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 酒場から出たエリカは、変身のために人目に付かない場所へ移動しつつ、ライールなる人物について考えた。

 もしバーラントと親しいのなら、アルメリアが知っているはずだ。そうでなくても、本邸や別邸にいる使用人たちにけば、何か分かるに違いない。

「やっと、あいつの秘密が暴けるのかしら……」

 そう、つぶやいたときだった。
 前に見えていた馬車が、唐突とうとつに走り出した。
 エリカ目掛けて走ってくる。
 彼女は間一髪かんいっぱつ、横へ飛び込んで回避した。
 立ち上がると、道の脇から男が三人ほど出てくる。
 来た道からは、男が二人出てくる。

 ――はさちだ。

 エリカは壁に背を預ける。
 男の一人が、にじり寄りながらナイフを出した。
 大声を出そうとしていたエリカが、口を閉じた。

 ――気配から分かる。声を出した瞬間、駆け寄ってきてられる。

 こうなったらギリギリまで引き付けて、何かに姿を変えるしか……

「うッ?!」

 男の悲鳴がした。
 ナイフが地面に落ちて、甲高い音を立てる。
 悲鳴をあげた男は、左手で右手首をかばうように持っている。よく見ると、小さなナイフが刺さっていた。

 暗闇から、見覚えのある男がヌッと現れる。
 ――昼間に命を救ってくれた、あの男性だ。

「全員、現行犯で逮捕する」
「クソッ……! 散開ッ!」

 怪我をした男が叫ぶと、周囲の男たちが散り散りに走った。
 男性はそのままエリカのそばに来て、

「大丈夫か?」

 と尋ねる。

「あ、うん……」
「じゃあ、悪いけど一緒に来てもらおうか」
「えっ?」
「君には色々ときたいことがある」

 彼の目から、危険な雰囲気ふんいきを感じた。
 エリカは歩いてくる男性と距離を取るように、引き下がっていく。

「このまま逃げても、また襲われるだけだぞ?」
「あなたに襲われるのと、似たようなものよ……!」
「襲うつもりはない、話がしたいだけだ。いいから大人しく付いて来い」と言って、鋭い視線を送る。「今度は死ぬぞ?」

 エリカは反転し、走って逃げた。
 男性もすぐさま走って追い掛ける。
 追いつかれるとマズイから、エリカはすぐさま路地裏へと入る。
 男性も後に続く。

 ――エリカの姿は無かった。

 さすがの男性も驚いた顔で、周囲を注意深く見渡す。
 どこにも人の姿はおろか、その気配すらもない。

「どういうことだ……」

 男性はきつねにつままれた顔で言ったのち、ため息をつく。

「こうなったら、外堀を埋めて行くか……」

 そう言うと、きびすを返して立ち去っていった。
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