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百十四 妖婦と剣鬼(その二)
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「ステルポイジャンめ、あの態度は何じゃ。国母であるわらわを何と心得ておるのじゃ。」
大将軍の執務室を辞し、廊下を少し歩くと、モスカは小声でガストランタに漏らした。不快げに顔を歪めている。
ガストランタはモスカの少し後ろを寄り添うように歩いていたが、ハッと顔色を変え、
「太后殿下、ここはまだ王宮、滅多な事を言ってはなりません。とは云え、大将軍の敬意一つ見せぬあの振る舞い、お気持ちはお察しいたします。」
と窘めた。
「そうであったの。そうじゃ、今宵はわらわの|臥所《ふしど)に参るが良い。今後の事をじっくり話そうぞ。」
モスカは例のケバケバしい扇子で口元を隠しながら囁いた。
二人が王宮の出口に差し掛かった時、初老の男が入って来た。髪はザンバラに肩口を越し、陰欝な目をしている。衣服は洗いざらしの白い上下で、ややそぼろになっている。腰にはハンベエやガストランタと同じ種類の片刃の剣、つまり日本刀に似た剣を一振り帯びていた。
男はモスカ達を見掛けると、脇に寄り、片膝ついて道を空けた。
見掛けない顔だ、と思いながらガストランタはモスカを守るようにして外に出た。
その男とすれ違って数歩、突然ガストランタは背中にゾワッと冷たい痛撃を一筋感じて、腰の刀に手を掛けて振り返った。
振り返った先には、その男が薄ら笑いを浮かべて立っていた。
ほう、少しはできるようじゃな、とでも言うように、その男は片頬を歪ませて歯を見せた後、無言のまま背を向けて歩み去って行った。
(間違い有るまい。こいつがテッフネールだ。)
ガストランタは全身びっしょりと冷たい汗を流しながら思った。
背中に痛撃を感じたが、斬られたわけでは無かった。初老の男の放った殺気に感応してしまったのである。
「いかが致した。」
と訝るモスカに、
「いえ、何も。」
とガストランタは、辛うじて平静を取り戻して答えた。
その男、真っ直ぐにステルポイジャンの部屋に向かい、軽く扉をノックするとそのまま中に入った。
「ステルポイジャン将軍、お久しゅうござる。お招きにより参上致した。」
「おおう、テッフネール。待っておったぞ。」
ガストランタが直感した通り、この初老の男が、剣の腕なら右に出る者無しとステルポイジャンの言った、テッフネールであった。
「まこと久しいのお、十年になるか。先ずは座れ。」
ステルポイジャンはテッフネールに椅子を進め、それから、廊下に出て衛兵を呼び、茶を持って来るように命じた。
「今、茶の用意を命じた。隠遁生活はいかがであった。」
「いや、さしたる楽しみもござらぬ。ただ星霜風雪の過ぎるに任せて過ごしたのみでござる。」
陰欝な目をしているが、肩に力の入らない感じでテッフネールが答えた。
「ところで先程、噂に聞く太后とおぼしき人物とすれ違ったのでござるが、共の者が腰に差していた剣、何やら『ヘイアンジョウ・マサトラ』に似てござった。何者でござる?」
テッフネールは来客用の長椅子に腰掛けてステルポイジャンに問いを発した。
「あれはガストランタと言う男でな。あの伝説の勇将フデンの一番弟子だ。中々使える奴なので、南方の守備軍を任せておった。今は太后のお守りをさせておる。あれの腰に差しておるのは紛れも無し、『ヘイアンジョウ・マサトラ』じゃ。そう言えば、その方の今差しておるのも、同じ種類の剣じゃな。」
執務机を離れ、テーブルを挟んでテッフネールの向かいに座りながらステルポイジャンが答えた。
「色々と剣も試して見ましたが、この剣が一番しっくり来てござる。両刃の剣も悪くはござらぬが、この片刃の剣は斬って良し突いて良し、一番でござるな。しかし、あれがフデンの一番弟子・・・・・・少しはできるとは思いましたが、まっ、弟子が師ほどに強い例は少ない。あんなものでござるかの? しかし、フデンの弟子であれば、その後のフデンの消息を知らぬでござろうか?」
