42 / 79
42
しおりを挟む「逮捕状……?」
表情は崩れていないが、アルメリアの内心は動揺しきっていた。
「この部屋にいるのが不法侵入とか?」
「いえ、そういうわけではありません」
「侍女が不法侵入と言うのですか?」
「半分、当たりです」
「彼女は私の付き人で、そのことは父のアル・ファーム国王アルバート共々、ナザール公爵に話を通してあります」
「私が言いたいのは」と、逮捕状を畳むライール。「侍女・エリカさんの、国防省中央別館に対する不法侵入です」
「えっ……?」
「それから、彼女には余罪がありましてね」
ライールは獲物を狩る肉食獣のような目で、アルメリアを見つめて言った。
「一ヶ月前と十四日前の殺人事件への関与の疑い、殺人にまつわる国家反逆罪の疑いと、その他、不法侵入の疑いが数件……」
「何を言っているのです?!」
アルメリアが怒った。ライールは一向に表情を変えない。
「殺人だとか反逆だとか、何をどうしたら、そんなことになるのですか?!」
「あなたは侍女の本当の姿をご存じ無いのでは?」
「その言葉、そっくりあなたにお返し致します……!」
アルメリアが眉先をつりあげて言った。
「説明を要求します! 到底、納得できるものではありません!」
「まず」と、すぐさまライールが言った。「不法侵入は間違いありません。私がこの目で見たので」
「それじゃあ、殺人は……?」
「アルメリア王女のようなお方は、新聞など下世話な物、お読みならないでしょう?」
「ベネノアの郊外で殺人があったというのは聞いております。見くびらないで……!」
「失礼致しました」と、全く悪びれた様子も無く言って、続ける。「――実はですね、彼女は十四日前に殺された男と面識がありましてね」
「ベリンガールにはほとんど来たこともなく、来たとしても私と行動を共にしています」
「今はおりませんが?」
「そもそも」と、無視するアルメリア。「面識の有無で殺人罪と断定しているわけではありませんよね?」
「もちろんです」
そう言って、ライールが鞄の方へ戻り、今度はハンカチを取り出した。
「こちらのハンカチはご存じで?」
「見たところ、普通のハンカチですが?」
「アル・ファームの紋章が入っているんです。これについては、エリカさんにも確認をしてもらっています」
「確認……」
「ここへ来る途中、馬車の中でね」
「それで? 何がどう殺人と結びつくんです?」
「殺された男の傍に、このハンカチが落ちていました。クシャクシャの状態で」
「誰かから盗んだのでは?」
「製造元に確認したところ、このハンカチは王家の関係者しか持たない、特注品だそうで、持っていないのは王女くらいだと言うことです。――なんでも、肌に合わないのだとか」
アルメリアが、近くの椅子に腰掛けた。
「それで……?」
「エリカさんと馬車に乗る前に、私共は城内におられる、使用人を含めた全ての人々から聞き取りを実施しました。――おっと失礼。エリカさん以外の人々です」
「早く結論をお願いできます?」
「焦らないで下さい。説明というのは結論なんかよりも、その過程…… 順序が大切ですから」
制したライールが、ハンカチをアルメリアの方へ渡した。
彼女がハンカチを開き、光に透かしてやると、紋章が浮き出てきた。
「下の階級の使用人はほとんど持っておらず、持っているのはお兄様二人、王妃、高官や女中まとめなどの役職を持っている人間…… 後はエリカさんだけです。
そして、エリカさんはハッキリと自分が落とした物だと言った。
これはベリンガールへ向かうときに使った馬車の馭者…… 私の部下の男も聞いていることです」
「だから、単に落としたのでは?」
「いいえ、渡したのですよ。彼女がね」
「どこで?」
「アル・ファームの首都にある市場です。目撃者がいました」
「たったそれだけのことで、殺人の容疑を?」
「接点が多いですからね。殺していなくても、それらの事件に関わっているのは間違いありません」
「そんなバカバカしい……!」
「昨日、彼女は酒場にいました」
不意打ちを受けたアルメリアが、口を閉じた。
「ご存じですよね?」
「さぁ……」
ライールが鞄から、包装された箱を取り出した。
「こちら、あなたとその旦那様…… になる予定の方との、記念品だそうで…… 今朝、私がもらってきました」
そう言って、彼は箱を卓上へ置いて、また椅子に腰掛けた。
「お代は結構です。後で上司に請求しますんで」
「いいえ、お支払い致します。そういうのは気持ち悪いですから」
「結構な用心です。料理にも手を付けないのも素晴らしい」
「自白剤や睡眠薬でも入れて、何かするつもりだったのですか?」
「まさか。そのような手段は容認されませんから」
「エリカさんになら、やってもいいと?」
「誰もそんなことは言ってない」と、睨みをきかす。「話の続き、いいですか?」
「どうぞ」
「料理に手を付けないように言ったのは、おそらく…… というよりも、間違いなくエリカさんでしょう?」
ライールが少し前屈みに言った。アルメリアは微動だにしなかった。
「実は彼女、昨日の晩に殺され掛けたのです。複数の男に囲まれて」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
25
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる