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 白い息を吐きながら、ライールが船底のところへナイフを突き立て、底を抜こうとしていた。

 防寒着を着てあると言っても、冬用の徹底した物ではないから、彼はもう少し着込んでくれば良かったと後悔した。

 底を抜いたことによる事故で、さらなる後悔を加速させる可能性もあるが、その前に、上から人の大声が聞こえた。

 そちらの方向を向くと、誰かが落ちていくのが見えた。見た目からして男性であり、動きがないので死体だろう。エリカでは無いが、無事なのか怪しくなってきた……

 風の音に混じって、上から早く閉めろとか、色々と混乱しているような怒号がしてくる。
 ライールは早く底を抜いて侵入しないと、自分もあの男のように落ちていくことになると考え、とにかくナイフを力いっぱいに突き立てた。

 すると、塗装で見えていなかった継ぎぎ部分の境目を貫いた。こうなったら後は簡単。境目に沿って、たくさんの穴を作っていくだけである。

 四角形の、継ぎ接ぎに使ってあるトタンみたいな材質の板に、穴を連ねていく。

 手を突っ込んで引きがせるくらいになったから、片側を引っ張ってやった。すると、四隅の方からバリバリと剥がれて、あるところで風圧に耐えられず、勝手に剥がれていった。被膜が鋼製であることを忘れるくらいに、ヒラヒラと布切れみたいに落ちていく。

 船底の方へ視線を戻すと、体が通るくらいの四角い穴ができていた。

 穴の先にはまだ天井みたいな底が見えるが、これは木製だからやりやすい。しかも、先程やってきた男達の声の位置から察するに、出入り口がある廊下辺りにでるだろうと予測できた。

 普通なら見張りがいるから不運なところだが、今は空中。見張りを立てておく意味が無いから、きっと誰もいないはずである。

 もちろん、機関室の底とかガスの入った気嚢きのうがある真下の可能性だとか、不安材料はあるけれど、何も知らないライールだからこそ、その不安材料は頭に無かった。だから彼は、目的に向かって真っ直ぐ進むことができた。

 ――揺れが少し大きくなってきている。

 穴へ入るには、立ちあがる必要があった。しかも命綱である鈎縄の縄を、足首から外さないといけない。

 怖くはあるが、仕方ない。
 ライールはナイフで縄をこそぎ切った。

 時宜じぎを見計らって、体を伸ばすように立ち上がり、四角い穴へ上体を入れていく。そうして、両手で鋼鉄製の骨組みをつかみ、大引と根太ねだらしき四角柱に乗っている、合板と合板の重なりの隙間すきまへ、ナイフの刃を通すように刺した。

 合板ごうばんの上に石膏せっこうがあり、そこの上に床板があるようで、切り込みを入れるごとにポロポロと石膏せっこうの破片が落ちてきて、防塵眼鏡ぼうじんめがねが汚れる。

 ――幸い、硬い物はあいだに入っていないようである。これなら侵入できそうだ。

 充分に切り込みと穴を連ねた床板を、ライールが思いっきりナイフの柄で殴ると、ボコッと合板が浮き上がった。

 殴る回数を増やすごとに、床が大きく跳ねるように浮かびあがって、仕舞いにはボッキリと折れる形で、床に穴があいた。

 すぐにナイフを片付けて拳銃に持ちかえ、内部へと入っていくライール。

 彼は敵がおらず、自分がやはり出入り口付近の廊下に出たことを確認すると、近くにある扉へ寄って、静かに扉をあけて中を伺った。

 誰もいないようなので、一旦、この部屋へ入ろうと決心する。
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