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暗い空が明滅した。
雨音が小さくなり、遅れて、轟音がやってくる。


再び、明滅した時。
障子に、大きな影が浮かび上がった。

「あ―――」

強く縛られたように、身体が動かなくなった。
喉も締め付けられたようになって、ひどく息苦しい。

それはまさしく、夕刻に校舎で遭遇した「影」に似ていた。

「白衣の男の方はともかく。「影」は再び、君の前に現れる」

先生が、言っていた通りになったようだ。



雨が、再び激しく降り始めた。
軒先を打つ雨音が、静かな室内には大きく響いてくる。

雷鳴の中で、「影」は何度も姿を現す。
不思議なことに、現れる姿はその都度、異なる形だった。

槍を持った甲冑の姿。
冠とマントの姿。
ローブと杖の姿。

やがて、影から幾つもの声が僕に向けて発せられはじめた。

「許さぬぞ、魔王よ」から始まり、

「なぜ、潔く死ななかったのだ」と恫喝するかとおもえば、

「よもや、呪いを放ち、我らを滅ぼそうとは」の嘆く声もあり

「我らの姫は、呪いをすべて受け止め、絶命したのだぞ」など怨嗟の声、

「無念なり。姫の命はお前と分けられぬほど混ざってしまった」には後悔が、

「お前は、我らから。永遠に姫を奪ったのだ」と弾劾する。


かつての魔王の行為を非難し、呪いの効果打ち消す代償として、魔王と同化した姫を憐れむ言葉。
それらは、膨大な苦しみや悲しみと混ざり合って、声と一緒に僕の心に流れ込んでくる気がした。

「だから、僕の体を差し出せ、と言うのか」

たまらず、僕が「影」に向かって答えると、声が止んだ。

そして。
音もなく、障子がゆっくりと左右に開き始めた―――
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