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しおりを挟む革腕輪の分解がすっかり終わる頃には、アルメリアが紙を全て並べ終えていた。
ライールは念のためにと手帳に名前を書き、紙を集めて、鉄製の鍵付きの箱に収めた後、金庫に保管した。
「重要な物証だ。後で筆跡鑑定をさせよう」
「ほぼ間違いなく、ギースって人の物だろうけどね」
「それで」とアルメリア。「どういった面々が名を連ねていましたか? 私が見た限りでは、一人、知っている名前が載っていましたけれど……」
「予想以上に多かったですね。特に、政府中枢の中にもう一人いたのが恐ろしい…… それから悲しいことに――……」
「どうかした?」
エリカが尋ねると、ライールが隣に置いてあった刀剣と拳銃を持ち、腰に着けながら立ち上がった。
不意に、扉が開く。
「ライール」
と、男性が現れる。
「全員、別棟にて待機するようにと言っておいたはずだぞ?」
「ちゃんと待機している。俺は、用事で来たんだ」
「それならなぜ、扉を閉めない」
「すぐに一人、出ていくことになるからだ」
男が言って、扉をドアストップのところへ引っ掛けた。
「それで…… 先刻の報告通り、陛下が寄越した使者が、アルメリア王女を迎えに来られた。――そちらがアルメリア王女か?」
「そうだ」とライール。
「王女」と、男性が姿勢を正す。「陛下が大使館でお待ちです。火災の件で随分とご心配なされておられて…… 一刻も早く、合流なさってください」
「で、ですが……」
「俺が連れて行く」ライールが横槍を入れた。「お前はもう下がっていいぞ」
「お前は逮捕した侍女を独房へ連れて行く役目があるだろう? そもそも、なぜここに彼女がいる?」
「逮捕はしていないし、する必要が無いからここにいる」
「何を言っている……?」
「彼女は、もう逮捕をする必要がない…… そう言っただけだ」
アルメリアが、エリカの傍へ寄る。
エリカは、固唾をのんで二人の出方を見守った。
「彼女は殺人その他の容疑に、放火の疑いもあるんだぞ?」
「放火犯はすでに逮捕してある。それよりお前、今日はやけに武装しているな?」
「どこが?」
「刀剣が装飾用ではなく実戦用じゃないか」
「それはそうだろ? 今は緊急事態なんだぞ? お前と一緒じゃないか」
「上着はどうして着用している?」
「彼女たちを馬車へ案内するためだが……」
「左袖に隠してある小型拳銃は、どう説明するつもりだ?」
「銃? そんなもの――」
「無いと言うのなら、左手を前に出して袖口を広げて見せろ。もし緊急のためと言うのなら、武装は暗器ではなく通常携行の物にすべきではないか?」
ライールがそう言って、ゆっくりした動作で、ポンっと右腰の銃ホルダーを手打ちした。
「誰かを殺しに来たのか……?」
男が突然、左半身になりながら、左袖口から銃を抜き出し、左肘をあげ、右の人差し指で引き金を引いた。
ライールはホルダーがから銃を素早く構え、そのまま撃つ。
銃声と甲高い音が同時に響き渡る。
互いの銃が弾かれて、宙を舞いながら、互いの後方へ飛んでいった。
男の銃は滑りながら、棚の下側に潜り込んだが、ライールの銃はアルメリアの足下に落ちた。それを彼女は、すぐに拾いあげる。
「ライールさん! 銃をッ!」
アルメリアが言った瞬間、間髪入れずに刀剣を抜刀しつつ、男が詰め寄ろうとする。対して、ライールが根元で十字受けになるよう抜刀し、彼を突き飛ばして距離を稼いだ。
「行けッ!!」
ライールが叫ぶ。
「外へ出ろッ! まだ一人、施設内にいるはずだッ!!」
「わ、分かった……!」
エリカが答えるや否や、アルメリアの手を握り、
「とにかく外へ逃げるわよッ!」
と言って、小型犬の姿になった。
すると、男がライールの刀剣を押し込もうとする。
「我が祖国の、秋分のためにッ!!」
「何が秋分だ……!」ライールが盛り返す。「これじゃあ先人たちが落ち着いて眠ってられないだろうがッ!」
刀剣の鎬がこすれると、火花が散った。
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