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百七 廟算
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「私の方から願い出ようと考えた事も有ったが、そちらから誘いを受けようとは意外だったな。」
モルフィネスが言った。言葉付きは馴れ馴れしいが、表情は例によって氷のように冷ややかだ。
対するハンベエも話をしたいと自ら言い出しながら、無愛想な面付きをしている。
どちらも普段の地を隠そうともしない。
「敵味方の勢力を考えるに、子供が見てもステルポイジャン側が圧倒的に有利だ。それでも、お前は我が方を選んだ。いきさつはどうであれ、策士を自認しているモルフィネスだ。我が方が勝つ目は有るんだろう。それを聞かせてくれ。」
「勝ち負けはやり方次第だ。私は人数だけで決まるものとは考えない。」
「・・・・・・。」
ハンベエは黙ってモルフィネスを見詰めている。
「臆病者の大軍が勇敢な小勢に破れる事は良くある事だ。」
「相手はステルポイジャンだぜ。気構えで勝てるとは思えん。それに抽象的な話をしてもらっても時間の無駄だ。」
ハンベエは面白くもないという風情で言った。話を聞かせろと呼び止めておいて、その態度はないだろう、と思うほど傲慢に見える。
「では、話を変えよう。彼我の戦力を比べて見よう。まず、兵力だが。」
「一万対十七万。」
「だが、こちらはこれから募兵する。上手く集めれば、三万にはできるだろう。そして、貴族の五万は必ずしも一枚岩では無い。」
先にモルフィネスが弓部隊の編成を申し出た時は、モルフィネスが敵の兵力を二十倍と言ったのに対し、ハンベエが貴族は数に入れなくて良いと言い、今回はモルフィネスが数に入れない発言となった。
両者の言い分は逆になったが、これは今回はハンベエが味方に勝ち目が有るかどうかを問い、モルフィネスがそれを論破して勝利の道筋を示す立場になった為である。
主張内容によって事実の切り口が変わっただけの話で、二人の認識に変化が生じたわけではあるまい。
「しかし、それでも圧倒的に不利だな。」
「それは否定できない。だが、ステルポイジャン達は東のボルマンスクとも敵対している。十二万全てをこちらに向けて来る事はあるまい。ま、五万だな。三万対五万と考えれば、戦えない兵力差ではないだろう。」
「随分、こちらに都合の良い見立てに思えるが、そんなものかな?」
「ステルポイジャン達は二手目を失敗った。」
「・・・・・・。」
「一手目はバスバス平原の制圧とドルドル鉱山の確保だ。これは見事に決めた。」
「二手目は?」
「タゴゴローム守備軍の撃破だ。バトリスク一門を滅ぼした後、間髪を入れずタゴゴロームに軍を派遣していれば、如何にハンベエに武勇が有ろうと、手の施しようが無かっただろう。」
ハンベエは肯いた。そもそも、タゴゴローム到着直後に訪れたボーンも、そう見立てた。ハンベエ自身、直ぐにも攻めて来るものと慌てたのであった。
「奴等は何故直ぐ攻めて来なかったのかな?」
「想像だが、戦備が直ぐには整わなかったのだろう。準備さえ出来ていれば直ぐに攻めたはずだ。」
そう言えば、とハンベエは思った。ボーンから詳細を聞いたが、ゲッソリナ王宮からのラシャレー追い落としは、国王毒殺から始まった。その国王毒殺も敵の親玉であるステルポイジャンすら知らぬ突発的なものであった。準備が整っていなかったとしても不思議ではない。
「だが、タゴゴロームを攻めるとして、理由は?」
「理由など、後から幾らでも付けられる。ともかく、直ぐにタゴゴローム守備軍を叩き潰していれば、ボルマンスクに対してステルポイジャン達は相当有利になっていたはずだ。」
「今からでも、叩き潰しに来るんじゃないか。」
「そうも行かないだろう。ボルマンスクの方がある程度の戦備を整えただろうから、ゲッソリナを手薄にしたら、ボルマンスクから攻められる危険が有る。私が我が方面に向けられる兵力をせいぜい五万と考えているのはそういう理由だ。」
