聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

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 捜索隊がマグニーの庭を調査し始めてすぐ、門前にいたマグニーに、ライールが呼び掛けた。

「なんだ? またか?」
「申し訳ありません。
 ――マグニー大司祭の家柄は、古くからこの地に住む資産家であるとお伺いしております。このご自宅も、ずっと昔から存在しているものですよね?」

「そうだが……」
「何か、面白い仕掛けのようなもの、あったりしませんか?」
「仕掛け?」
「ええ。隠し通路とか、隠し扉とか……」
「そんなもの、見たことも聞いたこともない」

「ありそうじゃがのう」

 シェーンが横から言った。

「あまり探検はやらなかった口じゃな? マグニー大司祭」
「そ、そんな愚かしいこと…… するわけがないでしょう?」
「ライール様ッ!」

 捜査官の一人がやって来て、言った。

「エリカさんが何か見つけたようです!」
「やれやれ」と言って、ライールが溜息をついた。「うらやましいかんだ」

 ライールが捜査官と共に、駆け足でエリカの元へ移動する。

「――エリカ!」
「あっ、こっちこっち!」

 エリカはそう言って、納戸の側にある、古めかしい石造りのガーデンテラスを指差す。その中には、これまた石造りの長椅子いすがあった。

「ここだけ、妙にガコガコしてない?」

  ガーデンテラスに入るなり、エリカが柱の一部を指差した。
 ライールが若干、くぼんでいるように見える石を軽く押す。

「確かに動くな……」
「どうする?」
「動かしてみよう。お前は他の隊員と一緒に離れていてくれ。――そこのお前、悪いが捕り物用の長物をこっちへ持ってきてくれ!」

 捕り物用の長物が来た。
 三メートルはあろうかと言う、長身の棒であり、先は二股に分かれていた。

「みんな、離れていてくれ」

 ライールはそう言って、全員が離れたのを見計らい、ゆっくり、正確に柱の動く箇所を棒で押した。

 すると、ガーデンハウスの石畳の地面が横に移動していった。
 ほとんど音がしないところを見るに、仕掛けには油が充分に差されており、手入れが行き届いていることが分かる。

「何も無かったか……」

 ライールが額の汗をぬぐいながら言った。

「ちょっと見てくるから、待機してて」

 エリカはそう言うとボブキャットに変身して、たった今開いたばかりの、地下への入り口へ走っていった。

 忍び足で螺旋階段を下りていくエリカ猫。
 壁の装飾品を見るに、元々存在した地下階段らしい。
 階段を下りきると、ゴテゴテに彫刻と装飾がなされた、いかにも古そうな扉が見えた。

 ――何かある。

 エリカはそう思って、後ろ足だけで立ちながら前足を壁につき、鍵穴をのぞく。

 ――よし、中が見える!

 一度、人間に戻った彼女は、今度も天道虫てんとうむしになった。
 そうして扉の鍵穴に入って行く。
 無事に中へ侵入できたエリカが、誰もいないことを確認して、部屋の中央で変身を解いた。それから、腰に付けてあった発光ランタンを振った。

 ぼんやりと青白い光がランタンの中から外へ、漏れてくる。

「やっぱりね……」

 扉の取っ手や四隅にひもが張り巡らされていて、これがズレると、側にある木箱――おそらく爆弾が起動する仕組みらしい。

 後でライールと爆弾処理の専門家を、天道虫てんとうむしに変えて連れてこようと考えたエリカが、部屋の構造がどうなっているかを調べようと立ちあがった。

 ザッと見渡すと、理路整然と並んだ本棚や化学薬品の棚、調度品などがあった。

 ――火薬の製造以外にも、何かをやっていたようだ。

「割と広いのね……」

 立ちあがったエリカはそう言って、足下などに気を配りながら、部屋の奥へと進んでいく。

 ――さっきから硝煙や薬品の臭いの他に、刺激臭と言うか、気分が悪くなるような、嫌な生臭さがしている。

 エリカは取り出したハンカチを鼻に当てつつ、なおも奥へと進む。
 執務机の向こうにはベッドがあった。だから、机を迂回うかいする。

 そのとき、人の足がチラリと見えた。

「遅かった……」

 エリカは目を細めつつ、投げ出されている足を見ていた。
 その足周りには、血痕が飛び散っていた。
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