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六十一 オイラは王女様に弱いんだよお。
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エルエスーデから受けた傷の応急手当を手早く済ませ、ハンベエはドルバスと二人、昨夜の内にハナハナ山に進発した第五連隊兵士達を追いかけるべく、駐屯地を後にした。
部隊はとっとと先に進軍、後から追い掛ける連隊長。シンガリを買って出たと云えば格好はいいが、やはり何処か大将が様にならないハンベエだ。
それにしても今回は斬りまくったものである。デタラメな暴れっ振りも最高潮。何と一人で百四十三人。累計すれば二百五十と八人。千人斬りの目標を思えば、ウハウハであった。赤飯炊くべきや否や。
まあ、無駄口は閉じておく事として、ハンベエ、実はタゴロロームを去るに当たり、心に残る事が二つある。
一つは金貨を綺麗さっぱり持って行かれたバンケルクが、すっからかんの地下室の惨状に気づいた時、どんな風に顔を歪めるか、その泣きっ面を拝む事ができない事であり、今一つはロキの事であった。
ハンベエが故第五連隊長コーデリアスの推薦状を託し、ついでにゴロデリア王国宰相ラシャレーの人物鑑定を頼んだロキ。ゲッソリナからラシャレーの使者ファーブルがやって来た事から、ロキが期待に違わず、上手くやってのけた事は間違いないようだとハンベエは思ったが、その後の連絡がない。
ファーブルがハンベエのところに現われてから、既に十日目である。帰って来ていても良さそうなものだが、音沙汰無し。王女エレナの所に寄ったとしても、遅すぎる。
本来、ゲッソリナへの使者を依頼した時に、後々の連絡についても綿密に打ち合わせて置くべきであったが、根は行き当たりばったりが身上なハンベエは、そこまで思案が回りかねた。
今回ハンベエがハナハナ山へと立ち去った後に、ロキがタゴロロームにハンベエを訪ねて来る光景が脳裏をかすめた時、ある意味危機感の鈍いこの男も背筋に寒いものを感じずにはいられなかった。
一度モルフィネスの手下に攫われかけ、今やハンベエが完全にバンケルクと敵対していると知っているロキなので、不用意にうろついてバンケルク側に捕らえられるようなドジを踏むとも思われないが、それでも十二歳の少年である。
ハンベエはロキの才覚を高く買ってはいたが、その身を案じる心はまた別のものであった。
今はロキ自身の判断力に任せるほかないが、ハンベエはどうにか一つだけ手を打っていた。
タゴロローム守備軍司令部からの金貨略奪に先立ち、ハンベエはイザベラに秘密の脱出口の鍵を破る事を依頼したが、その際にロキの事も頼んでおいたのである。
「ロキが心配だ。悪いが、俺が立ち去った後も尚十日タゴロロームに留まって様子を見てくれ。ロキを見つけたら、ハナハナ山に来るように言ってくれ。決してバンケルク側に捕らわれる事のないように頼む。」
ハンベエは手を合わせるようにしてイザベラに頼んだ。
「ロキね。あたしもロキの事は嫌いじゃないから引き受ける事とするよ。今回は随分とハンベエに貸しができて嬉しい限りだよ。うふふふ、いずれ取り立てるからね。覚悟しておき。」
「・・・・・・。」
「冗談だよ。精々頑張って、これからもあたしを楽しませておくれな。」
「十日を過ぎたら、一度ハナハナ山に来てくれ。分け前の話もしたい。」
「そうだね。分かったよ。」
さて、ハンベエはいざ知らず、読者諸君はロキがエレナに頼まれてゲッソリナの王宮に留まった事をご存知だ。その後どうなったのであろう。
話は九日前のゲッソリナに戻る。ラシャレーの使者ファーブルがハンベエの下にやって来る前の日である。
エレナに頼られてロキは王宮に滞在三日目であった。今日は王女の私室に呼ばれ、二人で話していた。
エレナは人払いをして、部屋の中にはロキと二人切りだ。ついでに言っておくと、かつてエレナの侍女として側近く使えていたシンバは気の毒な事にまだ牢の中である。操られたとはいえ、王女に刃を向けたのであるから仕方のない事であった。
