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訪問者4
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暗い空が明滅した。
雨音が小さくなり、遅れて、轟音がやってくる。
再び、明滅した時。
障子に、大きな影が浮かび上がった。
「あ―――」
強く縛られたように、身体が動かなくなった。
喉も締め付けられたようになって、ひどく息苦しい。
それはまさしく、夕刻に校舎で遭遇した「影」に似ていた。
「白衣の男の方はともかく。「影」は再び、君の前に現れる」
先生が、言っていた通りになったようだ。
雨が、再び激しく降り始めた。
軒先を打つ雨音が、静かな室内には大きく響いてくる。
雷鳴の中で、「影」は何度も姿を現す。
不思議なことに、現れる姿はその都度、異なる形だった。
槍を持った甲冑の姿。
冠とマントの姿。
ローブと杖の姿。
やがて、影から幾つもの声が僕に向けて発せられはじめた。
「許さぬぞ、魔王よ」から始まり、
「なぜ、潔く死ななかったのだ」と恫喝するかとおもえば、
「よもや、呪いを放ち、我らを滅ぼそうとは」の嘆く声もあり
「我らの姫は、呪いをすべて受け止め、絶命したのだぞ」など怨嗟の声、
「無念なり。姫の命はお前と分けられぬほど混ざってしまった」には後悔が、
「お前は、我らから。永遠に姫を奪ったのだ」と弾劾する。
かつての魔王の行為を非難し、呪いの効果打ち消す代償として、魔王と同化した姫を憐れむ言葉。
それらは、膨大な苦しみや悲しみと混ざり合って、声と一緒に僕の心に流れ込んでくる気がした。
「だから、僕の体を差し出せ、と言うのか」
たまらず、僕が「影」に向かって答えると、声が止んだ。
そして。
音もなく、障子がゆっくりと左右に開き始めた―――
雨音が小さくなり、遅れて、轟音がやってくる。
再び、明滅した時。
障子に、大きな影が浮かび上がった。
「あ―――」
強く縛られたように、身体が動かなくなった。
喉も締め付けられたようになって、ひどく息苦しい。
それはまさしく、夕刻に校舎で遭遇した「影」に似ていた。
「白衣の男の方はともかく。「影」は再び、君の前に現れる」
先生が、言っていた通りになったようだ。
雨が、再び激しく降り始めた。
軒先を打つ雨音が、静かな室内には大きく響いてくる。
雷鳴の中で、「影」は何度も姿を現す。
不思議なことに、現れる姿はその都度、異なる形だった。
槍を持った甲冑の姿。
冠とマントの姿。
ローブと杖の姿。
やがて、影から幾つもの声が僕に向けて発せられはじめた。
「許さぬぞ、魔王よ」から始まり、
「なぜ、潔く死ななかったのだ」と恫喝するかとおもえば、
「よもや、呪いを放ち、我らを滅ぼそうとは」の嘆く声もあり
「我らの姫は、呪いをすべて受け止め、絶命したのだぞ」など怨嗟の声、
「無念なり。姫の命はお前と分けられぬほど混ざってしまった」には後悔が、
「お前は、我らから。永遠に姫を奪ったのだ」と弾劾する。
かつての魔王の行為を非難し、呪いの効果打ち消す代償として、魔王と同化した姫を憐れむ言葉。
それらは、膨大な苦しみや悲しみと混ざり合って、声と一緒に僕の心に流れ込んでくる気がした。
「だから、僕の体を差し出せ、と言うのか」
たまらず、僕が「影」に向かって答えると、声が止んだ。
そして。
音もなく、障子がゆっくりと左右に開き始めた―――
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