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すでに昼が過ぎて、西日が強くなりつつあった。
ユリエルとアリスが、要塞跡の外を目指していると、急に、要塞跡の全体が輝き始めた。
「な、なんだ?!」
二人が互いに身を寄せ合って、輝く要塞を見渡す。
光が消えていくと同時に、地面にあった瓦礫は消え、崩れていたはずの壁や天井が復活していた。
当然、二人が目指していた壁の穴も消えてしまっている。
そうして、二人のあいだを分け隔てるように壁が出現した。
「ア、アリス?!」
ユリエルが手を伸ばすと、石の壁にぶち当たった。
「クソッ!!」
小指球で壁をなぐりつつ、
「アリス!! 聞こえるか?!」
と言った。
しかし、彼女の声が聞こえない。
ユリエルは周囲を見渡し、真新しい扉を見つけた。
その扉を開いて、部屋の外へと出る。
部屋を出て、ユリエルがまた驚く。
廊下には絨毯が敷かれてあり、プレートアーマーが並んでいて、ユリエルたちが見たこともないくらいに明るくなっている発光石――青白いのではなく、もはや真っ白に輝いていると言える発光石が、壁と天井にズラッと埋まっている。
「おいおい…… どうなってんだよ、コレ……!」
彼は、要塞のいわくを現実のものとして感じ始めていた。
思わぬ形でユリエルと離れ離れになってしまったアリスも、やはり石の壁が分厚すぎて声が届いていないと悟った。
彼女は部屋から出るために、長机を迂回するようにして反対側の壁へと向かい、やはり真新しい扉をあけた。
ユリエルとは違う廊下に出たのか、少し薄暗い、殺風景な通路があった。片側の突き当たりには階段が見える。
「まさか、王冠……?」
そうつぶやくと、アリスの疑問は徐々に確信へと変わっていった。
――王冠の呪いは子供にしてしまうのではない。とにかく『若返らせる』のだと。
おそらく要塞は、千年前の姿に戻ったのだ。
「どうしよう……」
アリスは焦燥感にあおられていた。
王冠を盗んだ連中が、要塞を若返らせたに違いない。
だが、裏を返すと王冠の呪いというのは、若返らせる力しかない。
目下重要なのは、ユリエルと再会すること…… なのに、要塞が元の姿に戻ったせいで、位置関係が全く分からなくなってしまった。
彼がいたであろう場所を推測しながら、廊下を歩いていく。
そこへ唐突に、爆発音が聞こえ、地響きがした。
身がすくむアリスの耳に、
『次から次へと……!!』
という、聞き覚えのある声がした。
「ユリエル君……!!」
彼女は、どこから声がしてきたのかを探した。
「ユリエル君ッ!!」
『アリス……?!』
廊下の突き当たりにある石壁に、小さな穴があった。
なんのための穴か分からないが、とにかくアリスは背伸びをして、その穴へ顔を近付けた。
「ユリエル君ッ!! こっちッ!!」
走って近付いてくる音がする。
「アリスッ! 大丈夫か?!」
「うん……!」と、両手で頑張って体を持ちあげ、目一杯、背伸びをするアリス。
「今、そっちへ行く!」
「待って!!」と制するアリス。「上へ……!! 屋上へ向かいましょう!!」
「お、屋上?」
「さっきの爆発、追っ手がやったのかも……! ここにいると危険かもしれないし、屋上を目指す方が簡単だと思う!」
「で、でも階段なんてどこにあるか……!!」
「横の位置関係は分からなくても、縦の位置関係は大体、どの建物も似たり寄ったりでしょ? ここは要塞と言っても、三階か四階くらいしかないはず!」
「――分かった、屋上へ行こう! 途中で会えそうなら会う! それまで無事でいてくれよ!!」
「ユリエル君も、無茶しない、でよね……!!」
と言って、限界を迎えたアリスが、両手を離して体を下ろす。
「屋上だからねッ!!」
そう言って、アリスが走りだした。
先ほど見つけた階段を登っていく。
思った通り、まだ上に続く階段があるから、それを駆けあがっていく。
すると、途中で上へあがる階段が無くなった。
だからまた廊下を走って、部屋の扉を重そうにあけながら、階段か、それに変わる梯子が無いかを探した。
「部屋の真ん中にあるのかも……」
アリスが独り言のように言った。
彼女は、昔に大聖堂の図書館で見た、要塞の図面を思い出していた。
図面には階段がいくつかあって、上に行くほどに中央の階段だけが残されるような形になっていたはず……
アリスは廊下に並ぶ扉の中から、中間に位置しているであろう扉を開く。
薄暗い部屋であった。
埋め込まれている発光石も、多くはない。
奥には両扉があるから、アリスはその取っ手をつかんで、引っ張った。
――アリスが目を凝らす。
やはり薄暗い部屋だった。
しかし、所狭しと棚が並んでいて、中央には実験器具みたいなものが並んだ机があった。そして、大きな瓶が所々に置いてある。
奥に、小さな階段があるのが見えた。
アリスが部屋へと入っていく。
棚には瓶が並んでいて、その瓶の中に、たくさんの動物の幼体が入っていた。
「これは、いったい……」
「俺の『コレクション』です」
アリスが振り返る。
「昨日振りですね、アリス様」
ハロルドがいた。
ユリエルとアリスが、要塞跡の外を目指していると、急に、要塞跡の全体が輝き始めた。