「なるほど、言われて見ればそんな気もするが・・・・・・俺なら全軍を率いて、手早くタゴゴロームもボルマンスクも片付けるがなあ。自ら兵を率いて。」
「そうなれば、こちらはお手上げだが・・・・・・未だ動いてない処を見ると、ステルポイジャンに動けない理由が有るのではないかな。」
「動けない理由。」
「例えば王妃との対立、或いは部下への不信。」
モルフィネスやはり鋭い、とハンベエは王宮で目にした王妃モスカやガストランタ、ニーバルの顔を浮かべた。
「なるほど、兵力的には不利には違いないが、最初思っていたほどではないという事か。」
「そうだ。次に旗印の比較だ。」
「王女とフィルハンドラというわけだな。」
「そうだ。どちらが担ぐのに魅力的かと云えば、エレナ姫という事になる。」
「何故だ?」
「前の王妃はレーナと言われる慈悲深い事で王国民に慕われる存在だった。」
「ふーん。」
「レーナ王妃は、姿心映え美しき人物で、王妃の経営した孤児院や貧民診療所を懐かしむ王国民は多い。そして、エレナ姫はそのレーナ王妃の面影を強く宿している。王国民はエレナ姫にレーナ王妃の再来を感じるだろう。一方、フィルハンドラ王子は末っ子で歳若きため、王国民からさほどの関心を持たれていない。その上、母親のモスカ夫人が王国民に不人気だ。」
「こちらが有利というわけか。」
「そうだ。旗印など圧倒的力の前には無力だが、力が拮抗してくれば意味を持って来る。」
「なるほど。」
「次に指揮官の優劣だが、こちらはハンベエ次第と言う事になる。」
「俺次第か。」
「取り敢えず、この私の参入を受け入れ、且つ、王国金庫についての助言を聞き入れてくれたので及第としておこう。今後も曇り無き心で部下の進言に耳を傾けてもらいたい。」
モルフィネス、ここぞとばかりに売り込んだ。しかし、阿諛迎合の臭みは何故かない。無表情に淡々と言ってのけるのである。
「部下の進言・・・・・・ふふ、それにしては、随分敬意の無い物の言いようだな。」
「・・・・・・なんだ? まさか、閣下とか呼ばれたいのか? それなら、言葉遣いも改めても良いが。」
モルフィネスは怪訝な表情になって言った。
「このままでいい、いやこのままにしておいてくれ。馬鹿な事を言った。敬意など払われたら、頭が変になってしまう。」
「・・・・・・。」
「俺とステルポイジャンの器量比べか、奴の方が上だろう。年季も入ってる事だしな。」
「今回の場合、ステルポイジャン本人はゲッソリナを動けないだろうから、副官のガストランタかニーバルとの勝負になる。」
「ガストランタ、ニーバル・・・・・・ふっ。」
モルフィネスの言葉にハンベエは苦笑を浮かべた。
「何がおかしいのだ。」
「いや何、その二人なら王宮で会った事があってな。」
「それで。」
「ステルポイジャンに較べると、随分と小物さ。」
ふとハンベエは、別れ際、ステルポイジャンに言ったセリフを思い出した。
なるほど、あんな奴らが腹心ではステルポイジャンも心許なかろう。陰謀を巡らすには重宝したが、戦となったら・・・・・・もし、コーデリアス閣下が生きていたら、俺とステルポイジャンはどうなったのだろう、ふとハンベエはそんな事を思った。
(いや、どうにせよガストランタは斬らねばならない。)
直ぐに打ち消した。
「そうなのか、とすれば、ステルポイジャンは簡単にはタゴロロームに兵を派遣しては来ないかも知れない。全軍でないにしても、負ければ反対勢力が一気に勢いづく事になる。」
モルフィネスの戦力分析は続いていた。
「なるほどな、話を聞いてる内に大分見えて来たぜ。」
「まだ、話は終らないぞ。最後に個人的武勇の比較だ。ハンベエに煮え湯を飲まされたお陰で、私も個人の武勇について、考えを改めた。それも又、戦の勝敗を分ける大きな要因となる。」
「それなら、こっちが勝ってるぜ。何せ、俺とドルバスが居る。」
「・・・・・・と言ってやりたいが、向こうにもいる。」
