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サーベルを落としたアリスは、二人から距離を取りつつ、爆弾を拾いに走った。
導火線の火は、すでに半分まで来ている。
アリスはパラペットの方まで走って行く。
だが、それよりも導火線の火の勢いが速い。
一か八か、ユリエルから遠い方向へ爆弾を投げた。
――とてもじゃないが、屋上の外側まで届かない。
もう為す術がないアリスは、その爆弾の行方を見ていることしかできなかった。
すると、空から何かが急降下してくる。
――隼だ。
爆弾を鷲づかみにした隼が、勢いそのままに要塞の外側まで飛んで、爆弾を湖の方へ落とした。
しばらくして、また水柱が立つ。
雨のように水滴が飛んできて、またみんなが濡れる。
ほっとすることも無く、アリスはハロルドとレックの姿を捜した。
二人はいつしか、屋上の端のパラペット側まで来ていた。
「は、離せハロルドッ……!!」
「聖女とユリエルは、お互いに生まれ変わっても会おうって言ってたぞ……」
「離せッ……!!」
「お互い、二度と転生しないよう祈ろうじゃないか……! こんな地獄みたいな世界、二度とゴメンだろ……?」
「やめろッ! 離せぇッ!!」
「二度と人間なんかに産まれませんよに……」
そう言ったハロルドが、高笑いし始めた。
レックは彼の顔を殴ったりする。
ハロルドは意に介さず、最後の一押しをした。
笑っているハロルドとは対照的に、レックは絶叫をあげながら、ハロルドをつかんで湖へ落ちていく。
そうして、小さな水柱が立った。
駆け寄ったアリスが、パラペットに手を付いて下を覗き込む。
すでに波紋しか残っていなかった。そして、湖がどんどん茶色に変色していく。
アリスが手を付いているパラペットも、輝きだした。
「呪いが……!?」
要塞全体が、元の、ボロボロな状態に戻ろうとしている。
元に戻れば、屋上は原型を留めていないだろう。
どうすればいいのか分からなくて、狼狽するアリス。
そこへ、
「アリスさんッ!! こっち!!」
と、聞き覚えのある声が飛んできた。
――ユリエルのところに、エリカがいる。
「早く来てッ!!」
アリスは言われるがまま、エリカの元へと走った。
「ここから逃げるわよ……!!」
「で、でも! どうやってここから?」
「鳥になって飛ぶの! ジッとしててッ!!」
「えっ……?」
エリカが、半ば無理矢理にアリスの手を握りにいき、ついでユリエルの体に触った。
すると、三人が要塞と同じように光に包まれて、一匹の鷹と二匹の小鳥になった。
鷹が大きな羽を広げて空へ飛び立ち、クルッと回りながら下降して、二匹の小鳥をつかんだ。
つかんだらまた空へと上昇していく。
爪が食い込まないよう注意しながら飛んでいる鷹が、どんどん元の要塞跡に変貌していくのを、上空から見ていた。
そうして、沼地の側の平地に降下していき、地面と二十センチほどの高さになったところで、枯れ葉の上へ小鳥をポトリと落とす。
その後、鷹は少し先の方へ飛んで行き、地面に着陸すると、エリカの姿に戻っていく。
小鳥も、アリスとユリエルの姿に戻っていった。
「大丈夫……?!」
エリカが二人の元へ駆け寄る。
「私は無事です! でも、ユリエル君が……!!」
「落ち着いて、じきにライールたちが来る。――ライールッ!! こっちッ!!」
と、エリカが両手を頭上へあげ、大きく振りながら言った。
「重傷者一名よッ!! 今すぐ応急手当をッ!!」
間もなく、ライールや他の捜索隊が、森の中から駆けつけてくる。
「――急所は外れているな」
ライールが冷静に言って、医療に心得のある隊員へ、止血の指示を出した。
アリスは両手を握り、彼が無事に助かることだけを祈っていた。
導火線の火は、すでに半分まで来ている。
アリスはパラペットの方まで走って行く。
だが、それよりも導火線の火の勢いが速い。
一か八か、ユリエルから遠い方向へ爆弾を投げた。
――とてもじゃないが、屋上の外側まで届かない。
もう為す術がないアリスは、その爆弾の行方を見ていることしかできなかった。
すると、空から何かが急降下してくる。
――隼だ。
爆弾を鷲づかみにした隼が、勢いそのままに要塞の外側まで飛んで、爆弾を湖の方へ落とした。
しばらくして、また水柱が立つ。
雨のように水滴が飛んできて、またみんなが濡れる。
ほっとすることも無く、アリスはハロルドとレックの姿を捜した。
二人はいつしか、屋上の端のパラペット側まで来ていた。
「は、離せハロルドッ……!!」
「聖女とユリエルは、お互いに生まれ変わっても会おうって言ってたぞ……」
「離せッ……!!」
「お互い、二度と転生しないよう祈ろうじゃないか……! こんな地獄みたいな世界、二度とゴメンだろ……?」
「やめろッ! 離せぇッ!!」
「二度と人間なんかに産まれませんよに……」
そう言ったハロルドが、高笑いし始めた。
レックは彼の顔を殴ったりする。
ハロルドは意に介さず、最後の一押しをした。
笑っているハロルドとは対照的に、レックは絶叫をあげながら、ハロルドをつかんで湖へ落ちていく。
そうして、小さな水柱が立った。
駆け寄ったアリスが、パラペットに手を付いて下を覗き込む。
すでに波紋しか残っていなかった。そして、湖がどんどん茶色に変色していく。
アリスが手を付いているパラペットも、輝きだした。
「呪いが……!?」
要塞全体が、元の、ボロボロな状態に戻ろうとしている。
元に戻れば、屋上は原型を留めていないだろう。
どうすればいいのか分からなくて、狼狽するアリス。
そこへ、
「アリスさんッ!! こっち!!」
と、聞き覚えのある声が飛んできた。
――ユリエルのところに、エリカがいる。
「早く来てッ!!」
アリスは言われるがまま、エリカの元へと走った。
「ここから逃げるわよ……!!」
「で、でも! どうやってここから?」
「鳥になって飛ぶの! ジッとしててッ!!」
「えっ……?」
エリカが、半ば無理矢理にアリスの手を握りにいき、ついでユリエルの体に触った。
すると、三人が要塞と同じように光に包まれて、一匹の鷹と二匹の小鳥になった。
鷹が大きな羽を広げて空へ飛び立ち、クルッと回りながら下降して、二匹の小鳥をつかんだ。
つかんだらまた空へと上昇していく。
爪が食い込まないよう注意しながら飛んでいる鷹が、どんどん元の要塞跡に変貌していくのを、上空から見ていた。
そうして、沼地の側の平地に降下していき、地面と二十センチほどの高さになったところで、枯れ葉の上へ小鳥をポトリと落とす。
その後、鷹は少し先の方へ飛んで行き、地面に着陸すると、エリカの姿に戻っていく。
小鳥も、アリスとユリエルの姿に戻っていった。
「大丈夫……?!」
エリカが二人の元へ駆け寄る。
「私は無事です! でも、ユリエル君が……!!」
「落ち着いて、じきにライールたちが来る。――ライールッ!! こっちッ!!」
と、エリカが両手を頭上へあげ、大きく振りながら言った。
「重傷者一名よッ!! 今すぐ応急手当をッ!!」
間もなく、ライールや他の捜索隊が、森の中から駆けつけてくる。
「――急所は外れているな」
ライールが冷静に言って、医療に心得のある隊員へ、止血の指示を出した。
アリスは両手を握り、彼が無事に助かることだけを祈っていた。
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