「その方ほどでは無いが、あれはあれでかなり腕が立つ男だ。残念ながら、フデンのその後は知らぬらしい。奴の話では、『ヘイアンジョウ・マサトラ』を授けられた後は何処とも無く別れたそうだ。」
とステルポイジャンは言った。既に読者ご存知の通り、ガストランタが『ヘイアンジョウ・マサトラ』を授けられてフデンと別れたと云うのは嘘っぱちである。だが、未だステルポイジャン陣営ではその大嘘がまかり通っていた。世間とはそんなものらしい。
「それは・・・・・・残念でござるな。みどもは一度はフデンと太刀を交えてみたいものと、それのみが心残りであったのでござるが。」
「十年前、理由も言わず、わしの下を去って隠遁生活を始めたが・・・・・・すると、十年前の隠遁の理由はフデン将軍が戦場から消えたからであったのか。」
「フデンとは敵として幾度となく戦場を同じくしたのに、何故か相まみえる機会に恵まれる事はござりませなんだな。」
「フデン将軍とテッフネールの一騎打ちか、見たかったものだな。」
「今となっては最早適わぬ夢でござるな。みどもはまだ五十一でござるが、フデンは七十を越してござろう。生きておられるとも思われぬ。」
しみじみ、といった風情でテッフネールが言った時に茶が運ばれて来た。
テッフネールはステルポイジャンに対し軽く会釈をすると、さも美味そうに茶を啜った。
「しかし、世の中とはままならぬものでござるな。かのフデンは今や世を覆うほどの盛名を得たのに、みどもなどは何百人と斬り倒し未だ負け知らずでも、さして人の口の端にも名が上らなんだ。もっともあちらは不世出と謳われた名将、みどもは一介の剣士に過ぎぬのでござるが。」
「いや、その方の名も知る者は知っておる。・・・・・・しかし、まさか、テッフネールよ。その方、武将に志が有ったのか?」
「いやいや、みどもも一応自分を心得てござる。所詮みどもは一介の剣士、兵卒に采配を振るうなど全く向かぬ事でござるよ。」
「そうか・・・・・・その方の今までの功績であれば、連隊長ぐらいになら、直ぐにもしてやるぞ。」
「ははは、過分なお言葉、それだけで十分でござる。それはそれとして、昔話をする為にみどもを呼び出したわけでもござるまい。如何なるご用で?」
「そうであった。実は人を一人斬ってもらいたい。」
「成る程、みどもにはうってつけの仕事と云うわけでござるな。」
テッフネールはやや皮肉っぽく笑んで言った。
「そうひがんだ言い方をするものではない。わしは余人をもって代え難い故、その方に頼むのだ。相手は並の獣では無い。近頃、滅多に見掛けぬ活きのいい虎だぞ。」
「何せ、幾ら腕前のほどを見せてもちっとも報われなんだ我が身に嫌気がさして、世を拗ね隠遁したこの身でござる。少しばかりの愚痴風味はご容赦あれ。して、相手は何者。」
「ハンベエという男だ。」
「近頃、名を聞く男、まだ若造でござるな。」
「ほう、隠遁しているその方の耳まで聞こえておったか。なら話は早い。そのハンベエをタゴロロームまで行って、斬り捨てて来てもらいたい。」
「どんな男なのでござるか?」
「歳は二十歳前後、剣の腕はフナジマ広場百人斬り、タゴロローム二百人斬り、わしも目の前でチラと腕の程を見たが、相当のツワモノじゃ。その上、一介の伍長から身を起こし、軍司令官を逆に滅ぼしてタゴロローム守備軍を掌握してしまったという油断も隙も無い男だ。」
「と言うと、単なる腕達者ではなく、将器なのでござるか。」
「将器も将器、前のタゴロローム軍司令官バンケルクを滅ぼした時は、二千足らずの兵で一万近い軍を撃ち破っている。この男、わしは部下にこそ欲しいと思ったが、どうやら完全に敵に回った。こちらに靡きそうもない。」
「ふーん、気に喰わん奴でござるな。」
テッフネールは心底不愉快そうに顔を歪めた。
「ならば引き受けてくれるか。」
「しかし、まだ二十歳そこそこの若造、戦となったら大将軍の敵ではござらぬでしょう。」
