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三十 頼りになり過ぎる奴だぜ
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ハンベエはドルバスを宿営の前まで案内した。ルーズ達の死骸はそのままあった。片付けてないのだから当たり前だ。
「全員一太刀か・・・・・・凄い腕前だな。首が飛んでるのはルーズか。綺麗に飛ばしたものだ。据え物斬りでもないのに上手く斬ったものだ。」
ドルバスは死骸を確認しながら、感嘆の声を挙げた。死んでる人間に対する同情や死体を見た事による動揺とかはないようだ。見慣れているのだろう。
「問題ないようだ。全員剣を抜いてるし、後ろから、斬り付けた傷もないしな。」
ドルバスは死骸から目を離し、ハンベエを振り返って言った。
ハンベエは微妙な表情をしていた。足元の死骸を見下ろしながら、
「死体の衣服が妙に乱れている気がする。気のせいか?いや、間違いなく、誰かが死体を探った形跡がある。」
と不審気に言った。
「気にするな。きっと、誰かが金目の物でもないかと、死体をまさぐったんだろう。言いたかないが、第五大隊といのはそういう処さ。」
ドルバスは事もなげに言った。
「それより、よくぞ俺に相談してくれた。小隊長に報告して、死体を始末して、それでこの件はおしまいになるはずだ。すぐ行こう。」
そして、死骸から離れるとさっさと歩き出した。ハンベエもその後ろをついて歩いた。
(思ったとおりの奴で助かった。)
ハンベエは内心ホッとしていた。一つ間違えれば、上官殺しでタゴロローム守備隊全部を敵に回しかねない危ない局面である。まだ安心はできないが、ドルバスの証言次第では正当防衛が主張できる。
「俺に任せるか?」
歩きながら、ドルバスが出し抜けに言った。
「任せるとも。此処に来て初めて会った、信頼できそうな人間だからな。」
「ふむ、では俺が小隊長に説明するから、ハンベエは必要な事以外は黙っていろよ。」
「相分かった。」
ハンベエはさらっと答えて、口を結んだ。
小隊長の寝所は別になっていて、流石に見張りの兵隊が立っていた。見張りは一名である。各班が交替で努めているのである。
ドルバスが見張りの兵士に火急の報告がある事を伝えた。
五分程で小隊長が出て来た。小隊長の容貌は・・・・・・雑魚だし、登場場面もここだけなので省略、っと。
「報告する。ここに連れて来たハンベエはつい今し方、第五小隊第五班の班長ルーズ並びに班員三名を斬り殺した。」
ドルバスが淡々とした口調で言った。
第五小隊隊長はぎょっとした顔をした。
「じょ、上官殺し、それに、隊内暴動ではないか。それに反逆の罪もある。どうして、捕縛しないのか。」
「説明する。ハンベエを捕縛する理由はないと判断したからだ。何故なら、ルーズ班長等四名はハンベエを殺害すべく、突然襲い掛かったからだ。」
「ルーズ達から襲い掛かったのか。」
「うむ、ルーズ達が突然襲い掛かったのだ。」
「貴官は、それを見ていたのか?」
「うむ、偶々そこを通りかかり、一部始終を目撃した。偶々、自分は酔い醒ましに散歩していてな。そうすると、このハンベエの奴が自分の宿営に帰ろう歩いていたのだ。当人の話だと、用足しに出ていたらしい。ハンベエが宿営の前まで来ると、やにわに四つの影が、暗がりから現れて、声も発せずにこいつに斬り掛かったのだ。ところが、襲い掛かった四人は、逆にあっという間にハンベエに斬り伏せられてしまった。」
「まるで、見てきたような事を言う。」
「だから、一部始終を見ていたと言っているではないか。」
「おお、そうだった。すまない。しかし、貴官は何故止めなかったのだ。」
「止めるも止めないも、あっという間であったからな。」
「四人の相手をたった一人で、止める間もないほど素早く斬ったというのか?」
「うむ、そのとおりだ。全く、目にも止まらぬ早業、この目で見なければ、信じられなかったよ。まあ、無意識に体が反応したというか、余程修練を積んでいないとできない速さだったな。」
ドルバスは淀み無く答え続けている。明らかに嘘の部分が混じっているが、ハンベエは黙ったまま立っている。ここまで、味方になってくれるとは予想外だったが、せっかくのドルバスの親切を袖にする理由もない。
「で、相手を斬り倒して茫然としているハンベエに声をかけ、斬り倒した者が何者か、生きているかどうか、確認した上で、ここに同道したわけだ。」
「嘘はないんだろうな。下手な庇い立ては為にならないぞ。」
「庇い立て?、貴官、この俺が昼間この若造にどんな目に合わされたか知らないのか、どうして俺がこいつを庇い立てする?」
「いや、昼間の出来事は聞いている。・・・・・・それもそうだな。」
「それよりもだ。貴官配下の班長が班員を語らい、一人の兵隊を闇討ちした。この事実をどう考える。監督不行き届きではないか。ルーズ達のハンベエ殺害が成功していれば、ハンベエの死骸を何処かに埋めて、兵士一名逃亡とかで、片付けられたんだろうが、そうはいかなくなったな。」
「・・・・・・それはそれとして、当方としては取り敢えず、ハンベエを拘束しなければいかん事になる。」
「そうはいかん。何故なら、ハンベエには毛ほどの罪咎も無いからだ。闇討ちされて自分の身を守っただけの勇者を、貴官、捕縛するつもりか?」
「いや、それは・・・・・・斬り殺された、ルーズ達はイマワノキワに何か言い残さなかったのか?」
「全員即死だ、死体を検分すれば分かる。」
全員即死・・・・・・この男余程のテダレか、小隊長の胸にじんわりと恐怖が湧いてきた。改めて、ハンベエを見れば、この若者は特に凄んだような表情をしているわけではなく、物静かに立っているだけであるが、その静かさが反って不気味である。下手に捕縛しようと人を動かしたら、その腕前に物を言わせて大暴れするのではないか。小隊長はそう感じた。その上、ドルバスの話を聞けば、ハンベエに一点の落ち度もない。
「わしはどうすれば良いのか?」
小隊長は縋るように言った。いつの間にか脂汗が出始めていた。
「自分が知るわけないだろう。」
ドルバスは突き放すように言った。
小隊長は腕組みをして俯いた。困り果てた様子である。
ドルバスはしばらく、そんな小隊長の挙動を眺めていたが、
「ところで、ルーズ達は中々の悪党だったように思うが、目を瞑って見逃した悪事も一つや二つではきかないと思うが。」
とポツリと言った。
小隊長はボンヤリとドルバスの言葉を聞いていたが、急に目を輝かせて寝所に戻った。しばらく、ガサゴソ、カリカリと音がしていたが、やがて、一枚の紙を持って出て来た。
小隊長はハンベエにその紙を渡した。紙には、たった今書いたと分かる乾き切らない文字で、以下のように記されていた。
「 召喚状
ルーズ、ベルク、ハルク、トーマの四名に、素行上の行為につき、喚問したい疑有り。
よって、同名達に出頭を命ずる。
・・・・・・
小隊長・・・・・・」
召喚状を特に何の関心も無さそうに見るハンベエに、小隊長は言った。
「本日、わしは貴様にルーズ達をわしの下に出頭させる事を命じた。ルーズ達の日頃の行動が目に余るからだ。貴様はその召喚状を見せてルーズ達を連行しようとしたが、ルーズ達は命令に従わず、逃亡するために、逆に貴様に襲い掛かった。貴様は仕方なく四名を斬り捨てた。全てはこういう事だ。良いか。」
言われたハンベエは、ちょっと首を傾げ、
「こんな夜中に呼び出しですか?」
と、訝しげに言った。
「良いのだ。夜中に呼び出したのは、他の者に知られぬようにとの、わしの親心だ。しかし、ルーズ達はその親心も知らず、反逆逃亡を企てたので、貴様が処罰した。全てはそういう事だ。貴様に異存はないだろう。」
小隊長は決めつけるように言った。
決めつけられて、ハンベエは多少ムッとする思いであったが、悪い話ではないようだ。
「別にそれで構いませんよ。俺は。」
ハンベエは無愛想に言った。猫をかぶっているが、時々地金がでてしまうようだ。しかし、小隊長は自分の保身に頭がいっぱいなのであろう、特にハンベエの態度を咎める事も無かった。
小隊長はそれからドルバスの方を向き、
「貴官に異存は?」
と尋ねた。
「異存か?・・・・・・まあいいじゃろう。仲間のよしみで大目に見てやろう。」
ドルバスは少し勿体ぶって、そう答えた。
「よし、一応、現場を確認する。案内してくれ。」
小隊長はそう言って二人を促した。
そういうわけで、ハンベエは、又々、宿営に行く事になった。一体、何往復したやら・・・・・・ご苦労様。