「私には、バンケルク将軍がそのような非道をなすとは、どうしても信じられないのです。きっと何か余程深い事情があるのではないかと思えてしようがないのです。」
エレナはロキに向けて小声で語り掛けていた。
「オイラも最初に頼み事をされた時と、将軍の雰囲気が全く変わっていて、びっくりしたよお。でも、ハンベエが嘘を言うなんてもっと信じられない事だから、きっと本当の事に違いないよお。」
「ロキさんのハンベエさんへの信頼はとても厚いのですね。でも、私にとって将軍は剣の師、この目で見、この耳で聞くまではとても信じられませんわ。」
「王女様、タゴロロームに行きたいんだね。でも、宰相閣下の見張りが厳しくてとても無理みたいだよお。」
ロキの発言も小声だ。
「実は。」
とエレナはロキの耳元に口を寄せると、囁いた。
「この城にはラシャレーも知らない抜け道があるのです。」
「えっ・・・・・・。」
ロキはエレナの囁きに目を丸くした。
「だから、抜け出すのは意外に簡単なのです。」
「・・・・・・。」
「問題はその後の事なのです。まず私はお金という物を今全く持っておりません。しかも、ゲッソリナから外へは一歩も出た事がないので、どうやってタゴロロームへ行こうかと。」
「お金持ってないのお。」
「この城で暮らす上は必要が有りませんしね。下の者に命じて用意させる事はできますが、今の状況だと直ぐに疑われてしまいますわ。」
「金なら大丈夫だよお。ラシャレー宰相から金貨九枚もらったし。」
「ラシャレーから・・・・・・金貨九枚ですの?」
「そうなんだよお。何故か九枚なんだよお。」
「私に遠慮したのでしょうか?・・・・・・まさかね。しかし、私に『金貨十枚も』と散々嫌味を言って置きながら、自分もそんな真似をするとは狡い男ですわ。」
「いや、きっとオイラの届けた書面が重要な物だったんだよお。」
「あら、私とした事が。・・・・・・きっとラシャレーもロキさんの人柄が気に入ったのでしょう。」
エレナはそう言うと再びロキの耳元に顔を寄せ、
「では、ロキさんにタゴロロームへの道案内を頼めますか?」
と囁いた。
「止めても無駄だよねえ。ハンベエの性格から考えて、もう向こうじゃあ、きっと血で血を洗うような話になってるんじゃないかと思うんだけどお、オイラ、一も二もなく王女様の味方だから、引き受けるよお。」
ロキが仕方ないやという具合に肩を竦めて言うと、エレナは少しくすぐったそうな微笑みを浮かべて呟いた。
「ありがとう。」
この後、エレナとロキは更に声を潜めて密談を続けた。
密談が終わってからは、エレナは気分が優れないと言って、部屋に閉じこもり誰も近づかないよう指示した。そして、食事等の時以外は人前に姿を現さない。しかも、人前に姿を現す時は何故かベールで顔を隠しているのである。
王女に仕える者は奇妙に思ったが、理由を尋ねるのを憚った。
そうして二日が過ぎた。
三日目の朝、いつもエレナの護衛をしている二人の武官が『王女の姿が見えない』と騒ぎ出した。この二人、物語の最初の方、ハンベエとロキが初めて王宮に乗り込んで来た時とハンベエ達がタゴロロームに旅立つ時に登場していたが、名前は出ていなかった。何時までも名無しの権兵衛というのも気の毒であるから、そろそろ紹介しよう。
名はスパルスとザーニックという。がっしりとした体格で、タゴロロームにいる(この時点ではまだいるよ)ドルバスの巨躯には及ばないが、大柄な筋肉モリモリタイプである。
この二人は常日頃から、王女エレナの護衛として側についていたのだが、ここ二日はエレナの指示で身辺から離れさせられており、エレナ自身部屋に籠もりっぱなしだった。
遂に不審を抱いたスパルスとザーニックが侍女に強要して、エレナの私室を開けさせたのである。
王女行方不明の情報が流れると、直ぐにラシャレーが客室に滞在しているロキのところにやって来た。
一応のノックをしてラシャレーが入って来ると、ロキは椅子に腰掛けて丸テーブルに手をついていた。まるで、ラシャレーがやって来るのを見通していたかのようだ。
「ロキ、ざっくばらんに尋ねる。その方、エレナ姫の失踪に関与しているのではないのか?」
ラシャレーは単刀直入に質問した。立ったままである。
ロキは椅子から立ち上がると、静かに一礼して言った。
「関与してるよお。オイラ、王女様に路銀渡した。王女様はタゴロロームに向かったよお。」
「呆れた奴じゃな。姫が今からタゴロロームに行けば、危険にさらされるとは思わんのか。」
「危険だと思うよお。だけど、危ないからやめろとばかり言うのもどうかなあ、王女様は赤子じゃないからね。」
「口の達者な奴だ。姫は今何処におるのだ。」
「さあ、この城を出たのが三日前だから、馬を飛ばせば、タゴロローム近くまで行き着いてるかもだよお。」
「三日前だと。しかし、姫は昨日まで・・・・・・。」
「あれは替玉だよお。ところで、オイラはどうなるのかな? 王女様の失踪がバレた以上王宮に留まってても仕方ないしね。牢屋に入れられるんだろうか?」
「ふむ。困った忠義者だ。罰する理由もなかろう。用が無いなら、去るが良かろう。しかし、一つだけ申しておく。ワシは姫の身を案じておるのだぞ。」
「分かってるよお。オイラも同じ気持ちだから。」
ロキはこう言うと、予め退去の用意をしていたと見えて、いつものツヅラを背負って逃げるように出て行った。ラシャレーの考えがいつ変わるか分かったものではない。兵法第三十六計『逃グルヲ上ト為ス』である。
ラシャレーは自分の執務室に戻ると直ぐに『声』を呼び、次のように命じた。
「大急ぎで、サイレント・キッチンから腕利きを二人選んで、タゴロロームに向かわせろ。任務はエレナ姫の護衛じゃ。」
「はて、王女様が城から抜け出した気配は有りませんが。」
「三日前に既にタゴロロームに向かっているとロキが吐いたわ。」
「三日前。我等を出し抜くとはどのような手を使ったのですかな。ゲッソリナからゲッソゴロロ街道への出口にも見張りを置いて有りますが、何の報告も有りませんな。」
「分からん。だが、グズクズはしてはおられん。直ぐ手配しろ。」
「承知しましたな。」
「ウム? 待て・・・・・・そうじゃな、ロキにも一人見張りを付けておけ。」
ラシャレーにロキが『王女様は三日前にはタゴロロームに向かって王宮を出た。』と答えた話はスパルスとザーニックも伝わった。
二人は大慌てで、タゴロローム目指して旅立って行った。
部隊はとっとと先に進軍、後から追い掛ける連隊長。シンガリを買って出たと云えば格好はいいが、やはり何処か大将が様にならないハンベエだ。
それにしても今回は斬りまくったものである。デタラメな暴れっ振りも最高潮。何と一人で百四十三人。累計すれば二百五十と八人。千人斬りの目標を思えば、ウハウハであった。赤飯炊くべきや否や。
まあ、無駄口は閉じておく事として、ハンベエ、実はタゴロロームを去るに当たり、心に残る事が二つある。
一つは金貨を綺麗さっぱり持って行かれたバンケルクが、すっからかんの地下室の惨状に気づいた時、どんな風に顔を歪めるか、その泣きっ面を拝む事ができない事であり、今一つはロキの事であった。
ハンベエが故第五連隊長コーデリアスの推薦状を託し、ついでにゴロデリア王国宰相ラシャレーの人物鑑定を頼んだロキ。ゲッソリナからラシャレーの使者ファーブルがやって来た事から、ロキが期待に違わず、上手くやってのけた事は間違いないようだとハンベエは思ったが、その後の連絡がない。
ファーブルがハンベエのところに現われてから、既に十日目である。帰って来ていても良さそうなものだが、音沙汰無し。王女エレナの所に寄ったとしても、遅すぎる。
本来、ゲッソリナへの使者を依頼した時に、後々の連絡についても綿密に打ち合わせて置くべきであったが、根は行き当たりばったりが身上なハンベエは、そこまで思案が回りかねた。
今回ハンベエがハナハナ山へと立ち去った後に、ロキがタゴロロームにハンベエを訪ねて来る光景が脳裏をかすめた時、ある意味危機感の鈍いこの男も背筋に寒いものを感じずにはいられなかった。
一度モルフィネスの手下に攫われかけ、今やハンベエが完全にバンケルクと敵対していると知っているロキなので、不用意にうろついてバンケルク側に捕らえられるようなドジを踏むとも思われないが、それでも十二歳の少年である。
