聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

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「じゃあ、見せてもらおうかな~?」

 と言うなり、引き金を引くレック。

 アリスは、彼の視線から動きを読んでいたのか、左半身に切り替えて、所謂いわゆるしゃの構え』を取った。

 右肩を狙っていた彼の銃口の先に、アリスがいないから、銃弾がパラペットにめり込んだ。

 着弾とほぼ同時に、アリスが右足を出しながら踏み込む。
 右半身に切り替わった。

 右足に体重が掛かっているのを、後ろの左足へ移す。
 同時に、サーベルを右斜め下から左斜め上へ振りあげた。

 地面をっていた切っ先が、いきなりレックの銃を跳ねあげる。

 銃が回りながら宙を舞い、遠くへ飛んで、落ちて、地面を滑って、四隅よすみのパラペットにぶつかって止まる。

 レックは驚きながら銃の行方ゆくえを見送っていた。

 ハッと我に返ったレックが、アリスの方へ向き直る。
 くわえていたタバコが、ポロリと落ちていく。

 彼女は、逆のしゃの構えになっていた。

 レックが反応する前に、左足を右足のかかとへ引き寄せ、また右足を前へ踏み出した。

 今度は切っ先を、左側から上へ返し巡らせつつ、切り下げる。

 彼女の重心が前にある右足に集まり、切っ先は鋭い楕円だえんを描く。
 後方へけ反るように下がっていた、レックの左手甲に傷が付いた。

 彼はたまらず、もっと後方へ下がっていく。
 アリスはまた左足へ重心を移し、右足のかかとを左足の土踏まずへ寄せた。

 そうして、切っ先が真上を向くように保っていた。
 ちょうど、逆八相はっそうの構えになっている。

「この……! ガキがアァッ!!」

 激昂げっこうしたレックが腰のサーベルを抜いて、彼女へ向かって行った。

 首へ横ぎにくるレックのサーベルを、たいを瞬時に入れ替えたアリスが、立ててあったサーベルをそのまま使って十字に受けにいく。

 刃と刃が当たるかどうかの刹那せつな、アリスが右膝を曲げ落とした。

 全身が沈む。
 彼女はサーベルを、横一文字の形へと変化させた。

 彼の切っ先が滑っていき、誰もいないところを通過していく。
 アリスが切っ先を左下へ落とす。
 滑っていたレックの切っ先が、釣られるように左下に落ちる。

 ほぼ同時に、アリスが自分の頭上で柄を振り回すようにして、切っ先を背中から右下へ回し巡らせる。

 切っ先で削られた地面から、土煙が立っていた。

 アリスは左膝を、地面に付くくらいに沈ませ、右足を前へ進める。
 前進に合わせて切っ先を頭上へ返しながら、正面打ちのように、レックの小手を打とうと振り下ろした。

 前のめり気味だったレックは、咄嗟とっさに前足で地面を蹴って膝を伸ばし、左斜め後ろへ引き下がる。
 アリスが空振るのを見るや否や、レックが鬼の形相ぎょうそうで彼女へきを繰り出した。

「死ねやアァッ!!」

 彼女は刀身の左側へ、身を隠すように移動する。
 自然と左半身となった。

 左手を切っ先の方向へ移しつつ、やいばを親指と人差し指の側面でつまむようにして持つ。
 それから、右手の柄を上へあげながら刀身を立てた。

 相手のきが近付くいてくる。
 そのきを、立ててあった刀身で、左方向へ受けそらせていく。

 暖簾のれんに腕押し。

 相手の切っ先がアリスの頭上を外れるように滑っていき、レックは思わず「アッ……!」と声を漏らす。

 彼は右手を目一杯、伸ばしている体勢となっていた。

 右脇から下がガラあきである。

 アリスはそのまま右半身になりながら体を前へべ、つかを下へさげながら、レックのふところへと入った。

 間髪かんぱつ入れず、お寺のかねを打つ撞木しゅもくのごとく、柄の底でレックの鳩尾みぞおちを打つ。

 斜め方向からの正面衝突だった。

 彼はたまらず、柄を手放す。
 甲高い音を鳴らしながら、サーベルが跳ねて、地面を転がる。

 レックは足をもつれさせながら後ろへ下がり、ついに尻餅をついた。
 そして、鳩尾みぞおちを押さえながら、息苦しそうにアリスをにらみ付ける。

 彼女は仁王立ちした下段の構えのような格好でたたずみ、レックを静かに眺めていた。

 刀身が太陽の光で輝いている。
 彼女はさながら、戦女神いくさめがみのようであった。

 歯を食いしばった彼は、ヨロヨロと立ち上がり、ふところから含水爆弾とマッチ箱くらいの小さな鉄箱を取り出した。

「俺がしっかり調教してやる……! てめぇみてぇなクソメスガキ……!! 教育してやるッ!!」
「その前に、ご自身の常識観と教養を深めては如何いかがです?」

 アリスは平然と言って、切っ先を引きずりながら前進していく。
 レックは鉄箱から、火縄らしき物を取り出した。

「そこにいる男共々、あの世へ行きやがれッ!!」

 アリスが驚いた顔をしていた。
 それでレックが気を良くして、ニチャリと笑みを浮かべた。

「謝っても、もう遅いッ! 俺を怒らせたお前が悪いんだッ!!」
「そう、もう遅い……」

 レックの背後から声がした。
 だから、彼は振り返った。
 びしょ濡れのハロルドが、亡霊船長のようにサーベルを持って立っている。腹部と胸部の服に穴があいているが、出血は腹部だけだった。胸部に何か付けているらしい。

 狼狽ろうばいしているレックへ、ハロルドがひときに刺す。
 刺されたレックは悲鳴をあげ、刀身を握った。
 それで、含水爆弾と火縄が落ちる。その拍子に、導火線から煙が出てきた。

「し、死に損ないめぇッ……!!」
「お前がな……!」

 ハロルドは刀身を押し込むように、き進んでいった。
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