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ニ 千人の果ても一人から
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ゴロデリア王国の都ゲッソリナは人口二十万。大陸の中でもかなり大きな都市であった。
ゲッソリナから西に通じる道はゲッソゴロロ街道と呼ばれていた。西にある都市、タゴロロームと通じる道であったからであるらしい。
そのゲッソゴロロ街道を少年ロキはつづらを背負って急ぎ足に歩いていた。
すっかり夕暮れてしまった。急がないと、追い剥ぎにでも出会ったら大変だ。明るい間は安全なゲッソゴロロ街道だが、日が暮れると危険な場所に変わってしまうのだ。追い剥ぎどころか、妖怪変化に出くわしたという人もいる。
ロキは半ば走り気味に道を急いだ。
しかしながら、悪い不安というものは大抵の場合、当たってしまうものだ。
突然現われたならず者に道を塞がれてしまった。
その一目瞭然のならず者はロキの前に立ちはだかり、短剣をチラつかせながら
「ここは通れないぜ。」
と、どっかで聞いたセリフを言った。
パッとロキは後ろに飛び下がって、
「金目の物は何も持ってないよ。」
と叫んだ。
「フンッ、それは、小僧、お前の身ぐるみ剥いでみれば分かる事だ。」
ならず者の男はロキを見据えて薄笑いをした。
ロキは身を翻すと、
「誰かあ、助けてぇ。」
と叫びながら全速力で駆け出した。
「ちっ、往生際の悪いガキだ。」
ならず者は舌打ちをしながら、ロキを追い掛けた。
全速力と言っても子供の足である。ならず者は余裕を持って、ロキの後ろを走る。駆けっこを楽しんでるつもりか。
「うわっ。」
ロキは突然、大声を挙げて立ち止まった。追い掛けてきたならず者も立ち止まった。
目の前に、別の男が立っている。
その男は、二十歳位の背の高い若者で、驚いた事に、既に長い刀を抜いて斜め下段に構えを取っていた。
前門の虎、後門の狼、進退極まっちゃったよと真っ青になったロキに、
「退いていろ。」
その若者は優しい声音で言った。
意外に優しげな若者の雰囲気に、取り敢えずロキは道の脇に寄った。
「なんだ、テメエは!」
ロキを追い掛けてきたならず者がそう言い掛けた時には、その若者は疾風の如くならず者と駈け違っていた。
ならず者の首が宙高く飛び、道に落ちた。しゃべりかけの顔のまま・・・・・・そして、首の無くなったならず者の体はバタッと倒れた。
若者はそれを確かめると、次には自分の刀の刀身をしげしげと見つめた。それから倒れているならず者の袖口で軽く拭ってから腰の鞘に収めると、何事も無かったようにゲッソリナに向かって歩きだした。
「まっ、待ってよ。おじさん。おじさんもゲッソリナに行くんでしょう。」
ロキは慌てて若者を追い掛けた。
「ああ、そうだが。」
「オイラと一緒に行こうよ。夜道は物騒だし。旅は道連れって言うしさ。」
若者はまるで一人で行ったら危ないから自分が一緒に付いて行ってやる、と云わんばかりのロキの口振りに若干苦笑気味であったが、
「それじゃあ、一緒に行こうか。」
と微笑んだ。邪気のない笑顔である。
「やったぜベイビィ!オイラの名前はロキ。おじさんは?」
「俺か。俺はハンベエ。」
「じゃあ、ハンベエ、ヨロシク。」
「ああ、ヨロシクな。」
若者はハンベエであった。
「ハンベエ、強いよね。何してる人なの?」
「・・・・・・まっ、剣術使い・・・・・・と言ったところかな。」
「剣術使い・・・・・・変な言い方。要するに剣士なんだね。もう何人も斬ったの?」
「いや、人を斬ったのは今日が初めてだ。」
実は、ハンベエは師のフデンの教えに従い、最初に斬るべき人間を捜して歩いていたのだが、丁度ロキの助けてぇという叫びを聞きつけ、遠くから逃げるロキとそれを追い掛けるならず者の姿を見かけ、丁度いい相手が見つかったと、刀を抜き放って、準備をして待っていたのだ。
