聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

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 爆弾の処置が完了し、一般の捜査官が担架を持って入っていく。
 それからすぐに地上へあがってきた。
 担架には死体が乗っている。

 顔は隠蔽いんぺいのためか、薬品を使って焼かれていた。だから、布が被せられている。
 すでに地上へあがっていたライールは、運ばれていく死体をジッと見つめていた。

「ライールさん」

 地下からあがってきた捜査官の一人が、言った。

「こんな物が見つかりましたよ」

 彼は両手に厚布あつぬのと鉄板を持っていた。

「――簡易的な胸当てか?」
「そうです。しかも……」

 と言って、胸当てのある部分を指差して示した。

「ここを見て下さい」
銃痕じゅうこん?」
「ざっと調べた限り、おそらくですが服の下にこの胸当てを装着し、撃ち抜かれるのを防いだのだと思われます」

「つまり、二人を殺した犯人は、一人死んでいないことには気付いていないわけか……」
「顔を焼いた犯人は、銃撃した犯人とは別人かもしれませんね」
「だろうな」
「もう少し、調べてみます」
「ああ、頼む」

 捜査官が一人去るのと入れ違いに、別の捜査官――チャネルがやってきた。

「失礼します」
「どうした?」
「二つほど、お知らせが……」
「なんだ?」
「被疑者のハロルドですが、残念ながら町中で姿を消したと言うことです」

「地元の人間だからな…… 逃げ道はいくらでも知っていそうだ」
「いかがなさいますか?」
「封鎖の任に着いている警備隊には、もう連絡は入れたのか?」

「はい。
 我々からも増員して、郊外へ抜ける手段や道路は全て封鎖してあります。手薄なのは鉱山地帯くらいですが、山に囲まれている場所なので、後回しでも問題ないかと……」

「捜査員を四人、そちらの捜索へ回せ」
「了解しました」
「――もう一つの知らせは?」
「エリカさんが、二階で屋根裏に通じる階段を発見したそうです」
「分かった、すぐに行く。お前はここに残って、伝達係をしてくれ」
「了解しました。捜査員の派遣を終えてから、任に着きます」



 ライールが右往左往する捜査官たちに時折、指示を出しながら、二階の一室へ入った。

「やっと来た」

 腰に手を当てながら、エリカが言った。

「いつもこうなんだから……」
「すまん。――それより、隠し階段は?」
「ここ」

 と、エリカが暖炉脇の壁を指差す。

「なるほど、一見すると単なる壁だな」
「ここの絵画かいがを、こうやってズラすと……」

 エリカが額縁の端っこを押し込んだ。
 絵画かいがが少し回って、四十五度くらいの角度で止まる。
 ガチャリという音と共に、壁が扉のように、奥の方へと開いた。

「よく分かったな」
「お城にいた頃、アルメリアに教えてもらったのを思い出したの」
「なるほど…… 古い建物だけあって、仕掛けが満載ということか」
「行ってみましょう。安全かどうかは、もう確認してあるけど…… 一応、気を付けて」

「また死体か……?」
「そうじゃないけど、当たらずとも遠からずって感じで……」
「含みがあるな」
「見てみれば分かる。気持ちのいいものじゃないのは確かだから」
「了解した……」

 そう言って、念のためにと銃を取り出したライールが、階段を登っていく。
 思った以上に暗かったから、発光ランタンを取り出し、衝撃を加えて明かりをともした。

「便利よね、それ。なんで他の地域には無いのかしら?」
「発光作用が、せいぜい一週間くらいしかないからだろうな。他の地域に運んでいるあいだに、発光しなくなってしまう」

「そっか…… 消費期限が短いわけね」
「火を使わないから、安全ではあるんだがな。惜しい一品だ」

 話していると、部屋の中に到着する。
 天井までの高さはそこそこあって、ライールが見上げながら、
「狭くなくて良かったよ」と言った。

「あれ、なんだと思う?」

 エリカが指差した方向には、びんが並ぶ棚があった。
 ライールが明かりを近付けて、びんの中を見やる。
 透明な液体の中には、昆虫などが入っていた。

「昆虫採集が趣味か?」
「標本って感じじゃないの。ほら、これとか」

 ライールが明かりを向ける。
 黒くなった液体に、やはり昆虫が入っていた。
 どう見ても腐敗していて、液体が腐ってしまっている。

「何かの実験か……?」
「多分ね。地下室に薬品がいっぱいあったから」

 次に、ライールは机へ向かった。
 机は整理整とんされており、一目でどこに何があるか分かる。

「何かありそう?」

 エリカがのぞき込むようにして言った。

「経過観察の記録…… くらいかな、今のところ」

 ライールがノートを一冊取り出し、パラパラとめくっていった。

「あの昆虫採集の?」とエリカ。
「それと、地下のヤツも含まれているかもしれん」
「他にめぼしい物、ないのかしら?」
「引き出しを見てみよう」

 そう言った彼は、引き出しを上から順番に出して、中を確認していく。

「あっ!」

 エリカの反応に手を止めたライールが、「なんだ?」と、横目で彼女を見ながら言った。

「さっきの引き出し、他の引き出しと違って底が浅かったと思う!」

 ライールが一つ前の引き出しに戻って、底を調べる。

 ――確かに、何か敷いてあった。

 どうやら二重底になっているようだ。
 左胸に付いている小型ナイフを抜いたライールが、底へナイフをき立てながら、

「秘密だらけだな、この家は」
「――手紙?」
「後は鍵か……」

 外した底と、中に入っていた物を机の上に置いたライールが、敷き詰められている手紙の束を手に取った。

「大当たりだぞ、エリカ」
「えっ? 何が?」

 ライールがランタンのところに、手紙の封筒を一枚置いた。
 封筒の宛名には、レックの名前がある。

「あいつら、関係を持ってたってことね?」
「動かぬ証拠だ。消印からすると、三年ほど前になるかもな」
「ひとまず、外へ持ち出して調べない?」

「ああ。量があるから、他の連中にも読んでもらおう。――俺たちは他に何か無いか、地下室とココと、もう一度調べてみよう」

 エリカがうなずいた。
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