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12.ミサの衝撃発言
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山の麓についてしまえばあとは市街地まで――1週間かかるとはいえ――快適な馬車の旅が約束されていた。
タヒアたちと楽しかったねと仲良く馬車に乗って移動していた帰り道、喧嘩するひと組の男女がいた。
あと少しで屋敷に辿り着くと思った矢先の出来事だった。
「すぐにでも夜の街の警備を増やしましょう」
眉間に皺を寄せて言うアヴァテアが率先して動く気配はない。彼の肩書きを考えればそれもそうかと思ったわたしは、けれども千鳥足の男に女が突き飛ばされるのを見ていられなくて、「事情くらいは聞いてあげられるのでは?」と提案した。
馬車を止めてもらい、凝り固まった身体をほぐしながら出ていくと、ぷぅ~んと酒精の匂いがした。
「なんだぁ!? テメェら!」
お酒を飲みすぎた男は、どうやら食い逃げ犯らしい。話を聞けば突き飛ばされて怒っていた女は道角にある小さなお店を切り盛りする女将さんだった。
「やんのか!? オイ!」
男の威勢がいいのは、今だけだろう。半月以上も寝食を共にした護衛騎士たちの到着はまだもう少し後だ。馬車列のしんがりで任についていて到着が遅くなっているはずだから。
アヴァテアは有名人すぎるのでまだ馬車の箱の中で待機だ。
旅装束に身を包み、フードを深く被ったわたしとタヒアで対応する事にした。
「落ち着いてください。男が女性を突き飛ばすなんて、危険だと思わないのですか」
わたしは護衛騎士が到着するまでの時間稼ぎをしようと思い、冷静に対応していたのだが、男が突然「おぼこ娘がオレに舐めた口を聞くな!」と言って突進してきた。
寸前のところで身をかわしたが、わたしを守ろうと動いたタヒアにぶつかってしまった。
勢いよく地面に転がるタヒアの姿を目に映したわたしは、プッツンと切れてしまって「セックスぐらい知ってます!」と売り言葉に買い言葉で叫んでいた。
「こんのっ! クソアマ!」
次の瞬間、ブヨブヨの右腕を振り上げた酔っ払い男の体が吹っ飛んでいた。
渾身の一撃を加えたアヴァテアと、駆けつけてきてくれた護衛騎士たちが目にも鮮やかに男の身柄を拘束する。
「母さん!」
後続の馬車からニワレカがまろび出てきて倒れたタヒアに縋りついた。
「医師を呼べ! 頭を打っているかもしれないからあまり揺らすな。布をもってこい!」
アヴァテアが厳格な声で指示を出す。その声は硬く棘がある。
呆然と立ちすくんでいたわたしの方を振り返ると、アヴァテアはぎゅっと強く手を握りしめてきた。
少しして町医者が騎士の操る馬に乗せられてやってきた。
その時には目を覚ましていたタヒア。騒動の渦中にいることに怯えていたので、わたしたちは彼女の体を周囲の視線から守るようにして立った。
「打ち身とかすり傷ですね。額にたんこぶができているので、冷やして、外傷薬を塗ってあげてください」
町医者は謝礼をもらうとホクホクした様子で家に帰っていった。
「さぁ、帰りましょう」
慎重にタヒアを馬車に乗せ、心配そうなニワレカが付き添った。
「ミサ」
アヴァテアは後方の騎士から馬の手綱をもらうと、なぜかわたしを呼んだ。
「なんですか?」
「屋敷に戻って早急に確かめたいことがあります。私と一緒に来てください」
そう言って、彼はわたしの体を鞍上に引き上げた。
(確かめたいことってなんだろう? しかもなんでこんな急に?)
頭上にはてなマークを飛ばしながら、わたしは必死に馬の鞍にしがみついていた。
タヒアたちと楽しかったねと仲良く馬車に乗って移動していた帰り道、喧嘩するひと組の男女がいた。
あと少しで屋敷に辿り着くと思った矢先の出来事だった。
「すぐにでも夜の街の警備を増やしましょう」
眉間に皺を寄せて言うアヴァテアが率先して動く気配はない。彼の肩書きを考えればそれもそうかと思ったわたしは、けれども千鳥足の男に女が突き飛ばされるのを見ていられなくて、「事情くらいは聞いてあげられるのでは?」と提案した。
馬車を止めてもらい、凝り固まった身体をほぐしながら出ていくと、ぷぅ~んと酒精の匂いがした。
「なんだぁ!? テメェら!」
お酒を飲みすぎた男は、どうやら食い逃げ犯らしい。話を聞けば突き飛ばされて怒っていた女は道角にある小さなお店を切り盛りする女将さんだった。
「やんのか!? オイ!」
男の威勢がいいのは、今だけだろう。半月以上も寝食を共にした護衛騎士たちの到着はまだもう少し後だ。馬車列のしんがりで任についていて到着が遅くなっているはずだから。
アヴァテアは有名人すぎるのでまだ馬車の箱の中で待機だ。
旅装束に身を包み、フードを深く被ったわたしとタヒアで対応する事にした。
「落ち着いてください。男が女性を突き飛ばすなんて、危険だと思わないのですか」
わたしは護衛騎士が到着するまでの時間稼ぎをしようと思い、冷静に対応していたのだが、男が突然「おぼこ娘がオレに舐めた口を聞くな!」と言って突進してきた。
寸前のところで身をかわしたが、わたしを守ろうと動いたタヒアにぶつかってしまった。
勢いよく地面に転がるタヒアの姿を目に映したわたしは、プッツンと切れてしまって「セックスぐらい知ってます!」と売り言葉に買い言葉で叫んでいた。
「こんのっ! クソアマ!」
次の瞬間、ブヨブヨの右腕を振り上げた酔っ払い男の体が吹っ飛んでいた。
渾身の一撃を加えたアヴァテアと、駆けつけてきてくれた護衛騎士たちが目にも鮮やかに男の身柄を拘束する。
「母さん!」
後続の馬車からニワレカがまろび出てきて倒れたタヒアに縋りついた。
「医師を呼べ! 頭を打っているかもしれないからあまり揺らすな。布をもってこい!」
アヴァテアが厳格な声で指示を出す。その声は硬く棘がある。
呆然と立ちすくんでいたわたしの方を振り返ると、アヴァテアはぎゅっと強く手を握りしめてきた。
少しして町医者が騎士の操る馬に乗せられてやってきた。
その時には目を覚ましていたタヒア。騒動の渦中にいることに怯えていたので、わたしたちは彼女の体を周囲の視線から守るようにして立った。
「打ち身とかすり傷ですね。額にたんこぶができているので、冷やして、外傷薬を塗ってあげてください」
町医者は謝礼をもらうとホクホクした様子で家に帰っていった。
「さぁ、帰りましょう」
慎重にタヒアを馬車に乗せ、心配そうなニワレカが付き添った。
「ミサ」
アヴァテアは後方の騎士から馬の手綱をもらうと、なぜかわたしを呼んだ。
「なんですか?」
「屋敷に戻って早急に確かめたいことがあります。私と一緒に来てください」
そう言って、彼はわたしの体を鞍上に引き上げた。
(確かめたいことってなんだろう? しかもなんでこんな急に?)
頭上にはてなマークを飛ばしながら、わたしは必死に馬の鞍にしがみついていた。
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