遠くから気付いていたのなら、何故ロキを助けに走って行かないのか?って・・・・・・それは言いっこ無し、何故なら、ハンベエの第一目的は、師の教えに従い、剣を究めるための記念すべき一人目を無難に斬って捨てる事にあったからである。
初めて人を斬った時は、神経が異常な状態になり、気分が悪くなって嘔吐したりする事が本などに書かれていたりするが、この日のハンベエにはそういった事は全く無かった。ハンベエが特異体質なのか、時代が他人の命などに大して値打ちを認めない風潮のためかは解らない。ともかくハンベエは人を一人斬って、多少の達成感を抱いていた。
ハンベエはならず者を倒した。ハンベエの経験値が一上がった、てなものである。
「え、初めてだったの・・・・・・全然そんな風には見えないよ。もう何十人もの敵を倒してきた強者って感じだったのに。」
「まあ、段々とそうなって行く予定だ。うまく行けばな。そういうロキはこんな時刻にこんな場所を何故通っていたんだ。危ないのは解っているみたいだが。親とははぐれたか?」
「親なんていないよ。こう見えてもオイラは商人なんだ。あちこちを渡り歩いて金儲けをするんだ。今日は特別な事情で、ゴロデリアの王女様に手紙を届けるために道を急いでたんだ。」
とここまで喋ってから、少年ロキは、しまった、口が滑ったといった顔をして、ハンベエを見つめ、
「ハンベエは悪い人じゃないよね。」
と言った。
ハンベエは小さく笑って、
「今のところは悪い奴じゃないみたいだぞ。」
と片目をつぶって見せた。師フデンの「正義のために戦おうと悪の限りを尽くそうと自由じゃ」という言葉を思い出したのである。師がすぐ側で微笑みながら見ているようなちょっとくすぐったいような気分になった。
宮本武蔵に丈太郎少年、近いところではケンシロウにリンとバット。物語のヒーローには強くはないがちょこまかと動く道連れが定番である。こうして、ハンベエはロキという道連れを得た。
ロキが仲間になった・・・・・・といったところか。
ゲッソリナから西に通じる道はゲッソゴロロ街道と呼ばれていた。西にある都市、タゴロロームと通じる道であったからであるらしい。
そのゲッソゴロロ街道を少年ロキはつづらを背負って急ぎ足に歩いていた。
すっかり夕暮れてしまった。急がないと、追い剥ぎにでも出会ったら大変だ。明るい間は安全なゲッソゴロロ街道だが、日が暮れると危険な場所に変わってしまうのだ。追い剥ぎどころか、妖怪変化に出くわしたという人もいる。
ロキは半ば走り気味に道を急いだ。
しかしながら、悪い不安というものは大抵の場合、当たってしまうものだ。
突然現われたならず者に道を塞がれてしまった。
その一目瞭然のならず者はロキの前に立ちはだかり、短剣をチラつかせながら
「ここは通れないぜ。」
と、どっかで聞いたセリフを言った。
パッとロキは後ろに飛び下がって、
「金目の物は何も持ってないよ。」
と叫んだ。
「フンッ、それは、小僧、お前の身ぐるみ剥いでみれば分かる事だ。」
ならず者の男はロキを見据えて薄笑いをした。
ロキは身を翻すと、
「誰かあ、助けてぇ。」
と叫びながら全速力で駆け出した。
「ちっ、往生際の悪いガキだ。」
ならず者は舌打ちをしながら、ロキを追い掛けた。
全速力と言っても子供の足である。ならず者は余裕を持って、ロキの後ろを走る。駆けっこを楽しんでるつもりか。
「うわっ。」
ロキは突然、大声を挙げて立ち止まった。追い掛けてきたならず者も立ち止まった。
目の前に、別の男が立っている。
その男は、二十歳位の背の高い若者で、驚いた事に、既に長い刀を抜いて斜め下段に構えを取っていた。
前門の虎、後門の狼、進退極まっちゃったよと真っ青になったロキに、
「退いていろ。」
その若者は優しい声音で言った。
意外に優しげな若者の雰囲気に、取り敢えずロキは道の脇に寄った。
