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しおりを挟むエリカを助けた男性が、アル・ファーム大使館の前まで来ていた。
門前に立つ衛兵の一人に話しかけ、手帳と証明書を見せてから、中へ通してもらう。
案内していた人間を途中で下がらせ、薄暗い通路の先にある扉をノックした。
『――誰だ?』
「ライールです。緊急の用件で参りました」
『そうか…… 入れ』
彼は入室した。
「夜分遅くに、失礼致します」
右手を胸元に付けながら、頭を下げつつ言った。
彼の視線の先には、アルメリアの父――アル・ファーム国王のアルバートがいた。彼は、窓際に立っていて、
「予定では明日の訪問では無かったか?」
と言って、アルバートが振り返る。
「そのつもりでしたが、少々、面倒なことになりそうでしたので…… 先に外堀を埋めて行こうかと思いまして」
「どういう意味だ?」
アルバートが鋭く言った。しかしライールは、全く動じずに、
「単刀直入にお訊きします。アルメリア王女の元・侍女…… エリカという女性についてです」
「エリカ……?」
「実は、彼女がバーラント様の周辺について独自に調査をしているようでして……」
「なんだと?」
「それでお訊きしたいのです。以前のお話ではエリカという侍女について、バルバラント地方からやって来られたとおっしゃっておりましたよね?」
「そうだ」
「本当ですか?」
「…………」
「おそれながら申し上げさせて頂きます。嘘の証言は、それだけ事件解決までに時間を要することになります。
今後は、正直にお答えいただきたい。これはベリンガールという国家からの、正式な要請だと思っていただいて結構です」
アルバートが目を閉じ、「分かった」と答えた。
「エリカについて、二、三ほど質問をさせていただきます」
「なんでも答えよう…… と、言いたいところだが、私はそれほど詳しくは無い」
「そんなことはありません。――彼女を雇い入れたのは、アルメリア王女の一存だけでは無かったはずです」
「そうだが……」
「彼女の素性くらいは知っておられるのでは?」
「――彼女は異世界から来た」
ライールの眉が、ピクリと動く。
「彼女は魔導具を使うことができた。だから……」
「なるほど、あの腕輪のどちらかが……」
「その口ぶりからすると、すでに会っているようだな?」
「ええ。何度かは……」
「話によると、アルメリアの侍女として復帰したとかなんとか……」
「それは存じあげておりませんでした」
「それで…… 彼女をどうするのだ?」
「実は、そのことで少しご相談があるのです」
「なんだね?」
「彼女が異世界者で、魔導具を持っていたとは誤算でした。詳細は無理解ですが、魔法のような不思議な力があるとか…… だからこそ、魔導具の効能を教えていただきたいのです」
「効能、か……」
「はい。――彼女を泳がせておくのは、そろそろ危険ですので」
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