小隊長は、ルーズ達の死骸を確認した後、大隊長に報告して、死骸の片付けもこちらの手でやるからと、ハンベエ達を解放した。
「ありがとう。助かったぜ。」
大隊長に報告のために立ち去る小隊長を遠目に見ながら、ハンベエはドルバスに礼を言った。
「いやいや、それほどの事じゃないが、十分恩に来てくれや。お前とは仲良くしといた方が良さそうじゃから。」
「あんた、意外に地位が高かったんだな。小隊長にタメグチ以上だったよな。」
「一応、中隊長付き武官だからな、俺は。小隊長並の扱いさ。」
「中隊長付き武官・・・・・・ふーん。」
ハンベエはちょっと首を傾げた。
「何だ?、何か不審な事があるのか?」
「うん、今日の昼間だが、俺との闘いで気を失ったあんたを中隊長が蹴ったんだが、聞いてるか。」
「蹴った。・・・・・・中隊長が俺を。・・・・・・中隊長・・・・・・ハリスンの野郎は俺を、倒れてる俺を蹴ったのかっ。」
ドルバスの形相がみるみる変わった。怒りと憤りで赤黒くなり、両の眼が異様な光を放ち始めた。丁度仁王像のような表情だ。あれほど、眼をギョロつかせてはいないが、眉間に険しい皺を寄せ、眼を吊り上げ、恐ろしい顔になった。
「やはり、知らなかったのか。・・・・・・何かやらかすなら、手を貸すぜ。」
ハンベエは殊更に力みのない口調で言った。別にドルバスを唆すつもりはない。ただ、中隊長のハリスンのやり口にはかなりカチンと来ていただけの話だ。
「こう見えても、俺は剣術の腕には覚えありありでね。第五中隊百二十五名程度なら、一人で相手できると自惚れてるんだ。」
久々にハンベエの強気発言。言ってるうちに気分が乗って来たのか、ふふんと薄ら笑いすら浮かんで来る。俄かに挑発的な気分が兆して来て、本当に一個中隊相手に暴れても構やしないぜと無頼な陽気が差して来た。
だが、やる気十二分に余って来たハンベエに対して、ドルバスは逆に落ち着いて来た。
「確かに、お前は頼りになりそうだ。大暴れして、ハリスンの細首を引きちぎってやりたいところだが、機会を待つ事にする。」
「そうか。まあ、何かやる時は、本当に手を貸すぜ。ヤバイ事なら尚更な。」
ハンベエはそう言ってニヤッと笑った。どうやら、タゴロローム守備隊の内情も多少分かり、最初の緊張感も解けて、持ち前の事あれかしの根性が頭をもたげ始めたようだ。
月が黙って見下ろしていた。
「全員一太刀か・・・・・・凄い腕前だな。首が飛んでるのはルーズか。綺麗に飛ばしたものだ。据え物斬りでもないのに上手く斬ったものだ。」
ドルバスは死骸を確認しながら、感嘆の声を挙げた。死んでる人間に対する同情や死体を見た事による動揺とかはないようだ。見慣れているのだろう。
「問題ないようだ。全員剣を抜いてるし、後ろから、斬り付けた傷もないしな。」
ドルバスは死骸から目を離し、ハンベエを振り返って言った。
ハンベエは微妙な表情をしていた。足元の死骸を見下ろしながら、
「死体の衣服が妙に乱れている気がする。気のせいか?いや、間違いなく、誰かが死体を探った形跡がある。」
と不審気に言った。
「気にするな。きっと、誰かが金目の物でもないかと、死体をまさぐったんだろう。言いたかないが、第五大隊といのはそういう処さ。」
ドルバスは事もなげに言った。
「それより、よくぞ俺に相談してくれた。小隊長に報告して、死体を始末して、それでこの件はおしまいになるはずだ。すぐ行こう。」
そして、死骸から離れるとさっさと歩き出した。ハンベエもその後ろをついて歩いた。
(思ったとおりの奴で助かった。)
ハンベエは内心ホッとしていた。一つ間違えれば、上官殺しでタゴロローム守備隊全部を敵に回しかねない危ない局面である。まだ安心はできないが、ドルバスの証言次第では正当防衛が主張できる。
「俺に任せるか?」
歩きながら、ドルバスが出し抜けに言った。
「任せるとも。此処に来て初めて会った、信頼できそうな人間だからな。」
「ふむ、では俺が小隊長に説明するから、ハンベエは必要な事以外は黙っていろよ。」
「相分かった。」
ハンベエはさらっと答えて、口を結んだ。
小隊長の寝所は別になっていて、流石に見張りの兵隊が立っていた。見張りは一名である。各班が交替で努めているのである。
ドルバスが見張りの兵士に火急の報告がある事を伝えた。
五分程で小隊長が出て来た。小隊長の容貌は・・・・・・雑魚だし、登場場面もここだけなので省略、っと。
「報告する。ここに連れて来たハンベエはつい今し方、第五小隊第五班の班長ルーズ並びに班員三名を斬り殺した。」
ドルバスが淡々とした口調で言った。
第五小隊隊長はぎょっとした顔をした。
「じょ、上官殺し、それに、隊内暴動ではないか。それに反逆の罪もある。どうして、捕縛しないのか。」
「説明する。ハンベエを捕縛する理由はないと判断したからだ。何故なら、ルーズ班長等四名はハンベエを殺害すべく、突然襲い掛かったからだ。」
「ルーズ達から襲い掛かったのか。」
「うむ、ルーズ達が突然襲い掛かったのだ。」
「貴官は、それを見ていたのか?」
「うむ、偶々そこを通りかかり、一部始終を目撃した。偶々、自分は酔い醒ましに散歩していてな。そうすると、このハンベエの奴が自分の宿営に帰ろう歩いていたのだ。当人の話だと、用足しに出ていたらしい。ハンベエが宿営の前まで来ると、やにわに四つの影が、暗がりから現れて、声も発せずにこいつに斬り掛かったのだ。ところが、襲い掛かった四人は、逆にあっという間にハンベエに斬り伏せられてしまった。」
「まるで、見てきたような事を言う。」
「だから、一部始終を見ていたと言っているではないか。」
「おお、そうだった。すまない。しかし、貴官は何故止めなかったのだ。」
「止めるも止めないも、あっという間であったからな。」
「四人の相手をたった一人で、止める間もないほど素早く斬ったというのか?」
「うむ、そのとおりだ。全く、目にも止まらぬ早業、この目で見なければ、信じられなかったよ。まあ、無意識に体が反応したというか、余程修練を積んでいないとできない速さだったな。」
ドルバスは淀み無く答え続けている。明らかに嘘の部分が混じっているが、ハンベエは黙ったまま立っている。ここまで、味方になってくれるとは予想外だったが、せっかくのドルバスの親切を袖にする理由もない。
「で、相手を斬り倒して茫然としているハンベエに声をかけ、斬り倒した者が何者か、生きているかどうか、確認した上で、ここに同道したわけだ。」
「嘘はないんだろうな。下手な庇い立ては為にならないぞ。」
「庇い立て?、貴官、この俺が昼間この若造にどんな目に合わされたか知らないのか、どうして俺がこいつを庇い立てする?」
「いや、昼間の出来事は聞いている。・・・・・・それもそうだな。」
「それよりもだ。貴官配下の班長が班員を語らい、一人の兵隊を闇討ちした。この事実をどう考える。監督不行き届きではないか。ルーズ達のハンベエ殺害が成功していれば、ハンベエの死骸を何処かに埋めて、兵士一名逃亡とかで、片付けられたんだろうが、そうはいかなくなったな。」
「・・・・・・それはそれとして、当方としては取り敢えず、ハンベエを拘束しなければいかん事になる。」
「そうはいかん。何故なら、ハンベエには毛ほどの罪咎も無いからだ。闇討ちされて自分の身を守っただけの勇者を、貴官、捕縛するつもりか?」
「いや、それは・・・・・・斬り殺された、ルーズ達はイマワノキワに何か言い残さなかったのか?」
「全員即死だ、死体を検分すれば分かる。」
全員即死・・・・・・この男余程のテダレか、小隊長の胸にじんわりと恐怖が湧いてきた。改めて、ハンベエを見れば、この若者は特に凄んだような表情をしているわけではなく、物静かに立っているだけであるが、その静かさが反って不気味である。下手に捕縛しようと人を動かしたら、その腕前に物を言わせて大暴れするのではないか。小隊長はそう感じた。その上、ドルバスの話を聞けば、ハンベエに一点の落ち度もない。
「わしはどうすれば良いのか?」
小隊長は縋るように言った。いつの間にか脂汗が出始めていた。
「自分が知るわけないだろう。」
ドルバスは突き放すように言った。
小隊長は腕組みをして俯いた。困り果てた様子である。
ドルバスはしばらく、そんな小隊長の挙動を眺めていたが、
「ところで、ルーズ達は中々の悪党だったように思うが、目を瞑って見逃した悪事も一つや二つではきかないと思うが。」
とポツリと言った。
小隊長はボンヤリとドルバスの言葉を聞いていたが、急に目を輝かせて寝所に戻った。しばらく、ガサゴソ、カリカリと音がしていたが、やがて、一枚の紙を持って出て来た。
