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01.氷炎の聖魔導騎士
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冬というものはどうしてこうも雲が厚く、泉が凍てつき、緑が枯れてしまうのか。
冬の中でも特に寒波が厳しかったある日のこと。
手にした聖杯の冷たさが肌を刺すようだった。
聖杯の中には浄化した聖水が溢れんばかりに注がれていて、水面を僅かに揺らがせながらそれを運ぶ司祭は、頭を垂れた人々の間を粛々と歩んでゆく。
王宮を抜けたそのさらに北奥へ進んだ先にある、白い塔が大小合わせて七本建ち並ぶ開けた場所に出た。ある一件から非公開とされてきた塔――六芒星を描く塔の中心に『神の四阿』と呼ばれる一番大きな塔だ――その内部を調査し、安全確認を行う作業がその日行われることになった。
神様が休息する憩いの場所――通称『神の四阿』と呼ばれるだけあって、かつてはこの場所周辺にも澄んだ空気や緑が満ちていた。しかしそれも今や見る影もない。塔に寄り添うようにして伸びていた木のほとんどが黒く焼け焦げ、炭化してほぼ消し炭となっていた。
石造りの塔も倒壊する危険があるため、この日のために足場を組んで支柱を何本も添えた。内部の床の強度については、魔法士たちが塔を囲んで魔法で強度を高めてくれる手筈となっていた。
もともと神聖視されていた場所なので、安全確認のための作業とはいえ、最初に足を踏み入れるのは清廉潔白で信仰心あつい者がいいだろうということで取り壊し屋や大工ではなく司祭が選ばれた。
関係者たちに見守られるなか、司祭は「神の四阿」の中につながる凍った鉄の扉を開けるとわずかに身を屈めて中に滑り込んだ。
(素晴らしい魔法だ…)
思わず鉄の冷たさに感心してしまった。
彼は壁沿いにぐるりと巡る螺旋状の石段を踏み締めて進みながら、祝頌を誦する。
司祭にとって、誰かを褒め称えることは嫌いじゃない。人が誰かを称賛する行いは美しいとすら思う。
この荒廃した世界で、ささくれだった心で、人が生み出せるものはそう多くない。
壮年の司祭はその事実を経験して肌身に沁みて知っている。揺らぎそうな気持ちを、頭を軽く振って気を引き締めて深く呼吸をすることで精神統一し、気を落ち着けた。
最上段の石段を踏むと、司祭は俯いていた顔をあげた。
幸福の象徴である白い鳩が、窓のひさしに舞い降りた時、澄み渡った空気が塔の中を通り抜けていった。
吹き抜けの白い塔の最上階には、窓辺の景色と不似合いの四角い枠の黒い焦げ跡があった。おそらくベッドが置かれていたはずだった場所に。通常ならば元聖女の遺体があるはずのそこに、白い花弁の花々が溢れているのを見た時、いったい何の冗談だろうと思った。
しかし彼はそこに眠る黒髪の女の寝顔を見て驚き、興奮で喉が塞いだ。
彼が驚嘆するのは当然だ。十年以上も前に劫火で焼かれたはずの人間が、安らかな寝息をたてて眠っていたのだから。
司祭は煤埃で汚れることも厭わず、震える膝をその場に突いた。
(彼は……このことを知っていたのだろうか?)
