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夜明け前2
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障子は左右に大きく開ききっていた。
どのくらい時間がたったのだろうか。
雷も雨も、いつの間にか止んでしまっている。
庭からは雨の匂いが漂ってきていた。
そして、暗闇の中ではよくわからないが、僕の正面におそらくあの「影」がいる。
僕の前でじっと伺うように、僕を見ている。
原因不明の恐怖は消えてくれそうにない。
もはや、心からあふれそうなほどだ。
それでも、自分の中におぼろげながら「答え」があった。
最初に校舎であったときとは、何かが違う気がする。
だから言った。
「できない」
その一言が出ると、後は楽になる一方だった。
「言いたいことは、わかった。でも、僕は僕だ。まだ何もできていない僕だ。これから、すべて決めていくところなんだ。だから――お前の言いなりになって、自分を失うことはできない」
もはや、逃げようとは思わなかった。
白衣の男が、校舎でしたことを思い出す。
悔しいけれど、あんな真似はとうていできない。
どうすれば、いいのか。
「出たら、呼べ」と、先生は言ったけれど。
僕は、無我夢中で、「先生」とだけ叫んだ。
「よろしい」
拍子が抜けるほど穏やかな声が、どこからともなく聞こえた。
同時に、握りしめていた右手の内側から小さな光が生まれた。
「今、思っていることを全部、その光に込めなさい」
「はい」
僕は額に、右手の拳を付けると、強く念じ、それから勢いよく木刀を振るように、
前方に腕を降り下ろした。
「鋭!」
何かにあたる感覚はなかった。
それでも、右手が「影」を斬ると、フラッシュをたいたような光が一瞬生まれた。
そして、それきり。
室内から「影」は消えた。
力が抜けたような、安堵するような気持ちで、それでも僕は障子を閉めようと立ち上がった。
庭先から闇が徐々に薄れていき、空が白み始めている。
薄い雲が、いくつも流れ。
やがて暁を迎えるのだろう。
どのくらい時間がたったのだろうか。
雷も雨も、いつの間にか止んでしまっている。
庭からは雨の匂いが漂ってきていた。
そして、暗闇の中ではよくわからないが、僕の正面におそらくあの「影」がいる。
僕の前でじっと伺うように、僕を見ている。
原因不明の恐怖は消えてくれそうにない。
もはや、心からあふれそうなほどだ。
それでも、自分の中におぼろげながら「答え」があった。
最初に校舎であったときとは、何かが違う気がする。
だから言った。
「できない」
その一言が出ると、後は楽になる一方だった。
「言いたいことは、わかった。でも、僕は僕だ。まだ何もできていない僕だ。これから、すべて決めていくところなんだ。だから――お前の言いなりになって、自分を失うことはできない」
もはや、逃げようとは思わなかった。
白衣の男が、校舎でしたことを思い出す。
悔しいけれど、あんな真似はとうていできない。
どうすれば、いいのか。
「出たら、呼べ」と、先生は言ったけれど。
僕は、無我夢中で、「先生」とだけ叫んだ。
「よろしい」
拍子が抜けるほど穏やかな声が、どこからともなく聞こえた。
同時に、握りしめていた右手の内側から小さな光が生まれた。
「今、思っていることを全部、その光に込めなさい」
「はい」
僕は額に、右手の拳を付けると、強く念じ、それから勢いよく木刀を振るように、
前方に腕を降り下ろした。
「鋭!」
何かにあたる感覚はなかった。
それでも、右手が「影」を斬ると、フラッシュをたいたような光が一瞬生まれた。
そして、それきり。
室内から「影」は消えた。
力が抜けたような、安堵するような気持ちで、それでも僕は障子を閉めようと立ち上がった。
庭先から闇が徐々に薄れていき、空が白み始めている。
薄い雲が、いくつも流れ。
やがて暁を迎えるのだろう。
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