「なんだ、テメエは!」
ロキを追い掛けてきたならず者がそう言い掛けた時には、その若者は疾風の如くならず者と駈け違っていた。
ならず者の首が宙高く飛び、道に落ちた。しゃべりかけの顔のまま・・・・・・そして、首の無くなったならず者の体はバタッと倒れた。
若者はそれを確かめると、次には自分の刀の刀身をしげしげと見つめた。それから倒れているならず者の袖口で軽く拭ってから腰の鞘に収めると、何事も無かったようにゲッソリナに向かって歩きだした。
「まっ、待ってよ。おじさん。おじさんもゲッソリナに行くんでしょう。」
ロキは慌てて若者を追い掛けた。
「ああ、そうだが。」
「オイラと一緒に行こうよ。夜道は物騒だし。旅は道連れって言うしさ。」
若者はまるで一人で行ったら危ないから自分が一緒に付いて行ってやる、と云わんばかりのロキの口振りに若干苦笑気味であったが、
「それじゃあ、一緒に行こうか。」
と微笑んだ。邪気のない笑顔である。
「やったぜベイビィ!オイラの名前はロキ。おじさんは?」
「俺か。俺はハンベエ。」
「じゃあ、ハンベエ、ヨロシク。」
「ああ、ヨロシクな。」
若者はハンベエであった。
「ハンベエ、強いよね。何してる人なの?」
「・・・・・・まっ、剣術使い・・・・・・と言ったところかな。」
「剣術使い・・・・・・変な言い方。要するに剣士なんだね。もう何人も斬ったの?」
「いや、人を斬ったのは今日が初めてだ。」
実は、ハンベエは師のフデンの教えに従い、最初に斬るべき人間を捜して歩いていたのだが、丁度ロキの助けてぇという叫びを聞きつけ、遠くから逃げるロキとそれを追い掛けるならず者の姿を見かけ、丁度いい相手が見つかったと、刀を抜き放って、準備をして待っていたのだ。
遠くから気付いていたのなら、何故ロキを助けに走って行かないのか?って・・・・・・それは言いっこ無し、何故なら、ハンベエの第一目的は、師の教えに従い、剣を究めるための記念すべき一人目を無難に斬って捨てる事にあったからである。
初めて人を斬った時は、神経が異常な状態になり、気分が悪くなって嘔吐したりする事が本などに書かれていたりするが、この日のハンベエにはそういった事は全く無かった。ハンベエが特異体質なのか、時代が他人の命などに大して値打ちを認めない風潮のためかは解らない。ともかくハンベエは人を一人斬って、多少の達成感を抱いていた。
ハンベエはならず者を倒した。ハンベエの経験値が一上がった、てなものである。
「え、初めてだったの・・・・・・全然そんな風には見えないよ。もう何十人もの敵を倒してきた強者って感じだったのに。」
「まあ、段々とそうなって行く予定だ。うまく行けばな。そういうロキはこんな時刻にこんな場所を何故通っていたんだ。危ないのは解っているみたいだが。親とははぐれたか?」
「親なんていないよ。こう見えてもオイラは商人なんだ。あちこちを渡り歩いて金儲けをするんだ。今日は特別な事情で、ゴロデリアの王女様に手紙を届けるために道を急いでたんだ。」
とここまで喋ってから、少年ロキは、しまった、口が滑ったといった顔をして、ハンベエを見つめ、
「ハンベエは悪い人じゃないよね。」
と言った。
ハンベエは小さく笑って、
「今のところは悪い奴じゃないみたいだぞ。」
と片目をつぶって見せた。師フデンの「正義のために戦おうと悪の限りを尽くそうと自由じゃ」という言葉を思い出したのである。師がすぐ側で微笑みながら見ているようなちょっとくすぐったいような気分になった。
宮本武蔵に丈太郎少年、近いところではケンシロウにリンとバット。物語のヒーローには強くはないがちょこまかと動く道連れが定番である。こうして、ハンベエはロキという道連れを得た。
ロキが仲間になった・・・・・・といったところか。
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