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しおりを挟むアルメリアの部屋の窓からは、もう灯火の明かりは無くなっていた。
ルーフバルコニーの両開きの窓扉をあけたエリカが、アルメリアの部屋へと入る。
――危なかった。
まだ少し、緊張の緩和が大きくて、体がふわふわと浮かんでいるような、そんな生きた心地のしない体感を味わっていた。
エリカがベッドの方を見やる。
アルメリアがいないから、どこにいるのだろうと思って捜していると、椅子に腰掛けて、眠っているようだった。
「全く……」
エリカがアルメリアの肩を少し動かし、
「そんなところで寝てると、風邪ひくわよ?」と言った。
うっすら目蓋をあけたアルメリアが、ぼうっとした顔でエリカを見つめている。
「私…… 眠って……」
「ほら、ベッドへ移動しましょ?」
「はい……」
子供みたいな返事をしてから、半眼のままエリカに連れられて、ベッドに横たわった。
掛け布団を被せたエリカが、膝をついて、エリカの視線の高さに合わせるように体を丸め、両肘をベッドの際に置いて、
「アルメリア、そのままでいいから少し聞いてくれる?」
「どう、でしたか……?」と、アルメリアがぼんやり言った。
「一応、色々と分かったこともあったんだけど…… まだもう少しだけ掛かりそうね。それでちょっと伝えておきたいことがあって」
「なんですか?」
「ひょっとしたら、変な奴らが関わってるかもしれないの。もちろん、ここに来ることは無いと思うんだけど…… 用心して、今から言うことを守ってくれない?」
「分かりました……」
「絶対に見知らぬ人を部屋に入れないこと。今以上に、注意して」
うなずくアルメリア。
「そして、部屋から出ていったりはしないように」
「それはずっと前からしています……」
「確かにね」と苦笑うエリカ。「最後は……」
アルメリアが寝惚け眼でエリカを見つめている。
一応は聞いているみたいだから、エリカは話を続けた。
「あたしが帰ってくるまで、食事もしないように」
「食事、ですか……?」
「うん。あたしが味を確認してから、あなたが食べるの。――いい?」
「どうして、そんなことを……?」
「――今は、ちょっと言えない」
「言えないの、ですか……?」
「ごめんね」
エリカがまた苦笑うと、アルメリアが物悲しそうな表情で、
「同じになっていますね……」
「同じ?」
「バーラント様と……」
エリカがハッとした。
「私は、エリカさんに任せっぱなしの身です…… あなたの言うことを守るのは、当然…… ですわ……」
「――お願いね、アルメリア」
そう言って、エリカが彼女の頭をなでた。
彼女は目を閉じて、そのまま寝息を立て始める。
「おやすみなさい……」
エリカが、静かに言った。
フッと、右手にある革腕輪が目に付く。
彼女はそれをジッと見てから、おもむろに取り外す。
外したら立ち上がって、化粧台の近くに置いてある、アルメリア持参の木製ゴミ箱へ滑り落とした。
底に着いた、トンッという軽い音がする。
しばらくゴミ箱を見てから、再びアルメリアへ視線を送った。
その目の奥には、慈悲と強い決意が充ち満ちていた。
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