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15.凍えるような冬の最中に*

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 ミサが妊娠したと知らせを受けたのは、まだ冬の名残が残る春頃のことだった。
「ミサ。妊娠おめでとう」
 アヴァテアは夕餉の席でミサに伝えた。
 これから安定期に入るまで接触は最低限にしようと誓う。
 それに、親戚や国民に伝える必要があるので、これからもっと忙しくなる。自ずと接触は減ってしまう。
 アヴァテアの気持ちを察したのだろう、ミサがやんわりと微笑みながらテーブルの上に置いていた手に手を重ねてきた。
「楽しみね」
「そうですね。とても」
 そう言って、ふたりは柔らかい雰囲気の中、目線を合わせた。

 ミサが無事に安定期に入った。
 安定期とはいえ、気は抜けなかった。
 初産のなのだ。それにミサの体は体力をつけたとはいえ、まだ普通の女性よりか弱い。体の線は細く指先まで白魚のようだし、ここ数ヶ月間、ふらつきや、えづくことも多かった。
 だから心配のしすぎで、出産に関してアヴァテアの方がナイーヴになっていた。
「ノア」
 夜も更けた頃。
 アヴァテアが寝室に足を踏み入れると、眠っていると思ったミサがまだ起きていた。こちらを見上げる黒い瞳が真剣そのものなので、アヴァテアは少し緊張した面持ちでベッドの縁に腰掛け、上半身を捻る形で上体を起こすミサの頬に手を滑らせた。
「眠れないのですか? 体を冷やさないように、お茶でも頼みましょうか」
 アヴァテアが視線を外し、呼び鈴に向けようとした時だった。ミサが両手でアヴァテアの頬を掬い、きょとんとする彼にキスを落とした。
 ちゅ、ちゅ。
 音も、感触も心地よく、アヴァテアがされるがままになっていると、ミサの行為は次第に深く、濃厚なものに変わっていった。
 下半身の膨らみを感じ、慌てて中断しようとしたが、抗おうとすればするほど、ミサの手が力強くアヴァテアの頭を押して、ベッドの上に伸ばされたミサの膝上に押し込められた。
 半ば強引に押し込められたアヴァテアは、目を白黒させながらもミサの思いに応えようとして深い口付けを交わした。
 舌の根を吸われ、上顎と歯列を撫でられる感触は、ほんの数ヶ月前までがアヴァテアがミサに施していたのと同じ行為だった。その甘美なまでの口付けに酔いしれていると、不意にミサの拘束が弱まった。
(ミサが満足したら、すぐそばを離れよう。この張り詰めた己自身をどうにかしなくては)
 アヴァテアがそう思い、身を起こそうとした瞬間。さわさわと下半身の中心部分を探られる気配がした。
 まさかと思って見上げると、ミサが慈愛のこもった目でアヴァテアの膨らみを見つめていた。
 アヴァテアが驚きに言葉を発することも動くことも忘れていると、下衣の紐を解かれた。布と腹の隙間に白魚の手が易々と滑り込み、アヴァテアの立ち上がりかけていた狩首を掴んだ。
「み。ミサ」
 緊張のためか、喉に粘つくような唾液が流れ、生唾を飲み込む。
 ゆっくりと、布地の下で細い指が動き出す。
「ぁ……ミサ」
 今すぐやめて欲しい気持ちと、このまま続けて欲しい気持ちがせめぎ合う。
 張りのあったそこは硬く立ち上がり、やがてアヴァテアの下着をしっかりと持ち上げた。
「み、さ……。ぅ…」
 アヴァテアは必死だった。
 ミサとは数ヶ月間そういう雰囲気にならないよう避けてきたし、なったとしてもチークキスをして無理やり終わらせた。そうでなければ、アヴァテアの中で歯止めが効かなくなると思った。
 ミサの柔らかい掌が鈴口を擦る。ゆっくりと動く緩慢な動作に合わせて、ぴく…ぴく…、と狩首が動く。