「そうとも言えん。奴はタゴロロームの王国金庫を理由を付けて早々と吸収してしまった。武勇ばかりでは無く、恐ろしく抜け目の無い奴なのだ。わしも先日直に相まみえたが、油断のならぬ男と見た。何より、今わしはゲッソリナから動けぬ。」
「成る程、して見事そのハンベエを片付けたら、みどもにはどのような報償が戴けるのでござるのかな。」
「報償・・・・・・先程、連隊長などは向かんと言ったな。とすれば金か。それとも領地か、望みのままに与えよう。」
「いやいや、金には困ってござらぬ。領地などもらっても反って扱いに困るだけでござる。」
「では何が良い?」
「はて、困った事にみどもも思い付かないのでござる。」
「どうすれば良いのだ。」
「まあ、二、三日考えて見させて下され。後日。」
テッフネールはこう答え、立ち上がって一礼した。
王宮を下って少し歩いたところで、テッフネールは七、八人の男に通せんぼを喰らった。
「我等は、太后陛下の命により貴殿をお招きに参上した。ついて参られよ。」
中の一人がテッフネールに言った。少しばかり、権高な物言いであった。
「断る。」
テッフネールはニベも無く答えた。何か虫の居所が悪いのか、ステルポイジャンの下を辞してから、不機嫌な様子であった。
そのまま足を止める事なく歩もうとすると、彼等は慌てて行手を阻んだ。
「しゃーっ。」
テッフネールは一声上げると、目に止まらぬ速さで腰の剣を抜いて振るっていた。正面に立ち塞がった男が三人、バタバタと倒れた。
いずれも首筋を一太刀で断ち裂かれ、声を上げる暇すらなく絶命していた。
「みどもは今気が立っている。遮る者は容赦せぬぞ。」
テッフネールが刺々しい口調で吐き捨てた。斬り捨てる前に言ってやれば良いのにと思わないでもない。ステルポイジャンの前では、何処かしらとぼけた雰囲気を漂わせていたが、とんでもない危険人物だったようだ。
と、一同の中の年かさの男が真っ青になってその前に回り、両膝をついて嘆願した。
「私は太后陛下の執事でフーシエと申す者です。お手向かいするつもりなど毛頭有りません。ただただ太后陛下の命により、太后陛下の下にお立ち寄りいただきたいだけの事です。」
すっかり平伏してしまっていた。
テッフネールは不機嫌そのままの顔で見下ろしていたが、
「ならば、参ろう。」
仕方なしと云う風に言った。やれやれと言わんばかりであった。
大将軍の執務室を辞し、廊下を少し歩くと、モスカは小声でガストランタに漏らした。不快げに顔を歪めている。
ガストランタはモスカの少し後ろを寄り添うように歩いていたが、ハッと顔色を変え、
「太后殿下、ここはまだ王宮、滅多な事を言ってはなりません。とは云え、大将軍の敬意一つ見せぬあの振る舞い、お気持ちはお察しいたします。」
と窘めた。
「そうであったの。そうじゃ、今宵はわらわの|臥所《ふしど)に参るが良い。今後の事をじっくり話そうぞ。」
モスカは例のケバケバしい扇子で口元を隠しながら囁いた。
二人が王宮の出口に差し掛かった時、初老の男が入って来た。髪はザンバラに肩口を越し、陰欝な目をしている。衣服は洗いざらしの白い上下で、ややそぼろになっている。腰にはハンベエやガストランタと同じ種類の片刃の剣、つまり日本刀に似た剣を一振り帯びていた。
男はモスカ達を見掛けると、脇に寄り、片膝ついて道を空けた。
見掛けない顔だ、と思いながらガストランタはモスカを守るようにして外に出た。
その男とすれ違って数歩、突然ガストランタは背中にゾワッと冷たい痛撃を一筋感じて、腰の刀に手を掛けて振り返った。
振り返った先には、その男が薄ら笑いを浮かべて立っていた。
ほう、少しはできるようじゃな、とでも言うように、その男は片頬を歪ませて歯を見せた後、無言のまま背を向けて歩み去って行った。
(間違い有るまい。こいつがテッフネールだ。)
ガストランタは全身びっしょりと冷たい汗を流しながら思った。
背中に痛撃を感じたが、斬られたわけでは無かった。初老の男の放った殺気に感応してしまったのである。
「いかが致した。」
と訝るモスカに、
「いえ、何も。」
とガストランタは、辛うじて平静を取り戻して答えた。
その男、真っ直ぐにステルポイジャンの部屋に向かい、軽く扉をノックするとそのまま中に入った。
