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 ――今でも覚えている。

 美しい装飾が床から天井に至るまでほどこされている謁見えっけんの間で、いかにも王様ときさき様みたいな格好の男女が、無駄に大きな椅子に座っていた。

 そのかたわらにある長椅子には、王子らしき青年が二人いて、アルメリアは二人のあいだに収まるような格好で着席している。ジッとエリカを見つめていた。

 エリカの眼前がんぜんには三人の衛兵――もしくは騎士が立っていて、宝石などを収めるような小箱を持っている。

 その小箱には魔導具が1つずつ、収められていた。
 しかし、エリカの目がさらに曇る。

 ――単なる小綺麗こぎれいな装飾品にしか見えていない。

 どこに魔導具と呼ばれる要素があるのか分からなかった。

「アルメリアの嘆願たんがんにより」と、王様が低い声で言った。「君が異世界者であるかどうか、試させてもらう。その中から本物を見つけ出してほしい」

 威厳いげんある声音こわねであったものの、エリカは動じていなかった。
 と言うよりも、むしろ自暴自棄じぼうじきに近い状態だから、反抗期の娘が父や兄に突っ掛かるような、理不尽りふじんな八つ当たりをし始めた。

「動かせって言っても、どうやって動いてるって分かるんです?」
「わずかに光り輝きます」

 はしに立っている、大臣か学者か判別しかねる男性の一人が言った。

「私自身、見たことがありますのでご安心を」
「こんなので処罰されるかどうか決められるっていうの?」
「減刑対象になる可能性がある、というだけです。あなたの素性は知りませんが、それを調べるのは我々では無く検察です」

「ふ~ん。平民のための弁護士もちゃんといるって言うの? 上級国民さん?」
「人間に上級も下級もありません」
「王族みたいな人たちに言われても、全く説得力ないんですけど!」
「君の処遇は司法が決める」と、王様がピシャリと言った。「ここで君が何を言おうが、我々が何を言おうが、処遇がどうにかなるわけではない」

「じゃあ、なおさらこんなの無駄じゃない!」
「被害届を出すかどうかの判断基準にはなる。――そうだろう? アルメリア」

 エリカが、アルメリアを見やった。彼女はなおも、ジッとエリカを見つめていた。

「届けを出したら、後は司法が処遇を決める」と王様。「ただ、盗まれた物も何かされたという被害も無い。後は君が、娘の寝室に侵入したという事実をどう捉えるべきか…… それが判断基準の材料となる」

「だからそれは……!」
「原因が異世界から飛ばされて来た、と言うのであれば、それを証明する義務が君にはあるんだ」と、遮った。

「君の論が正しく、我々が間違っていると言うのなら、それを示してみなを納得させなければならない。――君は無罪で、我々が間違っていると証明できる可能性が、そこにあるんだ。掛けてみてもいいんじゃないかな?」

 人生の先生にさとされた反抗期の娘は、憮然ぶぜんとした態度を崩さなかったが、って掛かるようなことは無くなった。

「3つのうち、1つだけが魔導具です。――手に取って、魔導具の感触に集中してください」

 学者らしき男が不意に言った。

「それで起動するという研究報告がありましたので」

 エリカは溜息ためいきをついた。周りに聞こえるくらいに、大きくついた。
 次いで、魔導具を3ついっぺんに持った。

「お、おい、君!」

 と、今度は王様の近くに立っている男――大臣らしき人が言った。

「3つ同時に使うというのか?」
「一々、1つずつ試すなんて面倒じゃないの」
「なんだって?」
「集中できないから、黙ってて」

 転生だろうが転移だろうが、日本に帰るすべが無いのだから、もはや一度死んでいるようなものである。だったら今更、二回死ぬのも3回死ぬのも同じようなものだ。

 それより、この仰々ぎょうぎょうしい試験テストじみたことを、さっさと終わらせたい…… そう考えたエリカが、目を閉じ、魔導具に意識を集中させた。

「うわっ?!」

 小箱を持っていた三人の兵士たちがどよめいた。

 目をあけたエリカの前には、尻餅をついている兵士と、驚いて引き下がった兵士と、棒立ちの兵士たちがいた。

 三人とも、手に持っていたはずの小箱を持っていない。その代わり、カエル・小鳥・猫を両手の内に乗せていた。

 ――小鳥だけは、すぐさま宙をパタパタ飛び回ったが。

「分かった」と、王様が強めに言った。「どうやら、間違っていたのは我々のようだ。――君と我々は不味まずかったらしい」

 最後の言葉は、柔らかい声音だった。

 アルメリアはホッとした顔になっている。

 エリカはというと、動物だった存在が単なる小箱に戻ったのをの当たりにしたせいか、他の人たちと同様の表情で、呆然ぼうぜんとしていた。
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