫びた。
「・・・・・・だからあ、ハンベエ・・・・・・せめて王女様くらいには知らせておくべきだったんだよお。」
ロキが口を尖らせて、ハンベエに言う。
「セキシュウサイか。ふん。」
ハンベエは口元を歪めて、少し笑った。
「一体、何の事ですの? 知らせおくべきだったとか?」
「そいつは、九分九厘、テッフネールという男で、敵方が放った刺客だ。」
ハンベエは面白くなさそうに言った。
「刺客!」
エレナは呟きながら、何やら思い当たる節があるかのように肯いた。
「そんな危ない奴に出会って、王女様にもしもの事が有ったら、どうするつもりだったんだよお? やっぱり大事な事は王女様に知らせとかなきゃあ。」
今更ながらの話と思わないではないが、忿懣やる方ないという様子でロキがハンベエを責め立てる。
「済まなかった。」
なまじテッフネールの事を知らなかった故に、王女は難を逃れた、という気もしないではなかったが、ハンベエは素直に詫びた。
「刺客というような陰惨な雰囲気では無かったですけど・・・・・・穏やかさを装う中に何やら危なげなものを感じさせる人物でしたね。ハンベエさんと一脈似たところがあるような気がしました。」
クスリとエレナは笑った。
「王女様、笑ってる場合じゃないよお。ホントに危ないところだったんだからあ。」
「いや、王女は笑っていてくれ。笑えるとは頼もしい限りだ。」
ハンベエ、何故か嬉しそうに言った。
「ハンベエ、何言ってんだよお。・・・・・・って、それもそおかあ。」
ロキは尚も不満を言いかけたが、途中で何やら一人合点して口を噤んだ。
この間、モルフィネスはずっと黙ったままであった。端正な美貌を正面にむけたまま、何やら思案を重ねていたが、不意に口を開いた。
「しかし、テッフネールは何故姫君に手を出さなかったのでしょう?」
「何故でしょう? それどころか私、忠告されました。『見ず知らずの者と心安くすると、とんでもない危険な者に関わる事になる』と。」
「なるほど、言い得て妙だ。しかし、手遅れとも言えます。姫君は既にハンベエに関わってしまっている。もっと早く忠告してもらえば良かったですな。」
モルフィネスが珍しく笑みを浮かべて言った。ロキの影響か、モルフィネスまでもハンベエをネタに笑いを取るつもりのようだ。
「何時でもどうにでもできるって腹なんだろうな、テッフネールって奴にしてみれば。余裕こきやがって、相当な自信過剰野郎だ。」
ハンベエは少し憎々しげに歯を剥いた。
「なるほど、確かにハンベエに似ているかも知れない。」
モルフィネスが更に笑った。
いやはや、寄ってたかって厭味や皮肉を浴びせられているハンベエであったが、ただ苦笑いするばかりである。
「さて、何はともあれ姫君には大事無くて良かったとしましょう。ただし、窮屈な思いをさせて恐縮ですが、テッフネールの件が片付くまで、遠乗りはお控え下さい。」
真面目な顔に戻ってモルフィネスがエレナに言った。
「片付く・・・・・・。」
「テッフネールの狙いは第一にハンベエの首、まず間違い無いでしょう。されば、ハンベエが自分の手で片付けるそうなので。だったなあ、ハンベエ。」
「ああ、そのつもりだ。しかし、貴公が賛成してくれるとは意外だなあ。」
ハンベエは少し驚いたようにモルフィネスの方を向いた。
「思案の末だ。他の者がテッフネールに手を出したら、どれだけの被害が出るか分からない。ハンベエと戦って私も学んだ。」
モルフィネスは冷然と言った。
「でも、ハンベエさんに万一の事でも有ったら。」
「その時はその時で、手を考えましょう。やられるにしても、ただやられるハンベエでも無いでしょう。」
「ハンベエさん・・・・・・。」
エレナは心配げにハンベエを見詰めた。
