上 下
12 / 79

12

しおりを挟む
 窓にある薄手のカーテンでやわらいだ、あわい光の刺激しげきで、エリカの目蓋まぶたがゆっくりと開いた。

 向こうのベッドには、アルメリアが眠っている。自分のところよりもふかふかで、眠り心地が良さそうだ。

 伸びをしたエリカは、上着を羽織はおってから、ルーフバルコニーへの両開き掃出はきだし窓をあけた。

「――相変わらずね」

 まだ起きないアルメリアを見てつぶやいた後、何気なくルーフバルコニー側の足下に目が向いた。
 外きが置いてある。

 だから、外へ出てみようと思った。


 夜と違って日が昇ると随分ずいぶんあたたかい。秋だけど春の陽気とも言える。
 場所が高台にあるから、遠景に望む町並みが、うっすら朝もやおおわれて、屋根だけがハッキリと浮かび上がって見える。その下の方は朝日の輝きを受けて、朝もやがキラキラと輝いていた。

 ルーフバルコニーのはしまで来て、両手をそこへ置いて、しばらく町並みを眺めることにした。

「――お客人」

 唐突とうとつに低い声がした。

「こっちだよ、こっち」

 下からだった。
 無論、町並みの方向ではなく、ルーフバルコニーの下の方である。

「観光は嬉しいけど、着替えてからにしてほしいかな」

 エリカが上着の前立て部分をつかんで、胸元へ引き寄せた。
 男性が歩き出したから、

「あっ、待ってください!」

 と呼び止める。

「あの、ちょっと聞きたいことが…… 少しお時間、頂けませんか?」
「うーん」と言いつつ、ポケットから懐中時計を出した。「また今度ってわけにはいきませんか?」

「ひょっとして…… バーラント様?」
「えっ?」

 男性が驚きの声を出してから、動かずにエリカを見つめた。

「そう見えます?」

 やっと返事が来たから、

「えっと、なんとなく……」

 と返す。
 彼は笑った。

「なんとなくですか」
「と、とにかくちょっと待っていてください! 聞きたいことがありますから!」

 エリカはすぐに自室へ戻った。
 アルメリアがやっと起きつつあったけれど、

「ごめん、アルメリア! すぐ戻るから!」

 と言って、ドタバタと普段着に着替え、いつものポニーテールを結いながら部屋を出ていく。

 後に残されたアルメリアは、寝ぼけまなこのまま両扉を見つめていた。

しおりを挟む

処理中です...