「ほう・・・・・・。」
「四天王と呼ばれる連中がいる。ゲンブ、スザク、セイリュウ、ビャッコ。いずれも歴戦の勇士であり、剣の達人だ。」
「シテンノウ。」
「それに、ステルポイジャン軍には無敗を誇るテッフネールという男がいる。ここ十年消息が不明だが、恐るべき使い手だ。」
「どれも、初めて聞く名だが。」
「四天王はずっと南方にいたから、ゲッソリナ辺りでは名前が出なかったのだろう。テッフネールは言ったように十年ほど人の口の端に上っていない。だが、恐るべき使い手には間違いない。駆け出しの頃のエル、エルエスーデが立ち合ったらしいが、子供扱いだったそうだ。奴の頬の傷はテッフネールに付けられたものだ。」
「・・・・・・エルエスーデ・・・・・・子供扱いか。」
「もっとも、エルも駆け出しの頃だったから、再戦したらそう易々と敗れる事も無かったかも知れないが。」
「何故、殺されなかったんだ?」
「そこまでは知らない。エルもそんな事情は話さなかったし、聞きもしなかった。」
言いながら、モルフィネスはハンベエの表情に瞠目した。笑っているかのように見えるのである。ほんの僅かであるが、嬉しそうな顔色に変わったように感じられた。敵にも武勇に優れた人間がいると云う、味方にとっては有り難くない話を前に嬉しそうな顔をするとはどういう神経なのか。
「・・・・・・どうかしたのか、急に俺の顔をしげしげと見やがって。」
ハンベエはどうやら自分の表情の変化に気付いてないようだ。
「いや、喋り疲れただけだ。」
モルフィネスは誤魔化して視線を外しながら、こいつは根っからの喧嘩屋だ、強い奴が敵の中に居ると聞いて、我知らず心が躍っているらしい、と腹の中で思った。
「長話になったな。しかし、モルフィネスの話は大いに参考になった。次に打つ手も見えて来たぜ。」
ハンベエはのその言葉に、モルフィネスは立ち上がって執務室を出て行った。
去り際モルフィネスは、これからも私の提言に耳を傾けてくれ、勝ちたいならな、と言おうと考えたが、止めた。その必要もないものと思えたのだ。
おかしな事に話がし易い奴だ、妙な男だ、とモルフィネスは思った。
モルフィネスが言った。言葉付きは馴れ馴れしいが、表情は例によって氷のように冷ややかだ。
対するハンベエも話をしたいと自ら言い出しながら、無愛想な面付きをしている。
どちらも普段の地を隠そうともしない。
「敵味方の勢力を考えるに、子供が見てもステルポイジャン側が圧倒的に有利だ。それでも、お前は我が方を選んだ。いきさつはどうであれ、策士を自認しているモルフィネスだ。我が方が勝つ目は有るんだろう。それを聞かせてくれ。」
「勝ち負けはやり方次第だ。私は人数だけで決まるものとは考えない。」
「・・・・・・。」
ハンベエは黙ってモルフィネスを見詰めている。
「臆病者の大軍が勇敢な小勢に破れる事は良くある事だ。」
「相手はステルポイジャンだぜ。気構えで勝てるとは思えん。それに抽象的な話をしてもらっても時間の無駄だ。」
ハンベエは面白くもないという風情で言った。話を聞かせろと呼び止めておいて、その態度はないだろう、と思うほど傲慢に見える。
「では、話を変えよう。彼我の戦力を比べて見よう。まず、兵力だが。」
「一万対十七万。」
「だが、こちらはこれから募兵する。上手く集めれば、三万にはできるだろう。そして、貴族の五万は必ずしも一枚岩では無い。」
先にモルフィネスが弓部隊の編成を申し出た時は、モルフィネスが敵の兵力を二十倍と言ったのに対し、ハンベエが貴族は数に入れなくて良いと言い、今回はモルフィネスが数に入れない発言となった。
両者の言い分は逆になったが、これは今回はハンベエが味方に勝ち目が有るかどうかを問い、モルフィネスがそれを論破して勝利の道筋を示す立場になった為である。
主張内容によって事実の切り口が変わっただけの話で、二人の認識に変化が生じたわけではあるまい。
「しかし、それでも圧倒的に不利だな。」
