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<続>

ep.02*

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「ねぇ、そこにあるのは何?」
 ふとした拍子に顔を上げた染谷がサイドテーブルに置かれている物に気が付いて尋ねると、渥美の顔が面白いように朱色に染まった。
 染谷は渥美とサイドテーブルの上に置いてある物とを交互に見て、すぐに合点がいった様子で微笑んだ。
 染谷はベッドから起き上がって「ワセリン」と書かれた蓋を取って中身を確かめた。中身がほどほどに減っているのを見て疑惑は確信に変わる。
「柊夜。これをどうやって使ったのか教えてくれるか?」
「や……です」
「じゃあ、俺にどうして欲しい?」
 染谷の指がワセリンの塊を掬い取って掌の上に乗せた。薄い琥珀色したワセリンの塊が、染谷の肌の温度に温められてわずかに形を崩した。
「言ってくれたら、ご褒美をあげる」
 そう言って染谷はにっこり笑みを渥美に向けて見せた。
 渥美が生唾を飲み込んで、期待と不安に満ちた眼差しを染谷に向けると口を開いた。
「僕の、お尻に……塗ってください」
「なら四つん這いになって、お尻を高くして掲げて?」
 染谷に言われた通り、渥美は枕に顎を乗せてお尻を高くした。ちょうど、猫が威嚇する時と同じ格好で身を伏せる。
「ぁ……っ」
 染谷は左手で双丘の片山を掴み、そっと広げた。皺の寄った菊門の周りにワセリンの塊を落とし、人肌の温度に温められて滑る粘液を見つめた。
「まずは一本だけ」
 そう言って、染谷は右の人差し指にワセリンを塗りたくって菊門を擦り、皺の隙間にもワセリンを行き渡らせた。
「う……ぅ……」
 つぷり、と染谷の人差し指を根元まで易々と飲み込んだのを見て、笑みを深くする。
「二本いけそうだね」
「ふ、ぅっ」
 渥美が額を枕に擦りつけて声を抑えるように唇を噛んだ。
 染谷は渥美の反応を観察しながら指を二本挿入し、中の具合を探った。
 渥美の中はなんともいえない心地よい温かさだった。
「辛くはないか?」
「……だいじょぶ」
 コクリと頷く渥美の返事に、染谷は安堵する。そして二本の指をゆっくりと動かしながら渥美の最も悦ぶ箇所を探り当てた。
「んっふ……んああ!」
 もぞもぞと動いていた指先に力がこもり、シーツに深い皺が寄る。渥美の腰が艶めかしくくねり、臀部が左右に大きく揺れた。染谷は揺れ動くおいしそうな双丘に音を立ててキスをしながら、更に強く前立腺を擦った。
「あっ、は……っ! あぁッ、だめ……んっんっ」
「だめ? ……どうして」
「僕だけ……き、もち……良くなちゃ……ウッ!!」
 染谷は後ろからだけでは飽き足らず、硬く膨れ上がった渥美の肉棒を掴んだ。
「い、やぁっ……!!」
 ブルリ、と渥美の体が水浴びした犬のように全身で震えた。
「いいんだ……そのまま、気持ちよくなって……」
 後ろから染谷は優しく囁きかける。
 彼の手は、だらしなく先端から蜜をシーツの上に垂らす性器を扱き、後ろの前立腺を責め立てる指の動きと相まって、渥美の中から理性というブレーキを取っ払った。
「あっあっ」渥美の腰が上がり、勃起したそれがプルプルと張り詰める。
「んアぁぁあっ……!」
 グチュグチュ。
 卑猥な粘液の立てる水音に興奮を掻き立てられていき……。
「ア”ぁぁぁぁ!!」
 染谷の掌の中で渥美は頂点に上り詰め、弾けた。
 渥美のこぶしの節が白くなるほど握りこんだ両手や、強張った腹筋の隆起が、白濁液を吐き出して急速に弛緩し、力尽きた様子でぐったりとベッドの上に伏せってしまう。
「柊夜……?」
 染谷が声を掛けると、なぜか恨めし気な視線を向けられてしまった。渥美の目線は染谷の顔から下腹部へ移動し、また顔に戻ってくる。染谷は渥美が乱れる様を見て抑えきれずに立ち上がってしまった自身の息子の存在を見られて、恥ずかしく思っていると、渥美がむくりと起き上がった。
「僕は、僕だけが気持ちよくなっても嬉しくない」
 渥美は怒った顔でそう言うと染谷を押し倒し、のそのそと腰に跨った。そして彼は、染谷の腹につきそうなほど勃起した固い雄に手を添えて、後ろ穴に添えると腰を沈めた。
「はっ!……おっき……ぃ!」
「……柊夜……無理するな……」
「や…………だ」
 渥美は時間をかけて、少しずつ腰を落としていく。
 染谷は辛そうな渥美の表情を見て、彼の左手に自らの右手を重ね合わせた。
「これでは俺が柊夜をいじめているようではないか……」
 徐々に潤んでいく渥美の瞳を見上げて、切な気に呟く。
 確かにひとつになりたい、体を繋げたいと願ったが、渥美に辛い思いをさせてまで交わりたいとは思っていなかった。
 染谷が素直に自分の気持ちを言葉にすると、渥美は涙に濡れた目を三角にして怒った。
「それじゃあ一生かかっても僕たちはひとつになれないっ」
 ビシッと人指し指までさされて断言され、染谷は苦笑した。
「では、お言葉に甘えて……いただこうかな」
 染谷は言うやいなや、渥美の腰を掴み、下から突き上げた。
「あぅッ……んっ……よ、じゅうろ、さ……ん……はぁっはっ!」
「う、く」
 渥美の体内に染谷の楔が打ち込まれるたびに、甘い嬌声と、肌と肌を打ち付ける湿った音が室内に満ちた。
 染谷は一心不乱に、本能に従って愛欲を求め、渥美は愛に飢えた獣にその身を捧げた。
 滲み出る汗、熱い吐息。
 室内はむせかえるほどの熱気に満ちていた。
 染谷が不意に呟いた「愛してる」の言葉。
 渥美は感極まった様子で涙を零し、右手で己自身を扱く染谷の手に重ねた。
「ぁ。アッ! いくっ、イクッ!!」
「俺もだッ」
「耀十朗さんっ! 僕のナカに、出してぇ!!」
 染谷の体の上で身を屈め、全身を上気させて気をやった渥美の中を、マグマのような熱い熱が襲った。
 染谷の怒張が渥美の中でドクドクと脈打ち、雄の種を放ったのだ。
「…………っ」
 恍惚に歪む渥美の表情を見て染谷は、
「その顔、たまらないな」
 と囁き、力尽きた様子で落ちてきた渥美の上体を抱きとめた。

******

(ああ、またあの夢か)
 大切な俺の恋人が、炎の檻に囲われている夢だ。だが、今回はどうも様子が違った。
 それまで眠っていた渥美が目を開け、炎の中から手を差し伸べられる。染谷は躊躇しつつも指を絡めて握りしめた。すると炎が一瞬で燃え広がり、渥美と染谷の周りを取り囲んだ。
「嫌だっ、こわい!」
 染谷はなりふり構わず炎を振り払おうとした。
「大丈夫。こわくないよ」
 渥美がにっこりと微笑んだ。
 ふたりは炎の囲いの中で睦み合い、互いの愛を育んだ。
 いつの間にか染谷の全身に染みついていた火への恐怖心が和らぎ、火の熱さが心地よく思えた頃。広範囲にわたって周りを取り囲んでいた炎が勢いを弱め、灰となった大地から若草色の新芽が芽吹いた。それらはやがて大きくなって蕾をつけ、花を咲かせた。

「愛してるよ、耀十郎さん」

 ハッと我に返るようにして目覚めた染谷の頬を、一粒の涙が伝い落ちていく。それを、先に目が覚めていたのだろう。渥美の柔らかい唇が吸い取った。
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