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しおりを挟む殺人事件の話題に入ったせいか、アルメリアが息をのむ。
「殺された男の名はギース」と、ライールが言った。「『ブリギン・グバク・ザフォル』に所属していた、幹部の一人だ」
「幹部? 手先の一人じゃなくて?」
「ああ。個人的な見解になるが、ギースは発起人の一人で、表の人間としては、それなりの地位にいる人間だった」
「どうして殺されたのか分かってるの?」
「単純なことさ。裏切ったから殺されたんだ」
「裏切り? どうして?」
「これはバーラントから聞いた話と調査結果を踏まえた憶測だが…… おそらく、今の組織のあり方に疑問を持ったらしい」
「どこも一枚岩じゃないってこと?」
「そうなんだが、どうも資金援助をしている人間がいて、そいつと馬が合わなかったようだ」
「でも、それだけで裏切り者扱いされて、殺されたりするかしら?」
「俺もそう思って調べたら、面白いことが分かった。そいつの部下の一人を保護目的で拘束したんだが、ギースはどうやら、組織に存在する重要人物と幹部たちの名簿を作成していたらしい」
「名簿…… ひょっとして、それが原因で?」
ライールがうなずく。
「脅し目的ではなく、組織の解体を狙ったのだろう。そう考えると、名簿は部外者の手に渡って、そこから広く知られるようにならないといけない」
「まさか、あいつがアル・ファームの市場にいたのって……!」
「今となっては間違いないだろうな」
「市場にバーラント様がいたのは、彼を追ってですか?」
アルメリアが尋ねると、ラーイルは首を横に振った。
「当時は、まだまだ情報不足だった。奴が組織の幹部級だと分かったのは、ずっと後になってからだ」
「じゃあ…… 本当に偶然、バーラントが市場にいたってこと?」
「逆に、ギースが彼をつけていたのかもな。――もちろん、バーラントは組織についての調査でアル・ファームに滞在はしていた。
組織への資金援助の流れを追うために、出所を調べたんだ」
「アル・ファームがお金の出所だったの?」
「その可能性が高い。現段階ではまだハッキリしていないのが、残念ではあるが……
色々な場所を隠れ蓑にしているようだから、俺はそちらを洗うのを優先していたせいで、資金源の調査は任せっきりだったんだ」
「そうなんだ……」
「それよりも」と、ライールが話題を変える。「俺はエリカさんが、なぜ、あいつにハンカチを渡したのか…… そっちの経緯の方が気になる」
「そんなに気にする必要、ないわよ?」
こう言って、エリカは事の顛末を説明した。
「――で、結局、ハンカチを持って行かれちゃったの。特別に何かあったわけじゃないわ」
「そうか……」と、少し元気をなくすライール。
「あっ」
ライールとエリカが、声をあげたアルメリアを見やった。
「そういえばコレ」と言って、右手首の革腕輪を見せた。「確かあのときの市場で、エリカさんがバーラント様に買ってもらったものですよね?」
「違う違う」
エリカが、右手を左右に振って否定してから、何かに気付いた。だから、
「そういえば忘れてた」と続ける。
「あの革腕輪、ギース…… だっけ? その人に無理矢理、鞄に放り込まれてたの」
「ほう……」
と言ったライールが、アルメリアに手を差し出した。
「見せてもらっても構いませんか?」
アルメリアがエリカに視線を送る。
「いいわよ。元々それ、捨てる――…… じゃなくて、とりあえず、見てもらった方がいいかなって」
アルメリアが首をかしげるも、ライールが催促するから、革腕輪を手首から外してライールへ手渡した。
「どうぞ」
「ありがとう」
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