ハンベエはロキの才覚を高く買ってはいたが、その身を案じる心はまた別のものであった。
今はロキ自身の判断力に任せるほかないが、ハンベエはどうにか一つだけ手を打っていた。
タゴロローム守備軍司令部からの金貨略奪に先立ち、ハンベエはイザベラに秘密の脱出口の鍵を破る事を依頼したが、その際にロキの事も頼んでおいたのである。
「ロキが心配だ。悪いが、俺が立ち去った後も尚十日タゴロロームに留まって様子を見てくれ。ロキを見つけたら、ハナハナ山に来るように言ってくれ。決してバンケルク側に捕らわれる事のないように頼む。」
ハンベエは手を合わせるようにしてイザベラに頼んだ。
「ロキね。あたしもロキの事は嫌いじゃないから引き受ける事とするよ。今回は随分とハンベエに貸しができて嬉しい限りだよ。うふふふ、いずれ取り立てるからね。覚悟しておき。」
「・・・・・・。」
「冗談だよ。精々頑張って、これからもあたしを楽しませておくれな。」
「十日を過ぎたら、一度ハナハナ山に来てくれ。分け前の話もしたい。」
「そうだね。分かったよ。」
さて、ハンベエはいざ知らず、読者諸君はロキがエレナに頼まれてゲッソリナの王宮に留まった事をご存知だ。その後どうなったのであろう。
話は九日前のゲッソリナに戻る。ラシャレーの使者ファーブルがハンベエの下にやって来る前の日である。
エレナに頼られてロキは王宮に滞在三日目であった。今日は王女の私室に呼ばれ、二人で話していた。
エレナは人払いをして、部屋の中にはロキと二人切りだ。ついでに言っておくと、かつてエレナの侍女として側近く使えていたシンバは気の毒な事にまだ牢の中である。操られたとはいえ、王女に刃を向けたのであるから仕方のない事であった。
「私には、バンケルク将軍がそのような非道をなすとは、どうしても信じられないのです。きっと何か余程深い事情があるのではないかと思えてしようがないのです。」
エレナはロキに向けて小声で語り掛けていた。
「オイラも最初に頼み事をされた時と、将軍の雰囲気が全く変わっていて、びっくりしたよお。でも、ハンベエが嘘を言うなんてもっと信じられない事だから、きっと本当の事に違いないよお。」
「ロキさんのハンベエさんへの信頼はとても厚いのですね。でも、私にとって将軍は剣の師、この目で見、この耳で聞くまではとても信じられませんわ。」
「王女様、タゴロロームに行きたいんだね。でも、宰相閣下の見張りが厳しくてとても無理みたいだよお。」
ロキの発言も小声だ。
「実は。」
とエレナはロキの耳元に口を寄せると、囁いた。
「この城にはラシャレーも知らない抜け道があるのです。」
「えっ・・・・・・。」
ロキはエレナの囁きに目を丸くした。
「だから、抜け出すのは意外に簡単なのです。」
「・・・・・・。」
「問題はその後の事なのです。まず私はお金という物を今全く持っておりません。しかも、ゲッソリナから外へは一歩も出た事がないので、どうやってタゴロロームへ行こうかと。」
「お金持ってないのお。」
「この城で暮らす上は必要が有りませんしね。下の者に命じて用意させる事はできますが、今の状況だと直ぐに疑われてしまいますわ。」
「金なら大丈夫だよお。ラシャレー宰相から金貨九枚もらったし。」
「ラシャレーから・・・・・・金貨九枚ですの?」
「そうなんだよお。何故か九枚なんだよお。」
「私に遠慮したのでしょうか?・・・・・・まさかね。しかし、私に『金貨十枚も』と散々嫌味を言って置きながら、自分もそんな真似をするとは狡い男ですわ。」
「いや、きっとオイラの届けた書面が重要な物だったんだよお。」
「あら、私とした事が。・・・・・・きっとラシャレーもロキさんの人柄が気に入ったのでしょう。」
エレナはそう言うと再びロキの耳元に顔を寄せ、
「では、ロキさんにタゴロロームへの道案内を頼めますか?」
と囁いた。
「止めても無駄だよねえ。ハンベエの性格から考えて、もう向こうじゃあ、きっと血で血を洗うような話になってるんじゃないかと思うんだけどお、オイラ、一も二もなく王女様の味方だから、引き受けるよお。」
