聖女は呪いの王冠をかぶる ~缶詰生活に嫌気がさした聖女様は、王冠の呪いで幼女になって、夜の祭りを満喫するそうです~

暁 明音

文字の大きさ
上 下
50 / 67

51

しおりを挟む
 カントランドは元々、鉱物の名産地であり、町外れの山々にはいくつか発掘現場があった。

 その中には大昔に閉鎖された場所もいくつかあって、ユリエルたちが向かっている鉱山は、約一〇〇〇年前――つまり勇者伝説に出てくる廃鉱山である。

 今は観光名所として使われているため、天然の洞窟に、真新しい木組みの枠で補強してあった。
 当然だが、奉納祭の期間中は閉鎖されており、周辺にある建物共々、鉄格子の両扉によって入り口がふさがれている。

 その扉の鍵をあけたユリエルが、アリスを連れて廃鉱山の中へと入っていった。
 入ってすぐのところにある発光ランタンを持って、青白い光で周りを照らしながら奥へと進んでいく。

「これからどうするの?」
「ひとまず別の坑道に出て、要塞跡の向こう側へ行こうと思う。そこなら人目にも付かないし、ゆっくりと考え事ができるだろ?」

「要塞跡……」
「大丈夫だよ。そこにとどまるわけじゃないから」
「でも、王冠の呪いの発祥地みたいな場所だし……」
「今は王冠を持ってないだろ? 俺としては、潔白は無理でも王冠それだけは必ず取り戻したいから、国境付近を拠点にして、夜に町へ戻る感じにしようかなって」

「あの……!」

 ユリエルが隣のアリスを見やった。

「こ、国外に逃げるとかは? ここからならエルエッサムに行けると思うし……」
「駄目だ」
「でも……」

「グレイさんとの決着ケリがついてないし、逃げたところで必ず捕まるよ。
 ――それに、呪いで子供のままなんて嫌だろ? 病気と違って意図的に、一生、成長させないって言われてるようなものなんだし」

 アリスが黙った。

「大丈夫、大丈夫。なんとかなるって」
「お気楽なんだから……」

 二人は、夜の闇よりも暗い坑道の奥を、なおも進んでいった。
 地面は濡れていて、どこからともなく水滴が落ちる音が反響してくる。
 アリスは自然とユリエルのそばへ寄って、強く手を握った。

「昔、ここを探検したことがあったんだ」

 ユリエルが言った。

「どこに繋がっているのか、物すごく気になってさ」
「私は話にしか聞いたことがないから…… どうなってるのか分からない」

 素直に不安を打ち明けるアリスに、ユリエルが少し笑った。

「大丈夫、観光地として整理されてるから。――途中までだけど」
「その…… 途中までって、やっぱり要塞跡の手前までってこと?」
「まぁな。だけど、要塞跡の近くになってくると、石作りのトンネルって感じになってくるから、ここよりは不気味さは薄れてくると思う」

「冒険したって言ってたけど…… ひょっとして、要塞跡に入ったってこと?」
「ああ…… 普通に廃墟だったけど」
「本当に、昔のあなたって無茶苦茶なことするんだから……」
「――ちょっと、生き急いでたのかもな」
「えっ?」

「ほら、俺って両親の顔も知らないし、将来どうなるのか、どうしたいのかって、全然、想像できてなかったから」

「…………」
「自由なあいだに、悪魔の沼地って場所には、本当に悪魔がいるのか確認してみたかったっていうのがあったんだよ。
 ――大聖堂の霊廟れいびょうに、少女の亡霊がいるってうわさは本当なのかって話とか」

 ユリエルが、少し後ろにいるアリスへ目配せした。
 彼女はユリエルの視線に気付いて、目を合わす。

「亡霊の噂は本当だったけど」
「そうね…… 最初は恥ずかしいところ見られて、すごく辛かったけど」

ねえさん……
 いや、アリスは俺を正しい方向に導いてくれたし、だからこそ、なんとしてでも大人に戻ってほしい。他の人たちも導いてあげてほしい。バルバラントの英傑みたいに」

「…………」
「俺も手伝うからさ。司教じゃなくなった後も、この町に残ってほしいんだ」
「いいけど、条件がある」
「ん? 条件?」
「その……」と言って、息を整えるアリス。

 ユリエルはまた、少し後ろの彼女を見やった。

「わ、私――」

 不意に爆発音がして、坑道全体が揺れた。
 アリスが、ユリエルにしがみつく。

「な、なんだ……?!」

 しばらく揺れが続いて、土ほこりがパラパラと落ちてくる。奥の方から土っぽい風が吹いてきて、二人は目をつむって、その風に耐えた。

 そうして揺れが収まる。

「まさか……」
「ユリエル! 早く抜けましょう!」
「そ、そうだな……! 悪いけど、また抱えるぜ?」

 アリスがうなずき、両手を上に目一杯、伸ばす。
 ユリエルは彼女を胸元へ抱えあげ、なるべく早く坑道を出ようと、必死に走った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

処理中です...