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しおりを挟む『彩りの日』から一ヶ月半がたった。
その間、『ブリギン・グバク・ザフォル』の構成員たちはあらかた逮捕され、その犯行の全容も解明されていたため、実質的な組織の壊滅に至った。
今日付けの新聞の一面には、ベリンガールの英雄となったバーラントとアルメリアの婚約が大々的に発表されている。二人は今後とも、革命によって引き起こされた被害に尽力していきたいと発言している…… と、嘘か本当かは別にして、書くだけ書いてあった。
二面には、『ブリギン・グバク・ザフォル』に関するまとめと『彩りの日』の事象に関する考察が書いてある。
まず、犯人たちが用意していた乗り物はなんだったのか、ひょっとすると空を飛んでいたのではないか、という憶測などが色々と書かれてあった。
無論、空を飛ぶ乗り物のことや空爆のことは未発表であり、世間の人々はどういう事態に陥っていたのかを知らない。
だから、逮捕されたという事実と彩りの日の現象だけから、様々な憶測を立てていたのだった。
本来の経緯は、飛行船が海峡の方へ流れていき、丁度、海峡の崖のあいだに落ちていくように墜落した。
積まれていた爆弾などは大部分が湿気って爆発せず、気嚢も爆発していなかった。そのため、乗員はほとんど無事であった。同時に、彼らは国境警備隊によって逮捕され、全員が収容所へ送られた。
また、アル・ファームの儀典官の遺体は森の中で回収され、独り身であったため、本国の関係者のみで密葬されることとなった。そして彼の後援会を初めとした組織にも捜査の手が入り、事件に関与した人間や資金の横領をしていた人間が逮捕された。
その中で唯一、ムハクの姿が見つけられず、国際的な指名手配とされていた。
ところが昨日の夕方頃、遺体が海岸で発見され、国防省の海兵隊員が遺体を収容した。だから、その事実に関してだけは新聞にも記載されている。
これを見たライールは、一つ息を吐いた。
心配事が消えたという思いなのか、裁判を待たずに死なれたことに対する憤りなのかは分からない。
彼は次のページをめくった。
三面記事には、住人の証言などが載っていた。
その中には、王女の侍女がナザール家の次男に対して説教をしていたという噂や、彩りの日の早朝、王女の傍にいた女性が、バーラントの頬を思いっきり引っぱたき、彼が謝り、王女が二人をなだめていたという、喜劇みたいな一幕を伝える記事もあった。それらが、ライールの口角をあげさせた。
「ここにいたのか」
バーラントが部屋へ入るなり言った。
椅子に座っていたライールは、新聞を畳んで机の上に置く。
「用事はもう終わったのか?」
「ああ、資料を渡すだけだったからな。――行こうか」
「そうだな」
立ち上がりながら、ライールが答えた。
二人が部屋を出て、国防省の別館から出ていく。
大通りの近くにあるから、人通りが多かった。
「今日は混んでいるな……」
ライールが少々不満そうに言った。
「俺は任務付きの休暇っていう方がイヤだけど」
「事後処理の一環さ。これから忙しくなるお前と比べたら、長期休暇みたいなもんだ」
「まっ、楽しんできなよ。――それより一度、屋敷に戻るか? アルメリアとエリカもまだいるだろうし」
「いや、いい」とライール。「昨日、挨拶は済ませたからな」
「そうか」
と言って、バーラントが玄関口の階段を降りながら、
「じゃあ、行こうか」と言った。
「ここまででいいぞ?」
「こっちはまだまだ時間がある。暇つぶしに見送るくらい、いいだろ?」
ライールが笑みを浮かべた。
二人が大通りを歩き、脇に逸れて、馬車がたくさん並んでいる停留所にやって来る。
そこには出発時刻になるまで話をする人々が集まる、大きな待合所があった。
「少し早いから、寄って行こうか?」
「ああ」
ライールがうなずいて答えた。
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