ロキが仕方ないやという具合に肩を竦めて言うと、エレナは少しくすぐったそうな微笑みを浮かべて呟いた。
「ありがとう。」
この後、エレナとロキは更に声を潜めて密談を続けた。
密談が終わってからは、エレナは気分が優れないと言って、部屋に閉じこもり誰も近づかないよう指示した。そして、食事等の時以外は人前に姿を現さない。しかも、人前に姿を現す時は何故かベールで顔を隠しているのである。
王女に仕える者は奇妙に思ったが、理由を尋ねるのを憚った。
そうして二日が過ぎた。
三日目の朝、いつもエレナの護衛をしている二人の武官が『王女の姿が見えない』と騒ぎ出した。この二人、物語の最初の方、ハンベエとロキが初めて王宮に乗り込んで来た時とハンベエ達がタゴロロームに旅立つ時に登場していたが、名前は出ていなかった。何時までも名無しの権兵衛というのも気の毒であるから、そろそろ紹介しよう。
名はスパルスとザーニックという。がっしりとした体格で、タゴロロームにいる(この時点ではまだいるよ)ドルバスの巨躯には及ばないが、大柄な筋肉モリモリタイプである。
この二人は常日頃から、王女エレナの護衛として側についていたのだが、ここ二日はエレナの指示で身辺から離れさせられており、エレナ自身部屋に籠もりっぱなしだった。
遂に不審を抱いたスパルスとザーニックが侍女に強要して、エレナの私室を開けさせたのである。
王女行方不明の情報が流れると、直ぐにラシャレーが客室に滞在しているロキのところにやって来た。
一応のノックをしてラシャレーが入って来ると、ロキは椅子に腰掛けて丸テーブルに手をついていた。まるで、ラシャレーがやって来るのを見通していたかのようだ。
「ロキ、ざっくばらんに尋ねる。その方、エレナ姫の失踪に関与しているのではないのか?」
ラシャレーは単刀直入に質問した。立ったままである。
ロキは椅子から立ち上がると、静かに一礼して言った。
「関与してるよお。オイラ、王女様に路銀渡した。王女様はタゴロロームに向かったよお。」
「呆れた奴じゃな。姫が今からタゴロロームに行けば、危険にさらされるとは思わんのか。」
「危険だと思うよお。だけど、危ないからやめろとばかり言うのもどうかなあ、王女様は赤子じゃないからね。」
「口の達者な奴だ。姫は今何処におるのだ。」
「さあ、この城を出たのが三日前だから、馬を飛ばせば、タゴロローム近くまで行き着いてるかもだよお。」
「三日前だと。しかし、姫は昨日まで・・・・・・。」
「あれは替玉だよお。ところで、オイラはどうなるのかな? 王女様の失踪がバレた以上王宮に留まってても仕方ないしね。牢屋に入れられるんだろうか?」
「ふむ。困った忠義者だ。罰する理由もなかろう。用が無いなら、去るが良かろう。しかし、一つだけ申しておく。ワシは姫の身を案じておるのだぞ。」
「分かってるよお。オイラも同じ気持ちだから。」
ロキはこう言うと、予め退去の用意をしていたと見えて、いつものツヅラを背負って逃げるように出て行った。ラシャレーの考えがいつ変わるか分かったものではない。兵法第三十六計『逃グルヲ上ト為ス』である。
ラシャレーは自分の執務室に戻ると直ぐに『声』を呼び、次のように命じた。
「大急ぎで、サイレント・キッチンから腕利きを二人選んで、タゴロロームに向かわせろ。任務はエレナ姫の護衛じゃ。」
「はて、王女様が城から抜け出した気配は有りませんが。」
「三日前に既にタゴロロームに向かっているとロキが吐いたわ。」
「三日前。我等を出し抜くとはどのような手を使ったのですかな。ゲッソリナからゲッソゴロロ街道への出口にも見張りを置いて有りますが、何の報告も有りませんな。」
「分からん。だが、グズクズはしてはおられん。直ぐ手配しろ。」
「承知しましたな。」
「ウム? 待て・・・・・・そうじゃな、ロキにも一人見張りを付けておけ。」
ラシャレーにロキが『王女様は三日前にはタゴロロームに向かって王宮を出た。』と答えた話はスパルスとザーニックも伝わった。
二人は大慌てで、タゴロローム目指して旅立って行った。
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