負けヒロインは助けたい! ~勝ちヒロインの王女が婚約破棄の危機!? 私が『魔導具』を駆使して救ってみせます!~

暁 明音

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 飛行船の機関室にいるエリカが、ガラスの円柱に両手をかざし、魔導具を作動させていた。

 飛行船の動力炉は魔導具であり、ガスの調整やプロペラの回転は全て、この力でおこなわれている。よって、彼女には休むことが許されていなかった。

「君に朗報だぞ!」

 扉が開いたと思ったら、ムハクが開口一番に言った。
 エリカは本当に嫌そうな顔で、彼を見ている。

「素晴らしい友達を紹介しよう」

 そう言って、彼は部下を呼び寄せた。

「――そんな」

 エリカが呆然としながら言って、

「どうして…… なんで、ここに……」

 と、続けた。

「会いたかっただろう? ほら、約束通り殺さずに連れてきてやったぞ?」

 ムハクが、部下の男へアルメリアを連れていくよう指示した。彼女は両手を後ろに縛られている。

「座れ」

 アルメリアが言うことをきいた。
 エリカは彼女の横顔を、信じられないといった顔で見ていた。アルメリアはエリカを見ず、正面を向いたままである。

「そうそう」と笑いながら言うムハク。「君には、いつでもそういう顔でいててほしいもんだ」
「――ムハク」

 機関室に入ってきていた、もう一人の男――儀典官が言った。

「これからどうするつもりだ? 段取りを話す約束だったが……」
「もちろん、これから革命を始めるんだ」
「なるほど。では、アル・ファームの襲撃も近いわけだな?」
「その前に、やっておかなければならないことがある」
「なんだ?」

 ムハクがエリカの方を見やった。

「いいかね?」

 そう言って銃を取り出し、エリカの方へ歩いて行った。

「あの小屋で人質にしている若造共は、間も無く死ぬことになる」

 エリカが目を見開いた。

「当然だろう? 我が祖国を取り戻す機会に同調できないなどと言うなら、それはもはや毒された人間だ」
「アンタって人は……!!」

 ムハクが、アルメリアに銃を向ける。

「大人しく操縦していたまえ」
「…………」
「そうだ、それでいい。――王女はあくまでも、お前に対する人質だ。私はちゃんと約束を守る男だからね。君との約束はちゃ~んと守ってあげよう」

 ねっとり言ってから、銃を下ろした。

「君たちは一緒になって、ここで働いてくれよ? でなければ」

 と言うなり、振り返って儀典官へ銃を撃った。
 エリカもアルメリアもビクリと体を震わせた。
 彼は腹部を押さえ、ひざまづく。

「用無しになって、死ぬことになるからね」
「き、貴様……!!」

 ムハクは儀典官の傍へ行くと、頭へ銃を向ける。

「元々、アル・ファームがどうなろうが知ったことではない。君の王家支配への執着も興味が無い。我々は全世界に平和を求める、共和主義者だからな」
ごとを……! 僭主制せんしゅせいの亡霊が……!!」

「もう、互いの目的はすでに達成された…… 君がその立場を得るために我々を利用し、我々も神の船を手に入れるために君を利用した。そうだろう?」

「やめ――」

 銃声がした。
 儀典官はドサリと床に伏せ、動かなくなった。

「ひどい……」

 アルメリアが言うと、エリカが小声で、

(シッ……!)

 と制した。

「――偉大な革命に多少の犠牲はつき物なんだよ。以前の秋革命もそうだったろう?」

 ムハクが笑みを浮かべながら振り返って言った。
 二人はジッとしたまま、彼を見ている。

「それじゃあ、仕事の方を頑張ってくれたまえ。――お前たち、これを捨ててこい」
「ちょ、ちょっと待って!」

 エリカが言った。

「ひょっとして、外へ出すって言うの?」
「船内よりは広くてニオイも気にしない場所だろう?」

「今、高度どれくらいだと思ってるの? 二五〇〇メートル近いのよ? 言われた通りにしたら、これからもっと高度があがっていくし、扉をあけたりしたら気圧や気流が変わって、船内どころか船自体が大変なことになるかもしれないのよ?」

「それをどうにかするのが君の役割であり、仕事だ。どうにかしたまえ。できないことは無いだろう?」

 ムハクが眼光鋭く言うと、エリカは黙り込んだ。

「頼むよ、勇敢な侍女様。王女様の命ははかないからな、君の言動次第では散ってしまうぞ?」
「――体調を崩したって怒ってきても、そっちは責任取れないから」
「君も体調不良になって、船を落とすようなことはするんじゃないぞ?」

 そう言って、彼が部屋を出て行く。ついで、部下たちが儀典官の死体を担ぎあげて、出て行く。
 後にはエリカとアルメリアと、見張りのための男が一人、残った。

 男とエリカたちは離れているので、前を向いたまま小声で話すくらいなら聞かれる可能性は低いだろうが…… もし、聞かれたら……

 エリカが不安に思っていると、突然、アルメリアがエリカの肩口に顔をうずめた。
 傍目はためから見れば、怖くてエリカに寄り掛かっているようにも見えるし、束の間の安堵に体を寄せているようにも見える。

 見張りの男も、逃亡のための行動ではないから、そこまで気にはしていなかった。
 だが、アルメリアは逃げる行動を取っているのではなく、その算段を話すための演技をしていたのだ。

(エリカさん……)

 彼女はそっと言った。すると、

(――そのまま聞いてて)

 と、エリカが言った。

(このままじゃ、あなたは確実に殺されてしまう……)
(エリカさんも、殺されてしまうのは時間の問題です)

 アルメリアがキッパリと言った。それが意外だったのか、エリカが驚きながら横目で、アルメリアを見やった。
 彼女は真っ直ぐな目をしていた。それが妙に力強いから、エリカが不穏に思って、

(まさかとは思うけど…… ここに来たのって……)
(彼が…… 儀典官が罪を認め、投降していたら…… ここへ来ることはありませんでした……)
(それって……)
(私のあしの内側に、ナイフがあります…… それを使って足首の縄を切って……)
(やっぱり……!)

 眉根をひそめて、エリカが言った。声を抑えるのに必死だった。

(どうして……! なんで、そんなこと……!)
(私も、大切な人々を助けたい…… あなたのように……)

 しばらくしてから、

(やんちゃになってしまったわね…… アルメリア……)

 と、エリカが言うと、

(きっと、お姉様の影響ですよ……)

 と、アルメリアが返した。
 エリカの口角があがる。アルメリアも微笑していた。
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