「ステルポイジャン将軍、お久しゅうござる。お招きにより参上致した。」
「おおう、テッフネール。待っておったぞ。」
ガストランタが直感した通り、この初老の男が、剣の腕なら右に出る者無しとステルポイジャンの言った、テッフネールであった。
「まこと久しいのお、十年になるか。先ずは座れ。」
ステルポイジャンはテッフネールに椅子を進め、それから、廊下に出て衛兵を呼び、茶を持って来るように命じた。
「今、茶の用意を命じた。隠遁生活はいかがであった。」
「いや、さしたる楽しみもござらぬ。ただ星霜風雪の過ぎるに任せて過ごしたのみでござる。」
陰欝な目をしているが、肩に力の入らない感じでテッフネールが答えた。
「ところで先程、噂に聞く太后とおぼしき人物とすれ違ったのでござるが、共の者が腰に差していた剣、何やら『ヘイアンジョウ・マサトラ』に似てござった。何者でござる?」
テッフネールは来客用の長椅子に腰掛けてステルポイジャンに問いを発した。
「あれはガストランタと言う男でな。あの伝説の勇将フデンの一番弟子だ。中々使える奴なので、南方の守備軍を任せておった。今は太后のお守りをさせておる。あれの腰に差しておるのは紛れも無し、『ヘイアンジョウ・マサトラ』じゃ。そう言えば、その方の今差しておるのも、同じ種類の剣じゃな。」
執務机を離れ、テーブルを挟んでテッフネールの向かいに座りながらステルポイジャンが答えた。
「色々と剣も試して見ましたが、この剣が一番しっくり来てござる。両刃の剣も悪くはござらぬが、この片刃の剣は斬って良し突いて良し、一番でござるな。しかし、あれがフデンの一番弟子・・・・・・少しはできるとは思いましたが、まっ、弟子が師ほどに強い例は少ない。あんなものでござるかの? しかし、フデンの弟子であれば、その後のフデンの消息を知らぬでござろうか?」
「その方ほどでは無いが、あれはあれでかなり腕が立つ男だ。残念ながら、フデンのその後は知らぬらしい。奴の話では、『ヘイアンジョウ・マサトラ』を授けられた後は何処とも無く別れたそうだ。」
とステルポイジャンは言った。既に読者ご存知の通り、ガストランタが『ヘイアンジョウ・マサトラ』を授けられてフデンと別れたと云うのは嘘っぱちである。だが、未だステルポイジャン陣営ではその大嘘がまかり通っていた。世間とはそんなものらしい。
「それは・・・・・・残念でござるな。みどもは一度はフデンと太刀を交えてみたいものと、それのみが心残りであったのでござるが。」
「十年前、理由も言わず、わしの下を去って隠遁生活を始めたが・・・・・・すると、十年前の隠遁の理由はフデン将軍が戦場から消えたからであったのか。」
「フデンとは敵として幾度となく戦場を同じくしたのに、何故か相まみえる機会に恵まれる事はござりませなんだな。」
「フデン将軍とテッフネールの一騎打ちか、見たかったものだな。」
「今となっては最早適わぬ夢でござるな。みどもはまだ五十一でござるが、フデンは七十を越してござろう。生きておられるとも思われぬ。」
しみじみ、といった風情でテッフネールが言った時に茶が運ばれて来た。
テッフネールはステルポイジャンに対し軽く会釈をすると、さも美味そうに茶を啜った。
「しかし、世の中とはままならぬものでござるな。かのフデンは今や世を覆うほどの盛名を得たのに、みどもなどは何百人と斬り倒し未だ負け知らずでも、さして人の口の端にも名が上らなんだ。もっともあちらは不世出と謳われた名将、みどもは一介の剣士に過ぎぬのでござるが。」
「いや、その方の名も知る者は知っておる。・・・・・・しかし、まさか、テッフネールよ。その方、武将に志が有ったのか?」
「いやいや、みどもも一応自分を心得てござる。所詮みどもは一介の剣士、兵卒に采配を振るうなど全く向かぬ事でござるよ。」
「そうか・・・・・・その方の今までの功績であれば、連隊長ぐらいになら、直ぐにもしてやるぞ。」
「ははは、過分なお言葉、それだけで十分でござる。それはそれとして、昔話をする為にみどもを呼び出したわけでもござるまい。如何なるご用で?」
「そうであった。実は人を一人斬ってもらいたい。」
「成る程、みどもにはうってつけの仕事と云うわけでござるな。」
テッフネールはやや皮肉っぽく笑んで言った。
「そうひがんだ言い方をするものではない。わしは余人をもって代え難い故、その方に頼むのだ。相手は並の獣では無い。近頃、滅多に見掛けぬ活きのいい虎だぞ。」
「何せ、幾ら腕前のほどを見せてもちっとも報われなんだ我が身に嫌気がさして、世を拗ね隠遁したこの身でござる。少しばかりの愚痴風味はご容赦あれ。して、相手は何者。」
「ハンベエという男だ。」
「近頃、名を聞く男、まだ若造でござるな。」
「ほう、隠遁しているその方の耳まで聞こえておったか。なら話は早い。そのハンベエをタゴロロームまで行って、斬り捨てて来てもらいたい。」
「どんな男なのでござるか?」
「歳は二十歳前後、剣の腕はフナジマ広場百人斬り、タゴロローム二百人斬り、わしも目の前でチラと腕の程を見たが、相当のツワモノじゃ。その上、一介の伍長から身を起こし、軍司令官を逆に滅ぼしてタゴロローム守備軍を掌握してしまったという油断も隙も無い男だ。」
「と言うと、単なる腕達者ではなく、将器なのでござるか。」
「将器も将器、前のタゴロローム軍司令官バンケルクを滅ぼした時は、二千足らずの兵で一万近い軍を撃ち破っている。この男、わしは部下にこそ欲しいと思ったが、どうやら完全に敵に回った。こちらに靡きそうもない。」
「ふーん、気に喰わん奴でござるな。」
テッフネールは心底不愉快そうに顔を歪めた。
「ならば引き受けてくれるか。」
「しかし、まだ二十歳そこそこの若造、戦となったら大将軍の敵ではござらぬでしょう。」
「そうとも言えん。奴はタゴロロームの王国金庫を理由を付けて早々と吸収してしまった。武勇ばかりでは無く、恐ろしく抜け目の無い奴なのだ。わしも先日直に相まみえたが、油断のならぬ男と見た。何より、今わしはゲッソリナから動けぬ。」
「成る程、して見事そのハンベエを片付けたら、みどもにはどのような報償が戴けるのでござるのかな。」
「報償・・・・・・先程、連隊長などは向かんと言ったな。とすれば金か。それとも領地か、望みのままに与えよう。」
「いやいや、金には困ってござらぬ。領地などもらっても反って扱いに困るだけでござる。」
「では何が良い?」
「はて、困った事にみどもも思い付かないのでござる。」
「どうすれば良いのだ。」
「まあ、二、三日考えて見させて下され。後日。」
テッフネールはこう答え、立ち上がって一礼した。
王宮を下って少し歩いたところで、テッフネールは七、八人の男に通せんぼを喰らった。
「我等は、太后陛下の命により貴殿をお招きに参上した。ついて参られよ。」
中の一人がテッフネールに言った。少しばかり、権高な物言いであった。
「断る。」
テッフネールはニベも無く答えた。何か虫の居所が悪いのか、ステルポイジャンの下を辞してから、不機嫌な様子であった。
そのまま足を止める事なく歩もうとすると、彼等は慌てて行手を阻んだ。
「しゃーっ。」
テッフネールは一声上げると、目に止まらぬ速さで腰の剣を抜いて振るっていた。正面に立ち塞がった男が三人、バタバタと倒れた。
いずれも首筋を一太刀で断ち裂かれ、声を上げる暇すらなく絶命していた。
「みどもは今気が立っている。遮る者は容赦せぬぞ。」
テッフネールが刺々しい口調で吐き捨てた。斬り捨てる前に言ってやれば良いのにと思わないでもない。ステルポイジャンの前では、何処かしらとぼけた雰囲気を漂わせていたが、とんでもない危険人物だったようだ。
と、一同の中の年かさの男が真っ青になってその前に回り、両膝をついて嘆願した。
「私は太后陛下の執事でフーシエと申す者です。お手向かいするつもりなど毛頭有りません。ただただ太后陛下の命により、太后陛下の下にお立ち寄りいただきたいだけの事です。」
すっかり平伏してしまっていた。
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