「それは否定できない。だが、ステルポイジャン達は東のボルマンスクとも敵対している。十二万全てをこちらに向けて来る事はあるまい。ま、五万だな。三万対五万と考えれば、戦えない兵力差ではないだろう。」
「随分、こちらに都合の良い見立てに思えるが、そんなものかな?」
「ステルポイジャン達は二手目を失敗った。」
「・・・・・・。」
「一手目はバスバス平原の制圧とドルドル鉱山の確保だ。これは見事に決めた。」
「二手目は?」
「タゴゴローム守備軍の撃破だ。バトリスク一門を滅ぼした後、間髪を入れずタゴゴロームに軍を派遣していれば、如何にハンベエに武勇が有ろうと、手の施しようが無かっただろう。」
ハンベエは肯いた。そもそも、タゴゴローム到着直後に訪れたボーンも、そう見立てた。ハンベエ自身、直ぐにも攻めて来るものと慌てたのであった。
「奴等は何故直ぐ攻めて来なかったのかな?」
「想像だが、戦備が直ぐには整わなかったのだろう。準備さえ出来ていれば直ぐに攻めたはずだ。」
そう言えば、とハンベエは思った。ボーンから詳細を聞いたが、ゲッソリナ王宮からのラシャレー追い落としは、国王毒殺から始まった。その国王毒殺も敵の親玉であるステルポイジャンすら知らぬ突発的なものであった。準備が整っていなかったとしても不思議ではない。
「だが、タゴゴロームを攻めるとして、理由は?」
「理由など、後から幾らでも付けられる。ともかく、直ぐにタゴゴローム守備軍を叩き潰していれば、ボルマンスクに対してステルポイジャン達は相当有利になっていたはずだ。」
「今からでも、叩き潰しに来るんじゃないか。」
「そうも行かないだろう。ボルマンスクの方がある程度の戦備を整えただろうから、ゲッソリナを手薄にしたら、ボルマンスクから攻められる危険が有る。私が我が方面に向けられる兵力をせいぜい五万と考えているのはそういう理由だ。」
「なるほど、言われて見ればそんな気もするが・・・・・・俺なら全軍を率いて、手早くタゴゴロームもボルマンスクも片付けるがなあ。自ら兵を率いて。」
「そうなれば、こちらはお手上げだが・・・・・・未だ動いてない処を見ると、ステルポイジャンに動けない理由が有るのではないかな。」
「動けない理由。」
「例えば王妃との対立、或いは部下への不信。」
モルフィネスやはり鋭い、とハンベエは王宮で目にした王妃モスカやガストランタ、ニーバルの顔を浮かべた。
「なるほど、兵力的には不利には違いないが、最初思っていたほどではないという事か。」
「そうだ。次に旗印の比較だ。」
「王女とフィルハンドラというわけだな。」
「そうだ。どちらが担ぐのに魅力的かと云えば、エレナ姫という事になる。」
「何故だ?」
「前の王妃はレーナと言われる慈悲深い事で王国民に慕われる存在だった。」
「ふーん。」
「レーナ王妃は、姿心映え美しき人物で、王妃の経営した孤児院や貧民診療所を懐かしむ王国民は多い。そして、エレナ姫はそのレーナ王妃の面影を強く宿している。王国民はエレナ姫にレーナ王妃の再来を感じるだろう。一方、フィルハンドラ王子は末っ子で歳若きため、王国民からさほどの関心を持たれていない。その上、母親のモスカ夫人が王国民に不人気だ。」
「こちらが有利というわけか。」
「そうだ。旗印など圧倒的力の前には無力だが、力が拮抗してくれば意味を持って来る。」
「なるほど。」
「次に指揮官の優劣だが、こちらはハンベエ次第と言う事になる。」
「俺次第か。」
「取り敢えず、この私の参入を受け入れ、且つ、王国金庫についての助言を聞き入れてくれたので及第としておこう。今後も曇り無き心で部下の進言に耳を傾けてもらいたい。」
モルフィネス、ここぞとばかりに売り込んだ。しかし、阿諛迎合の臭みは何故かない。無表情に淡々と言ってのけるのである。
「部下の進言・・・・・・ふふ、それにしては、随分敬意の無い物の言いようだな。」
「・・・・・・なんだ? まさか、閣下とか呼ばれたいのか? それなら、言葉遣いも改めても良いが。」