小隊長はハンベエにその紙を渡した。紙には、たった今書いたと分かる乾き切らない文字で、以下のように記されていた。
「 召喚状
ルーズ、ベルク、ハルク、トーマの四名に、素行上の行為につき、喚問したい疑有り。
よって、同名達に出頭を命ずる。
・・・・・・
小隊長・・・・・・」
召喚状を特に何の関心も無さそうに見るハンベエに、小隊長は言った。
「本日、わしは貴様にルーズ達をわしの下に出頭させる事を命じた。ルーズ達の日頃の行動が目に余るからだ。貴様はその召喚状を見せてルーズ達を連行しようとしたが、ルーズ達は命令に従わず、逃亡するために、逆に貴様に襲い掛かった。貴様は仕方なく四名を斬り捨てた。全てはこういう事だ。良いか。」
言われたハンベエは、ちょっと首を傾げ、
「こんな夜中に呼び出しですか?」
と、訝しげに言った。
「良いのだ。夜中に呼び出したのは、他の者に知られぬようにとの、わしの親心だ。しかし、ルーズ達はその親心も知らず、反逆逃亡を企てたので、貴様が処罰した。全てはそういう事だ。貴様に異存はないだろう。」
小隊長は決めつけるように言った。
決めつけられて、ハンベエは多少ムッとする思いであったが、悪い話ではないようだ。
「別にそれで構いませんよ。俺は。」
ハンベエは無愛想に言った。猫をかぶっているが、時々地金がでてしまうようだ。しかし、小隊長は自分の保身に頭がいっぱいなのであろう、特にハンベエの態度を咎める事も無かった。
小隊長はそれからドルバスの方を向き、
「貴官に異存は?」
と尋ねた。
「異存か?・・・・・・まあいいじゃろう。仲間のよしみで大目に見てやろう。」
ドルバスは少し勿体ぶって、そう答えた。
「よし、一応、現場を確認する。案内してくれ。」
小隊長はそう言って二人を促した。
そういうわけで、ハンベエは、又々、宿営に行く事になった。一体、何往復したやら・・・・・・ご苦労様。
小隊長は、ルーズ達の死骸を確認した後、大隊長に報告して、死骸の片付けもこちらの手でやるからと、ハンベエ達を解放した。
「ありがとう。助かったぜ。」
大隊長に報告のために立ち去る小隊長を遠目に見ながら、ハンベエはドルバスに礼を言った。
「いやいや、それほどの事じゃないが、十分恩に来てくれや。お前とは仲良くしといた方が良さそうじゃから。」
「あんた、意外に地位が高かったんだな。小隊長にタメグチ以上だったよな。」
「一応、中隊長付き武官だからな、俺は。小隊長並の扱いさ。」
「中隊長付き武官・・・・・・ふーん。」
ハンベエはちょっと首を傾げた。
「何だ?、何か不審な事があるのか?」
「うん、今日の昼間だが、俺との闘いで気を失ったあんたを中隊長が蹴ったんだが、聞いてるか。」
「蹴った。・・・・・・中隊長が俺を。・・・・・・中隊長・・・・・・ハリスンの野郎は俺を、倒れてる俺を蹴ったのかっ。」
ドルバスの形相がみるみる変わった。怒りと憤りで赤黒くなり、両の眼が異様な光を放ち始めた。丁度仁王像のような表情だ。あれほど、眼をギョロつかせてはいないが、眉間に険しい皺を寄せ、眼を吊り上げ、恐ろしい顔になった。
「やはり、知らなかったのか。・・・・・・何かやらかすなら、手を貸すぜ。」
ハンベエは殊更に力みのない口調で言った。別にドルバスを唆すつもりはない。ただ、中隊長のハリスンのやり口にはかなりカチンと来ていただけの話だ。
「こう見えても、俺は剣術の腕には覚えありありでね。第五中隊百二十五名程度なら、一人で相手できると自惚れてるんだ。」
久々にハンベエの強気発言。言ってるうちに気分が乗って来たのか、ふふんと薄ら笑いすら浮かんで来る。俄かに挑発的な気分が兆して来て、本当に一個中隊相手に暴れても構やしないぜと無頼な陽気が差して来た。
だが、やる気十二分に余って来たハンベエに対して、ドルバスは逆に落ち着いて来た。
「確かに、お前は頼りになりそうだ。大暴れして、ハリスンの細首を引きちぎってやりたいところだが、機会を待つ事にする。」
「そうか。まあ、何かやる時は、本当に手を貸すぜ。ヤバイ事なら尚更な。」
ハンベエはそう言ってニヤッと笑った。どうやら、タゴロローム守備隊の内情も多少分かり、最初の緊張感も解けて、持ち前の事あれかしの根性が頭をもたげ始めたようだ。
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