「あぁ…! みさ!」
 じれったさにアヴァテアは思わず白い腕にすがりつく。
「きもちい?」
「だめです……ミサ。ぅく!」
 クニクニと指の腹で鈴口をほじくられた。
「どう、して……」
 近づいてくる射精感にアヴァテアは焦っていた。顔を向けると、少し大きくなったミサのお腹が目に留まった。
 これ以上負担をかけてはなるまい…そう思うのに、アヴァテアの頭は重力に逆らえない果実のように、ミサの膝上に埋もれていってしまう。そして無意識に鼻先をミサの股間に近づけると、蒸れた温度を感じた。
(もしかして…ミサも感じてくれているのですか…?)
 その事実が、アヴァテアの理性を壊した。
 投げ出されていた腕を持ち上げ、ミサの頬をそっと撫でる。
「なぁに? どうしたの」
 まるで幼子を前にしたような問い掛けに、アヴァテアが答えることはない。ただ無言で、空いたもう一方の手を使って、下衣の中から自分自身とミサの手を引きずり出し、細い指先を包み込むようにして、自身の竿を握った。
「もっと、強く擦って……」
 アヴァテアがどこか切ない声を出す。
 ミサはアヴァテアに誘導されるままに強く握り直した。裏筋を撫で、鈴口を抉る動作は変わりないが、アヴァテアの手が求めるままに強く扱き、睾丸を揉んで射精を促す行為を学習する。
 アヴァテアは身をずらしてより深くミサの股間に顔を近づけ、夜着越しに膨らんだお腹に口付けた。
「ノア……イっていいよ! イって!」
 ミサの手の動きがより強く、早まっていって、アヴァテアの隆起した腹部が綺麗な腹筋をみせて力んだ、と思った次の瞬間、濃厚な白濁液を剛直の先端から迸らせていた。
「はぁー、はぁー」
 軽いキスで、二人分の荒い呼気が交わった。
 アヴァテアの中に微かに理性が戻り、飛び散った性液を投げ捨ててあった夜着で拭うと、うつむけになって少し乱暴に掛け布を剥いだ。そのままミサの夜着の中に手を差し入れて、熱くなった蜜壺に指を咥え込ませた。
「っ!」
 ミサの体はアヴァテアの手を上手に咥えた。
 そして膣内の浅い部分と花芽を弄られて嬌声をあげた。
「ミサ…!ミサ!」
 甘やかな嬌声にアヴァテアは大型の犬のように息を荒くした。身を低い位置で丸めて腰を揺らし、シーツに白いものが混じった先走りを垂らした肉棒を押し付けるという行為を止められない。
 しまいにはミサの股間に舌を伸ばし、熟れた蜜壺に指を埋めたまま花芽を喰む。
「あああぁぁぁ!」
 妊娠したからなのか、感度が増してミサが狂ったように感じているのがよくわかった。
 蜜壺に入れた指は一本でもきゅうきゅうと締め付けてきて抜け出そうとする動作に必死に食らいついてくるのが堪らなく可愛い。ナカに入れられない寂しさはあれども、この日ミサが見せてくれた善がり方はアヴァテアにとって満足のいくものだった。
 ミサが愉悦に溺れて疲れて眠りにつくまで、アヴァテアはそばを離れなかった。
「おやすみなさい、ミサ」
 寝息を確認すると、アヴァテアはミサのお腹に向けて吐精した。
 二度目でもドロドロとして粘度の高い精液は、自身の執念を映し取ったかのようだ。
 アヴァテアは苦笑を漏らし、手早くミサの夜着を着せ替えた。身重になったミサの体に洗い立ての掛け布を巻いて慎重にソファへ移してから、自身も着替えた。シーツは使用人を呼ぶか少し悩んだが、こちらも自身の手で変える。ミサが嫌がることは極力――たとえ彼女が眠っていようと――したくなかった。
 手際よくベッドメイクを終えると、ミサの体をベッドの中心部分にそっと横たわらせた。少し厚めの掛布もさらにお腹の上あたりにかけてやり、アヴァテアはミサの体が落ちないよう気をつけながら隅っこに横たわって眠りにつく。
 その日、久しぶりに朝までぐっすり眠れた。



 朝になり、スッキリした頭でようやく昨日の出来事を冷静に振り返ることができた。
 衣装部屋で制服に着替えながら昨夜の痴態を思い出して壁に頭を打ちつけること数回。それから、理性が飛んで無理をさせないという誓いを破り大嘘をついたことに対しても、反省の意を込めて壁に頭を打ちつけること数回。そうやって気が済むまで反省していると、寝起きのミサが侍女に連れられてやって来て、無言でアヴァテアの頭をなでなですると無言で立ち去った。
 着替え終えて寝室に顔を覗かせると、まだ眠そうにしながらベッドに腰掛けているので、アヴァテアはそっと掛布をめくってあげた。
「昨日は無理をさせてしまったのでもう少し眠ってください」
 そう言って二度寝を促す。
「でも今日は来客があるかもしれないから…」
「執事に伝えておきます。大丈夫ですから、よく寝て、また私の相手をしてください」
 ごそごそとベッドの上に足を置いて横たわっていたミサは、ちょっと眠そうなままに笑って、
「ちょっとだけね」
 と呟くとすやすやと浅めの眠りについた。
 アヴァテアはその日、執事に重々申し付けて屋敷を離れたが、結局心配だったので午後の鐘が鳴る頃には詰所を後にしていた。



 雪がちらつき、吐く息も真っ白だった冬の夜。
 赤子の元気な産声が聞こえ、レウトギを含む産婆たちと共に出産に立ち会ったアヴァテアはミサと一緒に涙して喜んだ。
 ミサは産後の肥立ちも良く、赤子も元気にお乳を飲むのでアヴァテアもミサ自身も安堵した。
 赤子は女の子だった。家督は男子が継ぐことの多いキーアヴァハラ。子作りはまだまだ続けられそうだと別の意味でもアヴァテアは安堵した。
「名前、どうする?」
 ミサがどこかソワソワと落ち着かない様子で聞いてくるので、アヴァテアはにこりと微笑んでミサの喜びそうな名前を考え、思いついた。
「宵闇のような黒髪をした、『夜』に生まれた女の子ですね。『夜』に愛された子にピッタリな名前をご存知ですか?」
 アヴァテアがニコニコと尋ねれば、ソワソワしていたミサはちょっとだけ落ち着いた様子で目を瞬かせて首を横に振った。彼女の中に候補となる名前があったかもしれないことに、今更気づくがもう遅い。
 今度は言い出しっぺのアヴァテアが、果たして言ってもいいのだろうかとソワソワした。
 人生のうちで大事な命名する時なのだから。
「……どんな名前……?」
 小さな声でミサが答えを促す。その時、赤子が泣き出したので、アヴァテアがそっと小さな体を掬い上げ、広い腕の中にいだきながら答えた。
「レイラ」
 アヴァテアが口にした瞬間、赤子はくしゃくしゃな笑みを浮かべてご機嫌になった。
「見てください、ミサ! ほら、こんなに可愛らしく、笑ってーー……っミサ!? どうして泣いているのですか!?」
 アヴァテアの視界には、キラキラと透明な雫を流して微笑むミサの姿があった。
「覚えてて、くれたんだ……」
 彼女はそう囁いて、涙をしっかり拭う。そして潤んだ目をして、赤子の頬を撫でている。
 そして今度は、
「レイラちゃ~ん」
 可愛らしい小鳥の囀るような声で『レイラ』をあやしはじめる。
「『夜』に愛された子……。私の名前には、そんな意味があったのね」
 うっとりと、愛娘の笑顔を見守りながら……。



 第2子をお腹に宿した頃、ミサが打ち明け話をしてくれた。実はあの頃にはすでに、元聖女レイラの意識はミサの中にうっすらと感じ取れる程で、ほとんどが同化していたらしい。そして『レイラ』の命名を機に、完全に同化したという。
 あの時ミサは、泣きながら笑っていた。
 とても嬉しそうに、そして至極満足そうに。




ーー数年後。
 少し大きくなった私たち二人の愛の結晶たちは、元気にみんなで庭を駆け回っている。
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