聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

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 タバコをくわえているレックが、また引き金を引く。

 ハロルドに着弾し、け反った彼はそのままパラペットの向こう側へと落ちていった。
 アリスが思わず、後方を見やる。

 要塞の真後ろはすぐ湖で、丁度、水しぶきがあがっていた。

「なんだ…… 面白いことやってたんだな?」

 今度は正面へ向き直る。
 レックが笑みを浮かべながら、アリスの方へ歩きだした。
 彼は銃の他に、腰にサーベルが付いてる。他にも何か付けているから、武装してここへ乗り込んできたようだ。

 アリスはすぐさまパラペットの上から屋上に飛びおりて、ユリエルのそばへ駆け寄った。

「――大丈夫?」

 アリスが心配そうにのぞき込んで、言った。

「ああ…… だけど、また変なのが出てきたぞ……」
「あいつが昨日、私を誘拐した男よ……」

 ユリエルが、なんとか横目でレックの方を見やった。
 レックは脅威がないものとみて、意気揚々いきようようと、ゆっくりした足取りで近付いてきている。

「なるほど…… つまりあいつが、エリカさんたちが追ってた犯人か……」
「えっ?」
「理由は知らねぇけど、聴取のときにかれたんだ…… 爆弾を製造していた人間が、どこかに隠れているって……」

「爆弾……」と言うなり、アリスが決意の表情を見せた。
「ジッとしててね、ユリエル君。ここは私がなんとかする」
「なんとかって…… どうするつもりだ……?」
「私に勇気を貸して」

 そう告げたアリスは、ひざまづいている状態で、レックに向かけて言った。

「――坑道で銃撃してきたり、その辺りで爆弾を使っていた犯人はあなたね?」
「おぉ~、よくできました~」と拍手を送るレック。

「じきに、ベリンガールの近衛騎士を初めとした捜査官たちが、あなたを追い詰めるわよ? 悠長なことしててもいいの?」

「これ、なんだと思う?」

 レックがふところから、導火線が付いた筒状の物を取り出した。

「ハロルドの知識を使って、今までの爆薬の、何倍もの威力があるヤツを作ってみたんだ。
 『含水がんすい爆薬』ってヤツらしい。
 お陰で、この大きさなのにあいつが仕掛けた罠もろとも、要塞の壁をぶっ飛ばしてやった」

「追われてる理由が、なんとなく分かったぜ……」
(シッ、しゃべらないで……)

 アリスが正面を見えたまま言った。

「あいつ、一人で抜け駆けしようとしやがってさ~。俺が子供の確保のために、色々とベリンガールに関わってる連中と交渉してやってたのによぉ……!」

 興奮している彼の目は、明らかにハロルドのそれよりも危険であった。

 ――しかし、ハロルドと違って視野がせまそうだ。

 アリスはひょっとすると、と考えていた。
 一方、余裕のある彼は、気取った態度でアリスへ近付きながら話を続ける。

「お前も、勝手に出て行くなんていけない子だ。そんな悪い子にはバツを与えねぇと……」

 彼はそう言って、導火線をタバコの火に近付けた。
 シュッと導火線が発火する。
 屋上で爆破すれば巻き添えをうことくらい、彼にも分かるだろう。だから、こちらに放ってくることはないと、アリスは読んだ。

 彼は頃合いを見て、筒状の爆弾を放り投げる。
 放物線を描いて飛んでいく爆弾が、湖の方へ落ちていく。
 着水して、爆弾が水に沈んだ。
 途中までは読み通りだったアリスが、不可思議そうに、視線をレックに戻した瞬間だった。

 爆音と共に、背後の湖から水柱が立った。
 雨のように水滴が飛んできて、霧が出来ている水面近くには虹が見えていた。

 驚いて後ろを見やるアリスを見て、レックがケラケラと笑った。

「すっげぇだろ? 水中でも大爆発する代物なんだせ?」

 フッと、アリスは転がっているサーベルに目を止める。
 彼女は一か八か、サーベルをたずさえつつ立ちあがった。
 サーベルはアリスの首元くらいまで長さがあるため、切っ先のところが地面に着いている。

「なんだ?」

 レックが銃を向けながら、彼女へ言った。
 アリスは体に合っていない、子供からすると超長剣とも言えるサーベルを鞘から抜いて、言った。

「あなたを見過ごすわけにはまいりません。私が相手を致します」

 レックはポカンとしていた。
 彼女は、まともにサーベルの切っ先をあげられていない。
 重くて持ちあがらないのだ。
 しかも、彼女がそのまま動くと、ズルズル切っ先が引きずられるのが容易に想像できる。

「おいおい、聖女様…… 俺は銃と爆弾を持ってるんだぜ? どうやって戦おうっていうんだ?」
「どうやって戦うのか、考えてみては?」

 レックがニヤリとした。
 ユリエルを一瞥いちべつする。
 彼は出血していて、身動き一つしていない。
 それが愉悦ゆえつだったのか、有利を確信したのか、レックがまたケラケラ笑った。

 逆に、アリスは全く表情を変えず、静かな心持ちで彼の目を見ていた。
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