ふた月前、この塔全体を覆っていた黒い炎を奇跡的に消火した人物を思い起こしながら、聖杯を置き、両手を掲げて祈りを捧げた。
(天地がひっくり返ったような大事件だったのに、彼はさも当然のように振る舞っていた)
大きな騒動となったあの時、司祭が垣間見たのは冷静さを失わなかった知的な眼差しと、落ち着いた声音で上司に取引を持ちかける大胆さを持ち合わせた一人の男の姿だった。
司祭が塔に登るふた月ほど前のこと。
世界の常識が一変した。
空気が揺らぎ、まるで炎のようにゆらり立ち上った湯気を草花が纏い一瞬で凍りつけば、太陽光を乱反射して煌めいた。
美しい氷の標本――見事な氷魔法だった。
それを目の当たりにした軍人や有事のために駆けつけた人々は驚愕した。ある者は驚いて腰を抜かし、ある者は本物かどうか確かめようとしてその冷たさに目を見張り、ある者は敬虔な信徒らしくその場に膝を突いて祈り出した。
草花の周りの地面や石壁には水に魔法をかけた時と同じ跡がくっきりと残っていた。
流し場に残る、水が這った跡のような――つまり、水垢のような跡だ。それは魔素を使って水を操作すると必ず表れる現象だった。
魔素を流し込んで水を操作することはできる。しかし、魔胞を持たない無機物が魔法だけを使ってある一定の状態を保つことは難しい。
「なんと、」
長い髭を蓄えた老爺がしわくちゃな顔に涙を浮かべてそれを見あげ、呟いた。
古びた斜塔が地面から伸びて塔全体に張り巡らされた蔦を手がかりに氷漬けになっている。
「一瞬で凍らせるとは……」
世界が揺らいだ。次の瞬間、真っ黒な劫火が塔の内部から噴き出た。
「消えたと思ったのに!」
「消火しろ! ありったけの砂を運べ!」
男たちが消火活動にあたろうとしたがすぐに無駄だと知った。
キンッ――と、瞬きの間に最初と比にならないほど極寒の冷気が流れ込んできた。それは広範囲に広がり、居合わせた者たちの吐く息が白くなる。凍結した塔を見た者たちは、今度は畏怖の念を込めて術者を振り返った。
彼らの視線の先には、漆黒を身に纏った男の姿があった。長い腰あたりまで伸びた銀髪が、毛先部分から黒髪へと徐々に変わっていき、根本をわずかに残して真っ黒に染まった。
瞳も柔らかかった明るい藤色が暗いアメジストの色に変わっていた。
彼は飄々と立っているが、膨大な魔素を流したはずなので魔胞はほぼ空。常人ならば卒倒しているはずだ。もしくは、立っていられないほどの目眩を起こしている。どちらにしても深刻な状況になるはずだった。
「ウソだろ」
「どういうことだ……?」
集まっていた人々はざわつき出す。規格外の男の異常さにようやく気がついたのだ。
注目の的はというと、平然とした顔で立っていた。その腰に佩いた剣で魔法聖騎士であることを証明していた。聖騎士団長でも副団長でもない、一介の兵士が持つ得物だった。
「アヴァテア。君には説明責任がある――ご同行願えるね?」
「えぇ、そうですね……それでしたら取引してよろしいですか? でなければ黙秘致します」
小麦色の肌をした副団長の男に対して、漆黒を纏ったアヴァテアというらしい男はサクッと言い返した。その顔にはニコリと取って付けたような笑みが浮かんでいる。
「しかし…それは…」
副団長が言葉を濁すと見切りをつけたらしいアヴァテアがさっさと身を翻した。
「では、話のわかる団長と……」
彼がその場を立ち去ろうとしても、誰も何も言わなかった……いや、言えなかったのだ。
アヴァテアはこの日、氷魔法は存在しないという世界の常識を覆す、見事な成果をあげると同時に、このキーアヴァハラ国を10年前から苛み、燃え続けていた不滅の劫火から人も土地も守りつつ、犠牲者を一人も出すことなく鎮火するという偉業を成し遂げた生きた聖人になるだけの資格がある。驚異的な才能を魔胞の大きさを証明したのだった。
その後、2か月半ほどでアヴァテアの身辺調査が終わり、問題がないとわかると中立国を謳うキーアヴァハラ国は国の威信をかけて世界各国の首脳や重鎮らが集まる有数の会議で上程した。
首相曰く、アヴァテアに聖魔道騎士の位を授け、今後も継続して劫火を操る『炎姫』を鎮めさせる任につかせるというものだった。案はすぐに可決され、キーアヴァハラ国は国民に声明を出した。
新たな聖魔導騎士の誕生を、国全体で祝うというのである。
そうしてアヴァテアの聖魔導騎士叙任式当日は国民の祝日となった。
冬の衣を身に纏い、国民は祝福の鐘を鳴らして大いに騒ぎ、祝った。冬の衣の上に真っ白な帯を身につけるのは、結婚を祝う意味が込められていて、国民は大人から子どもまで、聖魔導騎士の誕生と彼の結婚を祝福していた。
