52 / 67
53
しおりを挟む捜索隊がマグニーの庭を調査し始めてすぐ、門前にいたマグニーに、ライールが呼び掛けた。
「なんだ? またか?」
「申し訳ありません。
――マグニー大司祭の家柄は、古くからこの地に住む資産家であるとお伺いしております。このご自宅も、ずっと昔から存在しているものですよね?」
「そうだが……」
「何か、面白い仕掛けのようなもの、あったりしませんか?」
「仕掛け?」
「ええ。隠し通路とか、隠し扉とか……」
「そんなもの、見たことも聞いたこともない」
「ありそうじゃがのう」
シェーンが横から言った。
「あまり探検はやらなかった口じゃな? マグニー大司祭」
「そ、そんな愚かしいこと…… するわけがないでしょう?」
「ライール様ッ!」
捜査官の一人がやって来て、言った。
「エリカさんが何か見つけたようです!」
「やれやれ」と言って、ライールが溜息をついた。「うらやましい勘だ」
ライールが捜査官と共に、駆け足でエリカの元へ移動する。
「――エリカ!」
「あっ、こっちこっち!」
エリカはそう言って、納戸の側にある、古めかしい石造りのガーデンテラスを指差す。その中には、これまた石造りの長椅子があった。
「ここだけ、妙にガコガコしてない?」
ガーデンテラスに入るなり、エリカが柱の一部を指差した。
ライールが若干、くぼんでいるように見える石を軽く押す。
「確かに動くな……」
「どうする?」
「動かしてみよう。お前は他の隊員と一緒に離れていてくれ。――そこのお前、悪いが捕り物用の長物をこっちへ持ってきてくれ!」
捕り物用の長物が来た。
三メートルはあろうかと言う、長身の棒であり、先は二股に分かれていた。
「みんな、離れていてくれ」
ライールはそう言って、全員が離れたのを見計らい、ゆっくり、正確に柱の動く箇所を棒で押した。
すると、ガーデンハウスの石畳の地面が横に移動していった。
ほとんど音がしないところを見るに、仕掛けには油が充分に差されており、手入れが行き届いていることが分かる。
「何も無かったか……」
ライールが額の汗をぬぐいながら言った。
「ちょっと見てくるから、待機してて」
エリカはそう言うとボブキャットに変身して、たった今開いたばかりの、地下への入り口へ走っていった。
忍び足で螺旋階段を下りていくエリカ猫。
壁の装飾品を見るに、元々存在した地下階段らしい。
階段を下りきると、ゴテゴテに彫刻と装飾がなされた、いかにも古そうな扉が見えた。
――何かある。
エリカはそう思って、後ろ足だけで立ちながら前足を壁につき、鍵穴を覗く。
――よし、中が見える!
一度、人間に戻った彼女は、今度も天道虫になった。
そうして扉の鍵穴に入って行く。
無事に中へ侵入できたエリカが、誰もいないことを確認して、部屋の中央で変身を解いた。それから、腰に付けてあった発光ランタンを振った。
ぼんやりと青白い光がランタンの中から外へ、漏れてくる。
「やっぱりね……」
扉の取っ手や四隅に紐が張り巡らされていて、これがズレると、側にある木箱――おそらく爆弾が起動する仕組みらしい。
後でライールと爆弾処理の専門家を、天道虫に変えて連れてこようと考えたエリカが、部屋の構造がどうなっているかを調べようと立ちあがった。
ザッと見渡すと、理路整然と並んだ本棚や化学薬品の棚、調度品などがあった。
――火薬の製造以外にも、何かをやっていたようだ。
「割と広いのね……」
立ちあがったエリカはそう言って、足下などに気を配りながら、部屋の奥へと進んでいく。
――さっきから硝煙や薬品の臭いの他に、刺激臭と言うか、気分が悪くなるような、嫌な生臭さがしている。
エリカは取り出したハンカチを鼻に当てつつ、なおも奥へと進む。
執務机の向こうにはベッドがあった。だから、机を迂回する。
そのとき、人の足がチラリと見えた。
「遅かった……」
エリカは目を細めつつ、投げ出されている足を見ていた。
その足周りには、血痕が飛び散っていた。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
黎
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる