70 / 79
70
しおりを挟む
白い息を吐きながら、ライールが船底のところへナイフを突き立て、底を抜こうとしていた。
防寒着を着てあると言っても、冬用の徹底した物ではないから、彼はもう少し着込んでくれば良かったと後悔した。
底を抜いたことによる事故で、さらなる後悔を加速させる可能性もあるが、その前に、上から人の大声が聞こえた。
そちらの方向を向くと、誰かが落ちていくのが見えた。見た目からして男性であり、動きがないので死体だろう。エリカでは無いが、無事なのか怪しくなってきた……
風の音に混じって、上から早く閉めろとか、色々と混乱しているような怒号がしてくる。
ライールは早く底を抜いて侵入しないと、自分もあの男のように落ちていくことになると考え、とにかくナイフを力いっぱいに突き立てた。
すると、塗装で見えていなかった継ぎ接ぎ部分の境目を貫いた。こうなったら後は簡単。境目に沿って、たくさんの穴を作っていくだけである。
四角形の、継ぎ接ぎに使ってあるトタンみたいな材質の板に、穴を連ねていく。
手を突っ込んで引き剥がせるくらいになったから、片側を引っ張ってやった。すると、四隅の方からバリバリと剥がれて、あるところで風圧に耐えられず、勝手に剥がれていった。被膜が鋼製であることを忘れるくらいに、ヒラヒラと布切れみたいに落ちていく。
船底の方へ視線を戻すと、体が通るくらいの四角い穴ができていた。
穴の先にはまだ天井みたいな底が見えるが、これは木製だからやりやすい。しかも、先程やってきた男達の声の位置から察するに、出入り口がある廊下辺りにでるだろうと予測できた。
普通なら見張りがいるから不運なところだが、今は空中。見張りを立てておく意味が無いから、きっと誰もいないはずである。
もちろん、機関室の底とかガスの入った気嚢がある真下の可能性だとか、不安材料はあるけれど、何も知らないライールだからこそ、その不安材料は頭に無かった。だから彼は、目的に向かって真っ直ぐ進むことができた。
――揺れが少し大きくなってきている。
穴へ入るには、立ちあがる必要があった。しかも命綱である鈎縄の縄を、足首から外さないといけない。
怖くはあるが、仕方ない。
ライールはナイフで縄をこそぎ切った。
時宜を見計らって、体を伸ばすように立ち上がり、四角い穴へ上体を入れていく。そうして、両手で鋼鉄製の骨組みをつかみ、大引と根太らしき四角柱に乗っている、合板と合板の重なりの隙間へ、ナイフの刃を通すように刺した。
合板の上に石膏があり、そこの上に床板があるようで、切り込みを入れるごとにポロポロと石膏の破片が落ちてきて、防塵眼鏡が汚れる。
――幸い、硬い物はあいだに入っていないようである。これなら侵入できそうだ。
充分に切り込みと穴を連ねた床板を、ライールが思いっきりナイフの柄で殴ると、ボコッと合板が浮き上がった。
殴る回数を増やすごとに、床が大きく跳ねるように浮かびあがって、仕舞いにはボッキリと折れる形で、床に穴があいた。
すぐにナイフを片付けて拳銃に持ちかえ、内部へと入っていくライール。
彼は敵がおらず、自分がやはり出入り口付近の廊下に出たことを確認すると、近くにある扉へ寄って、静かに扉をあけて中を伺った。
誰もいないようなので、一旦、この部屋へ入ろうと決心する。
防寒着を着てあると言っても、冬用の徹底した物ではないから、彼はもう少し着込んでくれば良かったと後悔した。
底を抜いたことによる事故で、さらなる後悔を加速させる可能性もあるが、その前に、上から人の大声が聞こえた。
そちらの方向を向くと、誰かが落ちていくのが見えた。見た目からして男性であり、動きがないので死体だろう。エリカでは無いが、無事なのか怪しくなってきた……
風の音に混じって、上から早く閉めろとか、色々と混乱しているような怒号がしてくる。
ライールは早く底を抜いて侵入しないと、自分もあの男のように落ちていくことになると考え、とにかくナイフを力いっぱいに突き立てた。
すると、塗装で見えていなかった継ぎ接ぎ部分の境目を貫いた。こうなったら後は簡単。境目に沿って、たくさんの穴を作っていくだけである。
四角形の、継ぎ接ぎに使ってあるトタンみたいな材質の板に、穴を連ねていく。
手を突っ込んで引き剥がせるくらいになったから、片側を引っ張ってやった。すると、四隅の方からバリバリと剥がれて、あるところで風圧に耐えられず、勝手に剥がれていった。被膜が鋼製であることを忘れるくらいに、ヒラヒラと布切れみたいに落ちていく。
船底の方へ視線を戻すと、体が通るくらいの四角い穴ができていた。
穴の先にはまだ天井みたいな底が見えるが、これは木製だからやりやすい。しかも、先程やってきた男達の声の位置から察するに、出入り口がある廊下辺りにでるだろうと予測できた。
普通なら見張りがいるから不運なところだが、今は空中。見張りを立てておく意味が無いから、きっと誰もいないはずである。
もちろん、機関室の底とかガスの入った気嚢がある真下の可能性だとか、不安材料はあるけれど、何も知らないライールだからこそ、その不安材料は頭に無かった。だから彼は、目的に向かって真っ直ぐ進むことができた。
――揺れが少し大きくなってきている。
穴へ入るには、立ちあがる必要があった。しかも命綱である鈎縄の縄を、足首から外さないといけない。
怖くはあるが、仕方ない。
ライールはナイフで縄をこそぎ切った。
時宜を見計らって、体を伸ばすように立ち上がり、四角い穴へ上体を入れていく。そうして、両手で鋼鉄製の骨組みをつかみ、大引と根太らしき四角柱に乗っている、合板と合板の重なりの隙間へ、ナイフの刃を通すように刺した。
合板の上に石膏があり、そこの上に床板があるようで、切り込みを入れるごとにポロポロと石膏の破片が落ちてきて、防塵眼鏡が汚れる。
――幸い、硬い物はあいだに入っていないようである。これなら侵入できそうだ。
充分に切り込みと穴を連ねた床板を、ライールが思いっきりナイフの柄で殴ると、ボコッと合板が浮き上がった。
殴る回数を増やすごとに、床が大きく跳ねるように浮かびあがって、仕舞いにはボッキリと折れる形で、床に穴があいた。
すぐにナイフを片付けて拳銃に持ちかえ、内部へと入っていくライール。
彼は敵がおらず、自分がやはり出入り口付近の廊下に出たことを確認すると、近くにある扉へ寄って、静かに扉をあけて中を伺った。
誰もいないようなので、一旦、この部屋へ入ろうと決心する。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
25
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる