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「逮捕状……?」

 表情は崩れていないが、アルメリアの内心は動揺どうようしきっていた。

「この部屋にいるのが不法侵入とか?」
「いえ、そういうわけではありません」
「侍女が不法侵入と言うのですか?」
「半分、当たりです」
「彼女は私の付き人で、そのことは父のアル・ファーム国王アルバート共々、ナザール公爵こうしゃくに話を通してあります」

「私が言いたいのは」と、逮捕状を畳むライール。「侍女・エリカさんの、国防省中央別館に対する不法侵入です」

「えっ……?」
「それから、彼女には余罪がありましてね」

 ライールは獲物を狩る肉食獣のような目で、アルメリアを見つめて言った。

「一ヶ月前と十四日前の殺人事件への関与の疑い、殺人にまつわる国家反逆罪の疑いと、その他、不法侵入の疑いが数件……」

「何を言っているのです?!」

 アルメリアが怒った。ライールは一向に表情を変えない。

「殺人だとか反逆だとか、何をどうしたら、そんなことになるのですか?!」
「あなたは侍女の本当の姿をご存じ無いのでは?」
「その言葉、そっくりあなたにお返し致します……!」

 アルメリアがまゆ先をつりあげて言った。

「説明を要求します! 到底、納得できるものではありません!」
「まず」と、すぐさまライールが言った。「不法侵入は間違いありません。私がこの目で見たので」

「それじゃあ、殺人は……?」
「アルメリア王女のようなお方は、新聞など下世話な物、お読みならないでしょう?」
「ベネノアの郊外こうがいで殺人があったというのは聞いております。見くびらないで……!」

「失礼致しました」と、全く悪びれた様子も無く言って、続ける。「――実はですね、彼女は十四日前に殺された男と面識がありましてね」

「ベリンガールにはほとんど来たこともなく、来たとしても私と行動を共にしています」
「今はおりませんが?」

「そもそも」と、無視するアルメリア。「面識の有無うむで殺人罪と断定しているわけではありませんよね?」

「もちろんです」

 そう言って、ライールが鞄の方へ戻り、今度はハンカチを取り出した。

「こちらのハンカチはご存じで?」
「見たところ、普通のハンカチですが?」
「アル・ファームの紋章が入っているんです。これについては、エリカさんにも確認をしてもらっています」

「確認……」
「ここへ来る途中、馬車の中でね」
「それで? 何がどう殺人と結びつくんです?」
「殺された男のそばに、このハンカチが落ちていました。クシャクシャの状態で」
「誰かから盗んだのでは?」

「製造元に確認したところ、このハンカチは王家の関係者しか持たない、特注品だそうで、持っていないのは王女くらいだと言うことです。――なんでも、肌に合わないのだとか」

 アルメリアが、近くの椅子に腰掛けた。

「それで……?」
「エリカさんと馬車に乗る前に、私どもは城内におられる、使用人を含めた全ての人々から聞き取りを実施しました。――おっと失礼。エリカさん以外の人々です」

「早く結論をお願いできます?」
「焦らないで下さい。説明というのは結論なんかよりも、その過程…… 順序が大切ですから」

 制したライールが、ハンカチをアルメリアの方へ渡した。
 彼女がハンカチを開き、光に透かしてやると、紋章が浮き出てきた。

「下の階級の使用人はほとんど持っておらず、持っているのはお兄様二人、王妃おうひ、高官や女中まとめなどの役職を持っている人間…… 後はエリカさんだけです。
 そして、エリカさんはハッキリと自分が落とした物だと言った。
 これはベリンガールへ向かうときに使った馬車の馭者ぎょしゃ…… 私の部下の男も聞いていることです」

「だから、単に落としたのでは?」
「いいえ、渡したのですよ。彼女がね」
「どこで?」
「アル・ファームの首都にある市場です。目撃者がいました」
「たったそれだけのことで、殺人の容疑を?」
「接点が多いですからね。殺していなくても、それらの事件に関わっているのは間違いありません」

「そんなバカバカしい……!」
「昨日、彼女は酒場にいました」

 不意打ちを受けたアルメリアが、口を閉じた。

「ご存じですよね?」
「さぁ……」

 ライールが鞄から、包装された箱を取り出した。

「こちら、あなたとその旦那様…… になる予定の方との、記念品だそうで…… 今朝けさ、私がもらってきました」

 そう言って、彼は箱を卓上へ置いて、また椅子に腰掛けた。

「お代は結構です。後で上司に請求しますんで」
「いいえ、お支払い致します。そういうのは気持ち悪いですから」
「結構な用心です。料理にも手を付けないのも素晴らしい」
「自白剤や睡眠薬でも入れて、何かするつもりだったのですか?」
「まさか。そのような手段は容認されませんから」
「エリカさんになら、やってもいいと?」

「誰もそんなことは言ってない」と、にらみをきかす。「話の続き、いいですか?」

「どうぞ」
「料理に手を付けないように言ったのは、おそらく…… というよりも、間違いなくエリカさんでしょう?」

 ライールが少し前屈みに言った。アルメリアは微動だにしなかった。

「実は彼女、昨日の晩に殺され掛けたのです。複数の男に囲まれて」
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