この時、『炎姫』を鎮める意味を誰も口にしなかったが、一部の大人たちはわかっていたはずだ。
死者に捧げられた夫としては、聖魔導騎士の位は異例で過去最高で、過ぎた誉だと。
――アヴァテア。君は、この国の礎となれ。
取引を持ちかけたアヴァテアに彼の上司にして聖騎士団長である赤眼の女はそう返した。
――そしてもう一度問おう。君は生贄になる覚悟はできているか? 聖魔導騎士の称号と引き換えに、な。
あの歴史的瞬間を境に、アヴァテアに向けられる世間からの期待感が重たいものに変わった。
美しく整った見た目のアヴァテアに貴族令嬢たちは誰も彼もが皆、彼に向けて秋波を送りつづけた。アヴァテアに無関心だった養父母でさえ、妾を作ればいいと仄めかすようになった。
アヴァテアが正式に聖魔導騎士に叙任されてから三日と経たず、二つ名までつけられて、それがどうやってか市井にまで浸透してしまった。
『氷炎の騎士』がそれである。
そして、全世界を震撼させた氷魔法は各国の紙面のトップを飾った。
キーアヴァハラ国営新聞の見出しにはアヴァテアの氷魔法を『六花の炎』と表現したためか、世界各国の新聞記者たちもこぞって同調し、賞賛の言葉と共に「新世代の魔法――“六花の炎”は国宝級」や「氷魔法を自在に操る美しき“六花の”聖魔導騎士現わる」などと題した新聞を多く発行。飛ぶように売れたという。
さらには世界中から学者や観光客がその永続的な魔法を一目見ようとキャラバンを編成してキーアヴァハラ国の塔が見える離宮近くの外苑に殺到したのだった。
聖魔導騎士叙任式と結婚式はつつがなく終わってくれた。奇跡というのは、一度あるものは二度あるものらしい。目が覚めないまま結婚式当日を迎えた『炎姫』が、式の最中に目覚めたのだ。となればあとは、花嫁がアヴァテアの期待に応えてくれるのを待つだけの、はずだった。
冬の中でも特に寒波が厳しかったある日のこと。
手にした聖杯の冷たさが肌を刺すようだった。
聖杯の中には浄化した聖水が溢れんばかりに注がれていて、水面を僅かに揺らがせながらそれを運ぶ司祭は、頭を垂れた人々の間を粛々と歩んでゆく。
王宮を抜けたそのさらに北奥へ進んだ先にある、白い塔が大小合わせて七本建ち並ぶ開けた場所に出た。ある一件から非公開とされてきた塔――六芒星を描く塔の中心に『神の四阿』と呼ばれる一番大きな塔だ――その内部を調査し、安全確認を行う作業がその日行われることになった。
神様が休息する憩いの場所――通称『神の四阿』と呼ばれるだけあって、かつてはこの場所周辺にも澄んだ空気や緑が満ちていた。しかしそれも今や見る影もない。塔に寄り添うようにして伸びていた木のほとんどが黒く焼け焦げ、炭化してほぼ消し炭となっていた。
石造りの塔も倒壊する危険があるため、この日のために足場を組んで支柱を何本も添えた。内部の床の強度については、魔法士たちが塔を囲んで魔法で強度を高めてくれる手筈となっていた。
もともと神聖視されていた場所なので、安全確認のための作業とはいえ、最初に足を踏み入れるのは清廉潔白で信仰心あつい者がいいだろうということで取り壊し屋や大工ではなく司祭が選ばれた。
関係者たちに見守られるなか、司祭は「神の四阿」の中につながる凍った鉄の扉を開けるとわずかに身を屈めて中に滑り込んだ。
(素晴らしい魔法だ…)
思わず鉄の冷たさに感心してしまった。
彼は壁沿いにぐるりと巡る螺旋状の石段を踏み締めて進みながら、祝頌を誦する。
司祭にとって、誰かを褒め称えることは嫌いじゃない。人が誰かを称賛する行いは美しいとすら思う。
この荒廃した世界で、ささくれだった心で、人が生み出せるものはそう多くない。
壮年の司祭はその事実を経験して肌身に沁みて知っている。揺らぎそうな気持ちを、頭を軽く振って気を引き締めて深く呼吸をすることで精神統一し、気を落ち着けた。
最上段の石段を踏むと、司祭は俯いていた顔をあげた。
幸福の象徴である白い鳩が、窓のひさしに舞い降りた時、澄み渡った空気が塔の中を通り抜けていった。
吹き抜けの白い塔の最上階には、窓辺の景色と不似合いの四角い枠の黒い焦げ跡があった。おそらくベッドが置かれていたはずだった場所に。通常ならば元聖女の遺体があるはずのそこに、白い花弁の花々が溢れているのを見た時、いったい何の冗談だろうと思った。
しかし彼はそこに眠る黒髪の女の寝顔を見て驚き、興奮で喉が塞いだ。
彼が驚嘆するのは当然だ。十年以上も前に劫火で焼かれたはずの人間が、安らかな寝息をたてて眠っていたのだから。
司祭は煤埃で汚れることも厭わず、震える膝をその場に突いた。
(彼は……このことを知っていたのだろうか?)
ふた月前、この塔全体を覆っていた黒い炎を奇跡的に消火した人物を思い起こしながら、聖杯を置き、両手を掲げて祈りを捧げた。
(天地がひっくり返ったような大事件だったのに、彼はさも当然のように振る舞っていた)
大きな騒動となったあの時、司祭が垣間見たのは冷静さを失わなかった知的な眼差しと、落ち着いた声音で上司に取引を持ちかける大胆さを持ち合わせた一人の男の姿だった。
司祭が塔に登るふた月ほど前のこと。
世界の常識が一変した。
空気が揺らぎ、まるで炎のようにゆらり立ち上った湯気を草花が纏い一瞬で凍りつけば、太陽光を乱反射して煌めいた。
美しい氷の標本――見事な氷魔法だった。
それを目の当たりにした軍人や有事のために駆けつけた人々は驚愕した。ある者は驚いて腰を抜かし、ある者は本物かどうか確かめようとしてその冷たさに目を見張り、ある者は敬虔な信徒らしくその場に膝を突いて祈り出した。
草花の周りの地面や石壁には水に魔法をかけた時と同じ跡がくっきりと残っていた。
流し場に残る、水が這った跡のような――つまり、水垢のような跡だ。それは魔素を使って水を操作すると必ず表れる現象だった。
魔素を流し込んで水を操作することはできる。しかし、魔胞を持たない無機物が魔法だけを使ってある一定の状態を保つことは難しい。
「なんと、」
長い髭を蓄えた老爺がしわくちゃな顔に涙を浮かべてそれを見あげ、呟いた。
古びた斜塔が地面から伸びて塔全体に張り巡らされた蔦を手がかりに氷漬けになっている。
「一瞬で凍らせるとは……」
世界が揺らいだ。次の瞬間、真っ黒な劫火が塔の内部から噴き出た。
「消えたと思ったのに!」
「消火しろ! ありったけの砂を運べ!」
男たちが消火活動にあたろうとしたがすぐに無駄だと知った。
キンッ――と、瞬きの間に最初と比にならないほど極寒の冷気が流れ込んできた。それは広範囲に広がり、居合わせた者たちの吐く息が白くなる。凍結した塔を見た者たちは、今度は畏怖の念を込めて術者を振り返った。
彼らの視線の先には、漆黒を身に纏った男の姿があった。長い腰あたりまで伸びた銀髪が、毛先部分から黒髪へと徐々に変わっていき、根本をわずかに残して真っ黒に染まった。
瞳も柔らかかった明るい藤色が暗いアメジストの色に変わっていた。
彼は飄々と立っているが、膨大な魔素を流したはずなので魔胞はほぼ空。常人ならば卒倒しているはずだ。もしくは、立っていられないほどの目眩を起こしている。どちらにしても深刻な状況になるはずだった。
「ウソだろ」
「どういうことだ……?」
集まっていた人々はざわつき出す。規格外の男の異常さにようやく気がついたのだ。
注目の的はというと、平然とした顔で立っていた。その腰に佩いた剣で魔法聖騎士であることを証明していた。聖騎士団長でも副団長でもない、一介の兵士が持つ得物だった。
「アヴァテア。君には説明責任がある――ご同行願えるね?」
「えぇ、そうですね……それでしたら取引してよろしいですか? でなければ黙秘致します」
小麦色の肌をした副団長の男に対して、漆黒を纏ったアヴァテアというらしい男はサクッと言い返した。その顔にはニコリと取って付けたような笑みが浮かんでいる。
「しかし…それは…」
副団長が言葉を濁すと見切りをつけたらしいアヴァテアがさっさと身を翻した。
「では、話のわかる団長と……」
彼がその場を立ち去ろうとしても、誰も何も言わなかった……いや、言えなかったのだ。
アヴァテアはこの日、氷魔法は存在しないという世界の常識を覆す、見事な成果をあげると同時に、このキーアヴァハラ国を10年前から苛み、燃え続けていた不滅の劫火から人も土地も守りつつ、犠牲者を一人も出すことなく鎮火するという偉業を成し遂げた生きた聖人になるだけの資格がある。驚異的な才能を魔胞の大きさを証明したのだった。
その後、2か月半ほどでアヴァテアの身辺調査が終わり、問題がないとわかると中立国を謳うキーアヴァハラ国は国の威信をかけて世界各国の首脳や重鎮らが集まる有数の会議で上程した。
首相曰く、アヴァテアに聖魔道騎士の位を授け、今後も継続して劫火を操る『炎姫』を鎮めさせる任につかせるというものだった。案はすぐに可決され、キーアヴァハラ国は国民に声明を出した。
新たな聖魔導騎士の誕生を、国全体で祝うというのである。
そうしてアヴァテアの聖魔導騎士叙任式当日は国民の祝日となった。
冬の衣を身に纏い、国民は祝福の鐘を鳴らして大いに騒ぎ、祝った。冬の衣の上に真っ白な帯を身につけるのは、結婚を祝う意味が込められていて、国民は大人から子どもまで、聖魔導騎士の誕生と彼の結婚を祝福していた。
この時、『炎姫』を鎮める意味を誰も口にしなかったが、一部の大人たちはわかっていたはずだ。
死者に捧げられた夫としては、聖魔導騎士の位は異例で過去最高で、過ぎた誉だと。
――アヴァテア。君は、この国の礎となれ。
取引を持ちかけたアヴァテアに彼の上司にして聖騎士団長である赤眼の女はそう返した。
――そしてもう一度問おう。君は生贄になる覚悟はできているか? 聖魔導騎士の称号と引き換えに、な。
あの歴史的瞬間を境に、アヴァテアに向けられる世間からの期待感が重たいものに変わった。
美しく整った見た目のアヴァテアに貴族令嬢たちは誰も彼もが皆、彼に向けて秋波を送りつづけた。アヴァテアに無関心だった養父母でさえ、妾を作ればいいと仄めかすようになった。
アヴァテアが正式に聖魔導騎士に叙任されてから三日と経たず、二つ名までつけられて、それがどうやってか市井にまで浸透してしまった。
『氷炎の騎士』がそれである。
そして、全世界を震撼させた氷魔法は各国の紙面のトップを飾った。
キーアヴァハラ国営新聞の見出しにはアヴァテアの氷魔法を『六花の炎』と表現したためか、世界各国の新聞記者たちもこぞって同調し、賞賛の言葉と共に「新世代の魔法――“六花の炎”は国宝級」や「氷魔法を自在に操る美しき“六花の”聖魔導騎士現わる」などと題した新聞を多く発行。飛ぶように売れたという。
さらには世界中から学者や観光客がその永続的な魔法を一目見ようとキャラバンを編成してキーアヴァハラ国の塔が見える離宮近くの外苑に殺到したのだった。
聖魔導騎士叙任式と結婚式はつつがなく終わってくれた。奇跡というのは、一度あるものは二度あるものらしい。目が覚めないまま結婚式当日を迎えた『炎姫』が、式の最中に目覚めたのだ。となればあとは、花嫁がアヴァテアの期待に応えてくれるのを待つだけの、はずだった。
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