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ふらふらと、逃げるように校舎から出た。
とにかくどこでもいいから、学校から離れたかった。
途中で、雨がぱらぱらと降り出したのは覚えている。
けれど、どこをどう彷徨ったのかわからない。
結局、僕は先生の家まで来てしまっていた。
「ぬれねずみになってきたか。まずは風呂だな」
先生は、僕が突然来たことに、少しも驚いていない様子だった。
僕がびしょ濡れのまま、黙ってうなだれていると、先生はのんびりとした調子で「今日は泊まっていきなさい」と言った。
ソフィアさんがタオルを持ってきてくれて、僕を浴室へ案内してくれた。
夕食は鴨せいろだった。
お風呂を貸してもらったうえに、ご馳走になってしまって、僕は恐縮して部屋の隅のほうで座っていたけれど、雨音を聞いているうちに、だんだん眠くなってきてしまった。
ソフィアさんが二人分のお茶を持ってやってきて、心配そうな声で尋ねてくる。
「無理しないで、早く休んだほうが良いですよ」
「すみません。大丈夫です」
先生は、というと。
湯を使った後、縁側の近くに座り団扇を使っていた。
半分ほど障子が開いていて、そこから庭の様子が見える。
雨は、まだ止んでいない。
「落ち着いたかな」
「はい」
「では・・・聞こうか」
僕は、今日の出来事をそのまま話した。
「影」のようなものと遭遇して、恐ろしい思いをしたこと。
そして、白衣を着た不思議な男に助けられたことを話した。
先生は時折うなずきながら、黙って僕の話を聞いてくれた。
「それで、どうしたらよいのかわからなくなってしまいました」
「不思議だな」
「はい」
「何が起きているのか、ではなく。どうしたら、か」
「あ、それは」
「そう。「影」の正体には心当たりがある、ということになる」
「・・・」
「大丈夫、安心しなさい」
先生は、湯飲みを手にとって一口飲むと、表情をなごませていった。
「実は、君のことは大方さっしはついているのだ。ただ、少しはっきりしないこともあった。それで、少し様子を見ていたのさ。都にも手伝ってもらってね。だが、そろそろ、はっきりさせたほうがよいな」
目を細めると、先生はまるで僕の瞳の奥をのぞくようにして言った。
「それで。君はどこの世界から来たんだい?」
とにかくどこでもいいから、学校から離れたかった。
途中で、雨がぱらぱらと降り出したのは覚えている。
けれど、どこをどう彷徨ったのかわからない。
結局、僕は先生の家まで来てしまっていた。
「ぬれねずみになってきたか。まずは風呂だな」
先生は、僕が突然来たことに、少しも驚いていない様子だった。
僕がびしょ濡れのまま、黙ってうなだれていると、先生はのんびりとした調子で「今日は泊まっていきなさい」と言った。
ソフィアさんがタオルを持ってきてくれて、僕を浴室へ案内してくれた。
夕食は鴨せいろだった。
お風呂を貸してもらったうえに、ご馳走になってしまって、僕は恐縮して部屋の隅のほうで座っていたけれど、雨音を聞いているうちに、だんだん眠くなってきてしまった。
ソフィアさんが二人分のお茶を持ってやってきて、心配そうな声で尋ねてくる。
「無理しないで、早く休んだほうが良いですよ」
「すみません。大丈夫です」
先生は、というと。
湯を使った後、縁側の近くに座り団扇を使っていた。
半分ほど障子が開いていて、そこから庭の様子が見える。
雨は、まだ止んでいない。
「落ち着いたかな」
「はい」
「では・・・聞こうか」
僕は、今日の出来事をそのまま話した。
「影」のようなものと遭遇して、恐ろしい思いをしたこと。
そして、白衣を着た不思議な男に助けられたことを話した。
先生は時折うなずきながら、黙って僕の話を聞いてくれた。
「それで、どうしたらよいのかわからなくなってしまいました」
「不思議だな」
「はい」
「何が起きているのか、ではなく。どうしたら、か」
「あ、それは」
「そう。「影」の正体には心当たりがある、ということになる」
「・・・」
「大丈夫、安心しなさい」
先生は、湯飲みを手にとって一口飲むと、表情をなごませていった。
「実は、君のことは大方さっしはついているのだ。ただ、少しはっきりしないこともあった。それで、少し様子を見ていたのさ。都にも手伝ってもらってね。だが、そろそろ、はっきりさせたほうがよいな」
目を細めると、先生はまるで僕の瞳の奥をのぞくようにして言った。
「それで。君はどこの世界から来たんだい?」
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