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しおりを挟むさすがに意表を突かれたエリカは、ビックリした顔で、
「えっ? どうして?」と尋ねた。
「だってその人……! ナザール家の使用人なんです……!」
「えっと…… つまり、使用人を好きになったってこと?」
うなずくアルメリア。呆然とするエリカ。
「で、でも、どうやって? 言っちゃなんだけど、使用人とお話する機会なんて無いでしょ? 晩餐会なら特に……」
「その、当時は九つと言うこともあって、なんというか…… あまりにも詰まらなく感じて、つい……」
「あ~……」と、エリカが苦笑った。「そういうことね」
「そ、そういうことなんです」
「月夜に照らされた美しい庭で、二人は出会って恋に落ちたと?」
沈黙が流れる。
「まるで御伽話ね」
「そっちは本当の話なんです!」
「わ、分かったから」
詰め寄ってきたアルメリアをなだめつつ、言った。
「――その使用人、仕えている家柄はナザール家で間違いないのよね?」
「ええ、間違いありません……」
「じゃあ、あたしが確かめてあげる」
「確かめ…… えっ?」
「だから、あたしが確かめる。婚約相手がどんなヤツで、あなたの出会った使用人がどういう人なのか」
「でも、どうやって確かめるのです?」
「婚約の件は、向こうも承知しているわけでしょ? ここは敵陣に乗り込んで、相手の尻尾をつかむのよ」
「えっと……」
アルメリアは小首をかしげていた。
「つまりね」と笑みを浮かべるエリカ。「婚約者のいる家に行って、しばらく滞在するの」
「た、たた…… 滞在?! いきなりですか?!」
「もちろん、婚約できて嬉しいなんてお世辞でも言っちゃダメだからね? それとなく、どんな方なのか気になりまして~、みたいな感じで泳がせておいて。それで、使用人のことを調べましょう。後、ついでに相手のこともね」
「でも、そんなことは……」と、オロオロするアルメリア。
「大丈夫、いい考えがあるから。――例の魔導具を使いましょ」
「だ、駄目ですよ! あの魔導具は代々、我が王家に伝わる宝物の一つで……!」
「あたしがあなたと一緒に付いて行けば、研究も中断することになるし、お守りとして持たせてもらったらいいじゃない」
「そんな簡単に……」
「あのね、アルメリア」
急にエリカが真顔になって言った。
「どんな立場の人間でも、自分の子供を愛しているなら、親としては幸せになってもらいたいものよ。父親である国王陛下だって、人の子…… あなたの安全のために、きっと了承してくださるわ」
アルメリアが視線を下げた。まだ迷っているらしい。
エリカはもう一息だと思い、
「あたしも一緒にお願いしてみるから…… ね?」
と、押すように言った。
彼女がここまで食い下がるのには理由がある。それは当然、アルメリアに対するお節介だけでは無かった。
相手によっては自分の今の立場が危うくなる。
せっかく衣食住を得られ、それなりに満足できる生活が送れているのに、『未来の旦那様』がクソであったなら、アルメリアはおろか自分の生活も危うい。
どういう経緯でこの世界に来られたのか分からないけれど、日本ではロクに人生を謳歌できなかったのだから、二回目の人生は少しでも長く過ごしたいというのが、人情である。
結局はエリカに押し切られる形で、アルメリアは父親との交渉に臨んだのだった。
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