「大丈夫だ。・・・・・・と、取り敢えず言っておく。」
ハンベエはエレナを安心させようとか、少し笑みを浮かべて言った。
「取り敢えずなのかよお。ハンベエ、死んだりしたら、オイラ承知しないからねえ!」
「分かってるよ、ロキ。」
やれやれ、そもそも俺はヒョウホウ者なんだぜ、皆して無理な注文しやがると、心中思いながらも、ハンベエは頼もしげな顔をして答えた。
死のうはイチジョウ、覚悟の前、命知らずなハンベエが、皆に死ぬなと案じられ、俺はそんな愛されるような奴じゃあないんだがと、笑いたいやら泣きたいやらで、困惑しきりな胸の内であった。
普段、エレナは割り当てられた自室にいるか、演習に励む兵士達を巡視するか、今日のように馬を走らせて遠乗りに出掛けているか、であり、奇妙な事にハンベエとは没交渉であった。軍の旗頭と実戦指揮官の間の没交渉! エレナとハンベエの関係も未だ微妙であった。
ハンベエは丁度、モルフィネスやロキから新規募集の兵士の集まり具合の報告を受けているところだった。
「お邪魔かしら。」
ソルティアを引き連れてやって来たエレナは、ちょっと弾んだ調子で言った。
ロキが跳ね起きるように立ち上がって、エレナの為に椅子を当てがう。
「ロキさん、有り難う。」
エレナはロキに微笑んで、それから、ハンベエの方を見た。
「邪魔等とはとんでもない。今丁度、我が方の兵士の集まり具合の報告を受けていたところだ。無理矢理とはいえ、今回の戦の首謀者となる王女には、こういう軍議の席に、俺の方から呼ばなければいけなかったところだ。是非是非居てくれ。」
ハンベエは闊達な口調で言った。無愛想なこの男が、何やら殊更に明るい調子で喋る姿は若干不気味である。
「私には、戦向きの事は分かりませんので、無理して呼ばなくてもいいですよ。」
「分からなくても、王女にはいざ戦となれば、兵士達の先頭に立ってもらう事になる。我が方の企てがいかなるものか知っておいてもらいたい。」
「でも、戦の謀は全てハンベエさんが決める事になるのでしょう。そして、勝たせてくれるのでしょう。ならば、戦を知らぬ私が居て、余計な口出しなどせぬ方が物事が上手く進むではありませんか。」
「さすが、聡明な王女。良く解っている。」
ハンベエは少しおどけた調子で言った。わざとらしいほど陽気な素振りをしたり、おどけて見せたり、この男も随分芝居がかった振る舞いの増えた事である。
一言王女をヨイショしておいてからハンベエは続けて言った。
「なればこそ、こういう席には積極的に参加してもらいたい。そして、是非余計な事を言ってもらいたい。」
ハンベエの言葉にエレナは目を丸くした。口を出さないと言った自分を良く解っていると言い、その一方で積極的に会議に参加して、余計な事を言えとは、言っている事が支離滅裂である。
「あははは、王女様。ハンベエの言う事がとんちんかんで意味不明なのは良くある事だよお。えーと、きっとねえ、とにかく自分達が何をやってて、状況がどういう風になってるかは、王女様にも知っていてもらいたい。そういう事だよお。だったら、ハンベエも御前会議みたいに毎日王女様のところで報告会をすればいいんだよお。」
訝しむエレナの顔色を機敏に読み取ったロキが得意の胴間声で言った。
「御前会議か。悪くないな。モルフィネスはどう思う?」
ロキの提案に、表情を鈍いものに戻して、ハンベエが追随した。
「いいと思う。むしろ、姫君を旗頭に仰いで事を進めている以上、最初からそうすべきだったという話だな。」
「じゃあ、決めちゃうよお。毎朝七時、王女様のところで朝食を取りながら、状況報告の会議を行う。主要メンバーはハンベエ、オイラ、モルフィネス。後は状況に応じてメンバー追加。」
「まず、主要メンバーにドルバスを追加だ。それから、ヘルデンとパーレルも支障のない限り出席させるように。」
「じゃあ、決まりだねえ。」
ロキはそう言うと、エレナの方を向いて言った。
「王女様、お聞きのとおり決まりました。明日からという事でいいですかあ?」
「え?・・・・・・皆がそれが良いと言われるのなら、私に異存はありませんが。」
市場の仲買人がセリでもするように、思案の暇さえ与えず、物事を進めて行くロキにエレナは少し困惑したが、反対する理由も無い。
「じゃあ決まりだよお。後、ハンベエねえ、王女様に兵隊さん達の訓練の様子を巡視してもらってるようだけど、ただ見てもらうだけじゃ不十分だよお。ちゃんと説明係を付けて、王女様に状況を説明させなけりゃあ。」
ついでとばかりに、ロキがハンベエに意見する。
「なるほど、後で検討してみる。」
と、ハンベエは鷹揚に答えた。
「ハンベエはねえ、発想は悪く無いんだけど、時々詰めが甘いんだよねえ。」
したり顔で付け加えるロキに、ハンベエばかりかモルフィネス、更にはエレナまで苦笑してしまった。
ハンベエは軍司令官である。ハンベエとロキの関係で無かったら、人前でこんな人を小馬鹿にしたような発言は許されない。
だが、放っておけば、強面になりがちなハンベエの雰囲気を、ロキとしては引っ掻き回して和らげているつもりであった。
(全くオイラが側に居てやらなけりゃ、ハンベエなんておっかないだけの人間で、その優しいところなんて、きっと誰にも分かっちゃもらえないんだあ。)
と、ロキは烏滸がましくも思っていたりするのである。
「ところで、何か話が有るのだろう?」
ひとしきり苦笑いをした後、ハンベエはエレナに向かって尋ねた。
「大した事では有りませんが、今日町外れで一人の武人を見かけました。歳の頃は五十歳前後に見受けられましたが、相当な剣の達人のようでした。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
モルフィネスとロキは顔を見合わせ、ハンベエはブスッとした顔付きでエレナを見詰めた。
「詰まらない話ですね。御免なさい。」
三人の異様な面持ちに、エレナは話の続きをするのを戸惑ったようだ。
「いや、むしろ興味の有り過ぎる話だ。続けてくれ。何が有った?」
ハンベエはエレナを凝視したまま先を促した。
「別に何が有ったというわけでは有りませんが、その人の腰に差していた剣が、ハンベエさんの『ヨシミツ』に良く似ていたものでしたので。」
「この型の剣を差していたのか。」
「ええ、セキシュウサイと名乗っていましたけど。」
「そいつと話をしたのか?」
「・・・・・・ええ、他愛もない話でしたけど。あの、ハンベエさん、私、何か睨みつけられるような事をしたのでしょうか?」
「ああ、済まない。別に王女を睨むつもりは無かった。」
我知らず、恐ろしい顔付きになっていた事に気付き、ハンベエが詫びた。
「・・・・・・だからあ、ハンベエ・・・・・・せめて王女様くらいには知らせておくべきだったんだよお。」
ロキが口を尖らせて、ハンベエに言う。
「セキシュウサイか。ふん。」
ハンベエは口元を歪めて、少し笑った。
「一体、何の事ですの? 知らせおくべきだったとか?」
「そいつは、九分九厘、テッフネールという男で、敵方が放った刺客だ。」
ハンベエは面白くなさそうに言った。
「刺客!」
エレナは呟きながら、何やら思い当たる節があるかのように肯いた。
「そんな危ない奴に出会って、王女様にもしもの事が有ったら、どうするつもりだったんだよお? やっぱり大事な事は王女様に知らせとかなきゃあ。」
今更ながらの話と思わないではないが、忿懣やる方ないという様子でロキがハンベエを責め立てる。
「済まなかった。」
なまじテッフネールの事を知らなかった故に、王女は難を逃れた、という気もしないではなかったが、ハンベエは素直に詫びた。
「刺客というような陰惨な雰囲気では無かったですけど・・・・・・穏やかさを装う中に何やら危なげなものを感じさせる人物でしたね。ハンベエさんと一脈似たところがあるような気がしました。」
クスリとエレナは笑った。
「王女様、笑ってる場合じゃないよお。ホントに危ないところだったんだからあ。」
「いや、王女は笑っていてくれ。笑えるとは頼もしい限りだ。」
ハンベエ、何故か嬉しそうに言った。
「ハンベエ、何言ってんだよお。・・・・・・って、それもそおかあ。」
ロキは尚も不満を言いかけたが、途中で何やら一人合点して口を噤んだ。
この間、モルフィネスはずっと黙ったままであった。端正な美貌を正面にむけたまま、何やら思案を重ねていたが、不意に口を開いた。
「しかし、テッフネールは何故姫君に手を出さなかったのでしょう?」
「何故でしょう? それどころか私、忠告されました。『見ず知らずの者と心安くすると、とんでもない危険な者に関わる事になる』と。」
「なるほど、言い得て妙だ。しかし、手遅れとも言えます。姫君は既にハンベエに関わってしまっている。もっと早く忠告してもらえば良かったですな。」
モルフィネスが珍しく笑みを浮かべて言った。ロキの影響か、モルフィネスまでもハンベエをネタに笑いを取るつもりのようだ。
「何時でもどうにでもできるって腹なんだろうな、テッフネールって奴にしてみれば。余裕こきやがって、相当な自信過剰野郎だ。」
ハンベエは少し憎々しげに歯を剥いた。
「なるほど、確かにハンベエに似ているかも知れない。」
モルフィネスが更に笑った。
いやはや、寄ってたかって厭味や皮肉を浴びせられているハンベエであったが、ただ苦笑いするばかりである。
「さて、何はともあれ姫君には大事無くて良かったとしましょう。ただし、窮屈な思いをさせて恐縮ですが、テッフネールの件が片付くまで、遠乗りはお控え下さい。」
真面目な顔に戻ってモルフィネスがエレナに言った。
「片付く・・・・・・。」
「テッフネールの狙いは第一にハンベエの首、まず間違い無いでしょう。されば、ハンベエが自分の手で片付けるそうなので。だったなあ、ハンベエ。」
「ああ、そのつもりだ。しかし、貴公が賛成してくれるとは意外だなあ。」
ハンベエは少し驚いたようにモルフィネスの方を向いた。
「思案の末だ。他の者がテッフネールに手を出したら、どれだけの被害が出るか分からない。ハンベエと戦って私も学んだ。」
モルフィネスは冷然と言った。
「でも、ハンベエさんに万一の事でも有ったら。」
「その時はその時で、手を考えましょう。やられるにしても、ただやられるハンベエでも無いでしょう。」
「ハンベエさん・・・・・・。」
エレナは心配げにハンベエを見詰めた。
「大丈夫だ。・・・・・・と、取り敢えず言っておく。」
ハンベエはエレナを安心させようとか、少し笑みを浮かべて言った。
「取り敢えずなのかよお。ハンベエ、死んだりしたら、オイラ承知しないからねえ!」
「分かってるよ、ロキ。」
やれやれ、そもそも俺はヒョウホウ者なんだぜ、皆して無理な注文しやがると、心中思いながらも、ハンベエは頼もしげな顔をして答えた。
死のうはイチジョウ、覚悟の前、命知らずなハンベエが、皆に死ぬなと案じられ、俺はそんな愛されるような奴じゃあないんだがと、笑いたいやら泣きたいやらで、困惑しきりな胸の内であった。
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