「な、なんだ?!」
二人が互いに身を寄せ合って、輝く要塞を見渡す。
光が消えていくと同時に、地面にあった瓦礫は消え、崩れていたはずの壁や天井が復活していた。
当然、二人が目指していた壁の穴も消えてしまっている。
そうして、二人のあいだを分け隔てるように壁が出現した。
「ア、アリス?!」
ユリエルが手を伸ばすと、石の壁にぶち当たった。
「クソッ!!」
小指球で壁をなぐりつつ、
「アリス!! 聞こえるか?!」
と言った。
しかし、彼女の声が聞こえない。
ユリエルは周囲を見渡し、真新しい扉を見つけた。
その扉を開いて、部屋の外へと出る。
部屋を出て、ユリエルがまた驚く。
廊下には絨毯が敷かれてあり、プレートアーマーが並んでいて、ユリエルたちが見たこともないくらいに明るくなっている発光石――青白いのではなく、もはや真っ白に輝いていると言える発光石が、壁と天井にズラッと埋まっている。
「おいおい…… どうなってんだよ、コレ……!」
彼は、要塞のいわくを現実のものとして感じ始めていた。
思わぬ形でユリエルと離れ離れになってしまったアリスも、やはり石の壁が分厚すぎて声が届いていないと悟った。
彼女は部屋から出るために、長机を迂回するようにして反対側の壁へと向かい、やはり真新しい扉をあけた。
ユリエルとは違う廊下に出たのか、少し薄暗い、殺風景な通路があった。片側の突き当たりには階段が見える。
「まさか、王冠……?」
そうつぶやくと、アリスの疑問は徐々に確信へと変わっていった。
――王冠の呪いは子供にしてしまうのではない。とにかく『若返らせる』のだと。
おそらく要塞は、千年前の姿に戻ったのだ。
「どうしよう……」
アリスは焦燥感にあおられていた。
王冠を盗んだ連中が、要塞を若返らせたに違いない。
だが、裏を返すと王冠の呪いというのは、若返らせる力しかない。
目下重要なのは、ユリエルと再会すること…… なのに、要塞が元の姿に戻ったせいで、位置関係が全く分からなくなってしまった。
彼がいたであろう場所を推測しながら、廊下を歩いていく。
そこへ唐突に、爆発音が聞こえ、地響きがした。
身がすくむアリスの耳に、
『次から次へと……!!』
という、聞き覚えのある声がした。
「ユリエル君……!!」
彼女は、どこから声がしてきたのかを探した。
「ユリエル君ッ!!」
『アリス……?!』
廊下の突き当たりにある石壁に、小さな穴があった。
なんのための穴か分からないが、とにかくアリスは背伸びをして、その穴へ顔を近付けた。
「ユリエル君ッ!! こっちッ!!」
走って近付いてくる音がする。
「アリスッ! 大丈夫か?!」
「うん……!」と、両手で頑張って体を持ちあげ、目一杯、背伸びをするアリス。
「今、そっちへ行く!」
「待って!!」と制するアリス。「上へ……!! 屋上へ向かいましょう!!」
「お、屋上?」
「さっきの爆発、追っ手がやったのかも……! ここにいると危険かもしれないし、屋上を目指す方が簡単だと思う!」
「で、でも階段なんてどこにあるか……!!」
「横の位置関係は分からなくても、縦の位置関係は大体、どの建物も似たり寄ったりでしょ? ここは要塞と言っても、三階か四階くらいしかないはず!」
「――分かった、屋上へ行こう! 途中で会えそうなら会う! それまで無事でいてくれよ!!」
「ユリエル君も、無茶しない、でよね……!!」
と言って、限界を迎えたアリスが、両手を離して体を下ろす。
「屋上だからねッ!!」
そう言って、アリスが走りだした。
先ほど見つけた階段を登っていく。
思った通り、まだ上に続く階段があるから、それを駆けあがっていく。
すると、途中で上へあがる階段が無くなった。
だからまた廊下を走って、部屋の扉を重そうにあけながら、階段か、それに変わる梯子が無いかを探した。
「部屋の真ん中にあるのかも……」
アリスが独り言のように言った。
彼女は、昔に大聖堂の図書館で見た、要塞の図面を思い出していた。
図面には階段がいくつかあって、上に行くほどに中央の階段だけが残されるような形になっていたはず……
アリスは廊下に並ぶ扉の中から、中間に位置しているであろう扉を開く。
薄暗い部屋であった。
埋め込まれている発光石も、多くはない。
奥には両扉があるから、アリスはその取っ手をつかんで、引っ張った。
――アリスが目を凝らす。
やはり薄暗い部屋だった。
しかし、所狭しと棚が並んでいて、中央には実験器具みたいなものが並んだ机があった。そして、大きな瓶が所々に置いてある。
奥に、小さな階段があるのが見えた。
アリスが部屋へと入っていく。
棚には瓶が並んでいて、その瓶の中に、たくさんの動物の幼体が入っていた。
「これは、いったい……」
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アリスが振り返る。
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ハロルドがいた。
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