モルフィネスは怪訝な表情になって言った。
「このままでいい、いやこのままにしておいてくれ。馬鹿な事を言った。敬意など払われたら、頭が変になってしまう。」
「・・・・・・。」
「俺とステルポイジャンの器量比べか、奴の方が上だろう。年季も入ってる事だしな。」
「今回の場合、ステルポイジャン本人はゲッソリナを動けないだろうから、副官のガストランタかニーバルとの勝負になる。」
「ガストランタ、ニーバル・・・・・・ふっ。」
モルフィネスの言葉にハンベエは苦笑を浮かべた。
「何がおかしいのだ。」
「いや何、その二人なら王宮で会った事があってな。」
「それで。」
「ステルポイジャンに較べると、随分と小物さ。」
ふとハンベエは、別れ際、ステルポイジャンに言ったセリフを思い出した。
なるほど、あんな奴らが腹心ではステルポイジャンも心許なかろう。陰謀を巡らすには重宝したが、戦となったら・・・・・・もし、コーデリアス閣下が生きていたら、俺とステルポイジャンはどうなったのだろう、ふとハンベエはそんな事を思った。
(いや、どうにせよガストランタは斬らねばならない。)
直ぐに打ち消した。
「そうなのか、とすれば、ステルポイジャンは簡単にはタゴロロームに兵を派遣しては来ないかも知れない。全軍でないにしても、負ければ反対勢力が一気に勢いづく事になる。」
モルフィネスの戦力分析は続いていた。
「なるほどな、話を聞いてる内に大分見えて来たぜ。」
「まだ、話は終らないぞ。最後に個人的武勇の比較だ。ハンベエに煮え湯を飲まされたお陰で、私も個人の武勇について、考えを改めた。それも又、戦の勝敗を分ける大きな要因となる。」
「それなら、こっちが勝ってるぜ。何せ、俺とドルバスが居る。」
「・・・・・・と言ってやりたいが、向こうにもいる。」
「ほう・・・・・・。」
「四天王と呼ばれる連中がいる。ゲンブ、スザク、セイリュウ、ビャッコ。いずれも歴戦の勇士であり、剣の達人だ。」
「シテンノウ。」
「それに、ステルポイジャン軍には無敗を誇るテッフネールという男がいる。ここ十年消息が不明だが、恐るべき使い手だ。」
「どれも、初めて聞く名だが。」
「四天王はずっと南方にいたから、ゲッソリナ辺りでは名前が出なかったのだろう。テッフネールは言ったように十年ほど人の口の端に上っていない。だが、恐るべき使い手には間違いない。駆け出しの頃のエル、エルエスーデが立ち合ったらしいが、子供扱いだったそうだ。奴の頬の傷はテッフネールに付けられたものだ。」
「・・・・・・エルエスーデ・・・・・・子供扱いか。」
「もっとも、エルも駆け出しの頃だったから、再戦したらそう易々と敗れる事も無かったかも知れないが。」
「何故、殺されなかったんだ?」
「そこまでは知らない。エルもそんな事情は話さなかったし、聞きもしなかった。」
言いながら、モルフィネスはハンベエの表情に瞠目した。笑っているかのように見えるのである。ほんの僅かであるが、嬉しそうな顔色に変わったように感じられた。敵にも武勇に優れた人間がいると云う、味方にとっては有り難くない話を前に嬉しそうな顔をするとはどういう神経なのか。
「・・・・・・どうかしたのか、急に俺の顔をしげしげと見やがって。」
ハンベエはどうやら自分の表情の変化に気付いてないようだ。
「いや、喋り疲れただけだ。」
モルフィネスは誤魔化して視線を外しながら、こいつは根っからの喧嘩屋だ、強い奴が敵の中に居ると聞いて、我知らず心が躍っているらしい、と腹の中で思った。
「長話になったな。しかし、モルフィネスの話は大いに参考になった。次に打つ手も見えて来たぜ。」
ハンベエはのその言葉に、モルフィネスは立ち上がって執務室を出て行った。
去り際モルフィネスは、これからも私の提言に耳を傾けてくれ、勝ちたいならな、と言おうと考えたが、止めた。その必要もないものと思えたのだ。
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