聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

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 ユリエルとアリスが森の中を歩いている頃。
 ライールが、警備隊長とその部下たち、それにベリンガールやアル・ファームの首都リボンから呼び寄せていた、各々の専門分野を担当する捜査員たちを従えて、マグニー大司祭の自宅前に集結していた。

 そしてライールの肩からは、ライフル系の長銃がぶら下がっている。

「ライール」

 遠間にいるエリカが、歩きながら呼び掛けた。

「皆様をお連れしましたよ」

 彼女の後ろには、グレイ、シェーン、家主やぬしのマグニーが付いて来ている。

「な、なんだこれは……?!」

 マグニーが驚きながら言って、ライールの元へ駆けて行った。

「何をしている?!」
「すみません、マグニー大司祭。実は……」

 と言って、ライールが警備隊長から書状を受け取ると、それを広げて、マグニー大司祭に向けて見せた。

「捜索令状が下りましてね。申し訳ありませんが、今から家宅捜索をおこないます」
「か、家宅捜索? なぜそんなことを……?!」
「端的に言うと、王冠の盗難と兵器密造です」
「な、なんだと?!」
「ご安心ください。あなたを犯人と言っているわけではありません。むしろ、まだ誰が犯人か分かっていないと思って下さい」

 ライールは、今はまだハロルドの件を隠しておく方が、都合が良いと判断したようだった。
 それが功を奏したようで、マグニーは改めて、そんな物が家にあるわけがないと主張した。

「王冠は無い可能性が高いと思われます。ただ、なら見つかる可能性がありまして…… 申し訳ありませんが、ご理解ください」

「何が見つかるっていうんだッ?!」

「そのうち、すぐに分かります。
  ――おっと。捜索前に、二つほどいておきたいことがありまして」

「なんだ今更……!」
「家の中に、給仕係などはおられますか?」
「そいつらが何かやらかしたのか?」
「全く違います。――家の中に、誰かおられますか?」
「いや…… 今の時間帯はおらん」

「本当に?」
「調べてみろ。朝と夕方に、食事係の連中が来るのと…… あとは、週末に掃除係の連中が来るだけだ。
 庭は私が休日に手入れしていて、住み込みの連中は一人もおらん!」

「なるほど、それではもう一つの質問です」
「なんだ、さっさと言え!」
「あなたのご子息、ハロルドさんですが…… 友人か知人かを連れてきてはいませんか?」
「友人……? いや、私は知らんぞ」

「これほどの豪邸ですから、ご子息が誰を連れてきているか、やはり把握できませんか」

 マグニーは何か言いただったものの、言えずにみ込んだような顔をしていた。
 ライールは目礼してから振り返って、集まっている人々に向け、

「今から捜索を開始する」と言った。
「まずは俺とエリカが様子を見て、それから合図を出す。合図を確認したら、一斉に捜索せよ。
  ――警備隊の皆様は、念のためにマグニーていの周辺を固めておいてください。抜け道などもあるかもしれませんので、不審な点を見つけ次第、捜査官へお知らせください」

「了解です」と、警備隊長が言って、部下達に指示を出した。

「ライール君」とグレン。「私も協力しようか?」

「お気持ちは嬉しいのですが、グレン様にはシェーン大司教とマグニー大司祭をお守り頂きたいのです。何があるか分かりませんから」

「――分かった」

 ライールがエリカを見やり、

「行こうか」

 と言うと、彼女はうなずいて、門をあけたライールと一緒に、マグニーていへと入っていった。


 入ってみると分かるというくらい、庭が広く、屋敷も近付くにつれ、大きさが目立った。

「大司祭って、こんなに儲かるものなの?」
「マグニー大司祭は元々、資産家の家柄だ。うわさによると、町民のねたみを回避するために、彼の両親がマグニーを大聖堂へ入れたらしい」

「あ~…… みんな苦労してるわね、やっぱり」
「苦労や苦のうをしていない人間がいたら、ぜひ見てみたいもんだ」

 そう言って、ライールが肩に掛けていたライフル銃を手にした。

「――で、どうするの?」と、横目になるエリカ。

「悪いが、で家の中を捜索してほしい。相手が相手だから、人間相手の罠が仕掛けてあるかもしれない」

「家の中の人たちがいた場合、どうする?」
「大司祭は嘘を言っていない可能性が高い。だが、万が一いたとしても、罠の位置さえ分かっていれば救出もし易いだろう? 敵じゃなければ、だがな」

「そうね…… 分かった」
「くれぐれも無茶はするなよ? 危ないと思ったら、外へすぐ退避するんだ」
「ええ。何かあったらすぐ知らせる」

 そう言って、彼女が左腕に着けてあった古めかしい貴金属の腕輪を見やった。
 すると腕輪――がぼんやり輝く。
 光に包まれたエリカが、つばめに変身していた。
 彼女は羽ばたいて、家の二階部分を探るように、ぐるりと一周した。

 ――屋根に煙突えんとつが見える。

 翼をはためかせた燕は、煙突の方へと飛んで行き、その先っぽに止まった。
 中をのぞき込むと、特に何も無さそうである。

 一度、ベランダへ飛んでから変身を解いたエリカは、もう一度、腕輪の力で変身をする。今度は天道虫てんとうむしだった。

 煙突の天辺まであがった彼女は、そのまま中へゆっくり降下していく。

 ――結構、長い煙突だ。

 エリカは少しあせっていた。
 変身していられる時間は限られている……
 煙突の途中で元に戻ったら、面倒なことになる。

 だが、そのあせりは杞憂きゆうに終わった。

 暖炉の外へ出た天道虫てんとうむしが、周囲を見渡す。
 客室の一つらしく、特に目立ったものも無ければ、誰かがいた痕跡こんせきもない。
  安全を確認したエリカが、虫から人間の姿に輝きながら戻っていった。

「ふぅ…… さてと」

 侵入して早々、彼女は部屋の四隅などを調べつつ、罠らしい罠が無いことをしっかり確認してから、部屋の扉へと向かう。

 少しだけ、その扉をあけた。
 次に、また天道虫てんとうむしに変身して、隙間すきまから廊下ろうかへと出て行った。

 ――廊下も特に問題が無さそうである。

 その後、全ての部屋を確認してから、一階の部屋も確認したエリカは、玄関の扉を開いた。

「大丈夫みたい!」

 ライールが足早に、彼女へ近付いていく。

「そうなると…… 地下か?」
「ええ、あとは屋根裏の部屋とか」
「あったのか?」
「多分ある。煙突の中が妙に長かったから」
「まずは捜査員を庭に入れて、庭から調べさせよう。何かあるかもしれない」

「ザッと空から見た感じ、妙な物はなさそうだったけど……」
「屋根裏の方はすぐ見つかるだろう。とりあえず俺達はもう一度、一階を調べよう。マグニーさんに隠し部屋が他にもあるかどうか、かないとな」

「絶対にありそう……」
「なぜそう思う?」
「いつものかん
「お前のは当たるから、なんとも言えん……」

 ライールが頭をかきながら言った。
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